播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。原則として更新は週に1回です。

米軍の腕時計:マラソン ジェネラルパーパス フィールドウォッチ(GPQ)

購入の経緯

学生時代、肉体労働系のアルバイトをしていた時は、アメリカ軍放出品の腕時計を使っていました*1

軍用の腕時計は長い1本のストラップを時計本体に通して使う構造になっていて、どこかに時計を派手にぶつけても時計とストラップが分離しないし、時計の裏ブタと素肌が触れない(間にストラップが通っている)ため、汗をかいてもヌルヌルしないし、本体が樹脂製で軽く文字盤の視認性も高いし、放射性物質のトリチウムを使った24時間365日光り続けている夜光の仕組みが優秀で、暗い場所での視認性も抜群。とにかく使い心地が良い時計でした。

民間用の腕時計で、そんな特徴を持った製品は当時見当たりませんでした。

それからうん十年…その腕時計もいつの間にやらどこかに行ってしまい、最近はApple WatchやG-SHOCKばかり使っていましたが、多機能だったりゴテゴテしたデザインの腕時計を使っていると「シンプルな腕時計が欲しい!」という欲求が出てきてしまいました。

軍用腕時計と同様の夜光システムを持つLuminoxも持っていてこのブログで紹介したこともありますが、買ってから時間が経ちすぎてトリチウムの発光が弱まり、実用性が低下したため手放しました。

そこで購入したのが、今回紹介する軍用腕時計です。
学生時代に使っていたものより、はるかに良くなっていました。

概要


▲BLACK GENERAL PURPOSE QUARTZ WITH DATE (GPQ) - 34MM

カナダに本社を置くMarathon Watch Company Ltd.が製造・販売している、軍用の腕時計です。

製品名は「BLACK GENERAL PURPOSE QUARTZ WITH DATE (GPQ) - 34MM」と長いため、クォーツ式汎用腕時計を意味する「Watch, Wrist, General Purpose, Quartz」の頭文字をとってGPQと表記することにします。これはインターネット上では一般的に見られる省略表記で、機械式(ゼンマイ式)の軍用腕時計である「Watch, Wrist, General Purpose, Mechanical」は、GPMと略されます。

今回紹介するGPQは日付(Date)の表示機能があるので、「GPQ-D」とします。

ちなみに、現代のアメリカ兵はGARMINSUUNTO、航空機や艦艇の搭乗員だとApple Watchを使っていたりしますし、海外の掲示板を見ても、Marathon社製の腕時計を使っている兵士はほぼいないようです。

仕様


▲パッケージは基本的に軍用として支給される際の箱と同じ。ラベルに契約番号が記載されていないことから、米軍に納入した際の余剰品(サープラス)ではなく、初めから民間向けに作られたものとわかる。

製品名(日本語): マラソン ジェネラルパーパス フィールドウォッチ デイト クォーツ(ブラック)
製品名(英語): BLACK GENERAL PURPOSE QUARTZ WITH DATE (GPQ) - 34MM
メーカー: Marathon Watch Company Ltd.(カナダ)
NSN*2 6645-01-547-0300*3
サイズ: 縦33.1mm × 横(龍頭含む)37.2mm × 厚さ11.7mm(カタログ値)
ラグ幅: 16mm
重量: 約35g(本体とストラップの合計。実測値)
色: ブラック、セージグリーン、デザートタンの3色展開
ケースの材質: ファイバーグラス混合樹脂
風防の材質: サファイアクリスタル
ムーブメント: ETA F06(石数3)
防水性能: 3気圧防水
生産国: スイス
国内定価: ¥56,265(2024年8月時点)、¥47,916(私が購入した時点の定価)
アメリカでの定価: $330.00 USD
購入価格: ¥47,916(税込)
購入先: 楽天市場 CHRONOWORLD(クロノワールド)*4

準拠している規格(いわゆるミルスペック)は「MIL-PRF-46374G, Type Ⅰ, Class 1」(以下単に「ミルスペック」)。

Type Ⅰは「アナログ、短寿命(2年)、修理不可、耐磁性、耐水性があるもの」を意味し、Class 1は「電池を組み込んだ状態で出荷」を意味しています*5

ちなみに、Type ⅠとⅡは暗い環境向けの汎用腕時計、Type Ⅲは暗い環境で長時間任務に就く爆撃機のパイロットおよび航空士(航法士)向けの腕時計です。

ミルスペックでは、文字盤のデザインやムーブメントの動作、ストラップの色等について細かい仕様が決められています。

ムーブメントについては、Type Ⅰでは精度や耐久性以外は特に規定がありません*6


▲GPQ-Dのパッケージ内容(左のカードは、この商品がスイス製で支給用の箱に入れてあることを謳うもの。右は取扱説明書と保証書。)

外観

学生時代に似たような腕時計を実際に使っていましたし、今回購入するにあたってWebやYouTubeのレビューを見て大体のイメージはつかんでいましたが、現物を見ると「小さっ!しかも分厚っ!」と驚かされました。


▲GPQ-Dの全体


▲私が普段使用しているG-SHOCKとのサイズ比較


▲文字盤と100円硬貨の大きさ比較


▲サイズと比べて分厚い(ケースの材質はファイバーグラス混合樹脂)

実際に左手首に装着すると、下の画像のようなサイズです。
(人それぞれの好みによると思いますが)腕に着けてみると、特に小さすぎるという印象はありません。


▲GPQ-Dを私の手首に着けた様子

耐久性が必要ない一般的な腕時計は、ストラップがバネ棒で腕時計本体に取り付けられています。

それに対し、耐久性が求められる軍用の腕時計はバネ棒の代わりにピンが本体に固定されており、そのピンを使ってストラップを本体の裏に通す構造になっています。


▲裏から見たGPQ-D


▲ストラップは本体の裏側を通っている

このような構造になっているため、軍用の腕時計は本体の裏ブタと肌が直接触れ合わず、汗をかいても気持ち悪くなりません。

その代わり、裏ブタと手首に挟まれる部分のストラップは汚れがたまりやすくなります。

また、普通の腕時計は本体の背面付近にストラップが付いているため、本体の背面とストラップが一体になって腕に密着しますが、軍用の腕時計は本体の表面近くからストラップが出ているため、装着時に若干の違和感を感じるかも知れません。


▲ストラップと手首の間に大きな隙間ができる

ストラップは別売されているため、傷んできたら簡単に交換が可能。

ただし、GPQ-Dのストラップは幅が16mmという特殊なサイズ(18mm~22mmが一般的)。
互換性のあるストラップは少なそうです。


▲GPQ-D本体をストラップから引き抜いた様子

電池を交換するときは、ストラップを外して裏ブタのゴムキャップを開けます。
簡単に外せるのかと思いましたが、思いのほか固いです。

キャップに傷がついてゴミや水が時計本体に入るのが嫌なので、開けるのは諦めました。信頼できる時計屋さんに任せた方が良いかも。

そもそもType Ⅰ, Class 1の腕時計は電池交換のしやすさについてミルスペックに何の表記もありません

Type ⅠであってもClass 2とClass3に関しては「腕時計の性能を損なうことなく電池交換が可能であること」という規定があります。


▲電池交換の際はゴムキャップを外す

裏ブタにはNSNや準拠しているミルスペックの番号CAGEコード(メーカーを表すコード)、シリアルナンバーなどが刻印されていますが、私が購入したのは民間向けに製造、販売されているもののため、米軍と契約を結ぶと発行される契約番号の刻印はありません。

ミルスペックでは、裏ブタに刻印する内容として次のことが定められています。(カッコ内は、私が購入したGPQ-Dの裏ブタに打刻されている内容)

※打刻する内容は、ミルスペックに書かれている順番で記載しています。GPQ-Dの裏面に打刻されている順番は、ミルスペックの通りではありません(ミルスペックでは打刻しなければならない内容が列挙されているだけで、順序については触れられていません。)

  • 製品名とミルスペック(WATCH, WRIST: GENERAL PURPOSE, QUARTZ WITH DATE MIL-PRF-46374G)
  • NSN(6645-01-547-0300)
  • 放射線の量(25 MILLICURIES)
  • アメリカ合衆国原子力規制委員会による製造業者識別番号(54-28526-01E)
  • 米軍との契約番号(なし)
  • 製造年月(なし)
  • 製造番号(1本ずつ異なる)
  • 製造業者のCAGE*7コード(38776)


▲裏ブタの刻印(ぼかしてあるのは製造番号)*8

バックルは、一般的なピンバックルが採用されています。

余ったストラップは、定革(ていかく)に通す構造。
定革はストラップ上に固定された輪っかで、固定されていない輪っかは遊革(ゆうかく)と呼ばれます。

GPQ-Dに付属の純正ストラップには、遊革がありません


▲GPQ-Dのピンバックルと定革

このストラップは短めで、服の袖の上から装着するといった使い方には対応できません。
袖の上から腕時計を着けたい方は、長めのストラップを別途用意する必要があります。

続いて文字盤の紹介です。

軍用腕時計はミルスペックにより文字盤は黒インデックスは白と決められています。
この色合いも私の大好物。視認性が高いのです。

私が昔使っていた軍用腕時計は、風防がドーム状のアクリル樹脂製ですぐに傷だらけになっていましたが、GPQ-Dは平面のサファイアクリスタルになっています。

風防については、ミルスペックで「金属面に厚さ0.5mmのゴムシートを敷いた上に、風防を上に向けた腕時計を平らに置き、直径1.6cm、重さ15.7(±1.4)グラムの鉄球を高さ30.5cmから風防に落とした時、目に見える損傷が見られないこと」と書かれています。


▲GPQ-Dの文字盤

9時の位置に書かれている「H3」は夜間の視認性を高めるために「トリチウム」を使った発光の仕組みが使われていることを表すもの*9

3時の位置には放射能標識が描かれていますが、それは前述のトリチウムが放射性物質だから。

内側に蛍光塗料を塗ったガラス管にトリチウムを封入すると、トリチウムから出る放射線が蛍光塗料にぶつかって発光するという仕組みで、トリチウムから放射線が出なくなるまで何十年も光り続けます

一般的な腕時計のようにバックライトの点灯用ボタンを押す必要がなく、電池が消耗しないのもトリチウム発光の利点。

トリチウムで発光するガラス管は、1時間ごとのインデックスに1本ずつ、そして長針と短針にそれぞれ1本ずつ貼り付けられています。

12時の位置は橙色に光り、それ以外は緑色っぽく光るため、暗闇でも時間が分かりやすいのは便利。


▲暗闇で見たGPQ-Dの文字盤(蓄光ではなくトリチウムから放射線が出る限り光り続ける)

ちなみに、トリチウムの半減期は12.32年ですから、製造から12年経つと明るさが半分になるのかな*10

裏ブタの刻印を示す画像を上に載せましたが、そこには「25 MILLICURIES」の刻印があります。

これはGPQ-Dに取り付けられているトリチウムを封入したガラス管から出る放射線が25ミリキュリー(925MBq)以下であることを示しており、その放射線量であれば日本の規格では安全ということになっています。

文字盤の中央下には「U.S. GOVERNMENT(合衆国政府)と書かれているのも、軍用らしくて個人的には気に入っています(文字無しの文字盤も選べます)。

4時と5時の間には、日付を表示する窓が付いています。
変な位置なので、慣れるまでは日付を見るのに苦労します(一般的な腕時計では3時の位置にある)。

日付の切り替わり方は、深夜0時前からゆっくりカレンダーが回り始める安価なクォーツ式腕時計と違い、0時前後にカチッと日付が切り替わる「クイックチェンジ」方式。民間向けの腕時計では高級なクォーツ式腕時計にしか備わっていない機能です。

軍用腕時計の中ではType Ⅰ, Class 1という最低ランクの製品ですが、普通はあまり見られない機能が備わっていることで所有欲が満たされます。

使い方

軍用の腕時計とはいえ、操作自体は一般的なデイト機能付き腕時計と同じです。

龍頭(りゅうず)を一段階引き出して回すと日付が変わり、さらにもう一段階引き出して回すと、時間が調整できます。

電池が消耗してくると、秒針が4秒ごとに動くようになります。これは電池が消耗していることを示すEOLEnd-of-Life)機能。
秒針の動きがおかしいと思ったら、電池を交換してください。

使用する電池は、371(SR920SW)です。

最後に

視認性は高いし、小さくて軽いため装着感は良いし、無駄な機能が一切なく、時間と日付が分かるだけという潔い割り切り方が最高です。

Apple WatchやG-SHOCKは手首で存在感を発揮しすぎますし、重さを感じるため外出中にしか使いませんが、GPQ-Dは小さくて軽いため、外出先から帰ってきてもずっと手首に着けていられます(個人的な感想です)。

サイズが小さくても厚みがあるため(約12㎜)、長袖の服を着ると袖に時計が押されて手の甲に龍頭が当たったりしますが、それは仕方ありません。

腕時計を着け慣れていない方にとっては、この大きさでも邪魔だと感じることでしょう。

しかし、日常的にイカツイ腕時計を着けている方がGPQ-Dを着けると、装着していることを忘れてしまうかも知れません。それくらい小さくて軽いです。

軍用ですが小ぶりでシンプルなデザインのため、見慣れてくるとなんだか可愛く思えてくるのが不思議。

長所

(すべて個人的な感想です。)

  • 男性目線ではかっこよく見えるし、女性目線では可愛く見える
  • 文字盤の視認性が高い
  • トリチウムを使った発光システムにより、暗闇でも時刻を読み取りやすい
  • 日付の切り替わりがクイックチェンジ方式
  • 軽い(本体とストラップで約35g。私のG-SHOCKは約86g。)。
  • 裏ブタが直接手首に触れないため、装着感が良い

短所

  • ラグ幅が16mmしかないため、ストラップを変えたくても互換性のあるものを見つけづらい。
  • ストラップが短いため、袖の上から巻くことはできない。
  • 見た目や質感を考えると高価。とても5万円もする時計だとは他人に言えない(個人的な意見です。)。

*1:「Gallet Marathon」という名前のクォーツ式腕時計だったと記憶しています。

*2:ナショナル物品番号。NATO加盟国の軍隊で物品を管理する際に使用する番号。民生品でいうところのJANコードに相当し、分類番号や国コードを含む13桁の番号から成る。

*3:分類番号の「6645」は「Time Measuring Instruments(時間を計るための機器)」を表し、国コードの「01」はアメリカを表しています。

*4:日本国内におけるMarathon Watch Company製品の総輸入代理店。

*5:参照:MIL-PRF-46374G Performance Specification Watch, Wrist: General Purpose 12 November 1999

*6:Type ⅡやⅢに関しては、石数(高性能なムーブメントは軸受け(ベアリング)に人工ルビーなどの宝石が使われており、その宝石の数を石数と言います。)が15以上でなければならないと規定されています。

*7:Commercial and Government Entity(商業・政府団体)」の略。

*8:実際に米軍に納入される際は、米軍との契約を示す契約番号や製造年月が刻印される。

*9:「H3」は、トリチウム(三重水素)が質量数3の水素の同位体であることを表しています。本来は「3H」と書くべきなのかも知れません。

*10:放射性物質は放射線を出しながら「放射性崩壊」を起こし、別の物質に変化していきます。放射性物質が崩壊し、元の量の半分になるまでにかかる時間が「半減期」です。