概要
今回紹介するのは、アメリカ軍の兵士が主に地上での作戦行動中に食べることを想定して作られた、軍用の携帯食料(戦闘糧食)です。
携帯性が高く、カロリーも十分にあるので、私は山歩きで時々食べています。
日本では「レーション」という名前で呼ばれることもあります。
英語の「ration」は本来「配給」や「食料」という意味で、英語読みは「ラション」ですから、戦闘糧食のことを単に「レーション」と呼ぶのは意味も読み方も変ですが、日本ではそのおかしな使い方がしっかり定着してしまいました。
個人的にこの間違った「レーション」という用語が苦手なので、当記事では米軍の個人用戦闘糧食の名称である「MRE」という言葉を使用します。

▲不法移民対策のためアメリカ合衆国南部の国境封鎖任務にあたるアメリカ陸軍第4歩兵師団 第2ストライカー旅団戦闘団*1にMREを届ける第264戦闘戦力維持支援大隊のGregory Baker特技兵。1箱あたり12食分のMREが入っている。(Photo by 合衆国陸軍Marcelo Marta中尉 2025年4月18日撮影)パブリックドメイン VIRIN*2:250418-A-IA193-1003(出典元サイトの規約による注意事項:The appearance of U.S. Department of Defense (DoD) visual information does not imply or constitute DoD endorsement.)
ベトナム戦争までのアメリカ軍では、しっかりした調理ができる環境を除いて兵士は前線で(嵩張って重い)缶詰を食べていましたが、1980年代に入り、レトルトパウチに入った携帯性の高い戦闘糧食が使われるようになりました。

▲ベトナム戦争時の戦闘糧食「Meal, Combat, Individual(MCI)」(Photo by 米陸軍航空ミサイルコマンド 2017年10月31日撮影)パブリックドメイン VIRIN:171031-A-A0305-1004(出典元サイトの規約による注意事項:The appearance of U.S. Department of Defense (DoD) visual information does not imply or constitute DoD endorsement.)
それが今回紹介するMREで、この名称は「Meal, Ready-To-Eat, Individual(調理不要で食べられる個人用糧食)」の頭文字から来ています。
メニューは全部で24種類あり、毎年不人気メニューの入れ替えを実施しています。
初期のMREは「Meals Refused by the Enemy(敵も食べることを嫌がる食料)」とか「Meals Rejected by Everyone(誰もが食べることを拒む食料)」、「Materials Resembling Edibles(食べ物に似た物質)」の頭文字だと揶揄されるほど美味しくなかったようです。
そんなMREも改良が続けられ、今では兵士の士気向上に一役買うほどの存在となりました。

▲統合即応トレーニング・センターでの演習において、お気に入りメニュー(ビーフシチュー)のMREを手に嬉しそうな表情をする第82空挺師団 第1旅団戦闘団の兵士。(Photo by 合衆国陸軍Joseph Warren大尉 2021年3月17日撮影)パブリックドメイン VIRIN:210317-A-QL367-530(出典元サイトの規約による注意事項:The appearance of U.S. Department of Defense (DoD) visual information does not imply or constitute DoD endorsement.)
今回の記事で紹介するのは、2024年に製造された(この記事公開時点では)最新型のMREです。
外装パッケージが大幅に変更され、従来から見た目が大きく変わりました。
重要
変更されたのはパッケージだけで、内容はほとんど変わっていません。
付属品袋(アクセサリーパケット)の中身に関しては、従来よりも民生品が増えています。これについては「内容編」で紹介します。
仕様

▲2024年製造のMRE(ケースA)*3
製品名: Meal, Ready-To-Eat, Individual
NSN*4: 8970-00-149-1094
メーカー: Ameriqual Packaging(アメリカ)
内容量: 12食/箱
調達価格: 約$83 USD/箱(今回画像に写っているMREの契約番号を元に算出した価格)
この記事に登場するMREは、2021年11月1日から2026年10月26日にかけて米軍へMREを納入する契約(契約番号:SPE3S1-22-D-Z145*5)を結んだAmeriqual Packaging社によって製造されたもので、契約金額は$100,507,000 USD(米ドル)。
契約内容を見ると、数量(Quantity)は1,209,999ケースとなっています(最小数量なのか最大数量なのか不明)。契約金額をこの数量で割ると、1ケース(12食入り)が約$83 USDになります。
2025年9月26日(金)のドル/円中心相場は149.74円ですから、$83(米ドル)をかけると1箱あたり約¥12,428、1食あたり約1,036円ということになります。
箱の外観
MREは頑丈な段ボール箱に入っており、箱の周囲6面の内1面を除く5面に各種の情報が印刷されています。
まずは製品名が書かれた正面。

▲正面の印字内容。NATOでは英語とフランス語が公用語のため、箱に記載される製品名は英語とフランス語になっている。下段の注意書きは「冷凍状態では乱暴に取り扱うな」という内容。
正面に向かって右側の面には、NSNや契約番号などが印字されています。

▲右側面の印字内容(三日月のマークは、米軍で「クラス1」に分類される物資に付けられる記号で、クラス1の物品は食料や水のこと。*6)
左側面には、消費期限に関する注意事項が書かれています。

▲左側面には消費期限に関する注意事項が書かれている(内容は、「製造年月日だけを見てMREが食べられるかどうかを判断するな」というもの)
注意
本品は温度、湿度を管理した環境に保管されていたため、梱包日付により消費期限切れと判断するべきではなく、また梱包日付は本品の使用可否を決める基準とすべきではない。冷凍保存する必要はない。
(出典:MRE外箱。当ブログ管理人が意訳した)
MREは、兵士に配られるまでは管理された環境下で保管されています。

▲第3海兵兵站群 戦闘兵站連隊35が有事に備えて沖縄県のキャンプ・キンザ―に保管していたMRE。(Photo by 合衆国海兵隊Ryan Harvey伍長 2020年4月20日撮影)パブリックドメイン VIRIN:200420-M-SX657-0008(出典元サイトの規約による注意事項:The appearance of U.S. Department of Defense (DoD) visual information does not imply or constitute DoD endorsement.)
箱の底面には、箱のメーカーや耐久性、NSNや契約番号のバーコードが印字されています。

▲箱の底面(破裂強さが425ポンド≒約193kg以上との記載がある)*7
MREを入手する際に重要になるのは、箱の上面の印字内容です。

▲箱の上面(通販で購入したもので、箱に直接荷札が貼られていたため荷札を剥がす際に一部が破れている)
DATE PKD/LOTは「Date Packed/LOT」の略で、これは梱包された日付を意味します。
INSP/TESTは「Inspection/Test」の略で、梱包から3年後、保管されていたMREの品質検査を実施すべき年月を表しています。
MENUSは、箱に入っているメニューが何番から何番までかに応じてCASE AまたはCASE Bと印字されています。
左下の文章は、各MREにFRH(水で発熱する加熱具)が同梱されていることを示すもので、書かれているNSNはMREではなくFRHのものです。
中央付近に写っている赤いステッカーはMREの保管状況を示すもので、TTI(Time-Temperature Indicator)ラベルと呼ばれます。

▲TTIラベル
黒っぽいドーナツ状の円が書かれていますが、その内側の赤い円がドーナツ状の部分よりも暗い色になっていたら、保管状況が悪かった(温度が高い環境に長期間置かれていた)ことを表すという仕組み。
摂氏27度(華氏80度)の環境に1,100日置かれると、中心部がドーナツ状の部分と同じ色になるようです。
(2) Time-temperature indicator (TTI) label. The TTI label shall be a 3/4 inch square, bull’s-eye type, pressure sensitive adhesive label. The TTI label shall have an activation energy (Ea) of 24-30 kcal/mole, be protected from ultraviolet radiation, and have a shelf life of 1100 days at 80°F as pivot point.
(出典:ACR-M-044 13 September 2023)
というわけで、MREの入手を考えている方は箱の上面の記載事項(DATE PKD/LOT)と、TTIラベルの色に注目する必要があります。
MREの消費期限は梱包された日付から3年ですが、INSP/TESTの時期になると下の画像のように見た目や味、匂いが検査され、継続して保管しても喫食可能と判断されれば消費期限が6か月延長されます。
6か月ごとに検査を行うことで、消費期限を最長2年間延長できるようです。

▲ジョージア州ムーディー空軍基地において2018年4月6日、検査のために並べられたMRE。空軍の公衆衛生担当者が、検査期日が来たMREからサンプルを抜き出して品質を調べ、その結果によって検査対象のロットを今後も引き続き喫食するか、あるいはロット全体を廃棄するかを決定する。(Photo by 合衆国空軍Erick Requadt上等兵 2018年4月6日撮影)パブリックドメイン VIRIN:180406-F-QM500-1020(出典元サイトの規約による注意事項:The appearance of U.S. Department of Defense (DoD) visual information does not imply or constitute DoD endorsement.)

▲第386遠征医療隊の下士官であり、公衆衛生の担当者であるRachael Marzette二等軍曹が西南アジア(場所は非公開)においてMREの検査を行っている様子。MREは梱包から3年後に消費期限が切れるが、その時点で検査を行い、消費期限を延長することが可能。Marzette二等軍曹はMREの内容物の見た目、味、匂いなどを検査する。この検査に合格したMREは喫食可能と判定され、6か月後に再度検査を受ける。検査は6か月単位で、消費期限は最長で2年延長される。(Photo by Marelise Wood曹長 2013年8月30日撮影)パブリックドメイン VIRIN:130830-F-DZ991-010(出典元サイトの規約による注意事項:The appearance of U.S. Department of Defense (DoD) visual information does not imply or constitute DoD endorsement.)
箱の中身
箱の中がどのようになっているのか見てみましょう。
梱包年月日などが印字されている上面を開いたすぐ中の様子は、下の画像の通りです。
外側のフラップは、全体にまんべんなく線状に塗られた接着剤によってしっかり留まっていたことが分かります。

▲フラップを開いた様子(接着剤でしっかり留まっていたことが分かる)
まだ中身が見えないので、内側のフラップを開いてみます。
これでようやく中身(MRE)が見えるようになりました。

▲内側のフラップは片方がもう一方より長く、オーバーラップするようになっている

▲中には12個のMREがぎっちり詰め込まれている
12個のMREを取り出して並べてみました。
2023年以前のMREはパッケージのデザインが3種類(1箱あたりメニュー4種×デザイン3種=12個)あって、並べても見栄えがしましたが、2024年以降の新型MREは基本的なパッケージデザインが全て同じになっています。

▲パッケージ上部のメニュー表記以外のデザインは全て同一

▲仕様書に示されているパッケージデザインの例(出典:ACR-M-044 13 September 2023)

▲2023年以前のMREのパッケージデザイン(3種類あった。出典:ACR-M-043 3 August 2022)
新型MREの裏は透明になっており、中身が見えるようになっています。

▲新型MREの裏面は透明
このパッケージの変更ですが、2023年製造のMREは新旧パッケージが混在しており、2024年製造分からは全て新型パッケージに変わっているようです(2023年のMREの仕様にはパッケージが新旧2種類記載されていますが、2024年の仕様では新型の1種類のみ。)。
ちなみに、新型パッケージの仕様は次の通りです。
全文を訳すのは面倒なので要約すると、下部が透明なトレイ状の部材(ナイロンとポリエチレンを共押出(きょうおしだし)した多層フィルムで、厚さ0.076mm以上のもの)であること、そしてそのトレイに蓋をするようにタンカラー*8で厚さ0.15mm以上のフィルム(ポリエチレンとポリプロピレンまたはナイロン)を溶着することが指定されています。
(3) Horizontal form-fill-seal meal pouch. The horizontal form-fill-seal meal pouch shall consist of a formed tray-shaped body with a flat sheet, heat sealable cover. The tray shaped body shall be fabricated from a food grade multi-layer coextruded polymer containing nylon and polyethylene with a minimum pre-forming average thickness of 0.010 inch. The minimum thickness of the formed tray-shaped body shall be not less than 0.003 inch. The flat cover shall be fabricated from a food grade multi-layer coextruded polymer containing polyethylene and polypropylene or nylon that provides puncture resistance properties with a minimum thickness of 0.006 inch. The tray-shaped body and flat cover shall be sealed and free of wrinkles, pleats, ripples, or creases. The material shall show no evidence of delamination, degradation, or foreign odor when heat sealed or fabricated into pouches. The material shall be suitably formulated for food packaging and shall not impart any odor or flavor to the product. The color of the formed tray-shaped body shall be clear. The color of the flat cover shall conform to number 20219, 30219, 30227, 30279, 30313, 30324 or 30450 of SAE AMS-STD-595, Colors Used in Government Procurement. Alternative pouch construction, pouch materials, and material thicknesses may be used provided that the alternative method can be demonstrated to meet or exceed the requirements of this document, military abuse testing and controlled pest testing. Samples may be submitted to the contracting officer to be qualified on a case by case basis.
(出典:ACR-M-044 13 September 2023)
我が家には旧パッケージのMREもあるので、同じメニュー番号のMRE同士で比較してみました。
新型の方が明らかに小型化されています。

▲新旧のMREサイズ比較(左が新型、右は旧型)

▲裏面を見ると、旧型が袋状のパッケージで新型が(形はつぶれているが)トレイ型のパッケージであることが分かる
MREの大きさがどれくらいのものか、新型MREとカラムーチョ(55g)を比較してみました。

▲カラムーチョ(55g)とのサイズ比較

▲MREは厚みがある
外箱が無い場合の製造年月日の確認方法
箱ごとMREを入手した場合は、前述の通り製造年月日や保管状況が簡単に分かります。
では、箱から出して単品で売られているMREの場合はどうすればよいのでしょうか。
実は、個別のMREにも製造年月日が表示されています。
MREのパッケージや各コンポーネントの袋には、ユリウス日付コード(Julian Date Code)と呼ばれる数字が印刷または打刻されており、それが製造年月日を表しています。
例えば新型パッケージのMREの場合、表面のフィルム下端付近に四桁の日付コードが印刷されており、左端の一桁は製造年(西暦)の下1桁を、左から二桁目から四桁目にかけての三桁の数字は、その年が始まってから何日後かを示しています。

▲新型MREに印字されたユリウス日付コードの例(赤枠内)
上の画像では「4204」となっていますが、左端の「4」は「2024年」を、「204」は1月1日を1日目とした場合の204日目、つまり「7月23日」を表していますから、このMREは2024年7月23日製造(梱包)ということになります。
旧型MREの場合は、パッケージの角にユリウス日付コードが打刻されています。
印字ではないため、よく見ないと分かりません。

▲旧型MREに打刻されたユリウス日付コードの例(赤枠内。よく見ると「9045」と読み取れる。)
このMREは2019年の45日目、つまり2月14日に製造(梱包)されたことが分かります。
付属品袋に印字されている日付コードも紹介します。
例えば下の画像では「A 4143 09:26 10」と印字されていますが、「A」は付属品袋の種類(付属品袋はAとBの2種類がある)が「A」であることを、「4143」は2024年5月23日を意味する日付コードです。「09:26」は、工場でラインオフ*9した時刻を表すものだと思われますが、最後の「10」は分かりません。

▲付属品袋に印刷されたユリウス日付コードやその他の情報
このように、個別のMREは必ずどこかにユリウス日付コードが印字(または打刻)されているため、外箱が無くても製造年月日を特定することが可能です。
個別のMREにはTTIラベルがないため保管状況は確認できませんが、製造年月日が分かるだけでも安心ではないでしょうか。
MREの外観編はここまで。
続きは「内容編」で紹介します。
*1:「ストライカー」は「Stryker」というアメリカ陸軍の装輪装甲車の名称。一般的に米軍の車両にはアルファベットと数字で構成される制式名称がありますが、ストライカーはバリエーションが豊富であり、用途や装備によってM1126~M1135など制式名称がバラバラであるため、同一系統の装輪装甲車はストライカーというファミリー名で呼ばれています。
*2:VIRIN は(Visual Information Record Identification Number)の略。アメリカ国防総省が公開する画像や動画等に対して付与される一意の識別番号。
*3:MREには24種類のメニューがあり、1番から12番までがケースA、13番から24番までのメニューがケースBに入れられます。各ケースは基本的に同じ箱で、表面に印字されている文字でAかBを区別します。
*4:National Stock Numberの略で、アメリカ軍をはじめとするNATO加盟国の軍隊が、装備品を管理するために使用する番号。民生品ではJANコード、出版物ではISBNに相当する数字で、防衛省が使用する訳語は「ナショナル物品番号」。
*5:「SPE3S1」というコードは、「DLA Troop Support(国防兵站局トゥループ(兵士)・サポート部門」を、「22」は2022年度を、「D」は数量/納期未確定調達契約を表しています。数量未確定契約の場合、契約時に最小数量と最大数量を提示するようです。
*6:ちなみに、クラス2は衣料品(記号は縦棒2本)、クラス3は油や潤滑油(記号はジョウゴのような図形)、クラス4は建築資材や障害物(記号は「E」を右に90度倒したような図形)、クラス5は弾薬(拳銃弾の弾頭のような記号)、クラス6は兵士の生活に必要な物資(消臭剤や歯磨き粉、シャンプー、お菓子、アルコール類等。記号は人の形)、クラス7は車両や大砲など大型の兵器(記号は鉄アレイのような図形)、クラス8は医療関連物資(記号は十字架)、クラス9は修理、整備用具(船の舵輪のような記号)、クラス10は上記クラス1~9に含まれないものを表します(記号は「CA」という文字)。このクラス分けは米軍とNATOで異なっていますが、クラス1が飲食物であることは共通しています。
*7:仕様書によると、箱の素材は乾燥時の破裂強さが425psi以上、24時間水に漬けた後で250psi以上であることが求められています。
*8:SAE AMS-STD-595規格の20219番、30219番、30227番、30279番、30313番、30324番、30450番のいずれかが指定されています。
*9:製造工程が全て完了し、生産ラインから離れること。