播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

護衛艦くまの(FFM-2)一般公開@四日市港

「護衛艦くまの」一般公開について

2022年に就役した最新鋭の護衛艦くまの(FFM-2)が一般公開されると知り、出かけてきました。

場所は、三重県の四日市市
私が住む兵庫県姫路市からは遠いですが、新幹線を使えばそれほど時間はかかりません。


▲護衛艦くまの

 本艦は、岡山県の三菱重工マリタイムシステムズ(旧三井E&S玉野造船所)において令和元年に起工、令和4年に就役しました。
 艦名の由来は、和歌山、奈良、三重の3県に渡り優雅に流れる「熊野川」からいただいております。
 日本の艦艇としては「3代目のくまの」となります。
 また、時を同じくして長崎の三菱造船所において建造された「もがみ」型護衛艦(FFM)の2番艦として、双子の姉妹艦「もがみ」と同じ形状・性能を有する護衛艦として建造されました。
 従来型の護衛艦とは異なる設計思想、新しいコンセプトで設計されているため、従来艦とは一線を画した故に独特な船体構造となっております。
 (後略)

護衛艦「くまの」艦長

(出典:護衛艦くまの一般公開時に配布されたパンフレット)

主要要目
排水量 3,900トン
全長 133.0m
最大幅 16.3m
速力 30kt以上
機関 CODAG方式*1(2軸)
   ガスタービン・エンジン(GT)×1基
   ディーゼル・エンジン(DE)×2基
(出典:護衛艦くまの一般公開時に配布されたパンフレット)


▲護衛艦くまのの主砲(62口径5インチ砲)の砲口栓

イベント名称: 一般公開:護衛艦「くまの」艦艇広報
日時: 2024年1月28日(日)09:00~11:30、13:00~16:00
場所: 四日市港千歳地区第3埠頭
備考: 事前申し込みは不要。埠頭への直接の立ち入りは不可で、指定駐車場からシャトルバスで移動します。


https://maps.app.goo.gl/3saCXKBCyZMmv1bW9
▲一般公開会場の位置

姫路駅から一般公開会場へ

06:00
JR姫路駅を新幹線のぞみ68号で出発。
朝食は、この車内で食べたコンビニおにぎり(2個)です。

07:21
名古屋駅に到着。
四日市駅へは快速みえ51号で向かうので、乗り換えのために在来線の12番ホームへ。

07:43
快速みえ51号が名古屋駅を出発。

08:16
四日市駅で降車。

こういったイベントでは行列に並んでいる間にお手洗いへ行けませんから、四日市駅でお手洗いを済ませておきました。


▲JR四日市駅

四日市駅から西へ出たら、線路の近くを南へ延びる道に入ります。
駅からおよそ450m、川を渡ってすぐの交差点を左折して踏切を越え、東へ進むこと約350m、突き当りを右に曲がるとまもなく、左手に大きな駐車場が現れます。
これが指定駐車場の一つで、この駐車場からシャトルバスに乗ることができます。


https://maps.app.goo.gl/KmKU4LtdTM7pwEAk7
▲指定駐車場の内の一つ、末広町北バス停の位置

08:30
末広町北バス停近くの指定駐車場に到着。

上の地図は路線バスのバス停の位置を示していますが、見学者用にその東側の広い駐車場が開放されており、駐車場の南端にシャトルバスの行列ができていました。

使用されていたのは、二十数人が乗車できるマイクロバス
これが何台か一般公開会場と指定駐車場の間を往復していました。


▲シャトルバスとして使用されていたマイクロバスの1台は自衛隊ナンバー

08:50頃
4便目のシャトルバス(マイクロバス)に乗れました。
補助席も使用して満車状態で一般公開会場へ向かいます。

一般公開の様子

08:57頃
一般公開会場に到着。
マイクロバスを下り、手荷物検査の行列に並びます。

手荷物検査はあっさりと終わったのですが、そこからが長い…


▲乗艦待ち行列の様子

上の画像の右手前から右奥へ列は延び、それが左へ曲がって手前に折り返し、さらにそれが左手前から左奥へ延びているのです。つまり、艦の全長の半分ほどの行列が3本(180mほど)できているわけです。
この写真を撮っている私の後ろにも続々と人が並んでいきました。

行列に並ぶ最初の段階では軽装甲機動車高機動車を間近で眺められるので、癒されます。


▲展示されていた陸上自衛隊の車両

09:10頃
15分ほどで最初の折り返し地点に来ました。
さらに60mほど進み、もう一回折り返して60mほど進めば乗艦できます。


▲最初の折り返し地点(ヘリ格納庫付近)から艦首の方を見た様子

艦橋の上には特徴的な「角(つの)」がありますが、これは複合通信空中線NORA-50(通称はUNICORN:UNIfied COmplex Radio aNtenna の略)で、細長いレドームの中に上からESアンテナ、洋上無線ルータ、UHFアンテナ、UHF/VHFアンテナ、TACANの順でアンテナが積み重なっています*2

乗艦

09:44
ようやく乗艦です。

この舷梯の手前で人数制限をかけていて、見学者が退艦すると次の見学者が乗艦するという流れになっているようです。

そのおかげで、艦上ではかなりゆったりと見学を楽しめました。


▲ヘリ格納庫付近に設置された舷梯から乗艦

乗艦すると、まずヘリ格納庫へ入ります。

ヘリの格納庫入口には2本の支柱がありますが、これはシャッターを閉じた時に内側からシャッターを支えるためのもので、ヘリコプターを出し入れするときは左右に動かして間隔を広げるそうです。


▲ヘリ格納庫

最新鋭の護衛艦ですから、残念ながら艦内は撮影禁止


▲艦内撮影禁止のプレート

ヘリ格納庫の左奥(左舷前方)から舷側通路に入って艦首へ向かいますが、一般的な護衛艦ではむき出しになっている部分が、ステルス性を高めるために壁と天井に覆われているのは不思議な気分。

このような壁に覆われた舷側通路をどこかで見たことがあるなぁと思ったら、2022年11月に見学した護衛艦しらぬいでした。

護衛艦しらぬいでは短魚雷発射管がある部分くらいしか覆われていませんでしたが、「護衛艦くまの」は洋上補給用の機材などもすべて壁で覆われて外から見えません(使うときは壁が開きます)。

せっかく電飾で飾り付けがされていたのに写真でお見せできない左舷の通路を進んだ先で、梯子のような急角度の階段を登ります。

前甲板

出てきたのは、主砲(62口径5インチ砲)が鎮座する前甲板。

艦内は撮影禁止ですが、前甲板と飛行甲板(隠されておらず外から見える部分)については撮影が可能です。


▲護衛艦くまのの前甲板

62口径5インチ砲(MK45 mod4)

 最大射程:約24km
 発射速度:1分間に15~20発
 砲身冷却方式:空冷
 使用用途:対空、対水上、陸上支援射撃
 開発:BAE社
 製造:ライセンスにより日本製鋼(JSW)

 弾丸約32kg(飛んで行く物)装薬約17kg(弾丸を飛ばすための火薬の入った筒)を人力で大砲に給弾すれば、発射するまでの工程を全自動で行える単装砲です。
 発射したあとの薬きょうは砲身の付け根、上側のふたが開き、左斜め前方に放出されます。
 弾丸や装薬は男性隊員だけでなく女性隊員も一緒に給弾しています。
(出典:現地のパネル)

主砲の名前ですが、5インチ(12.7cm)は砲弾の直径を表しており、62口径は砲身の長さが砲弾の直径の62倍ある(約7.9m)ことを表しています*3

砲塔の左側の甲板には、主砲を発砲した後の空薬莢(からやっきょう)が落ちた跡がたくさんついていました。


▲主砲弾の薬莢が落ちた跡

この主砲は砲身の上に排莢口があり、発射した砲弾の薬莢はそこから前方へ排出されます。


▲排莢口の位置

薬莢排出の様子が分かる動画がYouTubeにありましたので、転載します。


www.youtube.com

甲板にいらっしゃった隊員さんに聞いたところ、護衛艦くまのだけ砲塔に八咫烏(やたがらす。神話で神武天皇を熊野から大和に案内したカラス。)のロゴが入っているそうです。


▲上の画像で示した位置にある八咫烏のロゴ

砲塔の後ろには、教練弾と教練薬きょう、そして発射後の実弾の薬莢が展示されていました。


▲5インチ砲用教練弾と教練薬きょう(手前)奥は実弾の薬莢


▲実弾用の薬莢は甲板に落ちた時の凹みがついていた

前甲板は主砲と砲弾しか見どころがなさそうで、面白いものはないかなぁとキョロキョロすると、艦橋の上に人の顔のような形をしたセンサーを見つけました。OAX-3可動型センサーです。

これは可視光カメラ、赤外線カメラ、レーザー測距装置を搭載したセンサーで、上下左右に旋回して目標を監視するための装置。

上にある板状の部品はOPY-2レーダーで、目標の捜索、追尾の他、敵潜水艦の潜望鏡も探知できます。

RWSはRemote Weapon Stationの略で、機関銃を遠隔操作で発射するための台座です(機関銃は取り付けられていませんでした)。


▲艦橋上部のセンサーとレーダー


https://shimiken1206.sakura.ne.jp/panorama/kumano20240128/index.html
▲前甲板で撮影した全天球パノラマ

前甲板を見終わったら、右舷の階段を下りて艦尾の方へ進みます。

右舷の舷側通路は風船で飾り付けがされていた他、機雷掃討用の機材*4も置かれていました(撮影禁止のため画像はありません)。

さらに、艦尾には機雷敷設装置も装備されています(使用時はレールを引っ張り出して大掛かりな準備が必要だそうです)。

くまのの艦種はFFMで、「FF」はフリゲート艦を、「M」は「Multi-Purpose(多目的)」の他に「Mine(機雷)」も表しているのです。

飛行甲板

ヘリ格納庫の右前方の扉から格納庫に戻ってきました。
ここからは飛行甲板の見学です。

ヘリ格納庫を出て最初に出会うのは、航空管制室
飛行甲板に着艦するヘリの管制着艦拘束装置の操作を行うための部屋です。


▲航空管制室


▲航空管制室内にはSH-60Kの模型があった

艦尾まで進んで飛行甲板とヘリ格納庫を眺めてみました。


▲飛行甲板とヘリ格納庫

ヘリ格納庫の上部には見慣れたペンギン型のレーダーがあって「よく護衛艦に積まれているバルカン砲*5搭載のCIWSClose-In Weapon System*6:自分に向けて飛んでくるミサイルや航空機を撃ち落とす最終兵器)かな」と思ったのですが、よく見るとミサイルランチャーです。
これは「SeaRAM(シーラム」)というミサイルを使ったCIWS

従来の護衛艦ではバルカン砲で弾幕を張って敵のミサイルを破壊するのが一般的ですが、最新鋭のFFMではミサイルになったようです。


▲最新のCIWSである「SeaRAM」


www.youtube.com

飛行甲板には、揺れる船の飛行甲板にヘリを安全に着艦させるためのベアトラップ(着艦拘束移送装置)も展示されていました。

これを制御するのは航空管制室です。


▲ベアトラップ(RAST Mk-Ⅳ)


▲ベアトラップにも八咫烏

下のYouTube動画の3分30秒~3分53秒が上の画像にあるタイプの着艦拘束移送装置と同型のものの説明です。


www.youtube.com

従来の護衛艦は、甲板の周囲に網を張って転落防止がされていました。
今回見学した最新の護衛艦くまの(FFMシリーズ)では、網ではなく起倒式の手すりになっています。

ヘリコプターが離発着する時には、これらを全て外側へ倒すそうです。

設置されていたパネルの説明によると、起倒式手すりを倒したり起こしたりするための動力は電動ドリルで、それをウィンチ部分に差し込んで回転させ、ダイニーマ索(ダイニーマという素材でできたロープ)を出したり引き込んだりして動かすとのこと。


▲飛行甲板周囲の起倒式手すり

艦を係留するときは、遮へい板跳ね上げ部と呼ばれる部分を開いて索道を露出させないといけません。


▲遮へい板跳ね上げ部を開いた様子

退艦

10:10
飛行甲板の後ろ寄りに設置された退艦用の舷梯で艦を下りました。


▲退艦後に艦尾から見た護衛艦くまの

くまのの見学を終えた後は、並んでいるブースを見ながらゆっくりとシャトルバス乗り場へ。


▲潜水装備の展示ブースにあった携帯用機雷探知機RQS-2C

様々な角度から見た「護衛艦くまの」

シャトルバス乗り場でバスを待っていたら、「埠頭は自由に歩けるから、別角度からくまのを見られるかも」と思いつき、列を離れて「くまの」の艦体をじっくり眺めることにしました。


▲真正面から見たくまの


▲右前方から見たくまの


▲右から見たくまの

一般公開会場から姫路駅へ

10:30
次から次へとやってくる見学者の列が伸びていく中、駐車場へ向かうシャトルバスの待機列に並びました。

10:50
駐車場に戻ってきました。
徒歩でJR四日市駅へ。

11:10
名古屋行きの普通列車が四日市駅を発車。

名古屋行きの列車ですから途中の駅で徐々に乗客が増えていき、最終的には通勤電車並みの混雑になりましたが、四日市駅が始発のため、私は座って快適な旅を楽しめました。

11:59
名古屋駅に到着。
新幹線の乗り場へ。

12:26
急病人の救護で多少のダイヤ乱れがあったようですが、新幹線のぞみ67号(広島行)が定刻に名古屋駅を発車しました。
新幹線のホームにあった売店で買ったサンドイッチで昼食。

13:45
姫路駅に到着。

最後に

人数制限がかけられていたおかげで、階段に行列ができるわけでなく、前甲板でも飛行甲板でもゆったり、じっくりと「くまの」を眺めることができました。

ある組織の情シスで働いている私としては、撮影できない舷側通路内にあった「スマートウォッチ持ち込み禁止」の隊員向け注意書きや、LANケーブルが何本もささったHUBが通路の壁面に付けられているのも印象に残りました。他の護衛艦では、一般公開される範囲でLANケーブルなんて見たことがありません。

私の職場では、HUBは安全のため鍵がかかったHUBボックスに入れていますが、護衛艦は整備性を優先しているのかな。

気になったのは、新しい艦艇なのに表面に錆が多かったこと。


▲錆が目立っていた

それにしても、ステルス性を高めるための特殊な形状*7をした最新鋭の護衛艦を間近で見られて、遠かったですが行く価値はありました。

災害対応や訓練で忙しい中、このようなイベントを実施していただける自衛隊の皆様には感謝しかありません。

*1:COmbined Diesel And Gas turbineの略で、巡航する際はディーゼルエンジン、スピードを上げる必要があるときはガスタービンエンジンも使用し、2種類のエンジンからの動力を合わせてプロペラを回す方式のこと。

*2:主契約者であるNECが作成した文書「UNICORN(複合通信空中線 NORA-50)の開発」を参照。

*3:ただしこれは大砲の場合に限ります。小銃の場合22口径は0.22インチ(5.56mm)、30口径は0.30インチ(7.62mm)を表します。

*4:海中に設置する地雷のようなものを機雷といいます。機雷があると船が安全に航行できないため、機雷を見つけて破壊する必要がありますが、その作業を機雷掃討と言います。

*5:6本の銃身を束ねた機関砲。6本の銃身が回転しながら、そのうちの1本から砲弾が撃ち出されます。その間、他の5本の銃身では薬莢の排出や次弾の装填が行われるため、装填が済んだ銃身が射撃位置に来るたびに発射でき、極めて高い発射速度を実現できます。

*6:日本語読みでは「シウス」、英語読みでは「シーウィズ」です。

*7:敵レーダーの電波が反射する方向を変え、電波が敵のレーダーに戻りにくくすることで、探知されないようになっています。