播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。原則として更新は週に1回です。広告は表示しません!

安価なサーモグラフィー:FLIR i3

山歩きをすれば必ず出会う三角点を測量でどのように使うか興味がわき、測量士補の勉強をして国家試験を受けるほど「距離や長さを測るのが好き」ですが、温度を測るのも好きで、非接触式温度計や、食材に突き刺して温度を測る製品も持っていたりします。
 
ある日、戦闘機にも索敵や照準のために搭載されている赤外線カメラ(サーモグラフィー)のメーカー「FLIR(フリアー)」社の手持ち式サーモグラフィーが約10万円(サーモグラフィーがこんな値段で手に入るなんてすごいことですよ)で販売されているのを知り、使い道も思いつかないのに、「測定好き」の性で思わず買ってしまいました。
 
 
▲FLIR i3のパッケージ(専用ハードケース)
 
製品名: FLIR i3
メーカー: FLIR Systems, Inc.(アメリカ合衆国)
検出素子(FPA): 非冷却マイクロボロメーター
フォーカス: フォーカスフリー
フレームレート: 9Hz
視野角(FOV)/最小焦点距離: 12.5度x12.5度/0.6m
温度分解能: 0.15度
解像度: 60x60ピクセル
空間分解能(IFOV): 3.7mrad
スペクトル波長: 7.5~13マイクロメートル
重量: 365g(バッテリー込み)
サイズ: 223x79x83mm
輸送重量: 2.8kg
輸送サイズ: 120x400x320mm
ディスプレイ: 2.8インチカラーLCD
バッテリー: リチウムイオン電池(交換不可)
連続稼働時間: 5時間(セ氏25度の環境で通常の操作の場合)
記録媒体: miniSDカード
記録フォーマット: JPEG(14bit計測情報含む)
計測温度範囲: セ氏-20度~250度
精度: プラスマイナス2度ないしプラスマイナス2%(読み取り値に対して)
動作温度範囲: セ氏0度~50度
保管温度範囲: セ氏-40度~70度
耐衝撃性: 25G、IEC 60068-2-29
耐振動性: 2G、IEC 60068-2-6
耐落下性: 2m落下試験済み(社内規格による)
保護構造: IP43
国内定価: ¥104,895
購入価格: ¥104,895
購入先: アズビルトレーディング株式会社
 
以上、数値はすべてカタログ値です。
 
ハードケースにはサーモグラフィー本体と充電器・ケーブル類、取扱説明書等が、型抜きされた発泡スチロールの内枠にぴったり収まった状態で入っています。
 
 
▲FLIR i3のハードケース内の様子
 
空間には多少の余裕があるので、私は別途購入した黒体テープも収納しています。
 
では、i3本体を見てみましょう。
 
 
▲i3本体前面
 
 
▲i3本体背面
 
上の写真を見ての通り、i3本体の操作ボタンは背面の液晶画面下に集中し、インターフェイスは右側に集中しています。
 
実際に温度を測定するセンサーにはカバーが付いており、前面下部のレバー操作により手動でカバーを開閉します。
 
 
▲i3のセンサー(カバーを閉じた状態)
 
 
▲i3のセンサー(カバーを開けた状態)
 
すべてのインターフェイスは1つのゴムカバーで覆われており、次のようになっています。
 
 
▲左からminiSD、充電端子、ミニUSB端子
 
グリップ下端にはストラップホールがあるので、手首にストラップを巻いておけば落下事故による破損を防げます。
 
 
▲ストラップホール(右の方にあるボタンは撮影用シャッターボタン)
 
肝心の使い心地ですが、測定時の操作はすべてi3本体を握っている方の手だけで行えるので便利。
 
 
▲操作面
 
i3は内蔵リチウムイオンバッテリーで動作しますが、このバッテリーは交換不可です。

最近の機器はUSB端子で充電出来る製品が多いですが、i3は充電に専用のACアダプタが必要。
記録メディアも今時珍しいminiSDカードですし、比較的新しい機種ですが、このあたりの仕様は今時ではありません。
 
 
▲充電器(各国のコンセントに対応出来るようになっている)
 
i3の外観を見てきましたが、今度は操作画面を見てみましょう。
 
電源ボタンを押すと電源が入りますが、長時間使用しなかった場合は、起動にしばらく時間がかかります。
起動後も、定期的に(しかも頻繁に)カシャッと音が鳴って補正が実行されますが、その時は画面の更新が止まります。
一瞬の出来事なんですが、使っているとこれがかなりのストレスになります。
 
被写体(画面中央)の温度は、リアルタイムで左上に表示されます。
画面下部の虹色の部分の両端に温度が表示されていますが、これには以下の2種類のモードがあります。
 
・自動:現在写っている被写体の温度帯をカバーできるように自動的に設定される。単純に温度を測りたいだけならこれで十分。
 
・ロック:適当な場所を測定してロックすると、温度が異なる被写体を写してもロックした時点の温度設定が適用される。複数の被写体を比較する際に便利。
 
 
▲起動直後の画面(左上は画面中央に写っているものの温度、画面下部の虹色のバーが色と温度の対応を示し、その下に現在の測定設定「マット(0.95)」のように表示される。
 
画面のすぐ下の左右にあるボタンは、それぞれ画面の左下と右下に表示される機能を受け持つボタンで、状況によって役割が変わります。
 
例えば上の画面で右側のボタンを押せば前述のモード切替が出来て、左側のボタンを押すと下のようにメニュー画面が表示されます。
 
このメニュー画面では画面の色や測定対象の光沢の有無、放射率の設定が出来ます。
測定対象に応じてここで正しい設定をしないと、いかに高級なサーモグラフィーを使おうとも、正確な温度測定は出来ません。
 
放射率は物質によって異なるので、私は黒体テープを対象物に貼り付けてしばらく待ってから温度を測定し、その後、黒体テープを貼っていない場所を測定して、その測定結果の温度が黒体テープ上の温度と等しくなるように放射率の設定を変更しています。
 
 
▲メニュー画面
 
では、i3の測定画面を見てみましょう。
i3は視野角が狭い(12.5度)ため、自動車全体を撮影するためにはかなり車から離れる必要があります。
 
 
▲自動車を撮影した画面
 
i3本体では、画面の中央部の温度が表示されるだけですが、人差し指でグリップにあるトリガーを押すと、測定データ付きのJPEG画像がminiSDカードに保存されます。それを付属のPC用ソフトで解析すれば、現場で測り損ねた部分の温度も分かります。
 
 
▲専用ソフトで測定ポイント(SP)を合計3つにした様子(拡大表示出来ます)
 
さらに、この測定結果をわかりやすくPDFファイルで出力することも出来ます。
 
 
▲自動的に作成されるレポート
 
いろんなものを測ってみると楽しいですよ。例えば夏場の住宅街の道路。
道路が極端に熱いことが分かります。
 
 
▲夏に撮影した住宅街の様子
 
空を撮影すると、雲はしっかり写りますが、青空の部分はかなりの低温と認識されます。
i3は解像度が60x60ピクセルと低いですが、それでも道路から見上げた電線の縒りが認識できる画像になりました。
 
 
▲夏に撮影した空の様子(赤い塊は雲)
 
壁掛けの扇風機(動作していない)を撮影すると、回路のある部分だけ通電して温まっていることが分かります。
 
 
▲壁掛け扇風機(スイッチ周辺だけ温まっている)
 
面白い製品なんですが、安い分機能が制限されていて、欠点も目立ちます。
 
まずは解像度の低さと、視野角の狭さ。
初めて画面を見たときは、「えっ!たったこれだけの範囲しか見えないの!」と驚くことになります。
被写体が大きなモノだと、かなり離れないと全体を写せません。
 
記録される画像がサーモグラフィーの画像のみなので、後で見直したときに「この画像は何を撮ったものなんだ?」と分からなくなることがあります。
 
その撮影画像も、静止画のみ。動画は撮れません。
高級機種なら赤外線画像と通常のデジカメで撮影した画像が両方記録されるので、何を撮影した画像なのかがわかりやすいですが、「i」シリーズの製品ではそれが出来ません。
 
バッテリーが交換不可で、AC100V電源からしか充電出来ないのも問題。
 
これらの制限があるため、本格的な実験や研究で使うには厳しいでしょうが、電気回路や機械類の異常を素早く見つけたいとか、床暖房の故障を調べたいといった程度の使い方なら役に立つかも知れません。
 
変わり種としては、研究のために山の中で水が湧き出している場所を探すのにサーモグラフィーを使っている方もおられました。
 
私の場合は、山の中で動物を見つけるのに役に立てば良いかなと思っているのですが、買ってから1年以上経つのに、いつも持っていくのを忘れてしまい、今のところ山へ持っていったことはありません。