播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

コンパスと地形図で現在地を知る:クロスベアリング



警察庁の資料によると、平成16年度の山岳遭難者の合計が1,609人。その原因の1位は転倒・転落・滑落で、これらを合計すると607人。全体のおよそ38%です。
次いで多い原因が道迷い。人数は553人で、割合に直すとおよそ34%になります。

いくら注意していても、病気や転倒・転落・滑落は誰でも被害に遭う可能性があります。

しかし、「道迷い」は地形図やコンパス、GPSを使うことでかなり防げます。最近はGPSが高性能になっていますが、電池切れや落下による液晶の破損で使えなくなる可能性もありますから、地形図とコンパスを使うというアナログな技術も習得するべきでしょう。

単独で山に入る人なら身につけておく必要のある技術です。
しかし、グループでしか歩かないという場合でも身につけておくべき技術でしょう。リーダーだけに任せていると、リーダー1人の判断ミスによってグループ全員が遭難してしまうかも知れません。リーダー以外にも数人読図の出来るメンバーを入れておけば、リーダーが間違ったコースに入ろうとした時に止めることが出来ます。

前置きが長くなりましたが、コンパスと地形図で現在地を知る「クロスベアリング」という技術を説明します。見晴らしの良い尾根上や平原でしか使えない方法ですが、意外と役に立ちます。

ここでは兵庫県姫路市(旧夢前町。2006年3月、姫路市に合併しました)にある明神山のCコースを例にしています。明神山のAコースとCコースは、両側の尾根が近くにあるため、きちんと方位を測定すれば正確に現在地を割り出すことが出来ます。左右の見通しも良いため、クロスベアリングの練習には良いのでは?

さて、Cコースの尾根を歩いていて、山頂まであとどのくらいなんだろう?と気になったとき、隣の尾根にあるコブ(小ピーク)の方位を測定すれば、Cコース上での自分の位置が分かります。後は、コンパスに付いている定規で山頂までの距離を測ればOKです。2万5千分の1地形図なら、1cmが250mに相当します。実際は斜面になっているため、もう少し距離は伸びます。

具体的な操作手順を見ていきましょう。

(1)まずは目標物(小ピークや鉄塔など目立つもので、地形図にも記載されているもの)の方位を測ります。地形図に載っている送電線の鉄塔(地形図上では送電線の曲がり角や送電線と尾根の交点にある)が分かりやすくて便利ですが、いつも鉄塔が見えるわけではありません。形に特徴のある小ピークも役に立ちます。場合によっては、地上の交差点やため池、川の曲線や橋も良い目印になります。

コンパスを水平にして、プレートに印刷されている大きな矢印を目標物(今回の例ではAコースのある尾根のコブ)に向けます。そのままコンパスの向きを変えないよう注意しながら、ダイヤルをもう一方の手で回し、ダイヤル内に何本か印刷されている線と磁針が平行になるようにして下さい(図1)。このとき、磁針の赤い端とダイヤル内の線の赤い矢印を同じ向きにしなくてはいけません。

(2)手に持った地形図の上にコンパスを置き、コンパスのダイヤル内の線が地形図の磁北線と平行になる(ダイヤル内の線の赤い側を北に向ける)ようにコンパス全体を回します(磁針は無視する)。そのままコンパスを平行移動し、コンパスの側面(定規になっている部分)を目標物(先ほど方位を測った場所)に合わせます。すると、定規の側面と登山コースの交差する場所が現在地になります(図2)。

この方法では地形図を正置する必要がなく、手軽に現在地を知ることが出来て便利です。

本来、クロスベアリング法では2つ以上の目標の方位を測定し、コンパスを使って地形図に線を引き、複数の線の交点が現在地になるという求め方をします。方位(ベアリング)を示す線が交差(クロス)するというのが名前の由来です。

山歩きの場合、自分が歩いている尾根が分かっていれば、測定する目標は1つで済みます。

ここに説明した方法を使う場合は、あらかじめ地形図に磁北線を引いておく必要があります。図2では、やや左に傾いた青い線が磁北線です。
手で磁北線を引くのは面倒ですが、フリーソフトカシミール3Dには磁北線を印刷する機能が付いています。

現在地を高精度で割り出すためのポイントは2つあります。
一つ目は、自分のいる尾根と目標への線が直角に近い角度で交わるようにすること。コースと平行に近い目標(前や後ろに見える目標物)を測定すると、現在地に大きな誤差が出ます。

二つ目は、近くにある目標を測定するということ。近くの目標への方位を測るのであれば、多少の測定誤差が出ても現在地の割り出しに大きな影響は出ません。
車や電車に乗っていると、近くの物は早く通り過ぎ、遠くの物はゆっくりと移動するように見えます。遠くの目標は、多少位置を変えて方位を測定しても同じ方位角に見えてしまうため、現在地を正確に割り出すのには不適なのです。

位置が分かる原理やコンパスの操作は簡単ですが、初めての人にとっては、実際の地形と地形図の等高線を一致させることが難しい。
等高線から地形をイメージできるようになるには、地形図を持って山に行き、等高線と景色を見比べる練習をするしかありません。

練習をする場所は、川や集落、道路など、地形図上で目立つ物が視界に入る山が良いでしょう。
見えている物が地形図上のどこに相当するのか分かりやすいので、地形図に慣れるのに適していると思います。