播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

アメリカ軍の食料:MREレーション(前編)

注:戦闘糧食の意味で日本語では「レーション」という言葉が使われていますが、「ration」は本来「ラション」と発音されるものです。しかし、「レーション」という誤った読み方が広まりすぎており、「ラション」と表記しても誰にも「レーション」のことだと分かってもらえない可能性があるため、あえて誤読である「レーション」という言葉をタイトルで使用しています。

概要

今回の記事で紹介するのは、アメリカ軍の戦闘糧食「MRE(Meal, Ready-to-Eat)」です。
 
1回分の食事に必要な食品一式に、水で発熱するヒーターや調味料、はてはトイレットペーパーまで付属した「全部入り」の食料パッケージ。
 
本来は米軍内で消費されるものですが、ショッピングサイトやオークションサイトでMREが普通に売られており、日本国内では食品としては販売できないので、観賞用やコレクション用という扱いです。
 
この「民間に出回っているMRE」ですが、前述の通り「全部入り」の食料で便利なため、特にアウトドア愛好家の間では、(私も含めて)自己責任で実際に食べている人が多くいます。
 
実はこのブログでは、過去に一度MREを紹介したことがあります。
その記事を書いてから時間が経ち、当時からMREの形態が若干変わっているので、新規に記事を作ることにしました。

MREの歴史(参考:NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012)

戦闘糧食が缶詰だったベトナム戦争当時、アメリカ陸軍ではより軽量な戦闘糧食の必要性を感じたため、多層フィルムの袋に密封した食料の開発を開始。
 
その結果、1980年代初頭にMREが登場しました。
当初12種類しかなかったメニューは、今では24に増え、兵士からのフィードバックをもとに改良が継続されています。
 
このときに出来上がった多層フィルムの袋というのは、今で言うところの「レトルトパウチ」。
私達が普段お世話になっているレトルト食品の元祖は、アメリカ軍というわけ。
 
MREの歴史の詳細は、次の通りです。
 
・1970年 最初の試作品が完成
・1972年 仕様の再検討
     ・セ氏約27度で3年の賞味期間
     ・空中投下可能な梱包
     ・氷点下セ氏50度からセ氏49度までの環境に対応
     ・十分な栄養素
・1975年 型式取得
・1980年 調達開始
「MREが使われ始めたのは1980年?ボンカレーはそのずっと前からあったはずでは?」と思われるでしょうが、ボンカレーに使われていたレトルトパウチは、とても軍用として使える品質ではありませんでした。
一方、米軍では改良が重ねられ、1980年になってようやく支給できる状態になったというわけです。

MREの段ボール箱の外観・仕様

▲MREの段ボール箱(メニュー1~12が入ったCASE A。NATOの公用語が英語と仏語なので、箱にはMREの名前が仏語でも印刷されている))
 
▲MREの段ボール箱の側面(三日月は食料を表す記号)
 
品名: MRE(Meal, Ready to Eat)
メーカー: AMERIQUAL、SOPAKCO、WORNICKの3社が米軍に納入しています。
NSN: 8970-00-149-1094(NSNはNational Stock Numberで、米軍が調達する物品全てに割り当てられた一意の番号)
重量: 1食あたり0.68kg(カタログ値。メニューにより異なる。)
体積: 1食あたり0.227立方メートル(カタログ値。メニューにより異なる。)
熱量: 1食あたり1,300kcal(カタログ値。メニューにより異なる。)
納入価格: Defense Logistics Agency(アメリカ国防兵站局)のサイトによると、1箱(12食)あたり$119.03 USD(2018年5月時点)
 
▲段ボール箱の表記
 
段ボール箱には、MREの製造年月日や注意事項が記載されており、どのような環境で保管されていたのかが分かる特殊なステッカーも貼付されているのですが、それらを順番に紹介していきます。
 
まずは、MREの製造年月日。
 
段ボール箱に書かれている「DATE PKD/LOT」が製造年月日(Date Packed)とロットナンバーで、上の画像では以下のような表記になっています。
 
 DATE PKD/LOT 06/07/17 7158
左側の数字はアメリカ式の年月日表記で、月/日/年の順に日付が書かれています。
つまり、この例の場合は「2017年6月7日」に製造されたという意味。
 
では、ロットナンバーである「7158」は何を表しているのでしょうか。
 
4桁のロットナンバーはJulian Date Codeと呼ばれる数字。
 
これも年月日を表していて、左端の1桁は製造年の1の位の数字を表しています。
「158」は、1月1日を1日目と数えた場合の日数で、「158」は1年が始まって158日目、つまり6月7日を意味します。
 
要するに、「06/07/17」も「7158」もどちらも同じ年月日を表しているのです。
 
段ボール箱には分かりやすい年月日表示があるものの、箱から取り出したMREには年月日表示がありません。
しかし、オークションなどで1食分ずつ単品で購入したMREの製造年月日を知りたいという場合も、Julian Date Codeを知っていれば大丈夫。
 
MREの外装パッケージや、中に含まれているレトルトパックやパウチには、(最近のものであれば)必ずJulian Date Codeが印刷、または打刻されているのです。
 
ただ、それらは桁数が多いため一見するとJulian Date Codeに見えないのですが、どんなに桁数が多い(場合によってはアルファベットまで混じっている)コードでも、MRE関連のパッケージに書かれているコードであれば、アルファベットを除く左側の4桁がJulian Date Codeになっています。
 
製造年月日の調べ方を書きましたが、それが分かったからといって、安心してMREを食べられるとは言えません。
あくまでも、食べられるかどうかの目安の一つ。
 
比較的新しいMREであっても、保管状態が悪ければ品質は劣化しているのです。
 
例えば、アメリカ軍ではセ氏27度で保管されたMREの賞味期限は3年とされており、セ氏38度で保管されたMREの賞味期限は6ヶ月とされています。(参考:NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012)
 
製造年月日の下にある「INSP/TEST」は、製造から3年先の年月が書かれています。
「INSP」は「inspection」、つまり「検査」の意味です。
 
MREが入っている段ボールの側面には「NOTICE(注意)」として、以下の記載があります。
 
▲MRE外装段ボール箱側面の表示
 
NOTICE
THIS PRODUCT HAS BEEN HELD UNDER CONTROLLED TEMPERATURE AND HUMIDITY CONDITIONS AND SHOULD NOT BE CONSIDERED OVERAGE BECAUSE OF THE DATE OF PACK AND THE DATE OF PACK SHOULD NOT BE THE CONTROLLING FACTOR IN DETERMINING ISSUANCE AND UTILIZATION OF THE PRODUCT. FURTHER REFRIGERATION IS NOT REQUIRED.
(出典:MREの段ボール箱)
要約すると、「製造年月日だけを見てMREが食べられるかどうかを判断するな」という意味。
 
通常の賞味期限が過ぎた後に検査をするのは、3年経過後もさらに保管期間を延ばし、そのMREを有効活用するかどうかを判断するため。
 
延長が可能な期間は、最大で6ヶ月です。一度保管期限を延長したMREの期限を再度延長することはありません。
(参考:U.S. Army Public Health Command Implementation Instructions for Army-Owned Operational Rations Shelf-Life Extension Policy)
 
この米軍の文書を見る限り、オークションサイトなどで見かける「賞味期限はINSP/TESTの2年先」というような表記は正しくないということになります。
 
MREがどんな環境で保管されていたのか知る術はなさそうですが、段ボール箱にはその手掛かりがあります。
 
それはTTI(Time-Temperature Indicator:時間・温度指標)と呼ばれるラベル。
 
製造年月日が印刷されているのと同じ面に貼られた赤いラベルで、中に黒っぽい円が描かれており、その黒っぽい円の内側には、時間が経ったり、高温にさらされると黒くなるインクで赤い円が描かれています。
 
▲TTIラベル
 
中心の赤色の円が見えていれば(内側の円が外側の円より明るければ)、保管状態は良好という意味。
上の画像のTTIがまさにその状態で、内側の円が赤く見えています。
 
内側に円が見えず、大きな黒い円が一つだけの状態(外側と内側の円が同じ色)や、内側の円が外側の円よりも暗い色をしていたら、その段ボール箱が保管されていた場所は高温だった、あるいは保管期間が長かった、つまり中のMREが劣化していることを意味します。
 
▲保管状態が悪かったMREのTTI(内側の円の色が外側よりも暗い)
 
MREの購入を考えている人は、製造年月日だけでなく段ボール箱に貼られたTTIラベルにも注目してください。
残念ながら、MREを単品で買う場合には、そのMREがどのように保管されていたのか調べることはできません。
 
INSP/TESTの下に書かれている「MENUS」は、合計で24種類あるMREのメニューの内、どのメニューが入っているのかを表しています。
 
この記事に写っている段ボール箱では、「MENUS」の欄に「CASE A MENU 1-12」とあるため、下の1番から12番までのMREが入っていることになります。
 
2017年のMRE(MRE XXXVII)のメニューは以下の通り。
 
CASE A
 1 Chili w/ Beans
 2 Shredded BBQ Beef
 3 Chicken w/Egg Noodles & Vegetables
 4 Spaghetti w/ Meat Sauce
 5 Chicken Chunks
 6 Beef Taco
 7 Beef Brisket
 8 Meatballs w/ Marinara Sauce
 9 Beef Stew
 10 Chili and Macaroni
 11 Vegetarian Taco Pasta
 12 Elbow Macaroni and Tomato Sauce

CASE B
 13 Cheese Tortellini
 14 Spinach Mushrooms & Cream Sauce Fettuccine
 15 Mexican Style Chicken Stew
 16 Chicken Burrito Bowl
 17 Maple Sausage
 18 Beef Ravioli
 19 Jalapeno Pepper Jack Beef Patty
 20 Hash Brown Potatoes w/Bacon
 21 Lemon Pepper Tuna
 22 Asian Style Beef Strips w/Vegetables
 23 Chicken Pesto Pasta
 24 Southwest Beef and Black Beans
▲ここで紹介した2017年製MREのCASE Aの中身。上段左から右へMenu 1~6、下段左から右へMenu 7~12(個別のMREはパッケージデザインが3種類あり、メニュー番号とパッケージデザインは決められている)
 
MREの段ボール箱には12個のMREが入っていますが、段ボール箱は「よくこれだけの数のMREが入っていたなぁ」と感心するような大きさ。
MREはギッチギチに詰めこまれています。
 
上の画像を撮影するために段ボールから全てのMREを取り出しましたが、元通り段ボール箱に戻すことはできませんでした…
 
▲段ボール箱の中の様子
 
この段ボール箱の耐久性の高さは驚異的で、接着剤が強力なのと、開けやすさが考慮されていないデザインのため、素手で開けるのに苦労するほど。
 
ちなみに、12個のMREが入った段ボール箱は、高度約400mからのパラシュートを使った投下、あるいは高さ約30mのヘリからの自由落下の衝撃から中のレーションを守れるだけの耐久性が求められています。

MREのメニュー内容

MREのメニューの総数は24と決まっていますが、どの番号のメニューが何なのかは、毎年異なります。
 
なるべく食べ飽きないように、MREは毎年いくつかのメニューが更新されていているのです。
 
「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」によると、メニューの変更については、提案された新メニューを審査員がチェックし、1~9の9段階で評価します(1が最低点、9が最高点)。
 
審査の結果6点以上になったメニューが試験的に支給され、現場の兵士が1~9の9段階で複数の新メニューを評価します。その際、どのメニューを採用して欲しいか、あるいは今のメニューからどれをなくして欲しいかを書くためのアンケート用紙も配付し、点数とアンケート結果によりメニューが変更されます。
 
ちなみに、2018年度のMRE(MRE XXXVIII)では、ピザがメニューとして追加されるとか。
高温の環境で長期間保管したところ、トマトソースが酸化して茶色くなったため、トマトの酸化を防ぐローズマリー抽出物を追加して対応したそうです。
 
Defense Logistics Agency(アメリカ国防兵站局)のサイトから関連文書を探してみると、MRE 38のMenu #23が「Pizza Slice, Pepperoni」になっています。