播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

姫路城のお濠(ほり)の始点から終点まで歩いてみました(内濠~中濠編)

2023年10月7日、姫路城の内濠(うちぼり)と中濠(なかぼり)を流れる水の流路を紹介する記事をこのブログに掲載しました。

その記事の中で「姫路城の濠は、天守閣の北東から反時計回りに渦巻き状に広がるという特殊な構造」という記載をしたのですが、実際に渦巻きの始点から終点までを確認したことがないことに気づき、姫路城の濠の始点から終点までを歩いてみることにしました。

全行程が長いため、「内濠~中濠編」(前編)と「外濠編」(後編)に分けることにしました。

この記事は前編にあたります。

姫路城の濠に始点と終点がある?

姫路城の濠は他のお城と違り、同心円状の濠で幾重にも囲まれているわけではありません。

渦巻き状の濠が反時計回りに姫路城を囲んでいるという状態*1

渦巻きですから、始点と終点が存在するわけです。

この記事では、内濠が始まる地点を「始点」とし、そこから内濠、中濠、外濠を順にたどり、外濠が途切れる場所を「終点」とします。

姫路城の濠は現在、埋め立てられてしまった部分があって往時の正確な濠の位置が分からなくなっています。そこで、今回の記事では姫路市役所政策局企画政策室が作成した「姫路城跡中曲輪施設整備方針(平成27年10月策定)」の地図を参考にしています。

なお、濠の総延長は12,525mもあるとのことなので、1日目は内濠と中濠、2日目は外濠という風に、2回に分けて歩くことにしました。


▲姫路城の外濠終点近くに立つ看板(2023年11月初旬撮影)

姫路城 外濠跡
 姫路城には敵から城を守るために内濠(2,970m)、中濠(4,323m)、外濠(5,232m)の三つの濠があり、総延長は12,525mです。濠の最終地点はここ野里堀留町です。大半は埋め立てられているが、竹の門の西方から北の濠端までは幅約2mの水路を残して埋め立てて公道としています。
城乾中学校校区地域夢プラン実行委員会
(出典:姫路市野里堀留町の外濠終点の看板)

姫路城の濠の全体像

姫路城の濠(濠跡)に沿って歩くために、Googleマップでルートを作成しました。

お城の西側では内濠、中濠、外濠(船場川)が密集していてわかりづらいですが、全体としては渦巻き状になっていることがお分かりいただけると思います。


https://www.google.com/maps/d/edit?mid=1k5iIjz3PlKXJFZvTt3ybrSAZeRQlu8Y&usp=sharing

姫路城の内濠

内濠の始点は、姫路城の大天守から見て東にある姫路神社のすぐ西にあります。
ここは、かつて八頭門という櫓門が建っていた場所。

現在の姫路神社の入り口は、江戸時代は八頭門と呼ばれた櫓門(やぐらもん)で、東三の丸から侵入してくる敵に備えたものです。
(出典:姫路神社Webサイト「神社紹介」のページ)


▲内濠の始点(2023年10月中旬撮影)

ここから反時計周りに、全長およそ12.5kmの渦巻き状の濠が伸びていくわけです。


https://maps.app.goo.gl/G3Mimqs6BGetRuvz5
▲姫路城の内濠が始まる位置

実は、この内濠の始点に流れ込む水の出どころが始点のすぐ南にあり、そこは水が湧き出る泉のようになっています(実際はポンプで水を出しています)。

往時の姫路城の濠の水源は「船場川から引いた水」と「湧き水」とされていますから、これがその湧き水をイメージしたものなのかも知れません。

(5)姫路城の堀の水はどこからきていますか
姫路城の堀の水は、湧き水と船場川の水を主に利用していました。 現在も船場川の水を利用していますが、堀が途切れているところがあるので、ポンプで循環させています。
(出典:「改訂版 姫路城のなに?なぜ?」しろまる会発行)


▲内濠の始点の少し南にある湧き水をイメージした泉(?)(2023年10月中旬撮影)

内濠の始点から西へ延びる区間は、姫山公園と名付けられた静かな公園です。
ここを歩いていると、姫路城の北側が石垣ではなく原生林の急斜面で守られていたことが分かります。


▲内濠に沿って姫山公園を歩いた。濠の左、原生林の上がお城。(2023年10月中旬撮影)

内濠が南へ向きを変えると、幅が広くなって立派な石垣と好古園(こうこえん)の白壁が見えるようになります。


▲内濠沿いに南向きに歩く区間の様子(2023年10月中旬撮影)

姫路城の南側は姫路城の正面といえる場所ですが、正面だけあって濠の幅は広く、姫路城の防御力の高さが垣間見えます。


▲内濠沿いに東向きに歩く区間の様子(内濠の幅がもっとも広くなっている部分)(2023年10月中旬撮影)

ここからは三の丸の東側を北へ歩かないと内濠をたどれないのですが、濠沿いに道がありません。

そこで、大手門をくぐって三の丸に入り、三の丸の東端を北向きに歩くことにしました。

その途中で石垣に上がれる場所があったので、そこから三の丸の東を南北に走る内濠を見学。


▲三の丸東側の内濠(写っている舟は観光和船*2)(2023年10月中旬撮影)

三の丸の東端を北上してなだらかな坂を上りきると、右手に袋小路の濠がありました。これも内濠の一部のようです。

この付近は内船場蔵と呼ばれているようなので、船荷の積み下ろしに使う場所だったんでしょうか。水面から地面までの高低差が大きいし、内濠にどうやって船を入れるのか分かりませんが…


▲内濠から西へ分岐して途切れた濠(2023年10月中旬撮影)

途切れた濠を見てから北へ坂を下り、喜斎門(きさいもん)の橋を渡って姫路市立美術館の方へ進みます。

ここからは、内濠を左に見ながら北へ歩くことになります。


▲美術館の西を流れる内濠(2023年10月中旬撮影)

美術館の横を通り過ぎると、内濠は西へ向きを変えて姫路市道城西12号線沿いになります。
濠を左に見ながら、市道の歩道を西へ。

この辺りはシロトピア公園と呼ばれる広い公園で、周辺住民の憩いの場になっています。

姫山公園といい、シロトピア公園といい、姫路城の北にある公園は雰囲気がよくて個人的にはお気に入りの場所。


▲姫路市道城西12号線沿いの様子(2023年10月中旬撮影)


▲姫路市道城西12号線から見た姫路城(北から見ると姫路城の雰囲気が違って見えます)(2023年10月中旬撮影)

濠沿いに歩いたのは10月中旬でしたが、妙に暑くて疲れたため、シロトピア公園の西端にある休憩所(扇観亭*3)にある飲料の自販機でのどを潤しました。お手洗いもあります。


▲扇観亭(2023年10月中旬撮影)

ここから少し西に進んだところから中濠が始まります。

姫路城の中濠

姫路城の濠は渦巻き状に延びているため、明確に内濠から中濠に切り替わる場所は分かりませんが、この記事では便宜上、清水橋の東側、「千姫の小径(こみち)」が始まる地点から先を中濠とします。


https://maps.app.goo.gl/GGg4RhQg8o2K7iNf7
▲中濠の始点

ここから「千姫の小径」を南下します。
この時右に見えるのは外堀の役割を果たしている船場川で、左に見える濠が中濠。


▲千姫の小径の始点付近から南を見る(左が中濠で、右は船場川)(2023年10月中旬撮影)

中濠と船場川を隔てる堤の上に作られた千姫の小径は、始点からおよそ1kmで(途中で「市之橋」交差点を渡り)東向き一方通行の国道2号線に突き当たって終わります。

国道2号線に突き当たる150m手前には車門跡があり、車門跡の南には、空堀になってしまった中濠を見ることもできます。

私が子供の頃は、この空堀の石垣内にある水路で暮らしている人がいたなぁ…
空堀の中で遊んでいる時にふと石垣を見たら穴の中に人が居て、心臓が止まるほど驚いた記憶があります。


▲空堀になった場所の様子(2023年10月中旬撮影)

東向き一方通行の国道2号線に出たら、国道の北側に付けられた歩道を東へ進みます。
この歩道と国道2号線の一部が、昔は中濠でした


▲東向き一方通行の国道2号線は、中濠を埋め立てて作られた(写っている石垣は埋門跡)(2023年10月中旬撮影)

中濠跡ですから、この国道2号線沿いには橋とセットになった門の跡がいくつもあります。

西から順に「埋門(うずみもん)」(上の画像に写っている石垣)、「鵰門(くまたかもん)」(石垣が残っています)、中ノ門跡(痕跡なし)、「総社門跡」(石垣が少しだけ残っています)、「鳥居先門跡」(痕跡なし)です。


▲鵰門跡(城門の形がそのまま残っているためお城好きには貴重な存在ですが、車で通る人にとっては大変。)(2023年10月中旬撮影)

国道2号線の北には歩道沿いに石垣がありますが、これは昭和末期に作られたもので、往時の石垣の形状を再現していません。


▲昭和末期に作られた石垣(2023年10月中旬撮影)

国道2号線の「西本町」交差点(鵰門跡の180m東)には、「国道二号線建設之碑」が立っています。


▲国道二号線建設之碑(2023年10月中旬撮影)

国道二号線建設之碑
この石碑は昭和七年(一九三二)二月、国道2号線の改修を記念して建てられた。改修にあたって、中堀が東西約四五〇メートルにわたって埋め立てられた。中堀のあったことがわかるように、その境界にこの石碑が建てられた。この石碑は元々は道路の西側にあったが、昭和六十一年(一九八六)の国道2号線拡張工事のため、同所に移転された。
中堀の埋め立ては大正期にも進められていた。昭和七年当時、この石碑から東側はすでに埋め立てられて商業地等に変貌しており、姫路市立女子技芸学校(現在の姫路市立琴丘高等学校)も建てられていた。
(出典:現地の看板)

中ノ門跡には昭和末期に作られた石垣があるだけ。しかし、当時の門の形状が分かる仕掛けがあります。
それは、歩道に埋め込まれた鉄平石
鉄平石は、往時の門の石垣の輪郭を表すように設置されているのです。


▲中ノ門跡近くの歩道に埋め込まれた鉄平石(これを見ても、歩道沿いの石垣が往時のものではないことが分かる)(2023年10月中旬撮影)

同様の鉄平石は、総社門跡付近にも見られます。
総社門があったのは「姫路市民会館前」交差点。


▲市民会館と旧NTTの建物の間に、往時の石垣が残っている(2023年10月中旬撮影)

「姫路市民会館前」交差点から東へ約120mのところには、総社の鳥居が立っています。
ここは鳥居先門跡。


▲鳥居先門があったとされる場所(門の痕跡はない)(2023年10月中旬撮影)

鳥居から80mほど東へいったところで、路面がピンクに塗られた道路が北へ延びる交差点に出会います。このピンクに塗られた道路こそ、中濠の跡。

埋門跡からおよそ1.2km東向きに歩いてきましたが、ここでようやく北へ向きが変わります。


▲中濠跡を利用した道路を北上する(2023年10月中旬撮影)

北向きに歩くことおよそ220m、「大国町(だいこくちょう)」交差点でようやく現存する(水がある)中濠に再会しました。


▲「大黒町」交差点の南から北を見る(2023年10月中旬撮影)

「大黒町」交差点から北へ100mほどで外堀は右へ、左へクランク状に折れ曲がります。
そこにあるのは、姫路城の内京口門跡
賢明女子学院の敷地へ出入りするための門として、今でも使われています。


▲内京口門跡(中濠がクランク状に折れ曲がっている)(2023年10月中旬撮影)

賢明女子学院淳心学院の東側を中濠沿いに北上する道は、中央付近に石でラインが引かれています。


▲道の中心に沿って石でラインが引かれている(2023年10月中旬撮影)

このラインは、実は往時の中濠の外側の位置を示しているのです。
この付近の中濠は、少しだけ埋め立てられているというわけ。


▲道の中心線の意味を説明するプレート(2023年10月中旬撮影)

久長橋がかかる久長門(きゅうちょうもん)までは中濠沿いを歩けましたが、ここから先は濠沿いの道が細い道に変わり、通っていいのかどうかわからない(民家のすぐ裏を歩くことになる)ため、少し東の野里街道を北上することにしました。

久長橋から北へ野里街道を歩くこと500m、ここまでは対面通行ができる道路でしたが、正面の道が北行一方通行に変わる交差点を左折します。

住宅に挟まれた細い道路を西向きに歩く間、左側に家がない場所(駐車場など)で奥を見ると、中濠が通っていることが分かります。

県道518号線に突き当たったら、車に気を付けて道路を渡って右前方に進むと野里門跡です。

ここからは、中濠を左に見ながら細い道路を西へ。


▲野里門跡(痕跡はない)

野里門跡から550m、清水地蔵尊のある場所で中濠は左へ直角に折れ曲がります。


▲奥の方で濠が左に折れ曲がっているのが見える

清水地蔵尊から180mほどは濠沿いの道でしたが、道は急に右へ折れ曲がり、船場川を渡ります。
橋を渡ったら左へ。


▲船場川を左に見ながら南下する(中濠は左に見える住宅のさらに左)

清水橋(「千姫の小径」北端の西)に到着。これで中濠をぐるっと一周回ったことになります。

内濠と中濠を歩いた距離は、合計で7km強所要時間は、2時間ちょうどでした。


▲内濠始点~中濠終点を歩いたGPSログ(対応する地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図「姫路北部」)

外濠を歩いた記録は、「外濠編」として別の記事にします。

交通アクセス

今回歩き始めた内濠の始点は、JR姫路駅北の神姫バス7番または8番乗り場を出る路線バス、または6番乗り場を出るループバスに乗車し、「姫山公園南・国立姫路医療センター・美術館前」バス停で下車して西へおよそ300mで到達できます。

今回の行程の終点である「清水橋」から姫路駅へは、「城周辺観光ループバス」に「清水橋(文学館前)」バス停から乗車すると、楽に帰れます。


https://maps.app.goo.gl/F1PUzEr4f3GxJk7f8
▲「清水橋(文学館前)」バス停の位置

路線バスや観光ループバスの運航日や時刻等は、神姫バスのWebサイトでご確認ください。

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路線バスの時刻、運賃は「神姫バスNavi」で、ループバスは「城周辺観光ループバス」で検索をお願いします。

後編はこちら

*1:過去の記事にも書きましたが、渦巻き状の濠をもつのは江戸城と姫路城のみで、江戸城の濠は時計回り、姫路城のは反時計回りに巻いています。

*2:期間限定の運行です。

*3:せんかんてい。黒川紀章建築都市設計事務所による建築です。