アウトドア用品のお店の中をブラブラしていたらイカツイ飯盒(はんごう)を発見し、見た瞬間に「かっこいい」と一目惚れ。
でも、「飯盒なんて使わないだろうな」と考えてその時はろくに確認もせず帰宅しました。
帰宅後に調べてみると、それは陸上自衛隊がかつて使用していた飯盒を、当時と同じ金型を使い、同じ工場で製作した復刻版とのこと。
Web上には多くの方がレビューを公開されているので、内容が詳細なレビューやYouTube動画を選んで見ていたら「欲しい欲しい病」が発症。
「メスティンで充分」と自分に言い聞かせて症状を抑えていましたが、絶対に米を焦がさず、少量の米でも美味しく炊ける「水蒸気炊飯」なる炊飯方法が使えるというのを知ったのが決め手となり、お店を再訪して購入してしまいました。
それが今回紹介する「戦闘飯盒2型」です。
概要
陸上自衛隊で食器として使われていた「飯ごう,2形」の復刻品です。
本物の飯盒(官給品)を製造していた工場で、本物と同じ金型を使い、本物と同じ材料で、本物と同じ塗装をしているとのこと。官給品との違いは、官給品には打刻される「桜Qマーク」や調達年度、メーカー略称の刻印がない点かな。
戦闘飯盒2型はROTHCO(ロスコ)やエバニューからも販売されていますが、防衛省の仕様書の形状や素材に忠実なのは、今回紹介するMOOSE ROOM WORKSの製品です。
本物と同じ作り方をしているので、当然と言えば当然ですが。
▲MSRのローダウンリモートストーブアダプターに取り付けたポケットロケット2で調理中の戦闘飯盒2型
仕様
▲戦闘飯盒2型のパッケージ
製品名: 戦闘飯盒2型 OD色 防衛省自衛隊仕様完全復刻
メーカー: MOOSE ROOM WORKS(株式会社エス.エス.ピー:北海道)
寸法: 幅約177mm(耳がねを含むと約201mm)×高さ約105mm×奥行き約100mm(カタログ値)
容量: 飯盒本体 1,200ml、上蓋 620ml、中子 500ml*1
重量: 本体(本体、中子、上蓋) 約320g、吊り手 オリジナル 約80g、ショート 約40g(カタログ値)
色: OD色(自衛隊向けと同じ仕様の塗装)とシルバーの2色展開
材質: アルミニウム(本体)*2、真鍮(耳がね)、硬鋼線(吊り手)
生産国: ベトナム(官給品を製作していた工場にて製作)
定価: 7,200円(税込)
購入価格: 7,200円(税込)
購入先: sproutzero(姫路市)
備考: 食品衛生法に準じた製品です。価格は、初回ロットのものです。
パッケージ内容
防衛省の規格通りに作られたとされる飯盒本体一式(仕様書通りの長さに作られた吊り手が装着済み)と、本来の仕様にはない短い吊り手、そして取り扱い説明書が入っています。
▲パッケージ内容
飯盒本体一式は、本体、中子(なかご)、上蓋で構成されています。
▲飯盒本体の構成
外観
標準の吊り手を付けた戦闘飯盒2型の外観は、下の画像の通りです。
なお、標準の吊り手を一番上まで引き上げた状態の高さは約205mm。
▲凸面
▲側面
▲凹面
標準の吊り手は長く、押し下げても下の画像のようになるだけ。
吊り手が上に出っ張って邪魔です。
▲標準の吊り手は真っ直ぐ押し下げても邪魔
斜めにすると多少はマシになりますが、それでも嵩張ります。
▲標準の吊り手を斜めにして収納した様子
このように、防衛省の仕様に準じた標準の吊り手は長すぎて収納性が悪いため、復刻版の戦闘飯盒には短い吊り手が付属しています。
短い吊り手の方が収納性が高いので、私は購入後すぐに標準の吊り手を短い物に交換しました。
ただし、短い吊り手にすると、吊り手が上にある状態で上蓋の開閉ができません。
▲短い吊り手を取り付けて上まで引き上げた様子(この状態の高さは約150mm)
▲短い吊り手を押し下げて収納状態にした様子
吊り手の交換は簡単。
吊り手は飯盒本体の側面にある「耳がね」を挟むような形で取り付けられています。
▲吊り手と耳がね
吊り手の「耳がねを挟み込む部分」には切れ目があって、それを利用すると耳がねを挟み込む部分の間隔を簡単に広げられるため、耳がねからの取り外しや取り付けは簡単。
▲吊り手にある切れ目(矢印が指している部分)
ちなみに耳がねは、防衛省の仕様書では黄銅(真鍮)製です。
表3-材料 耳金 JIS H 5120のCAC203*3
(出典:防衛省仕様書 DSP S 2036C 飯ごう,2形)
本体の吊り手は、上方に引き上げておくと火に炙られません。
しかし、短い方の吊り手は上蓋の開閉時に邪魔になる(炊飯中に中の様子を確認するなどしたい)ため、私の場合は横に倒して使います。その結果、吊り手が炎に炙られて塗装がすぐに焼けてしまいました。
▲焼けて剥がれた吊り手の塗装
「飯盒の塗装なのに熱に弱いの?!」と驚かれる方もいらっしゃるでしょうが、この塗装はメラミン樹脂の焼付塗装ですから、もともと熱に強くはないのです。
本体の外側(ふた受け部分を除く。)及びふたの外側には,メラミン樹脂の焼付塗装を施すものとし,色はNDS Z 8201の色番号2314(OD色7.5Y3/1)を標準とする。
(出典:防衛省仕様書 DSP S 2036C 飯ごう,2形)
文末に元陸上自衛官の方のYouTube動画を載せていますが、それによると、やはり自衛隊では飯ごうを火にかけることはほとんどないそうです。
続いて、戦闘飯盒2型を構成する部品を紹介します。
飯盒から上蓋を取ると、下の画像の様に、本体の内側に何やら重なっているのが分かります。
▲上蓋を開けた様子
本体に嵌まっているアルミの地肌剥き出しの部品が「中子」。
お皿として使えたり、炊飯時に飯盒内にセットしておくことで、中子の中でも食品を加熱することができる便利な部品です。
▲上蓋の上に置いてあるのが中子
飯盒本体の内側は、700mlの位置に目盛り線が打刻されています。
2合の米を入れ、この目盛り線まで水を入れると、2合の米を炊くのにちょうどいい水の量になります。
▲飯盒本体の内側には2合の米を炊くための目盛り(水位線)がある
飯盒の内側を見るとリベットの頭が出ていますが、それは吊り手を付ける耳がねを固定するためのもの。
リベットは飯盒の内側から外へ通してかしめてあります。
▲飯盒内部に出ているリベットの頭
飯盒本体内で調理をすると、前述の目盛りや上蓋が被さる部分がすぼまっていることによりできる段差、リベットの頭の周囲に汚れがこびりつきやすいので、使用後は念入りに洗わないといけません。
続いて中子を紹介します。
中子も本体と同様に内側に目盛り線が打刻されていますが、これは330mlを示すもので、生米をこの目盛り線まで入れると、ちょうど2合になります。
▲戦闘飯盒の中子(凸側)(矢印が指しているのが330mlの目盛り線)
▲戦闘飯盒の中子(凹側)
飯盒と中子の目盛り線については、防衛省の仕様書に次の通り明記されています。
本体,ふた及び中子は,プレス成形とし,本体のおう(凹)側内面に700mlの容量目盛線を,中子の本体のおう(凹)側内面 に330mlの容量目盛線を表示するものとする。
(出典:防衛省仕様書 DSP S 2036C 飯ごう,2形)
中子の凸側にはスリット(細い切れ目)が開いていますが、これは上蓋の取っ手を連結して「中子と上蓋を同時に食器として使う」ためのものです(防衛省の仕様書では「取手通し穴」)。
▲上蓋と中子を連結した様子
▲安定した台がない環境でも、上蓋と中子を食器として安全に保持できる(使いやすいとは思えませんが...)
このスリットには、取っ手を連結する以外にも重要な役割があります。それは、水蒸気の通り道。
飯盒本体に水を入れた状態で中子を載せ、上蓋を被せて火にかけると、飯盒本体内で発生した高温の蒸気が中子の底面を温めるだけでなくスリットを通り、中子の中に充満するのです。
中子の中に高温の蒸気が充満することを利用し、ご飯を炊いたり蒸し料理を作ることができるのですが、これは後述します。
ところで、上の画像の通り中子の内側には段差のような凹凸や取手通し穴があり、中子でご飯を炊いたり中子を食器として使った場合は、それらの凹凸部分に汚れが残りやすいため、帰宅後に洗う際はそういった部分を念入りに確認してください。
最後は上蓋。
フタとしてはもちろん、食器として、またはフライパンとしても使用します。
ただし、フライパンとして使用すると食材がこびりつきやすいので、私は食器としてしか使いません。
上蓋には、本体や中子のような目盛り線はありません。
内側には、取っ手を留めるためのリベットの頭が4つ出ています。
▲上蓋
上蓋の取っ手は、適度な摩擦抵抗により任意の角度で止めておくことができます。
▲上蓋の取っ手は、この画像の様に横へ伸ばした位置で止まる
上蓋の取っ手の先端の形状が、MOOSE ROOM WORKSの戦闘飯盒2型と他社製品との大きな違いです。
防衛省の仕様書に描かれている形状をしているのは、MOOSE ROOM WORKSの製品のみ。
飯盒の底面は、一般的なガスストーブなら問題なく使えそうな大きさです。
▲MSRの「ポケットロケット2」のゴトクと飯盒の底面の大きさ比較
▲SOTOの「ST-310」と飯盒の底面の大きさ比較
水蒸気炊飯について
既に書いたとおり、中子に開けられた「取手通し穴」は本体内のお湯から発生した蒸気の通り道の役目を果たし、中子の内部は高温の水蒸気で満たされてスチームオーブンレンジのようになります。
そのため、中子に生米と水を入れておけば、ご飯を炊くこともできるのです。
水蒸気で加熱するので、焦げる心配は皆無。
これが「水蒸気炊飯」と呼ばれる炊飯方法です。
水蒸気炊飯の例として、飯盒本体内でレトルトカレーを湯煎し、その蒸気でご飯を炊く場合の手順を写真で簡単に紹介します。
▲本体内にレトルトカレーと充分な量の水を入れる(水の量が少ないと、水が蒸発しきって空焚き状態になってしまい、危険です。)*4
▲中子を本体にセットし、吸水させた米と水を入れる(この画像では、110mlの水に無洗米0.5合を入れて30分ほど吸水させています)
▲上蓋を閉めて20~30分火にかける
▲ご飯がふっくらと炊きあがり、レトルトカレーも充分すぎるほど温まる
▲食べる時は中子を上蓋の中に入れ、上蓋の取っ手を持つと食べやすい(なぜか合成写真みたいに見えますが、実際に山の中で撮影した写真です)
この方法だと少量の米でもふっくらと炊きあがるので、0.5合といった少なめのご飯を炊きたい場合には、水蒸気炊飯を強くオススメします。
なお、水蒸気炊飯で炊ける米の量は、中子の容量が500mlのため1合が限界。
スタッキングについて
戦闘飯盒2型は、110サイズのガス缶が入るサイズです。
実際にMSRの110缶とポケットロケット2を入れると、下の写真のようになりますが、この場合、中子を入れると上蓋が閉まりません。
中子を入れなければ上蓋を閉めることができますが、中子がないのは不便なため現実的ではないと思います。
▲MSRの110缶とポケットロケット2を入れた様子(中子を入れると蓋が閉じられない)
「ALストーブスタンドDXセット EBY255」であれば、下の画像の様に2つに分けると、中子を入れても上蓋を閉じられます。
▲「ALストーブスタンドDXセット EBY255」を入れた様子(中子を入れてもギリギリ蓋を閉じられる)
ダイソーのメスティン(1合用)も飯盒本体内に収納でき、中子を入れてもフタはきちんと閉まります。
▲ダイソーのメスティン(1合用)が収納できる(中子を入れてもフタは閉まる)
戦闘飯盒2型自体は、Oregonian Camperの「Messtin Warm Keeper(L)」(税込¥2,420)*5に良い具合に収まります(姫路のアウトドアショップ「sproutzero」の店長さんに教えていただきました)。
▲Messtin Warm Keeper(L)に戦闘飯盒2型を収納した様子
▲Messtin Warm Keeper(L)の内部には簡易な断熱材が入っている
断熱材が入っているので簡易的なクーラーバッグにもなるし、ロールトップで大きさを調整出来るため戦闘飯盒2型以外のものも収納できるし、戦闘飯盒2型にシンデレラフィットするケースより汎用性が高くて便利かも。
最後に
「水蒸気炊飯ができる」という点に惹かれて購入しましたが、ミリタリー感が溢れる無骨なデザインもたまりませんし、吊り手の長さを除けば使い勝手も悪くはなく、「良い買い物をした」という満足感をたっぷりと味わえました。
私が山歩きでよく食べるアメリカ軍の戦闘糧食(MRE)を食べる時にも活用できています。
▲アメリカ軍の戦闘糧食(MRE)のメインディッシュ(レトルトパウチ)も無理矢理ねじ込んで湯煎できる
▲湯煎したMREのメインディッシュを食べる時に上蓋が便利(レトルトパックを直に持つと熱いため、こうすると快適に食事ができる)
今までは0.5合の米を炊くのが困難で、しかたなく0.7合か1合の米を炊き、お腹がパンパンになっていました。
戦闘飯盒2型を使えば水蒸気炊飯で0.5合を美味しく炊けますから、今後は適量のご飯で昼食を楽しめそうです。
最後に、戦闘飯盒2型をもっと使いやすくするためのアイディアを紹介します。
例えば飯盒本体で炊飯や味噌汁、ラーメン等を調理した場合、飯盒本体から直接食べようと思っても熱すぎて素手では持てません。
調理中ならいざ知らず、食事中まで手袋をはめたままというのはイヤなので、飯盒本体用の断熱カバーをリフレクティックス(アストロフォイル)とダクトテープ(強力なガムテープ)で自作しました。
こういった断熱カバーを用意すれば、戦闘飯盒がますます使いやすくなりますよ。
▲飯盒本体の下半分を覆う断熱カバーを自作すると、素手でも飯盒から直接ご飯などを食べられる
▲断熱カバーの大きさが適切であれば、このように収納できる
長所
- かっこいい(個人的な意見です)。
- 水蒸気炊飯ができる(0.5合など少量でも美味しく炊ける)。
- 中子の中で蒸し料理ができる。
短所
- 軍用品らしさがある=品質に多少のバラツキがあったり、新品の状態でも傷などがある。
- 内側が平面ではない(本体はリベットの頭が出ているし、中子は凹凸がある)ため、使用後にこびりついた食品の汚れを落としづらい。
- 収納時に内部の高さが低いため、中に収納できるものが限定的。
- 塗膜が弱い(塗装の剥げが良い味わいになるという長所もある)。
- 飯盒を扱うときは、火傷を防ぐために手袋が欠かせない。
関連情報
「おとの今日も今日とてソロキャンプ」というYouTubeチャンネルでは、戦闘飯盒2型の活用事例が数多く紹介されています。
声や話し方から知的な方だと分かりますし、映像も見やすく、騒がしい動画が苦手な方でも楽しめると思います。
戦闘飯盒向けのレシピ本も発行されています。
▲戦闘飯盒利用者向けのレシピ本
タイトル: ぜんぶ同時に出来上がる! 飯盒2型絶品定食レシピ
著者: ケンジパーマ
発行: 三才ブックス
体裁: A5判 128ページ
定価: ¥1,500+税
ISBN: 978-4-86673-328-9
発売日: 2022年8月20日
元陸上自衛官の方が、この飯盒について説明をされている動画もYouTubeにあります。
それによると、基本的に飯ごうは火にかけず、食器としてしか使わないそうです。
*1:「防衛省仕様書 DSP S 2036C 飯ごう,2形」に書かれています。
*2:板厚は本体、中子、上蓋のいずれも0.9mmです。
*3:JIS H5120では、CAC203は「黄銅鋳物3種 」とされています。
*4:どのくらいの水が蒸発するのか、戦闘飯盒2型とMSRのガソリンストーブを使って実験したことがあります。500mlの水を入れて中子をセットし、上蓋を被せた戦闘飯盒を中火(20分で45gのホワイトガソリンを消費する火力)にかけて20分間沸騰(ボコボコと比較的大きな泡が出続ける沸騰状態)させると、残った水は200ml、つまり300mlの水が蒸発しました。火力が強いと、1分当たり15mlの水が蒸発することになります。
*5:「Messtin Warm Keeper(L)」は、ラージメスティンを2個入れられる大きさがあります。