播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

米軍の装備品規格「MOLLE/PALS」について

私が山歩きで使用しているバックパックの中には、軍用の製品がいくつかあります。
 
▲私が使っている軍用バックパックの一つ、アークテリクス社製のCharlie(チャーリー)
 
なぜそんな物を使っているのかというと、軍用モデルはほとんど全ての製品が、ホースを使って歩きながらでも楽に水が飲めるハイドレーションシステムに対応しているという他に、ポーチを簡単に増設できるというメリットがあるからです。
 
山歩きの教本的なものを読んでいると、「バックパックにゴテゴテと色んな物を着けるべきではない」という記述を見かけることがあります。
 
確かに、外側に三脚やストック、小物類を着けて山を歩いていると、藪っぽい場所では引っかかって歩きにくいですし、場所によってはそれらが引っかかってバランスを崩すことで、転倒や滑落の危険があります。
 
私の場合はそれほど険しいルートを歩くことはほぼ無い上に、訳の分からない物(このブログの読者の方ならよくご存じだと思います)をたくさん持っていく関係で、バックパックの容量が不足気味なため、外側にポーチを付けてその中に小物を収納したり、あるいはバックパックの中を空けるためにハイドレーションシステム自体を外付けすることもあります。
 
市販品のバックパックでも、そのメーカーの純正オプションのポーチを外付けできる製品はありますが、軍用のものはMOLLE、あるいはPALSと呼ばれる統一規格に準拠して造られているため、互換性のあるポーチ類はメーカーを問わず連結出来るのです。
 
今回は、そのMOLLE(PALS)の連結方法について説明します。
 
あくまでも私の個人的な知識とネットで拾った情報がもとになっているので、誤っている情報も含まれるかも知れませんが、予めご了承下さい。

MOLLEとPALSの読み方

まずは「MOLLE」「PALS」の読み方です。
 
MOLLEはMOdular Lightweight Load-carrying Equipmentの頭文字を並べたもので、「モーリー」と読みます。
インターネット上では、日本語版Wikipediaも含めて非常に多くの日本語のサイトで「モール」と表記されていますが、それは誤り。
 
米兵にMOLLEシステムの説明をするために作成されたビデオ(Modular Lightweight Load Carrying Equipment (MOLLE) Care and Use Instructional Video)の中でも「モーリー」と発音されていますし、英語版Wikipediaでも、MOLLEの項目の冒頭で発音について書かれています(厳密にはモーリーではありませんが、近い音でカタカナ表記するとこうなります)。
 
MOLLE (pronounced /ˈmɒl.liː/, as in the female name)
(出典:英語版Wikipedia)


www.youtube.com
▲Modular Lightweight Load Carrying Equipment (MOLLE) Care and Use Instructional Video(MOLLEがどのように発音されているのか確認できます。)

 
例えば「ハウジング」という単語がありますが、ラジコンや自動車関連では何故か「ホーシング」という呼び名が使われています。
ハウジングの元の綴りは「housing」。最初にこの単語を紹介した人が、あるいはこの単語が広まっていく中で影響力の大きな人が、正しい読み方を調べずにローマ字読みした結果なのでしょうが、「モール」も同様の経緯で誤ったまま広まったと思われます。
 
MOLLE関連の誤読で他に多いのが、「帯」を意味する「ウェビング」。
綴りは「webbing」ですが、「ウェービング」と書かれているサイトが多いです。
 
もともと外国語だから日本語で正しく発音できないし、こだわる必要はないという意見もあるようですが、MOLLEは固有名詞です。固有名詞で読み方が決まっているわけですし、正しい読み方に近い「モーリー」という表記がカタカナでも可能なのに、なぜ「モール」と表記されるのか理解できません。
 
意味は、直訳すると「軽量でモジュール式の携帯品運搬用装備」とでもなるかな。
 
PALSはPouch Attachment Ladder Systemの頭文字をとったもので、「パルズ」と読みます。
最後の「s」の音は、英語読みだと濁った音で読む方が自然ですし発音もしやすいですが、カタカナ読みでは発音しづらいため「パルス」と読まれることが多いようです。
 
意味は「ポーチ取り付け用格子システム(我ながらまったく翻訳のセンスがない表現だな)」という感じ。

MOLLEとPALSの関係

PALSという連結用の仕組みが最初に発明され、それを利用して携帯品を効率よく装着するためのシステムが開発されて、そのシステムにMOLLEという名前が付けられました。
 
そのため、MOLLEとPALSは本来同列に扱うべきではないのですが、MOLLEという単語の方が知名度が高く、PALSと呼ぶべき所もMOLLEと呼ばれるようになっています。
 
このPALSとMOLLEを開発したのは、United States Army Natick Soldier Research, Development and Engineering Center(直訳すると「合衆国陸軍ネイティック兵士研究・開発・技術センター」とでもなるかな)と呼ばれる米陸軍の研究施設。
 
装備品の連結方法を説明するにあたり、当記事内では、PALSを利用して連結できることを「MOLLE互換」と呼ぶことにします。

MOLLE互換製品の外観

MOLLE互換のバックパックやポーチには、一目でそれと分かる特徴があります。
それは、ポーチなら裏面、バックパックなら表面や側面に一定間隔で縫い付けられた1インチ(2.54cm)幅の帯です。
 
▲米軍のMOLLE装備(救急用品収納ポーチ)の裏面
 
▲ポーチの裏には横帯の他に縦帯がある
 
 ▲MOLLE互換バックパック(米海兵隊向けバックパックの民間向け販売モデル)の表面(四隅の黒い部品は、私がハイドレーションシステムを外付けする際に使用している「グリムロック」と呼ばれるMOLLE互換のアクセサリ)
 
民間向けのバックパックでもMOLLEもどきの帯が縫い付けられているものを見かけることがありますが、見た目を真似しているだけで寸法が正しくなく、MOLLE互換ポーチを付けられるかどうかは怪しいところです(以前所有していた民間用バックパックのMOLLEもどきの帯には、MOLLE互換ポーチは付きませんでした)。
 
この帯には規格があり、MOLLEで使用される製品の規格(いわゆるミルスペック)はMil-W-43668 Type 3(幅1インチ、厚さ0.046インチ。1ヤードあたり0.5オンス。破断強度1000ポンド。材質はコーデュラ)。
 
MOLLE互換の市販品の多くは同Type 3A(重量が1ヤードあたり0.65オンス、材質がナイロンという点が異なる。)の帯が使われているそうです。
 
横向きに取り付けられたこれらの帯の上下の間隔は、帯の幅と同じで1インチ(2.54cm)。
縦向きの縫い目の間隔は1.5インチ(3.8cm)です。
 
▲MOLLEの規格による各部寸法
 
MOLLEでは、横向きの帯だけでなく縦向きの帯がポーチ側に付いています。
この縦向きの帯は、米軍の官給品では中に白いポリエチレンの薄い板が入っていて堅く、先端にスナップボタンがついています。
 
 
▲米軍のMOLLE装備の連結用縦帯の断面を見たところ(ナイロン生地の間に白い板が入っているのが見える)
 
米軍のMOLLE装備以外のMOLLE互換ポーチでは、この縦の帯が薄いものだったり、そもそも縦の帯がなく、細長い樹脂製の別部品を帯として使用するものもあります(理由は後述)。
 
いずれにしても、MOLLE互換装備を連結するには、横向きの帯と縦向きの帯の両方が必要になります。

MOLLEの連結の仕組み

MOLLEシステムを利用してバックパックにポーチを取り付ける場合を例に、連結の仕組みを説明します*1
 
▲MOLLEに対応したバックパックとポーチ
 
仕組みは単純で、MOLLE互換装備品についている横帯の間に相手側装備の横帯を当て、その中に縦帯を通します。

つまり、縦帯で横帯を縫い合わせるようなものです。
硬い帯で縫うように連結するため、かなりがっちりと取り付けられます。
 
▲連結した状態を横から見たところ(赤枠内)
 
具体的に手順を見ていきましょう。
まずはポーチを取り付ける位置を決めます。
 
▲位置を確認するためにポーチを置く

位置が決まったら、ポーチの縦帯をバックパックの横帯(取り付け位置上端の横帯)に通します。
 
▲ポーチの縦帯をバックパックの横帯に通した様子
 
続いて、縦帯の先端をポーチの横帯(最上段)に通します。
 
▲ポーチの横帯に縦帯を通す(矢印の部分)
 
今度はポーチの縦帯をバックパックの横帯(先ほど通した帯の一段下)に通します。
 
▲今度はバックパックの横帯に縦帯を通す
 
そして、先ほど縦帯を通したポーチの横帯の下の段の横帯に縦帯を通します。
 
これを繰り返し、最後はスナップボタンをはめます。
この作業をポーチの縦帯の数だけ繰り返せば完了。
 
▲最後はスナップボタンを留める
 
▲がっちりとバックパックに連結されたポーチ
 
取り付けるのは面倒ですが、外すときはスナップボタンを外して縦帯を引き抜くだけで外せます。
 
この横帯は頑丈なので、例えば小型のナイフやペンのクリップをひっかけてそれらをバックパックに取り付けたり、ひもやカラビナを通して小物をぶら下げて使うといった活用方法もあります。

縦帯のバリエーション

上で紹介したポーチは米軍官給品と同型なので、先端にスナップボタンが付いていますが、MOLLE互換のポーチ類は縦帯の形状が異なります。
 
樹脂板を挟み込んで堅くし、先端にスナップボタンを付けた縦帯は「特許」で保護されていて、サードパーティーは権利者にお金を払わないと同型の縦帯を作れず、コスト削減のため各社で独自の縦帯を作っていると聞いたことがあります。
 
おそらく、公告番号:US5724707 Aの特許がその「特許」だと思います。
この特許の中では、縦帯にある程度の硬さを持たせることが書かれており、図ではその先端にスナップボタンが描かれています。
 
特許料の支払いを嫌ったメーカーが独自の縦帯を付けたポーチ類も、取り付け方の原理は上で紹介した米軍官給品と同じなので、原理を理解していればどんな縦帯でもしっかり取り付けられるはず。
 
最後に、MOLLE互換の縦帯の種類をいくつか紹介しておきます。

縦帯がヘニャヘニャだったり、スナップボタンが無かったり、あっても妙な位置だったり、前述の特許に抵触しないように工夫されています。
 
▲柔らかい縦帯の例(縦帯の先端に「返し」があり、スナップボタンがなくても横帯から抜けにくくなっている)
 
▲スナップボタンが無く、長い縦帯の例(通常の手順で横帯に通した後、余った部分をポーチの裏側に押し込んで固定する)
 
 ▲先端側の一部だけが堅く、スナップボタンが奇妙な位置にある縦帯の例

*1:ここで使用しているポーチは米軍官給品と同型の民間向け販売品(タグが民間向けの内容になっているだけで、物としては官給品と同一)です。官給品以外のサードパーティー製MOLLE互換ポーチの縦帯は、前述の通り形状が異なります。