イベント概要
南極の氷を砕きながら突き進むオレンジ色の船体が印象的な砕氷艦しらせ。
その「しらせ」が神戸で一般公開されるということで、見学に行ってきました。
場所は、ポートアイランドの西岸壁。
艦内の見学もできます。

▲砕氷艦「しらせ」一般公開の待機列(右手前は手荷物検査場。列は中央奥へ延び、その先がどうなっているか見えない)
イベント名称: 南極観測支援の砕氷艦「しらせ」一般公開in神戸港ポートアイランド西岸壁
日時: 2025年10月11日(土)09:00~16:00(最終受付14:00)
場所: ポートアイランド西岸壁
入場料: 無料
予約: 不要
駐車場: 無料(約300台)
交通アクセス: ポートライナー「みなとじま」駅から徒歩約17分
注意事項:
- トイレはありません。
- ベビーカーやその他、大型荷物の預かりサービスはありません。
- ペット同伴はできません。
- 艦内は急な階段があるため、両手が空き、動きやすい服装で行く必要があります。
- 艦上では日傘・雨傘は使用できません。
- 会場内での飲酒・喫煙はできません。
- 待機列を離れると、最後尾に並びなおす必要があります。団体で一人だけが列に並び、後から合流することはできません。
兵庫地方協力本部の「X」公式アカウント「ひょうちん@自衛隊 兵庫地方協力本部【公式】」(@pco_hyogo)によると、当日は見学者が非常に多く、12:00をもって受付終了となったそうです。
本日はたくさんの
ご来場ありがとうございます予想以上のご来場をいただき、現時点で4時間待ちになりました。
そのため12:00をもって受付を終了させていただきます。
当初より早い終了時間となりましたことお詫び致します。
(出典:ひょうちん@自衛隊 兵庫地方協力本部【公式】」(@pco_hyogo)2025年10月11日12:09の投稿 原文ママ)
https://maps.app.goo.gl/P49b3rKM2sRbQ8qw7
▲砕氷艦「しらせ」一般公開会場の位置
砕氷艦しらせについて

▲砕氷艦しらせ(艦橋の上、マストのような構造物にある小部屋は上部見張所。艦橋の前には2基のデッキクレーンがある。)
〇「しらせ」の艦名由来
昭和基地付近にある白瀬氷河から命名〇「しらせ」の任務
「しらせ」は、海上自衛隊に所属する自衛艦で、南極地域観測協力を行う我が国唯一の砕氷艦であり、物資及び人員の輸送を主任務とするほか、観測支援等を行っています。〇性能要目
長さ×幅×深さ×喫水: 138m×28m×15.9m×9.2m
基準排水量: 12,650トン
最大速力: 19ノット
軸出力: 30,000馬力
推進方式: ディーゼル電機推進
定員: 乗組員約175名
輸送能力: 観測隊員等 約80名、輸送物資重量 約1,100トン〇「しらせ」の特徴
①船体
・ステンレスクラッド鋼の使用による摩擦抵抗の提言
・融雪用散水装置の採用による冠雪抵抗の軽減
・二重船殻構造の採用による海洋汚染防止
②荷役設備
・デッキクレーン 4基
・フォークリフト 3両
・コンテナセルガイド 2基
③機関
・ディーゼル電機推進方式による迅速な前後進切り換え
・低速域でも高トルクを発揮する推進用電動機の採用
・統合給電方式によるライフサイクルコスト及び重量の軽減
④航空設備
・大型ヘリコプター(CH-101)×2機
(ヘリコプターの性能:貨物搭載量4トン、速力240km/h、航続距離850km)
⑤観測設備
・気象・宙空、地学、海洋、生物、重力の各種観測設備
・海底地形及び地層を調査するマルチビーム音響測深装置
・超音波式多層流向流速計
・コンテナ化した研究室としてコンテナラボの搭載(出典:一般公開会場で配布されたリーフレット)
現地で配布されていたリーフレットによると、今回展示される砕氷艦しらせは2代目で、初代は昭和58年から平成19年にかけて運用され、平成20年7月に除籍されました。
2代目は平成21年から使われているそうです。
艦番号はAGB-5003。(AGBはAuxiliary Icebreaker=砕氷船を表す記号。)
一般公開の様子
駐車場はありますが、私が住む姫路から行くなら電車の方が圧倒的に便利です。
(車だと高速道路の込み具合で到着時刻の予想が難しく、駐車場の出入りで時間を要する場合もあります。また、電車なら朝早くて眠くても寝ながら移動できます。)
ということで、私の場合は通勤定期で運賃の大半をまかなえるJRと、一般公開会場のすぐ近くまで行ける路線バスで現地に行ってきました。
08:15
一般公開会場に到着。
主役の砕氷艦しらせは、艦首を北に向けて右舷を岸壁に着けていました。
路線バスの車窓から、駐車場が開くのを待つ車の大行列が見えて嫌な予感はしていましたが、すでに長蛇の列。
やはり大都市圏での一般公開は来場者数がすごい!
受付場所から北へ200mほど伸びていた行列の最後尾へ急ぎました。
8:40頃
行列の先頭が動き出し、三角コーンとテープでジグザグに仕切られた待機エリアへ入り始めました。
行列全体が少しずつ縮んでいき、「そんなに待たなくても乗れるかも」という期待が膨らみます。

▲乗艦直前は艦首を間近に眺められる
8:50頃
予定より公開開始が早まったらしく、先頭集団が舷梯を登って乗艦する様子が見え始めました。
9:00頃
並んでからおよそ45分。ようやく手荷物検査場に到達。

▲手荷物検査の様子
乗艦
09:10頃
手荷物検査が終わったら、いよいよ乗艦です。

▲この舷梯を登り、右舷中央付近から乗艦する
乗艦したら、階段を登って飛行甲板と同じ高さまで上がります。
艦内の階段は、護衛艦のそれとはまったく違い、広くて上り下りしやすくなっていました。

▲砕氷艦しらせの階段は広くて歩きやすい

▲ボートやデッキクレーンを見上げながら右舷の通路を艦尾へ向かう
飛行甲板とヘリコプター格納庫
09:13
艦尾の飛行甲板に出ました。
そこにあったのは、輸送ヘリ「CH-101」です。

▲CH-101輸送ヘリコプター
飛行甲板は広く、格納庫も広い。
それもそのはずで、「しらせ」はCH-101を2機搭載しているため、2機を格納できる広さが必要なのです。

▲飛行甲板から見た格納庫(格納庫の上、斜め向きの窓があるのは発着艦管制室)
護衛艦の飛行甲板には、ヘリコプターを捕まえて移動させる着艦拘束装置と、それが移動するためのレールがありますが、砕氷艦しらせの飛行甲板にはレールがありません。
近くに立っておられた自衛隊員さんに質問すると、電動の牽引装置でヘリコプターを引っ張るのだと教えていただきました。

▲ヘリコプター牽引装置
ヘリ格納庫は、やはり自衛隊の艦艇だけあって護衛艦の格納庫と同じ雰囲気です。

▲ヘリコプター格納庫内の様子
ここではペンギンの実物大模型や南極の氷、南極の石まで展示されていました。

▲ペンギンの実物大模型(奥はキングペンギン、手前はコウテイペンギン)と人間の大きさ比較

▲南極の氷(皆さん、手触りや溶ける時に泡がはじける音を楽しまれていました)

▲こちらも皆さんが手触りを楽しんでいた「南極の石」

▲格納庫内の工具は「Snap-on」ブランド
前甲板
09:20頃
ヘリコプター格納庫内の展示を満喫したので、次の見学場所である艦首へ移動。
格納庫から左舷側へ出て前方へ進むと、すぐにコンテナがありました。
「しらせ」は南極へ物資を輸送するのも任務ですから、コンテナを搭載するスペース(56個分)もしっかり準備されているのです。

▲左舷のコンテナセルガイド(コンテナを積み重ねるラック)
09:25
前甲板に到着。
待機列に並んでいる時に見上げた巨大なデッキクレーンの真下に出てきました。

▲前甲板はデッキクレーンと真っ黒に塗装された空間が目立つ

▲前甲板から艦橋を見上げる(右の黒いものは貨物用ハッチ)
大きなクレーンで吊った荷物は、艦橋の前にある巨大な黒いハッチを開けて艦内に積み込むそうです(近くにおられた自衛隊員さんのお話)。
一通り雰囲気を味わったら前甲板を横切って右舷へ進み、外階段を登っていきます。

▲右舷にある外階段を登った(退艦後に岸壁から撮影)

▲階段からは救命ボートを間近に見られた
外階段を登り切った所は煙突の生え際。
この空間を横切り、再び左舷へ。

▲煙突の生え際の様子

▲この扉の向こうはもしかして…
艦橋
09:32
煙突の生え際を通った先でドアを抜けると、そこは広い艦橋でした。
艦自体が大きいので艦橋も幅が広く、操船用の機器は中央付近に集まっているため、両端はかなり広い空間です。

▲艦橋内の様子(天井に手すりがある点に注目。海が荒れた時や、氷を割るラミングの際に艦が揺れると思われるので、その対策かな?)
自衛隊の船らしく、ラッパが設置されていました。

▲艦橋内にあったラッパ
操船用の機器も護衛艦に似た雰囲気。

▲艦橋中央付近の様子

▲艦橋からの眺め

▲舵輪
艦長席は右端にありました。
砕氷艦しらせの船長の階級は一等海佐。座席の赤色は、一等海佐を表す色だそうです。(参考:二等海佐の場合は赤と青のツートン。将官が座る席は黄色。)

▲艦長席(周辺は立ち入り禁止)
居住区
09:36
艦橋を見終えたら、右舷側の出入り口から外へ出て艦内の階段をグングンと下りました。
その途中にあるのは、観測隊の居住区です。

▲観測隊公室(食事や打ち合わせ等を行う場所。内部は立ち入り禁止。)
公室の出入り口に向かって左には小さな艦内神社がありました。
自衛隊の艦艇ですから、艦内神社があっても不思議ではありませんね。
「しらせ」の艦内神社は、静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社の分霊を祀るもののようです。

▲「しらせ」の艦内神社
居住空間ですから、散髪屋さんもあります。

▲「しらせ」の理髪室
廊下沿いに並ぶ扉は、倉庫や観測隊の寝室です。

▲観測隊寝室や倉庫が並ぶ居住区
洗濯室兼風呂場もありました。

▲第2観測隊脱衣所兼浴室
隊員さんたちのプライベート空間ですから、さすがに室内の見学はできませんでしたが、居住空間の雰囲気をしっかり味わえました。
09:45
最後は飛行甲板の下にある観測甲板に出て、右舷の舷梯から退艦しました。

▲SEE YOU AGAINと書かれた舷梯から艦を下りた
砕氷艦しらせはどうやって氷の海を突き進む?
砕氷艦しらせの実物を見て気になったのは、「こんなに丸っこい艦首で厚い氷が張った南極の海を進めるの?」という点。
これは現地で配布されたリーフレットや艦橋内の説明パネルで解決できました。
砕氷のしくみ
1 連続砕氷
氷厚約1.5mまでの氷は、強力な推進力で連続的に砕氷して前進します。2 ラミング(チャージング)砕氷
氷厚約1.5m以上の氷は、一旦艦を200~300m後退させ、最大馬力で前進し氷に乗り上げ、艦の自重で氷を砕きます。(出典:一般公開会場で配布されたリーフレット)

▲この丸い艦首は氷の上に乗り上げやすくするためのもの?(横一列に並んだ穴は、氷の上に積もった雪を溶かし、雪と艦体の摩擦を減らすための散水用)
大容量のポンプで船底から汲み上げた海水を船首部にある直径250 mm、20本の散水ノズルから船の前方へ散水し、積雪を湿らせることで船体と積雪間の摩擦抵抗を小さくし、砕氷効率を向上させる狙いがある。
(出典:吉野 正剛.南極地域観測隊実航行データにおける砕氷船「しらせ」散水効果の評価.東京大学大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 令和元年度 修士論文.2019,p.16.)
連続砕氷は、艦の運動エネルギーを利用してそのまま突き進むという方法。
ラミングは、分厚い氷に行く手を遮られたらいったんバックして助走をつけ、氷に突っ込んで乗り上げることで叩き割るという豪快な方法。
「しらせ」はディーゼルエンジンで発電した電気を使ってモーターで進むため、前進・後進を簡単に切り替えられるのでしょう。
ただ、ラミングは非常に効率が悪いようです。
しかし氷が分厚くなり抵抗が大きくなると、連続で砕氷する事が出来なくなる。その場合、砕氷船は後進して助走をつけ、体当たりを行って砕氷を行う。このオペレーションをラミングと呼ぶ。このラミング一回に7~10分の時間がかかり、進出距離は多くの場合10~150mである。
(出典:吉野 正剛.南極地域観測隊実航行データにおける砕氷船「しらせ」散水効果の評価.東京大学大学院新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻 令和元年度 修士論文.2019,p.12-13.)
そもそも「こんなに大きな船で氷が張った海を突き進まなくても、飛行機で南極に荷物を運べばいいんじゃない?」と思われるかもしれません。それができず、船で運ぶ理由については、日本マリンエンジニアリング学会誌に詳しく書かれています。
一番の役割は観測隊員と観測活動に必要な物資を確実に南極へ届けることである.我が国の南極観測の拠点である昭和基地はアフリカ東部を南下した東経39度35分,南緯69度00分の東オングル島に位置する.南極には現在60ヶ所を超える世界各国の観測基地があるが,昭和基地のあるリッツォ・ホルム湾は非常に氷況が厳しいことで知られており,南極の夏場でも連続砕氷能力1m程度の砕氷船では突破が難しい定着氷域が広がっている.諸外国の基地は夏場には海氷も消失し,物資の輸送も比較的容易に行えるところが多いが,我が国の南極観測船には十分な砕氷能力が求められている.
大量の物資を輸送することも求められており,日本から豪州を経ての年1回の航海で1 年間に必要な1,000トンを超える物資を輸送する必要がある.南半球に位置する諸外国は砕氷船による複数回の往復で分散して物資を輸送することができる.また,米国の基地などでは飛行機による輸送が威力を発揮しているが,昭和基地近辺に滑走路を確保することは地理的条件及び付近の氷の性状等から容易ではない.即ち,我が国の南極観測船はリッツォ・ホルム湾の定着氷を突破できる砕氷能力,1,000トンを上回る物資の輸送能力,2機以上のヘリコプターを搭載できる能力が最低限必要である.さらに,観測機能を合わせ持つが,これらの条件をすべて満たす砕氷船は諸外国にも例を見ない.
(出典:根津和彦.新南極観測船「しらせ」.日本マリンエンジニアリング学会誌.2010,第45巻,第2号,p.32.)
全天球パノラマ
艦内の6カ所で全天球パノラマを撮影しました。
- 飛行甲板
- ヘリコプター格納庫
- 前部甲板
- 煙突下
- 艦橋
- 観測甲板
興味のある方は、下のパノラマ画面内左上のリストから場所を切り替えてご覧ください。
https://shimiken1206.sakura.ne.jp/panorama/shirase20251011/index.html
▲砕氷艦しらせの艦内で撮影した全天球パノラマ(撮影日:2025年10月11日)