トランギアのストームクッカーを山歩きで使うことがありますが、あれで炒め物をするときには大きな問題があります。
付属のアルミ製ポットリフターでフライパンを掴んでいると、フライパンからの熱がリフターに伝わり、あっという間に持てないほどの高温になってしまうのです(アルミは熱伝導率が高い)。
一般家庭用の鍋やフライパンで、そんなに簡単に取っ手が熱くなり、素手で持てなくなるようなものはほとんどありません(そんな製品は欠陥品だと言われるでしょう)から、アウトドア用品の不便さには閉口します*1。
そこで「熱くならないポットリフター」を求めて行きつけのアウトドアショップに行ったところ、チタン製のポットリフターを紹介され、思わず買ってしまいました。
それが、今回紹介する「Vargo Titanium Pot Lifter」です。
概要
一般的にポットリフターはアルミ製が多いですが、「Vargo Titanium Pot Lifter」は名前の通りチタンでできています。
チタンの熱伝導率はアルミのおよそ1/14しかないため、熱くなりにくいのです*2。
仕様
▲Vargo Titanium Pot Lifter(折りたたんだ状態)
製品名: Titanium Pot Lifter(チタニウム・ポット・リフター)*3
メーカー: VARGO(アメリカ)
サイズ: 126mm(カタログ値)
重量: 23g(カタログ値)
材質: チタン
定価: 4,840円(税込)
購入先: アドスポーツ(兵庫県姫路市)
▲台所用の秤(ハカリ)で量ってみたらカタログ値通りの重量が表示された
外観
仕組みも外観も、一般的なポットリフターと変わりません。
違うのは、素材がチタンになっていることだけ。
▲Vargo Titanium Pot Lifter(開いた状態)
ストームクッカーに付属のアルミ製リフターとサイズを比べると、下の画像のようになります。
▲長さと高さはあまり変わらない(奥がストームクッカー付属品)
▲握る部分がストームクッカー付属品よりも薄い(奥がストームクッカー付属品)
Vargo Titanium Pot Lifterは一般的なリフターと素材以外に違いが無いと書きましたが、一つだけ他にはない特徴があります。
それは、動きが硬いということ。
クッカーを挟んだ後に手を放しても、Vargo Titanium Pot Lifterはその場にとどまります。
地味ですが、これは便利な特徴。
従来のアルミ製リフターは、クッカーにつけっぱなしにすると熱くて持てなくなるため、使わないときはクッカーから取り外さざるを得ない構造になっていたのかも。
▲Vargo Titanium Pot LifterでストームクッカーS・ブラックバージョンのソースパンを掴んだ様子(手を放してもリフターは開かずにその場にとどまっている)
トランギアのポットリフターとの性能比較
Vargo Titanium Pot Lifterは本当にアルミ製リフターより熱くなりづらいのか、サーモグラフィーで確認してみました。
方法は単純で、お湯を沸かしているストームクッカーのソースパンの縁に2種類のリフターを取り付けたまま10分ほど沸騰状態を維持し、その後リフターの中央付近の表面温度を測るというもの。
手を離した状態でリフターが落ちないよう、輪ゴムを巻いてリフターを閉じた状態にしています。
温度を測るのに今回はサーモグラフィーを使いましたが、このような非接触型の温度計*4は、金属の温度を正確に測るのが苦手です。
物質ごとに熱の放射のしやすさ(放射率)が決まっており、金属の場合は表面の光沢の有無や酸化の度合いによっても放射率が異なるため、非接触で金属の表面温度を測るためには、何らかの方法で対象の放射率を正確に調べ、温度計にその放射率を設定して測る必要があるのです*5。
そんな難しいことはできないので、今回はリフターの側面に放射率が0.95の黒体テープを貼り付け、黒体テープの表面温度を測ることにしました。
▲実験の様子(リフターの側面に黒体テープを貼り付けた)
下のアルミ製リフターの赤外線画像をご覧ください。
リフターの温度は側面の黒体テープ上では高くなっていますが、テープが無いところは外気温と変わらない温度として表示されています(実際は触り続けられないほど熱い)。
このように、非接触で金属表面の温度を測るのは難しいのです。
本題に戻ります。
下の画像からは、アルミの熱伝導率の高さによって黒体テープ全体の温度が高くなっている(リフター全体が熱くなっている)ことが分かります。
▲アルミ製ポットリフターの温度
Vargo Titanium Pot Lifterの赤外線画像を見ると、黒体テープ全体が均一な温度ではなく、熱源(クッカー)に近いところほど熱く、遠ざかるほど温度が低くなっています。
この画像からは、チタンの熱伝導率の低さがよく分かりますね。
▲Vargo Titanium Pot Lifterの温度
最後に
Vargo Titanium Pot Lifterは握る部分の厚みがなく、使われているチタン板も薄いため、中身が入った重いクッカーを掴むと手が痛くなることが容易に想像できます。
実際、袋ラーメン1食分を調理したクッカーをVargo Titanium Pot Lifterで持ち上げた場合、短時間なら問題ありませんが、持ち上げている時間が長いと指にリフターが食い込んで不快感を感じます(私個人の感想です)。
私がVargo Titanium Pot Lifterを使うのは、ストームクッカーSのフライパンで焼きそばやチャーハンを炒める時くらい。
炒め物をするときは、フライパンを動かした方が効率よく調理できるような気がするため、リフターでフライパンを持ち続けることが多いです。
焼きそばやチャーハンはラーメンより軽いので、Vargo Titanium Pot Lifterが握りづらい形状であっても、さほど気になりませんし指も痛くなりません(私個人の感想です)。
持ち手のないクッカーでラーメン等を作る場合、リフターを使うのは火から下ろす時と食べる間だけでしょうから、リフターがアルミ製で熱伝導率が高かったとしても、それほど問題にはならないと思います。
むしろ、クッカーがアルミ製だと縁まで熱々になって口を付けられず、ラーメンが食べづらいことの方が問題だと個人的には思います。
(この問題は、チタン製またはステンレス製のクッカーを使えば解決できます。)
チタン製なので仕方ありませんが、リフターなのに値段が高いですし、前述の通りリフターがチタンでできている(熱伝導率が低い)ことが利点になる状況は、さほど多くないと思います。
しかし、荷物を極限まで軽量化しつつ、アウトドアでの食事を快適に楽しみたいという方や、私のように「台所用の鍋で取っ手が熱くなる製品は欠陥品と言われても仕方ないのに、なぜアウトドア用品だとそれが許されるんだ!」と思うような方には、Vargo Titanium Pot Lifterは魅力的に見えることでしょう。
興味のある方は、普段お使いのクッカーとそれに入る適当な錘(おもり)を用意し、デモ用の展示品があるお店で、店員さんの許可を得たうえでクッカーに取り付け、握り心地やクッカーとのかみ合わせを確かめてみてください。
長所
- 熱伝導率が低いため調理中に熱くなりづらく、快適に調理ができる(台所用の鍋やフライパンなら当たり前のことなんですけどね)。
- 一般的なリフターに比べて小型で軽量。
- 開閉の動きが硬いため、クッカーの縁に付けたままにしておける。
短所
- 高価。
- 素材自体が薄く、重いクッカーを持ち上げるとリフターが指に食い込みやすい。
- 全体的な形状が薄く、握りづらいと感じる場合がある。
*1:私は不便さを楽しむのではなく、景色を眺めながら、のんびり食事を楽しむために山歩きをしていますから、山歩きが快適になる便利な道具の方が好きなのです。
*2:チタンの熱伝導率は17W/mKですが、アルミは236W/mKです。
*3:「Titanium」は、英語読みでは「タイテイニアム」ですが、ここでは輸入代理店が使用している「チタニウム」という表記に合わせました。
*4:レーザー光が当たった部分の温度を表示するタイプの温度計やサーモグラフィーが、非接触型の温度計です。どちらも原理は同じで、サーモグラフィーはレーザー光が当たった部分の温度を測る温度計を大量に束ねたようなものです。
*5:温度計で放射率を設定するほかに、解析用のアプリ側で放射率を変更して正確な温度を割り出すこともできます。いずれにしても、対象の正確な放射率が分からないと意味がありません。