播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

HPの逆ポーランド表記電卓:HP 35s

今回紹介するのは、電卓です。
ここに紹介するくらいですから、普通の電卓ではありません。
逆ポーランド記法(Reverse Polish Notation:以下略してRPNと書きます)と呼ばれる表記法で式を入力する電卓なのです。

RPNについては情報処理関連の資格を持っている方なら聞き覚えがあると思いますが、実際にコンピュータが計算を行うときの順序、という程度にしか覚えていないと思います。
私も一応コンピュータ関連の仕事をしているのでですが、RPNについては演算子と被演算子の位置が変という知識しかありませんでした。

ところが、仕事場の人にRPN電卓を見せてもらい、その便利さにすっかり魂を奪われて用途もないのに購入してしまいました。



製品名:35s
メーカー:Hewlett-Packard Company(アメリカ)
電源:CR2032x2(製品に付属)
US定価:$59.99
国内定価:¥7,980

RPNと普通の計算式の違いは、次のようなものです。

普通の式: 被演算子、演算子、被演算子の順で書く
RPN: 被演算子、被演算子、演算子の順で書く

漢字だと違いがよく分からないので、数字と記号に置き換えてみます。
たとえば、1と2を足すという式の場合

普通の式: 1 + 2
RPN: 1 2 +

となります。

RPNでは、計算される2つの数字(被演算子)を先に入力し、最後にどう計算するか(演算子)を入力するのです。

普通の式の場合は計算される2つの数字の間に演算子が入るので、数字の区切りがはっきりしています。しかし、RPNでは2つの数字の間に区切りを入れてやる必要があります。HPの電卓の場合は、その区切りとしてENTERキーを押します。
つまり、普通の電卓では「1+2=」と押すところを「1 ENTER 2 +」と押します。HP社のRPN電卓には「=」のボタンがありません。演算子を入力した時点で計算結果が表示されます。

RPNのメリットは、計算に使う数字がはっきり分かると言うこと。普通の電卓の場合は、最後に入力した数字しか表示されませんから、その数字を何と足したり、引いたり、かけたり、割ったりするのか覚えていないと分かりません。
この電卓35sには2行の液晶がついており、計算の対象となる2つの数字がそれぞれの行に表示されているので、一目瞭然。

液晶は2行ですが、実際は4つまでの数字を記憶しておくことが出来ます。
その記憶領域はそれぞれx、y、z、tと名前が付いています。液晶に表示されているのはxとyで、zとtに入っている値は通常見えません。
液晶の2行のうち下の行がx、上の行がyの値です。yの上にz、その上にtがあると思って下さい。tは記憶領域の一番上にあるという意味で「TOP」の頭文字をとって「t」になっています。

RPNのメリットとして、括弧のある式の計算が楽というのも挙げられます。
たとえば、1÷(2+3)を普通の電卓で計算する場合、多くの人は電卓のメモリー機能を使いこなせませんから、まず2+3を計算して答えを紙にメモし、次に1÷5を計算するでしょう。
(分かりやすくするために単純な数字を使っていますが、実際は暗算出来ないような複雑な数字だと思って下さい)

ところが、RPNを使う電卓の場合は、次のようにして計算することが出来ます。



▲式の通りの順番で数字を入力する場合の手順

先ほども書いたとおり、xとyが液晶に表示されており、zとtはデータとして蓄えられているものの、ユーザからは見えません。そのため、xとyを実線枠、zとtを破線で囲んで表しています。
はじめは4つすべての記憶領域に「0」が入っています。

まず1を押してENTERを押すと、yに1が記憶されます。次に2を押してENTERを押します。すると、1はzへ押し上げられて2がyに入ります。次に3を押して(xに3が入る)から「+」を押すと、2+3が計算されます(1がyに落ちてくる)。画面上には1と5が表示されているので、この状態で「÷」を押すと、答えである0.2が得られます。

何となくおわかりいただけると思うのですが、新しくデータが入ると、すでにあったデータは上へ上へと押し上げられていき、計算が実行されて数字が減ると、上にあった数字が下へ落ちる(落ちた後 空になった場所には0が入る)というシステムになっています。そのため、下からx、y、z、t(Top)の順に名前が付いているのです。

そして、演算子を押したときの処理は、y演算子xの順序の式として計算されます。xに5、yに1が入っていないと、1÷5の式にはなりません。
足し算とかけ算の場合はxとyの値の順序は計算結果に影響ありませんが、引き算と割り算の場合は結果が違ってくるので要注意です。

以上の点をふまえた上で、今度は別の方法で先ほどと同じ式を解いてみましょう。



▲式の優先順位を考えて処理する場合の手順

今度は括弧の中の計算から先に行います。2+3の計算ですから、2 ENTER 3 + の順にボタンを押し、次に1を押します。これで、計算に必要な1と5がそろいましたが、yに5、xに1が入っています。つまり、この状態で「÷」を押すと5÷1の計算になってしまいます。そのため、xとyの値を入れ替えるボタンを押してから「÷」を押します。

前者の方法と後者の方法では、一つ大きな違いがあります。それは使用する記憶領域の数です。前者ではこんな単純な式なのに記憶領域を3つも使っていますが、後者では2つしか使っていません。
複雑な計算式で前者の方法を使うと、記憶しておく数字が4つを越えてしまいます。つまり、古い数字は記憶領域からあふれ出て消えてしまうのです。

計算の優先順位の判断はそれほど難しくないでしょうから、後者のやり方で操作することをお勧めします。



▲こんな計算も簡単にこなせます(いつこんな計算をする必要があるのか?という疑問は無視して下さい)
操作例:
12、ENTER、2、yのx乗ボタン、3.14、ENTER、3、yのx乗ボタン、+(ここまでで分子の計算完了)、3.14、ENTER、3、ENTER、5、yのx乗ボタン、x(かける)(ここまでで分母の計算完了)、÷(分子÷分母を計算)、平方根ボタン

次に、普通の計算以外の機能もいくつか見てみましょう。

この電卓には「%CHG」という機能があります(実務用のまともな電卓なら、RPN式以外の電卓にも付いていると思います)。これは2つの数字の差が何パーセントかを求める機能です。たとえば、「¥7,800の商品が¥5,800になっていたら何パーセント引きなんだ?」という疑問に即座に答えることが出来ます。

この例で何パーセント引きかを求めてみましょう。

7800 ENTER 5800 左シフト %CHG の順でボタンを押します。

「%CHG」は左シフトを押してから「÷」ボタンを押すと利用できます。
計算すると「-25.64」、つまり25パーセントほど安くなっていることが分かります。

他にもインチとセンチの相互変換、リットルとガロンの相互変換、キロメートルとマイルの相互変換、ポンドとキログラムの相互変換、1.5を1.30(1時間30分とか1分30秒と判断する)という具合に変換するなどという機能が搭載されています。
単位の相互変換は、海外の製品を使うことが多い私にとっては非常に便利です。PDAにも単位変換プログラムを入れていますが、家や職場にいるときは、この電卓で計算した方が圧倒的に早い。

!やnCr、nPrを求めるのも簡単。

LOGを利用し、「256って2の何乗だっけ?」という疑問もすぐに解決できます(LOG(256)÷LOG(2))。

標準偏差を求めたり、気温とアイスクリームの売り上げの相関関係というような単純な分析も可能です。

いくつもの数字を順に足していくような作業にも便利。
パソコンで言うところのバックスペースキーがあるので、数字を打ち間違えても簡単に修正できます。また、いくつもの数字を足していくとき、今いくつの数字を入力済みなのか個数が表示されるので、「どこまで入力したっけ?」という失敗もありません(統計機能を利用して合計を求める場合)。

付属している英文の取説はA5サイズで、厚さが18mmあります。これだけで、この電卓がどれほどの機能を持っているか想像できると思います。

簡単なプログラムを組んで計算させることも可能ですが、そこまで複雑なことをやらせるなら、Excelのマクロを使った方が簡単です。
あくまでも、電卓はパソコンの前まで戻ってExcelを起動するまでもないちょっとした計算に使うべきでしょう。

アメリカの製品ですが、日本の正規輸入代理店が取扱説明書をPDF形式で公開している(まだ一部のみ)ので、英語が苦手な方でも操作方法の習得には困らないでしょう。
私の場合は数学が苦手(中学~高校は赤点ギリギリ、大学では数学関連の科目を一切取らなかった)なので、日本語の取説を見ても意味が理解できないところが多々ありますが、物理関係の定数がたくさん記憶されていたり、三角関数関連の機能も充実しているようなので、理数系の学生さんや技術者の方々にとっては便利な電卓なのだろうと思います。

RPN方式は人によって好みが別れると思いますので、PCやPDAで動くRPN電卓のエミュレータを利用し、実際に購入する前にRPN電卓の操作感を体験してみることをお勧めします。
HPの電卓はすべてRPNというわけではありませんので、入力方式の確認も必要です。ちなみに、この35sは(モードの切り替えによって)RPNと一般的な入力方法の両方が使用可能です。

RPN方式の電卓を使うようになると、貸した電卓が帰ってこないというトラブルもなくなりますよ。(普通の電卓に慣れた人には使えないので、その場で返品され、以後「電卓貸して」とは言われなくなる。)