概要
姫路城では、年に数回「特別公開」(普段は公開していない場所を有料で公開するイベント)を行っています。
2025年9月に実施された特別公開の対象は、姫路城有料エリアの入口にある菱の門。
2023年冬の特別公開と同じです。
菱の門 特別公開について

▲姫路城 菱の門 特別公開の看板と姫路城(左上)
イベント名称: 菱の門 特別公開
期間: 2025年9月1日(月)~9月30日(火)
時間: 09:00~16:30(最終入城16:00)
公開場所: 菱の門(2階櫓部)
観覧料: ¥200(姫路城の入城料¥1,000が別途必要)
注意事項
- 姫路城は築城当初の姿を守っており、バリアフリーは一切考慮されていません。
- 姫路城内にエアコンはありません。気温が高い場合は、体調管理にご注意ください。
- 三脚や一脚、自撮り棒の使用、フラッシュ撮影は禁止されています。
- 城内では喫煙、飲食が禁止されています。
- 再入城はできません。
特別公開の様子
今回特別公開される菱の門は、姫路城の有料観覧エリアの出入り口となっている場所ですから、姫路城を見学する際は最初、または最後に見学が可能です。

▲姫路城有料エリアに入ってすぐに出会う菱の門
特別公開エリアに入るには、菱の門をくぐってすぐ左にある受付へ行きます。

▲菱の門を抜けた直後の左に特別公開の受付がある
この受付があるのは、菱の門の門番所。
石垣に接した櫓のため、壁の一面がむき出しの石垣になっているのが興味深い。
門番の扱い(身分の低さ)が分かります。

▲門番所内は石垣がむき出し。
菱の門と門番所
菱の門は、姫路城内に現存する最大の城門です。築城当初の城主の屋敷は備前丸にあり、菱の門は、大手門に比肩する大事な城門だったといえるでしょう。
門の形式は櫓門です。1階の通路部に門を設け、太い2本の鏡柱に肘壺金具で大扉を吊っています。鏡柱の上の冠木には木製の花菱が付けられ、門名の由来となっています。また、門の左右にはそれぞれ「門番所」(番所:西側の部屋)と通称「馬見所」(東側の部屋)が
置かれています。「門番所」は大きな門扉の横に付く脇門に面していて、門の出入りを監視しました。
また「門番所」内南側の壁は石垣になっており、西の丸東辺石垣の北端に当たります。その石垣が門の建物に組み込まれているということは、本多忠政が西の丸を造成したときに菱の門も現在のかたちになったとみることができます。
(出典:現地の看板)
門番所北側の入口から入って受付で観覧料の¥200を支払い、西側の出口から外へ出て仮設の階段を登ります。
菱の門は、2階へ上がるために一度外へ出る必要があるのです。

▲門番所の西の出口を出て階段を登って2階へ上がる
2階の入口は、菱の門の外から見えないよう土塀の陰に設けられています。
不便なようですが、守りを固めるにはこのような構造にする必要があったのでしょう。

▲菱の門2階の出入口(右の土塀の陰になり、門の外からは見えない)
入った所は西室と呼ばれる小部屋。
菱の門の2階(櫓部)は3つの部屋で構成されており、各部屋は城外側(南側)の扉を通じて繋がっています。
つまり、敵に攻め込まれたときは自由に2階部分全体を左右に移動して敵を攻撃できる構造。

▲菱の門2階平面図(下が城外側。出典:現地のパネル)
西室と中室にかけて、城外側を向いた窓の下に石落としが設置されています。
この石落としは門の外からは見えにくい場所になっているため、「隠し石落とし」と呼ばれているようです。

▲西室から中室にかけて城外側に設けられた隠し石落とし
菱の門二階
菱の門の2階は櫓で、櫓の南面に華頭(火灯)窓と武者窓を中央に、東寄りに出格子窓を配置しています。華頭窓と武者窓は黒漆塗の窓枠や格子に飾金具を打って装飾をしています。さらに、櫓の外壁面は真壁造りで、柱や舟肘木、貫などが壁体の中に隠れることなく外側に見え、とくに南側からの見栄えを意識して建てられています。 2階内部には、門を入って西側の雁木を登り、西側の華頭窓の横にある入口から入ります。入口は城外からは土塀で隠れて見えません。
櫓内部は東室・中室・西室の3室に分かれます。主要な城門なので武器が保管されていたとみられます。西室と中室では床面の南端(通路の真上)に石落し用の蓋が切られていて、頭上から攻撃できる仕掛けとなっています。この石落しは外から見ても存在に気づかないので、「隠し石落し」とも呼ばれます。
(出典:現地の看板)
隠し石落としの上にある窓は黒く塗られた連子窓を挟むように火灯窓が設置されています。
防御施設でありながら、平時は姫路城を訪れる人たちに対して威厳を示す必要があるため、このような格式の高い窓をつけているのでしょう。

▲西室の火灯窓(上部)

▲西室から中室にかけて城外(南)側は格式の高い窓になっている

▲西室と中室を区切る壁(右側の開口部で3室が繋がっている)
門を守る兵士の気分になって隠し石落としから下を覗いてみました。

▲開いた状態の隠し石落とし

▲隠し石落としから下を通る人を見る
幅が狭くて見渡せる範囲が狭く、「人が通るタイミングで写真を撮ってみよう」としましたが、気づいた時にはもう通り過ぎているという状態。
城門が閉ざされた状態で、その門を開けようとその場でゴソゴソしている敵兵を攻撃するのであれば、効果は抜群だったと思います。
なお、名前は「石落とし」ですが、この細い穴を通る程度の石を落としたところで敵兵を殺傷できると思えないので、下向きに銃を撃つための銃眼だと考えるのが自然でしょう。(そもそも「石落とし」という名称自体、戦乱がなくなった江戸時代に軍学者が考え出したものです。本来は足駄狭間(あしださま)。)

▲門の外から見た隠し石落とし(赤枠内)
中室は北側に格子窓があり、「いの門」方面をまっすぐに見通せます。
仮に菱の門を突破された場合は、突入してきた敵の軍勢を背後から撃つためのものでしょうか。

▲中室の北側の格子窓(いの門が正面に見える)
西室と中室は黒く塗られた連子窓や火灯窓でしたが、東室の窓は白漆喰の武者窓です。

▲東室の城外(南)側の武者窓からの眺め(菱の門へ向かう観光客がよく見える)
こうやって窓から外を見ると、窓が格子になっておらず、縦の棒だけの理由が良く分かります。
格子にするため横棒を付けると視界が悪くなりますし、銃の向きを変えたり、銃を格子から突き出したり引っ込めたりする際も間違いなく邪魔になったでしょう。

▲東室の東側の窓からは三国堀方面を見渡せる
この東室は、中央に長持が展示されていました。

▲黒漆塗長持
黒漆塗長持
菱の門の櫓部の東室に置かれていた長持。全体を黒漆塗りとし、長辺には直径30cmほどの大きさで、平蒔絵の葵紋が2つずつ描かれています。
この長持は、酒井家資料を収納・保管していたものの一つです。酒井家資料はもともと酒井家が所有していた近世・近代の文書等の総称で、姫路市が酒井家から資料を受け取る際、東京からこの長持に入れたまま姫路まで運ばれたようです。酒井家所有の長持で葵紋が描かれていることから、酒井家と徳川家もしくは松平家とのつながりがうかがわれます。その具体例として、両家間の婚姻が考えられます。安永3年(1774)には酒井忠以が高松藩松平家から嘉代姫を、天保3年(1831)には酒井忠学が将軍家から徳川家斉の25女・喜代姫を迎えています。いずれかの嫁入り道具だったのかもしれません。
(出典:現地の看板)
見学にかかった時間は10~15分程度でした。
菱の門2階の全天球パノラマ
2023年の冬の特別公開の際に撮影した全天球パノラマがありますので、興味のある方は下の画像をご覧ください。
薄暗い中で手持ち撮影をしたため、画質は悪いですがご了承ください。
パノラマ画面左上のリストで3つの部屋を切り替えられます。
https://shimiken1206.sakura.ne.jp/panorama/hishinomon20230211/index.html
▲菱の門2階内部で撮影した全天球パノラマ
交通アクセス
- JRまたは山陽電車の姫路駅から入城券売り場までの距離は、およそ1.3km。
個人的には、徒歩で行かれる方が多い印象です。 - 自転車の場合は、入城券売り場のすぐ横にある駐輪場を利用できます。
参考情報
姫路城の中堀では、観光和船が運行しています。

▲観光和船
観光和船の運航は、2025年3月20日(木)~12月7日(日)の期間(ただし、7月、8月、9月5日~9月7日、9月12日は運休)で、乗船料は大人ひとり¥1,500、小人ひとり¥500。40分間隔(9:30~、10:10~、10:50~、11:30~、12:10~、12:50~、13:30~、14:10~、14:50~、15:30~。3/20~5/6はさらに16:10~、16:50~の2便が増発。)で運行しています*1。
受付は現地で予約する方法のみ対応。ネット予約や電話予約はありません。
*1:天候や水位により、欠航の場合があります。臨時便が出ることもあるようです。