播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

地形図の読み方

趣味の山歩きを楽しむ際にお世話になる2万5千分の1地形図(以下単に「地形図」と表記)。

今回の記事では、地形図の等高線から地形を読み取る方法を紹介します。

地形図とは

本格的な登山者から遊歩道が整備された低山歩きを楽しむハイカーまで、幅広く利用されている地図が地形図です。

例えばGoogleマップのような地図は道路や建物が分かりやすく描かれており、山岳地帯を表示すると、山の中を走る道路やトンネル以外は何も表示されない場合があります。

▲Googleマップで表示した兵庫県姫路市の広峰山塊

山歩きをするときは、Googleマップで何も表示されない「山の地形」こそ重要です。

名前の通り、その重要な地形を分かりやすく表現してくれているのが地形図なのです。

上のGoogleマップと下の地形図を比較すると、違いは一目瞭然。


▲広峰山塊の地形図(地理院地図をキャプチャしてトリミングしたもの)

一般的に使われる地形図は、縮尺が2万5千分の1です。
地形図をこの縮尺で印刷した場合、地図上の1cmが実際の250mに相当します。

等高線

Googleマップに無くて地形図にあるものは、等高線です。
等高線は、一言で表現すると「標高が同じ場所をつないだ線」

例えば、高さ90m弱のピラミッドや高さ20mほどの前方後円墳を等高線で表現すると、下図のようになります。


▲ピラミッドや前方後円墳を等高線で描くとこのようになる

等高線は標高が同じ部分をつないだ線ですから、等高線と平行に歩くとアップダウンはなく、等高線を越えるような動きをすると、上り、あるいは下り斜面を歩くことになるのが、上の図からお分かり頂けると思います。

このような見慣れた形であれば、等高線から簡単に上り下りが判断できますが、実際の山の地形はおそろしく複雑です。

そのため、等高線を越える方向へ動くときに上りになるか下りになるか判断できるようになるには、慣れ(練習)が必要。

上り斜面か下り斜面か

等高線を見て上り斜面なのか下り斜面なのかを判断するために知っておかないといけないポイントは、二つあります。

一つ目は、「等高線に囲まれている場所は、その外側よりも標高が高い」ということ*1

二つ目は、「斜面は等高線と垂直に交わる方向で上り/下りになっている」ということ。

では、分かりやすい地形から見ていきます。


▲姫路市にある八丈岩山(はちじょうがんざん)の等高線(地理院地図をキャプチャして加工した図)

まず、標高172.8mの三角点を見てください。等高線に囲まれています。

等高線に囲まれている場所は外側より標高が高いですから、この三角点はピーク状の地形のてっぺんにあることが分かります。

三角点を囲んでいる等高線の一つ外側の等高線は、さらにその外側を囲む等高線よりも高い位置にあります。

等高線で囲まれている所が周囲より高いということは、等高線で囲まれている場所の中心からは、外側の全方位に向かって下り坂になっているということです。

そして、下り斜面の方向は等高線と垂直な向きです。


▲等高線に囲まれた場所は外側より高い、つまり周囲の全方向に向かって下り斜面になっている(矢印は下り斜面の方向を示す)(地理院地図をキャプチャして加工した図)

しかし、この小さな山でも実はそんなに単純ではありません。

三角点の北と東に等高線で囲まれている場所があります。
ここではそれぞれ「北のコブ」、「東のコブ」と呼ぶことにしましょう。


▲三角点周囲の他にも等高線で囲まれている場所がある(地理院地図をキャプチャして加工した図)

これらの場所も周りより高いということは、それぞれ周囲に向かって下り坂になっていて、三角点から北へ進んだ場合は北のコブから南への下り斜面と出会うことになりますし、東へ下ると東のコブから西へ下る斜面とぶつかることになります。

こういった場所は、登山用語で言うところの鞍部(あんぶ)です。


▲下り斜面同士が出会う場所(この図では矢印の先端同士がぶつかっている部分)が鞍部(地理院地図をキャプチャして加工した図)


▲鞍部とは、このように尾根のへこんだ部分のこと

三角点から北へ進んでいくと、「途中で一度小さなピークに登り返すことになる」と分かるわけです。

下り坂がどこで上り坂に変わるのか分かりづらいと思われるかも知れませんが、これには明確なルールがあります。

それは、「下り坂は等高線に囲まれている場所の中から外へ延びる」というもの。

例えば下図のような等高線がある場合、A地点からB地点へ向かって移動すると、赤矢印の先端付近までが下り坂です。

それ以上矢印を右に伸ばすと、B地点のピークを取り囲む等高線の外から中へ突き進むことになります。

「下り坂は等高線に囲まれている場所の中から外へ延びる」というルールに反することになるため、矢印の位置で下り坂は終わりになるのです。


▲A地点から右へ移動すると、矢印の先端付近までが下り坂で、その先で上り坂に変わる

同じ山の等高線ばかり見ていても飽きるので、山を変えましょう。
姫路市にある城山(庄山城跡)です。


▲城山の地形(地理院地図をキャプチャしてトリミングした図)

三角点から南に尾根伝いに下ると仮定しましょう。
すると、下図の矢印のルートを歩くことになります。


▲三角点ピークから南へ尾根伝いに下る場合のルート(地理院地図をキャプチャして加工した図)

等高線に囲まれている範囲からは、等高線と垂直に交わる方向で外側に下っていきますから、三角点から南へ延びる尾根の等高線に下り斜面を示す矢印を描き足すと、下図のようになります。

細かい矢印の向きは平行になっていません。
それは、斜面の方向を理解するためのポイントの二つ目で紹介した、「斜面は等高線と垂直な方向に上る/下る」というルールがあるから。


▲尾根の下り斜面を示す矢印(地理院地図をキャプチャして加工した図)

これに印影を付けると、地形が一目瞭然。


▲城山周辺の地形図に印影を付けたもの(地理院地図をもとにカシミール3Dで作成)

等高線に慣れてくると、いちいち印影を付けなくても、等高線を見るだけで地形が立体的に見えるようになります。

尾根か谷か

上で見て頂いた八丈岩山や城山は街中の山ですから、尾根と谷の区別は簡単。
例えば城山の尾根に赤線、谷に青線を引くと下図のようになります(小さな尾根や谷は省略しました)。


▲城山の尾根と谷(地理院地図をキャプチャして加工した図)

場所によっては、等高線だけではどこが尾根でどこが谷なのか、ぱっと見ただけでは分からりづらいこともあります。

例えば、下図のような等高線を見ても、どれが尾根でどれが谷なのかは分かりづらいです。


▲尾根と谷の判別が困難な例(地理院地図をキャプチャしてトリミングした図)

地形図の等高線を見て、どれが尾根でどれが谷なのかを判別するには、必ず見えていなければいけないものがあります。

それは、等高線で囲まれている場所

下図は上の図と同じ場所ですが、見える範囲を広げたものです。

等高線で囲まれた部分(ピーク状の地形)をピンク色に塗り、そこから等高線と垂直に交わる方向で周囲に下っていく斜面の方向を矢印で描き込んでみました。

矢印の先端同士が向き合っている場所がありますが、それは下り坂同士がぶつかる場所、つまり鞍部です。

右上付近の244m標高点は等高線で囲まれていませんが、すぐ外側の等高線で囲まれた範囲(標高240m)よりも4m高く、わざわざ標高点として描かれていますから、ピークと同じような扱いをして良いと思います。


▲上の図の周囲を含む地形図(地理院地図をキャプチャして加工した図)

このように、ピーク(コブ)を見つけてそこから周囲へ下る斜面を頭の中で描くことで、等高線から地形をイメージできるわけです。

逆に言うと、等高線で囲まれた場所、つまり周りよりも高い場所が分からないと、地図読みに慣れている人でもなかなか地形をイメージできません。

上の図に印影を付けると、下図のようになります。


▲上の図に印影を付けたもの(地理院地図をもとにカシミール3Dで作成)

下図のように立体的に表示した方が分かりやすいかな。


▲上の地形図を立体的にして傾けた画像(国土地理院の地図をもとに、カシミール3Dで作成した図)

等高線で囲まれている範囲は、狭いところもあれば広い所もあります。
特に、地形がなだらかな場所だと範囲が広くなりがちです。

例えば下のような地形図は、空白の広い部分が谷間にある平地のように見えかねません。

しかし、よく見ると必ずどこかに等高線で囲まれた小さな部分があるはずなので、見落とさないでください。

この例では、空白の広い部分が平坦な尾根になっています。


▲等高線で囲まれている範囲が広い場合もある(地理院地図をキャプチャしてトリミングした図)


▲上の地形図を立体的にして傾けた画像(国土地理院の地図をもとに、カシミール3Dで作成した図)

急斜面か緩斜面か

等高線からは上り斜面か下り斜面かが分かりますが、その斜度も等高線から判断できるようになっています。

斜面の角度を判断する基準は、等高線の間隔です。

等高線の間隔が狭いと、短い距離を移動するだけで何本も等高線を越える(大きく標高が変わる)ことになります。
つまり、等高線が密に描かれている場所は急斜面。

逆に、長い距離を移動しても超える等高線の数が少ない(等高線の間隔が広い)場合は、緩斜面です。


▲急斜面と緩斜面の等高線間隔の違い(地理院地図をキャプチャして加工した図)

標高差はどのくらいあるか

2万5千分の1地形図では、標高差10mごとに等高線が描かれています。
例えば等高線を5本越えると、標高差で50m上った/下ったことになります

兵庫県姫路市にある桶居山(おけすけやま)の地形図を例に、標高差を調べてみましょう。

桶居山の西にある小ピークから桶居山山頂へ向かう場合を例にします。


▲桶居山とその西の小ピーク周辺の地形図(地理院地図をキャプチャして加工した図)

小ピークから東へ等高線4本分下った先で1本の等高線に囲まれた小さなコブがあり、そのコブを超えたところが鞍部になっています。

小ピークからは標高差で40m下り、標高差10mを登り返してから10m下って(コブを超えて)鞍部に達することになります。

鞍部からは、等高線を見る限り上り一辺倒。
鞍部から桶居山山頂までに超える等高線の数は8本ですから、標高差80mを登り返すことになります。

等高線を見ると、小ピークから東へ下る斜面は緩やかで、鞍部から桶居山山頂への登り返しの前半(等高線4本分)も等高線間隔が広いためなだらか、最後の等高線4本分は急斜面ということも分かります。


▲小ピークから桶居山山頂までの実際の風景

この地図を見て「なぜ鞍部がある(下り斜面から上り斜面に変わる)って分かるの?」と思った方は、小ピークから東へ下る斜面と、桶居山山頂(三角点ピーク)から西へ下る斜面をイメージしてみてください。

繰り返しになりますが、等高線から地形を読み取るには、まず等高線で囲まれている場所を探し、そこから外側へ下り斜面が広がっている様子をイメージしないといけません。

任意の地点の標高を知るには

地形図を見ると地形や斜度が明確に分かりますが、任意の場所の標高を知ることもできます。

上で使った桶居山周辺の地形図をもう一度見てみましょう。
例えば、桶居山の西にある小ピークに標高は書かれていませんが、それも等高線を見るとおおよそ見当が付きます。


▲桶居山山頂の西にある小ピークの標高は?(地理院地図をキャプチャして加工した図)

標高が書かれていない場所の標高を知るには、まず周辺で標高が分かる場所を探します。

今回は桶居山にある三角点の標高が247.3mだと分かります。

2万5千分の1地形図では、標高50m間隔で(標高50m、100m、150m、200m・・・)太い等高線が描かれているので、それを利用すれば標高を知ることは比較的簡単。

桶居山山頂の三角点は標高247.3mですから、その外側にある太い等高線の中で最も近いものは、標高200mの等高線です。

しかし、その200mの等高線に囲まれている範囲に小ピークは入っていません。

さらに外側を見ると、標高150mの太い等高線が見えていて、その等高線で囲まれた範囲には小ピークが入っています。

というわけで、150mの等高線を西にたどり、目的の小ピークまでの等高線を数えると、小ピークのおおよその標高が分かります。


▲150mと200mの等高線(地理院地図をキャプチャして加工した図)

今回の例では、小ピークは標高200mの等高線に囲まれていますが、標高210mの等高線は描かれていません。

つまり、小ピークの標高は200m~209mの間ということになります。

このように、等高線を使って任意の場所の標高を知るには、周辺で標高が明確に分かっている場所を基準に等高線を数えるという、原始的な方法を使います。

地形図と実際の風景

地形図でおおよその地形が分かっても、登山道の雰囲気まではなかなか想像できません。
山の雰囲気を知る上で地形の他に重要なのは、植生を示す地図記号です。

「針葉樹林の記号があるから植林の可能性が高い。植林の斜面なら道が無くても歩けそう」とか、「地形的には入山しやすそうな場所だけど、竹林の記号があるから立入禁止になっている、またはとんでもなく歩きづらい状態かも知れないから他の場所を探そう」といった判断にも活用できます。

植生の記号もあまりアテにならなかったりするのですが、地形図と実際の風景をいくつか紹介します。


▲植生を表す地図記号(出典:国土地理院Webサイト(https://www.gsi.go.jp/kohokocho/map-sign-tizukigou-2022-itiran.html))

地形図からこういった風景まで想像できるようになるのが理想ですが、難しいです(私は無理です)。

最初の例は、兵庫県高砂市にある高御位山(たかみくらやま)。


▲高御位山山塊の地形図(地理院地図をキャプチャして加工した図)

尾根の側面を通る道は等高線と平行に近いため、なだらかです。


▲上の地形図で描かれている場所の実際の風景

次の例は、兵庫県姫路市にあるとんがり山。

等高線の間隔が非常に狭いため、斜面の角度が強烈であることが地形図から想像できます。


▲等高線間隔が狭い急峻な山(姫路市のとんがり山)(地理院地図をキャプチャして加工した図)

上の地形図で矢印が示す方向からドローンで撮影した実際の山の形が下の写真。


▲とんがり山(上の地形図で矢印の方向から撮影)

次は、兵庫県姫路市の伊勢山付近にある谷間の遊歩道です。

谷間(東西方向)は等高線間隔が広いため、なだらかな道であることが予想できます。


▲姫路市の伊勢山近くの谷間を通る道(地理院地図をキャプチャして加工した図)

上の地形図で示した谷間の実際の風景がこちら。想像通り、なだらかな道です。


▲伊勢山近くの谷間の道の実際の様子

最後に

私や周りの人達は問題なく地形図を読めるのですが、「等高線だらけで何が何だか分からない」「スマホやGPSがあるから地形図なんて読めなくて良い」という方も多いようです。

いくらスマホやGPSで現在地を確認できるといっても、その画面に表示されているのは地形図です。

それでも地形図が読めなくても問題ないという方は、ルートを示す線と現在地のマーカーだけが画面上に表示されていれば良いのかも知れません。

実際、アメリカ軍の兵士が持っている小型のGPS受信機にはそのような機能しかありませんし、それで問題はないようです。


▲アメリカ兵が使うGPS受信機の画面。点線は歩いた軌跡。(ここに写っている機種はGarmin Foretrex401)。事前に設定したルートやポイント、現在地しか表示されない*2

しかし、これから歩くルートのアップダウンや、尾根を歩くのか谷を歩くのか、斜度はどれくらいかといった情報は必要ないのでしょうか。

「画面上のルートをたどるだけで何が悪い」という方はそれで良いと思いますが、地形図から地形を読み取れた方が良さそうと思える方は、ぜひ地図読みの練習をしてみてください。

地図読みの練習をされるときは、歩き慣れた小さな山がお勧めです。
等高線しか表示されていないような広大な山地の地形図をいきなり見ても、やる気は起こらないと思います。

*1:もちろん例外はありますが、そのような例外の場所は地図記号で特殊な地形であることが分かるようになっていますし、そもそもそんな場所はほとんどありませんから、心配はいりません。

*2:このようなGARMIN製のGPS受信機は米軍や自衛隊で使われている位置座標の形式(MGRS)で現在地を表示できますし、道なき道を進んでいて引き返す必要が生じた際、画面に表示されている軌跡をたどって引き返せるなど、軍用として使う分には問題ないようです。アメリカ軍が制式採用しているGPS受信機は、軍用の測位信号を受信できるDAGR(読み方はダガー。正式名称は「AN/PSN-13 Defense Advanced GPS Receiver」。この頭文字を並べたのがDAGR。)です。軍用の暗号化された信号を解読できるため、アメリカの法律では部外者の所持が禁止されています。