播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

アメリカ軍の食料:MREレーション(後編)

MREの個包装の中身

前の記事(https://dfm92431.hatenablog.jp/entry/2018/05/27/060450)ではMREレーションが12個納められた段ボール箱について紹介しましたが、今回は段ボール箱の中身、個別のMREレーションを紹介します。
 
MRE個包装の表面には、内容物が分かるようにメニューの番号と名前が書かれています。
昔と違い、近年のMREはメニューの名前が英語とフランス語で書かれているのが特徴。
 
アメリカ軍は多国籍軍の一員としてNATO諸国と共に行動することが多いため、NATO公用語である英語とフランス語の両方でメニューを表記しているのです。
 
ただ、英語の表記は非常に大きいですが、フランス語表記はその下に括弧書きで書かれているだけです。
 
▲1食分のMREのパッケージ(メニューは右下に表示)
 
個別のMREの外装パッケージはポリエチレン(LDPEまたはLLDPE)製。
厚みがあって、開封にはハサミやナイフが必要に見えますが、実際は素手で簡単に開けられます。
 
その秘密はパッケージ上端のシール部分にある逆V字型の部分。
この逆V字の頂点部分を左右に引っ張ってやると、(逆V字の尖った部分は接着面積が小さいため)簡単にシール部分が剥がれます。
 
▲MREパッケージ上端の逆V字部分(「Peelable Seal」と表示)
 
外装パッケージに収まっている中身は、さらに透明なナイロン袋にまとめられています。
 
▲中身はさらに透明ナイロン袋に収められている(500mlのペットボトルはサイズの比較用)
 
▲中身はレトルトパック等がいくつも重なっているため厚みがある
 
今回は2017年のMRE(MRE XXXVII)のメニューNo.2「Shredded BBQ Beef」の中身を紹介します。
 
透明なナイロン袋を破ると、中からどっさりと色んなモノが出てきます。
 
▲「Shredded BBQ Beef」の中身一式
内容(番号は上の画像内の丸数字に対応)
(1)厚紙製スリーブ
(2)Beef Shredded in Barbecue Sauce(バーベキューソースで煮込んだ牛肉)
(3)Black Beans in a Seasoned Sauce(煮豆)
(4)Tortillas, Plain(トルティーヤ:トウモロコシから作った薄いパン)
(5)Automeal Chocolate Chunk Cookie(チョコチップクッキー)
(6)Bag, Hot Beverage(飲料用ナイロン袋)
(7)スプーン
(8)Flameless Ration Heater(化学反応式ヒーター)
(9)Barbecue Sauce(バーベキューソース)
(10)Tropical Punch Flavored No Fruit Juice(トロピカルパンチジュース)
(11)Cheese Spread with Jalapenos(ハラペーニョ入りチーズスプレッド)
(12)Accessory Packet C(アクセサリーパケットC)
今回のメニュー「Shredded BBQ Beef」は、(2)と(3)、(9)、(11)を(4)のトルティーヤで包んで食べるもののようです。
 
では、早速調理開始。
 
まずは(2)の牛肉と(3)の豆を(8)のヒーターで加熱しましょう。
 
ヒーターは水をかけると化学反応を起こして発熱するタイプのもので、Flameless Ration Heaterの頭文字を取って「FRH」と呼ばれます。
 
Wikipediaによると、以下の反応により熱が発生するそうです。
Mg + 2H2O → Mg(OH)2 + H2 [+ heat (ΔH)]
(出典:英語版Wikipedia「Flameless ration heater」の項目)
加熱性能はたいしたことがなく、条件が良くてもメインディッシュの温度が加熱前より数十度上昇する程度。
今までの経験では、熱くなったように感じたことはありません。せいぜい「ぬるい」状態になるくらいです。
 
ちなみに、英語版Wikipediaによると、FRHは仕様上8オンス(約230g)のメインディッシュの温度を12分で56度上げる性能を求められているそうです。
US military specifications for the heater required that it be capable of raising the temperature of an 8-ounce (226.8 g) entree by 100 °F (56 °C) in twelve minutes, and that it has no visible flame. 
(出典:英語版Wikipedia「Flameless ration heater」の項目)
 
▲少量の水を入れると化学反応で発熱する「FRH」
 
まずはFRHの上端を切り口から破って開封し、中から白いヒーター本体を取り出します。
この白い袋の中の物質が水と反応して発熱するので、濡れた手では触らないでください。
 
▲FRHの中身は白い袋
 
そうしたら、加熱する食材が入ったレトルトパックとヒーターを重ねて袋の口に差し込みます。
 
▲ヒーターとレトルトパックをFRHの袋の口に差し込んだ様子
 
そのままFRHの袋を立てて持ち上げ、袋の口から水を少量注ぎますが、袋の下端付近にある2本の線の間に水面がくる程度の量にしなくてはいけません。
 
▲FRHの袋下部にある2本の線(この線の間に水面が来るように水を入れる)
 
適量の水を入れたら、ヒーターとレトルトパックを袋の底に落とし、ヒーターに水が染みこむようにするため、ヒーターが下になるように袋を倒します。
 
ヒーターが暖かくなり始めたら、(1)の厚紙製スリーブの中にFRH一式を差し込んでください。
 
厚紙製のスリーブは断熱材として働くので、効率よくヒーターの熱をレトルトパックに伝えられるというわけです。
 
2014年(MRE XXXIV)まではレトルトパックが紙箱に入っていて、ヒーターはその紙箱に入れて加熱していましたが、2015年(MRE XXXV)以降のMREでは箱がスリーブ(筒)に変わりました。
 
FRHを入れたスリーブは、岩などを枕にして斜めに立てかけておきます。
このとき、FRHのヒーターが下、袋の口は上に折り返しておくのが説明書通りの使い方です。
 
今回は加熱すべきレトルトパックが2つ(牛肉と豆)あるため、ヒーターを2つのレトルトパックで挟むようにセットしました。
 
▲FRHをセットしたスリーブを岩に立てかけた様子
 
FRHでレトルトパックが温まるのにかかる時間は、10~15分。
その間はぼーっとしていても良いですが、このとき私はお腹が空いていたので、待っている間に(5)のチョコチップクッキーを食べました。
 
▲Automeal Chocolate Chunk Cookie
 
チョコチップクッキーと聞いて想像するようなサイズでは無く、これ1枚で280kcalあります。
 
パサパサ、モソモソの大きなクッキーなので、口の中の水分を全部持って行かれながらゆっくりと食べていたら、10分経過していました。
 
FRHからレトルトパックを取り出して開封しましょう。
レトルトパックの開封用の切り口は、短辺側にあります。
 
数年前までは長辺側に切り口があり、開封したレトルトパックを縦に持って食事をしていましたが、近年のMREでは長辺側を切り取り、横向きで持つ形に変わったようです。
 
▲MREのレトルトパック(矢印の位置に切り口がある)
 
▲開封したBeef Shredded in Barbecue Sauce(牛肉)のレトルトパック(どろっとした不気味な物体に見えますが、実際は柔らかくて美味しい肉がゴロゴロ入っています)
 
▲開封したBlack Beans in a Seasoned Sauce(豆)のレトルトパック
 
これらのレトルトパックの中身と(9)のバーベキューソース、(11)のチーズスプレッドを(4)のトルティーヤで包んで食べるわけですが、手が汚れているので手を拭きましょう。
 
(12)のアクセサリーパケットにはウェットティッシュが入っているので、それが使えます。
ウェットティッシュといっても、私達が想像するものとは異なり、かなりしっかりした紙がびしょ濡れの状態で入っています。
 
▲アクセサリーパケットに入っているウェットティッシュ
 
手が綺麗になったところで、トルティーヤのパックを開封しましょう。
袋には下の画像のように2つ折りになった丸いトルティーヤが2枚入っていました。
 
▲Tortillas, Plain
 
(7)のスプーンを使い、広げたトルティーヤに食材を載せます。
 
▲まずトルティーヤにチーズスプレッドを塗り、牛肉、豆を載せてバーベキューソースをかけた状態(敷いているのはティッシュペーパーですが、これはレーションに付属していません。)
 
上の画像は具材を載せすぎた状態です。
食べるのに苦労しましたが、これは美味しい。
 
MREレーションは、牛肉がメインディッシュに入っているメニューにハズレはないと信じているのですが、今回もその通りで大当たり。
 
味も食感も異なる牛肉と豆ですが、最後にかけたバーベキューソースのおかげで味がまとまり、牛肉とチーズの組み合わせはチーズバーガーのような濃厚な美味しさ。
 
あっという間にトルティーヤ2枚を使い切ってしまいましたが、レトルトパックにはまだ牛肉と豆、バーベキューソースが残っています。(チーズスプレッドは使い切りました。)
 
というわけで、豆は豆だけで食べ、牛肉には余ったバーベキューソースをかけて完食。
 
口の中に濃厚な味が残っているので、飲み物で口の中をさっぱりさせましょう。
 
今回のメニューには(10)のトロピカルパンチジュースが付属しているので、それを飲みます。
 
コップを持ってきていませんが、問題ありません。
MREレーションに付属している(6)のBag, Hot Beverage(飲料用ナイロン袋)を使えば良いのです。
 
トロピカルパンチジュースは12オンス(360ml)の水に溶かして飲むので、Bag, Hot Beverageの表面に印刷された目盛りに従って水を入れます。
 
▲12オンスの目盛りまで水を入れたBag, Hot Beverage
 
そこへ、トロピカルパンチジュースの粉末を投入。
アメリカンな飲み物だけあって、とんでもない色になります。
 
▲おぞましい色のTropical Punch Flavored No Fruit Juice
 
ナイロン袋の表面にある説明書きによると、ナイロン袋のままでは飲みづらいので、レトルトパックを温めるときに使った厚紙のスリーブにナイロン袋を入れてから飲むようです。
 
レトルトパックが紙箱に入っていた時代は、ナイロン袋をその箱に入れて飲んでいました。
箱なので底があるし、形が安定していて持ちやすく、ある程度快適に飲料を飲めたのですが、今のスリーブは昔の紙箱に比べると使いづらい。
 
▲スリーブにナイロン袋をセットしてから飲む
 
以上でメニューNo.2「Shredded BBQ Beef」の中身は完食したことになります。
カロリーはおおよそ1,200kcal。
 
アクセサリーパケットにインスタントコーヒーとガムが残っているので、最後はこれらも消費してしまいましょう。
 
(注)アクセサリーパケットにはA、B、Cの3種類があり、それぞれ中身に多少の差があります。今回紹介するのは「C」です。
 
▲アクセサリーパケットCの中身一式(左上から時計回りにインスタントコーヒー、コーヒー用粉末クリーム、ガム、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、甘味料、塩)
 
コーヒーはパッケージに「6オンスのお湯又は水に溶かす」ように書かれており、粉末クリームには「8オンスの飲料に溶かす」よう書かれています。
 
というわけで、間を取って7オンスの水にコーヒーと粉末クリーム、甘味料を溶かしてみました。
 
▲出来上がったアイスコーヒー
 
正直言って、MREレーションに付属している軍用コーヒーはあまり美味しくありません。
 
トロピカルパンチジュースを飲むのに使った飲料用ナイロン袋を軽くすすいでからコーヒーを作ったため、ジュースの風味がほんのり残っていたのもその理由かもしれませんが。
 
最後はシナモン風味のガムを噛んで口の中をさっぱりさせて終わり。
 
▲シナモン風味のガム(ペパーミント味の場合もある)
 
さて、以上の食べ方をご覧頂くとおわかりいただけると思いますが、MREレーションを食べるには、水を別途用意する以外、特に何も必要ありません。
 
食べるために必要な用具は、全てMREに含まれているのです。これはMREの非常に優れた特徴。
その代わりに、大量のゴミが出ます。
 
今回は2017年のMRE(MRE XXXVII)のメニューNo.2「Shredded BBQ Beef」の食べ方を紹介しましたが、メニューによって入っている物が異なっているため、それぞれのメニューに合わせて食べ方を工夫して下さい。
 
FRHなどの使い方は全てのメニューで共通です。
 
今回のメニューはトルティーヤが入っていましたが、これは特殊なパターン。
他のメニューでは、一般的にクラッカーが入っています。
 
▲他のメニューに入っているクラッカー(左)。右はチーズスプレッド。
 
▲通常、チーズスプレッドはクラッカーに塗って食べる

MREの付属品について

粉末飲料はフルーツ味やココア、シェイクがありますが、スポーツドリンクはMREに含まれていません。
 
「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」によると、スポーツドリンクの粉末は、戦闘糧食に求められるサイズや重量の制限を満たせないため、今のところはMREに同梱されていないとのこと。
 
スポーツ飲料が欲しい場合は、兵士が各自で基地内の売店で購入するようです。
 
付属品にはマッチやトイレットペーパー等がありますが、兵士からは「歯ブラシや歯磨き粉、歯間ブラシは入れてくれないの?」という問い合わせがあるようです。
 
これについてのアメリカ軍の回答は、「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」によると「歯の手入れ用具は、MREではなく別のジャンルの装備品(Health and Comfort Pack)に含める方が良いと判断したため」というもの。

MREの栄養価

MREは、1食につき1300kcalの熱量があり、各メニューには169gの炭水化物、41gのたんぱく質、そして50gの脂肪が含まれています(参考:NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012)。
 
「カロリーが高すぎる」と思われるかも知れませんが、米軍での1日あたりの摂取カロリーの目安は、以下のようになっています。
 
運動強度(参考:NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012)
・弱(駐屯地内での業務):男性 3,000kcal、女性 2,200kcal
・中(交通整理、見張り):男性 3,250kcal、女性 2,300kcal
・強(徒歩による偵察、戦闘):男性 3,950kcal、女性 2,700kcal
・特殊な状況(高地・極寒地):男性 4,600kcal、女性 3,150kcal
MREのパッケージは1食分でもそれなりに大きくてかさばるため、アメリカ兵がMREを持ち出す際は一度パッケージを開き、必要なコンポーネント(メインディッシュ、ドリンク等1つ1つの小袋のことをコンポーネントと呼んでいます)だけを抜き出して持ち歩くそうです。
 
「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」の中でもそのことに触れられており、中身をバラして持ち出す(この行為は「フィールドストリップ」と呼ばれています)場合は、栄養バランスを考慮するようにと書かれています。
 
栄養バランスについては、「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」に以下の表が掲載されています。
 
これは、MREに含まれる様々なコンポーネントに含まれている(意図的に追加されている)重要な栄養素を簡単にまとめたもの。
 
▲「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」に掲載されている栄養成分表を日本語に訳したもの
 
初期のMREは食物繊維の含有量が少なく、MREばかりを連続して食べていると便秘になるという有様だったようです。
しかし、「NATICK PAM 30-25,9TH EDITION AUG 2012」によれば、最近のMREには十分な食物繊維が入っているとのこと。

参考情報

米海軍のドック型揚陸艦アーリントン艦内で、海兵隊の将校がMREの食べ方を紹介する動画がYouTubeにありますので、転載します。

最後に

色んな国のレーション(戦闘糧食)がオークションなどで簡単に手に入るようになっていますが、基本的には食べ物としてではなく「コレクション」用として出品されています。
 
食べ方を紹介しておきながらこんなことを書くのもおかしな話ですが、レーションは食べないことをお勧めします。
 
食べる場合は、製造年月日と保管状態を確認し、少しでも異常を感じたら絶対に食べないで下さい。
 
なお、MREレーションの製造年月日は、外装パッケージや個別のレトルトパックなどの表面に印刷、打刻されている数字から判断できます。
 
▲MREレーション外装パッケージに打刻された製造年月日(赤枠内の「7144」。これは2017年の144日目、つまり2017年5月24日という意味)
 
▲アクセサリーパケットに印刷された製造年月日(「7137」。2017年の137日目、つまり5月17日を表す)