昔から心配性で、趣味の山歩きで使えそうなものを主体に、非常用の道具類を色々と買い集めています。
今回は、そんな中からケミカルライトを紹介します。
▲我が家にある2種類のケミカルライト(上はアメリカのMilitary Products, Inc.の製品で、下はダイソーで売られている物)
概要
ケミカルライトは、手で曲げられる程度の硬さの樹脂製チューブの中にガラスカプセルが入ったもので、樹脂製チューブを曲げることで中のガラスカプセルが割れ、樹脂製チューブの中で2種類の薬品が混ざり合って化学反応により発光するライトです。
▲ケミカルライトの仕組み(樹脂製チューブを曲げてガラスカプセルを割ると、2種類の液が混ざり合って化学反応が始まる)
「サイリューム」と呼ばれることもありますが、あれは登録商標ですから一般名称としてはケミカルライトと呼ぶべきでしょう。
仕様
▲Tactical Light Stick - Yellow - 10 Packのパッケージ
品名: Tactical Light Stick - Yellow - 10 Pack
メーカー: Military Products, Inc.(アメリカ)
発光時間: 12時間(カタログ値)
有効期間: 製造から4年
入数: 10本
定価: $17.99
備考: NSN 6260-01-196-0136の製品に準拠*1
この記事では、比較のために100円ショップ「ダイソー」で売られているものも紹介します。
ダイソーのケミカルライトの仕様
品名: 太い光る棒(ホワイト)
メーカー: 不明
発光時間: 6~8時間(カタログ値)
有効期間: 不明
入数: 1本
定価: ¥110(税込)
外観
米軍向けもダイソーの製品も、見た目はよく似ています。
長さも太さも大差はありません。
▲パッケージから取り出したケミカルライト(左はダイソー、右は米軍向け)
大きく違っているのは、一方の端についているフックです。
「フックの形が違って何か影響があるの?」と思われるかも知れませんが、軍用の減光ホルダーにケミカルライトを入れて使いたい場合(←いつそんな場合があるんだ?)は影響があります。
▲2種類のケミカルライトでもっとも差が大きいのはフックの部分(左はダイソー、右は米軍向け)
ケミカルライトは一度発光が始まると、任意のタイミングで消灯させたり暗くすることはできません。
戦場で光を制御できないと危険なため、米軍では可視光を発するケミカルライトは、専用の減光ホルダーに入れて使われることがあります。
▲減光ホルダー(米軍の装備品)にケミカルライトを入れた様子
▲減光ホルダーの開口部が全開の状態
本体をひねると開口部を狭めて光量を下げられます。
▲減光ホルダーをひねって開口部を半分ほど閉じた状態
米軍用の減光ホルダーのケミカルライト収納部分の直径は小さく、ダイソーのライトはフック部分の直径が大きすぎてホルダーの中に入れられません。
▲米軍向けケミカルライトはホルダーに問題なく差し込める
▲ダイソーのはフックが大きすぎてホルダーに差し込めない
減光ホルダーに入らなくて困る人はいないと思いますが、念のため…
明るさ
米軍向けとダイソーのケミカルライトの両方を発光させてみました。
下の画像は、2本を並べた様子です。
(それぞれ発光色が異なるので比較しづらいですが)この状態では明るさに違いは感じられません。
▲2種類のケミカルライトを点灯させた様子(左はダイソー、右は米軍向け)
明るさを見るために、地形図の上にケミカルライトを立てて写真を撮ってみました。
もちろん、カメラの露出は同じ値で固定しています。
すると、地形図が読める範囲に差があることが判明。
米軍向けの黄色いケミカルライトの方が、ダイソーの白色のものより広い範囲を照らしています。
▲米軍向けのケミカルライトを地形図上に立てた様子
▲ダイソーのケミカルライトを地形図上に立てた様子
明るさを数値化してみようと思いましたが、明るさだけを測定する機械がないため、分光式カラーメーター(セコニックのC-700)でケミカルライトの明るさを測定してみました。
測り方は、分光式カラーメーターの測定部から5cm離した場所にケミカルライトを立てて置き、測定するというもの。
▲センサーから5cmの距離にケミカルライトを立てて測定した
結果は米軍向けが5.1ルクス、ダイソーは2.4ルクスでした。
本来は同じ色のケミカルライトで比べるべきなのでしょうが、我が家の米軍向けケミカルライトは黄色だけ、ダイソーのは白色だけなので、比較ができませんでした(買いに行くのも面倒ですし…)。
3時間後に同じ条件で測定したところ、米軍向けは2.5ルクス、ダイソーは暗すぎて測定不能でした。
使い方
ケミカルライトをもっとも多用している組織は、おそらくアメリカ軍でしょう。
古いですが1990年の資料*2によると、当時の米軍では年間1500万本のケミカルライトが消費されていたそうです。
例えば、アメリカ軍ではケミカルライトが次のような目的で使用されています。
- 夜間、ケミカルライトを体に取り付けておき、味方に自分の居場所を知らせる。
- 自分たちの陣地やヘリの着陸地点を示す。
- 夜間の行軍時に道ばたに置いて後続の部隊に進路を伝える。
- ロープの端に取り付けて、夜間でもロープを扱いやすくする。
- 航空機から投下する物資に取り付けておき、夜間の投下時に物資を見つけやすくする。
- 市街地で建物を制圧する際、安全を確認した部屋にケミカルライトを置いていき、どの部屋まで制圧したのか一目で分かるようにする。
これらを見ると、ケミカルライトは照明というより「目印」として使うのに適していることが分かります。
そのためアウトドアでケミカルライトを使用している方は、夜間、自分のテントの位置を目立たせたり、足を引っ掛けないようにするため張り綱に取り付けるといった活用をされているようです。
ケミカルライトの光を目立たせるための工夫が「サイリューム」公式の動画で紹介されているので、転載します。
紐を付けてグルグル振り回すと、見る角度によってはドーナツ状の光の輪に見えたり、チカチカ点滅しているように見えるというアイディアです。
屋内での活用例としては、例えば停電時に階段の登り口と降り口に置いたり、ドアノブにひっかけて危険を回避する活用方法が考えられます。
勝手知ったる我が家であっても、停電などで完全に暗闇になれば廊下を歩いていてドアノブに腕をぶつけたり、「この辺にドアがあるはず」と思って手を上げると、思っていたよりドアが近くて手をドアにぶつけたり、曲がり角で体をぶつけたり、階段が異様に怖かったり、自分の家の構造を正しく理解できていないことを文字通り痛感するはず。
停電が発生したら懐中電灯を使ってケミカルライトを危険な場所に設置して回ると、それ以降は懐中電灯が無くてもある程度安全に屋内で行動できますし、洗面所やお手洗い、車の中のような狭い場所なら、ケミカルライト1本でなんとか様子を把握できます。
ケミカルライトの点灯時間ですが、パッケージに書かれている時間は(良い意味で)当てになりません。
実際、点灯時間が6~8時間と書かれているダイソーのケミカルライトも、12時間光ると書かれている軍用ケミカルライトも、24時間後でもぼんやりと光っています。
ケミカルライトに加えて、水があれば1週間以上光り続ける特殊なLEDライト「アクモキャンドル」も自宅に常備しているため、居室はアクモキャンドルで、廊下はケミカルライトで最低限の安全を確保できると私は個人的に考えています。
最後に
ケミカルライトは、光量は乏しいですが完全防水で水に浮きますし、熱も火花も出さないため、災害時には電池を使うライトよりも安全です(ガス漏れが発生している状況でケミカルライトを点灯させても、火災の心配はない)。
そもそも、電池式のライトはいざというときに乾電池が液漏れを起こしていたり(液漏れ防止のために電池を抜いていると、電池が見つからず非常時に使えない可能性もある)、充電式だとバッテリーが瀕死、あるいは完全に死んでいる場合もあり、信頼性という点でもケミカルライトの方が優秀。
有効期限が切れてから数年たったケミカルライトでも普通に発光しますから、防災用品としては本当に優秀だと思います。
スマホのライトも使えますが、災害時にはスマホの電力を可能な限り温存しておくべきでしょう。
使い道は狭いかも知れませんが、防災用に常備しておくと必ず役に立つと思います。
大阪に住む同じ職場の方が「2018年に台風が原因で発生した停電でめちゃくちゃ困ったから、常に鞄に入れている」とおっしゃっていたので、私もマネをして今は通勤鞄に常備していますし、自家用車内の救急用品入れにも入れています。
そんなある日、職場で停電が発生(ビルの受変電設備の不具合だったため、復旧に長時間を要しました)。
残業中だったので事務所内は真っ暗闇になりましたが、鞄に常備していたケミカルライトを取り出してポキっと曲げると、自分の周りにうっすらと明るい空間ができ上がりました。
これを一本手に持って歩くだけで壁や階段の輪郭がぼんやりと見え、職場内をある程度自由に動き回れましたから、個人的には最低限の実用性があると思います。
▲職場での停電時、自席に立てて使用している様子
こうやって実際に使って利便性が分かると、もう手放せません。
ライトというと明るさばかりが注目されがちですが、非常時なら確実に動作する信頼性と、長時間動作することの方が大切です。