私がまだ子供だった頃は、近所の米軍払い下げ品を扱うお店から格安で買った缶入り燃料や分厚いアルミパックに入った楕円形の固形燃料を燃やし、火遊びをしていました。
大人になって山歩きを始めた後は放出品店へ行くこともなくなって、エスビットや市販のカップ入り固形燃料、パック燃料を使用するようになり、米軍の缶入り燃料は存在自体が忘却の彼方へ…
ある日アウトドア用品店をウロウロしていたら、たまたま缶入りの固形燃料を発見。
見つけた固形燃料は米軍用のと見た目や大きさが全然違いますが、子供の頃を思い出して衝動買いをしてしまいました。
▲ケイネン160とラージメスティンでお湯を沸かしている様子
概要
今回紹介する「ケイネン*1」は、金属缶に封入された固形アルコール燃料です。
仕様
▲ケイネン160
製品名: ケイネン160
品名: 固形アルコール燃料
メーカー: ホワイトプロダクト株式会社(東京都)
缶の寸法: 直径89mm×高さ50mm
内容量: 160g
重量: 約230g(未使用時。ゴトクを含む。ゴトク単体は約17g)
危険等級: 危険等級3 ※火気厳禁 危険物 第二類引火性個体
主成分: メタノール
燃焼時間: 約1時間
購入価格: ¥597(税込)
購入先: モンベル ピオレ姫路店(姫路市)
外観
ケイネンは、缶入り固形燃料の外側に簡易なゴトクが被さった状態で売られています。
▲缶からゴトクを取り外した状態
ゴトクを使用する時は、缶の上に載せるだけ。ゴトクを固定するような仕組みはありませんが、安定性に問題はありません。
▲ゴトクを缶の上に置いた様子
▲クッカーを置くとこのようになる
ケイネンのフタは、丸いペンキ缶のフタと同じようなもので、穴の直径よりも僅かに直径が大きいフタを押し込むだけの簡単な仕組みになっています。
仕組みは簡単ですが、開けるのは大変。素手では無理なので、ナイフかマイナスドライバーのような道具が必須です。
▲ツールナイフのマイナスドライバーでフタをこじ開けている様子
フタを開けると、中には白っぽい固形燃料がぎっしり詰まっています。
▲缶の中の様子
マッチかチャッカマンのようなライターを使用し、缶の中にある固形燃料に火をつけて使います。
100円ショップで見かけるカップ入り固形燃料よりずっと大きな炎が上がるので、使用時には充分に注意してください。
直径が小さなクッカーやカップを使うと取っ手に火が当たりやすいため、断熱材が取っ手についているようなクッカーは、使用しない方が良いでしょう(断熱材が火に炙られて変質するおそれがあります)。
また、安全にクッカーの取っ手を持ったり、場合によっては燃焼中、あるいは燃焼直後の缶を安全に移動させられるように、耐熱製のある手袋を用意しておくと安心です。
▲火をつけると盛大に燃える
火を消す方法ですが、缶に書かれている使用方法によれば「火を消すときは蓋を裏返して火口にかぶせ、完全に火が消えた事を確認し、缶が冷えてからフタをしっかり閉めて下さい。」とされています。
消火するには、まずゴトクを取り除かないといけません。
熱くなったゴトクはペンチかナイフがないと安全に取り除けないため、ケイネンを利用するときは必ずペンチまたはナイフを準備してください。
長時間使用したゴトクは高温になっていますから、安全にゴトクを置ける場所も必要です*2。
▲裏返したフタをペンチで火口に被せる様子
▲ペンチが無い場合は、100円ショップなどで売られている磁石式のピックアップツールでフタを被せることもできる*3
一度使用したケイネンは、表面に白くて固い膜ができます。
この膜は、カップ入り固形燃料を燃やした後に残る樹脂状の物質と同じようなもので、これ自体は燃えません。
膜が張った状態では本来の火力を発揮できないため、ケイネンを使用した後に厚い膜が残っている場合は、次回使用する前に、表面の膜をナイフやマイナスドライバーのようなもので取り除いてください。
膜が薄い場合は、取り除かなくても問題ありません。
▲使用後に出来る白い膜
▲膜を剥がすと固形燃料が露出する
ちなみに、ケイネン160は110サイズのガス缶を僅かに小さくしたようなサイズなので、110缶を収納できるクッカー等に入れて持ち運べます。
▲ケイネン160と110缶のサイズ比較
▲エバニューのチタンカップ400 FDREDに収納した様子
▲戦闘飯盒2型の本体に収納した様子
▲ラージメスティンに収納した様子
性能
「ケイネン160」の火力を調べるため、500mlの水を沸騰させるまでにかかる時間を計ってみました。
▲沸騰までの時間を計るための計測環境(防炎シートの上に耐熱レンガを置き、その上でお湯を沸かした。温度は、クッカーのフタに開いている穴から中に差し込んだ温度センサーで測定。)
ついでに、比較対象としてカップ入り固形燃料とパック燃料を使った場合の沸騰時間も計測します。
測定条件は、次の通りです。
場所: 無風の室内
室温: 約30℃
相対湿度: 約64%
使用した容器: MSRのチタン製クッカー「QUICK 1 ポット」(容量1.3リットル)
水の量: 500ml(常温(およそ29℃)の水を使用)
水温の測定間隔: 1分
まずはカップ入り固形燃料。
▲カップ入り固形燃料はエスビットポケットストーブで燃やした
点火から約17分でクッカー内の水が沸騰しました。
次はパック燃料。
▲パック燃料もエスビットポケットストーブを使用
沸騰までにかかった時間は約7分。
最後は「ケイネン160」です。
▲ケイネン160は付属のゴトクを使用
▲1.3リットルサイズのクッカーの底からはみ出すほどの炎が出る
沸騰までの時間は、約6分でした。
これらをまとめてグラフにすると、次のようになります。
▲燃料の種類別に沸騰時間を比較したグラフ
ケイネン160の火力は、パック燃料の火力に近いと言えそうです。
ただ、パック燃料は十数分で燃え尽きてしまうので、火力を長時間維持できるという点ではケイネン160の方が優秀です。
ケイネン250
ケイネンには、160gの他に250gと400gの合計3種類のサイズがあります。
その中で、ケイネン250は陸上自衛隊でも使用されている*4ため、缶の見た目が他の2種類と違って簡素になっています。
▲ケイネン160とケイネン250(右)
製品名: ケイネン250
品名: 固形アルコール燃料
メーカー: ホワイトプロダクト株式会社(東京都)
缶の寸法: 直径100mm×高さ55mm
内容量: 250g
重量: 約352g(未使用時。ゴトクを含む。ゴトク単体は約17g)
危険等級: 危険等級3 ※火気厳禁 危険物 第二類引火性個体
主成分: メタノール
燃焼時間: 約1時間~2.5時間
購入価格: ¥715(税込)
購入先: アルペンアウトドアーズ 明石大蔵海岸(明石市)
ケイネン250は160と異なり、蓋の中に火力調整用のリングが内蔵されています。
このリングを付けたままだとケイネン160と同等の火力になり、リングを取るとさらに大きな炎が出るようになります。
▲ケイネン250の蓋を開けた状態
▲蓋の下にある小口径リングを取り除いた様子
ケイネン250は、250缶と同じような大きさ。
▲ケイネン250と250缶のサイズ比較
なお、ケイネン250は飯盒と組み合わせて使うことが想定されており、陸上自衛隊が調達する際の仕様書に次の記載があります。
2) 形状,寸法及び材質は,調達品目を標準とし,DSP S 2036の“飯ごう,2形”もしくはGQ-S000051の“戦闘飯ごう”を乗せた状態で使用できるものとする。
(出典:陸上自衛隊仕様書 調達要求番号:1PTH1A40501 仕様書番号:EQ-K170027J)
最後に
ケイネン160なら110缶と同じくらいの体積しかないので、非常にコンパクト。
それでいて、夏場なら500mlの水を6分で沸騰させるパワーを持っています。
コーヒーやカップ麺用のお湯を沸かす程度の使い方なら、ガスストーブではなくケイネン160を持っていくだけでも良さそうな気がします。
ところで、記事内に記載した湯沸かし実験ではケイネン160を約8分間燃焼させています。
その後重さを量ると、新品の時は230gだった重量が206gになっていました。
8分で24gの燃料が燃えたことになります。
これを単純に割り算すると、1分当たり3gの燃料が燃えることになり、160gの燃料が燃え尽きるまでの時間は160÷3=53.3、約53分になります。
1缶約¥600で53分は高いと思われるかも知れませんが、一般的なアウトドア用のガス缶の場合、110缶の燃焼時間がおよそ30分、250缶がおよそ1時間とされていますから、火力が違うとは言え決して高くはないと思います。
燃料を使い切ったら、100均のカップ入り固形燃料の中身を詰め替えて使っている方もおられるようです。
他社からも似たような缶入り固形燃料が売られていますが、ゴトクの使いやすさについては、ここで紹介したホワイトプロダクト株式会社の製品がもっとも優れています。
他社のゴトクは、使用する度に金属板を折り曲げてゴトクの形にしないといけないため、やがてゴトクの折り目が破断して使えなくなります。
長所
- コンパクトで携帯性が高い(110缶と同じくらいのサイズ)。
- 温かい時期にお湯を沸かすだけといった使い道なら、充分に実用的。
- 缶とゴトクは耐久性が高いため、燃料を詰め替えて長期間使用できる(ただし、正しい使い方ではありません)。
- サイズ違いの製品が陸上自衛隊でも使用されていることから、信頼性の高い製品だと言える。
短所
- 使用に当たっては、ペンチや風防、場合によっては耐熱性の高い手袋も必要。
- 火力の調整がまったくできない。
- 場合によっては、表面にできる燃えかすの膜をはぎ取る必要がある。
関連情報
私が子供の頃に購入した米軍の固形燃料を紹介します。
今も私の手元に残っているのは、第二次世界大戦中に米軍で使用されていた缶入り燃料と、アルミパックに密封された固形燃料。
缶入り燃料は、内部の紙製の芯にメタノールを染みこませた物、つまりアルコールストーブの一種です。
固形燃料は、燃焼時に匂いやススがほとんど出ない優れもの。
▲米軍の固形燃料(左は第二次世界大戦時の缶入り燃料、右は1974年より前に米軍に納入されたアルミパック入り固形燃料の紙箱*5)(子供の頃に買った米軍放出品の弾薬箱に入れて、数十年間保管していた(というか存在を忘れて放置されていた)もの)
▲アルミパックに入った米軍の固形燃料(もったいなくて開封できません)
*1:当ブログ管理人の推測ですが、自衛隊で同種の固形燃料が「携帯燃料」と呼ばれているので、その省略形かなと思います。
*2:以前、アルコールストーブ用のゴトクを何気なく地面に置いたところ、そこにあった枯草が燃え始めたことがあります。枯草が少なかったのですぐに消火できましたが、枯草や落ち葉は燃えやすいので気を付けないといけません。
*3:ゴトクも磁石に付くためピックアップツールで缶の上から取り除けますが、磁石からゴトクを外すのが困難です。ペンチが無い場合は、ナイフの先端にゴトクを引っ掛けて取り除き、フタをピックアップツールで火口に被せると良いでしょう。
*4:陸上自衛隊関東補給処 松戸支処が令和3年(2021年)に出した携帯燃料を調達するための仕様書では、調達品目として「(株)テムポ化学 ケイネン 大 防風ゴトク内装」「(株)ニチネン 屋外用トップ丸缶、250g」「パール金属(株) ファイアメイト固形燃料250g」「ホワイトプロダクト(株) ケイネン250(ゴトク付)」または同等以上のものが指定されています。
*5:紙箱には、軍用品の識別番号であるFSN(Federal Stock Number)が記載されていますが、FSNは1974年に廃止され、以降はNSN(National Stock Number)が使用されています。つまり、この紙箱に入った固形燃料は1974年よりも前に米軍に納入されたものと分かります。