イベント概要
夏の時期は、陸海空の各自衛隊がサマーフレンドシップキャンペーン(サマキャン)と称して体験搭乗や艦艇広報、募集イベント等を実施しています。
その一環、そして兵庫地方協力本部が実施するサマキャンイベントとしては最後の行事として、2025年8月31日(日)、私が住む姫路市で護衛艦の一般公開が実施されました。
公開されるのは、海上自衛隊の護衛艦とね(DE-234)。
「あぶくま」型護衛艦の最終艦(1993年就役)です*1。
とねを含む「あぶくま」型は、6隻全てが2027年までに除籍されることが決定しています*2。
なお除籍後はスクラップにされることなく、中国との間で問題を抱えているフィリピンに輸出する方向で両国政府が調整を進めているとのことです。

▲護衛艦「とね」一般公開の様子
イベント名称: 護衛艦とね一般公開 in 飾磨港4号岸壁
日時: 2025年08月31日(日)10:00~15:00
場所: 飾磨港4号岸壁
入場料: 無料
予約: 不要
駐車場: 有料・無料の両方あり
注意事項:
- 艦内は狭い通路や突起物があるため、引っ掛かりやすかったり、身体の安全を確保できないスカート、ハイヒール、サンダルの着用は推奨されていません。
- 乗艦・退艦時に通る舷梯(タラップ)は歩きづらく、両手が使えないとバランスを崩す場合があります。そのため、荷物は手提げではなくリュックやショルダーバッグなど両手が空くものが推奨されています。
- 艦上は狭い通路や突起物があるため、日傘や雨傘は使用できません。
- 会場内に飲料の自動販売機がないため、事前に準備していく必要があります。
- 会場内にお手洗いはありません。
https://maps.app.goo.gl/A8NyvGeJ2jLRS35S7
▲飾磨港4号岸壁の位置
護衛艦とねについて

▲護衛艦とね(艦番号 DE-234)*3
主要要目
基準排水量: 2,000t
主要寸法: 長さ109m、幅13.4m、深さ7.8m、喫水3.8m
主機械: ガスタービン2基、ディーゼル2基 2軸
馬力: 27,000PS
速力: 27kt
主要兵装: 高性能20ミリ機関砲×1、62口径76ミリ速射砲×1、SSM装置一式、アスロック装置一式、3連装短魚雷発射管×2
乗組員: 約120人
(出典:海上自衛隊ホームページ)

▲護衛艦とねの主要兵装(飾磨港4号岸壁の東向かいの岸壁から撮影した画像)
Wikipediaによると、「とね」は住友重工追浜造船所浦賀工場で1991年2月8日に起工、同年12月6日に進水、1993年2月8日に竣工しました。
所属は、呉基地の護衛艦隊第12護衛隊です。
一般公開の様子
駐車場は用意されていますが、来場者が多いと面倒くさそうですし、我が家からさほど遠くないので、自転車で出かけることにしました。
最近は自衛隊のイベントの人気がすさまじく、夏休み最後の日曜で家族連れなどが多く来るかも知れませんから、早めに家を出ました。
開始1時間前の午前9時に現地に到着しましたが、すでに待機列は50mほどあり、無料駐車場の開放を待つ車の列も100mほどできていました。やはり車でこなくて正解。
09:00
自転車を止めて、すでに50mほど伸びていた待機列の最後尾に並びました。
09:45
少し早いですが、ゲートが開いて手荷物検査場へ入れるようになりました。
車も無料駐車場への誘導が開始。
艦首の見学
09:50
艦艇は左舷を接岸させるのが一般的ですが、今回の護衛艦とねは右舷を岸壁に付けています。
艦の中央付近、アスロックランチャーの脇に乗艦用の舷梯があり、そこから乗艦して艦首へ向かうよう順路が設定されていました。

▲乗艦用の舷梯
艦首でまず目に入るのは、62口径76ミリ速射砲の砲塔です。
目立つ兵装ですから、やはり大人気。人だかりができていて全体を写せません。
古い艦らしく、ステルス性が考慮されていない丸っこい形が可愛い。

▲62口径76ミリ速射砲

▲62口径76ミリ速射砲の砲口

▲62口径76ミリ速射砲の薬莢排出口(真下に落とす構造)

▲砲身の付け根右側にはワイパー付きのガンカメラがあった
62口径76ミリ速射砲と艦橋の間には広々としたスペースがありますが、ここは兵装を拡張するために設けられていた空間。
しかし2027年までに除籍されますから、結局何にも使われないまま自衛隊での役目を終えるようです。

▲艦橋の前は何もない空間(艦橋の上部にある古めかしい対空レーダーはOPS-14)
中央部分の見学
艦首を見終わったら、続いては左舷の通路を通って艦の中央付近の見学です。

▲左舷の通路を後ろへ進む
中央に鎮座するのは、巨大なアスロックランチャー。
後部を艦首に向けて収納されていました。

▲アスロックランチャー(後部)

▲アスロックランチャー(前部)
アスロックはAnti Submarine ROCket(対潜水艦ロケット)の頭文字を取ったもので、ロケットモーターが付いた魚雷を発射します。
ロケットを使って魚雷を一気に敵潜水艦の近くまで飛ばせば、後は魚雷が敵潜水艦を攻撃してくれるというもの。

▲アスロックランチャーについて(現地のパネル)
アスロックランチャーの後ろにある煙突には、補給用の固定パッドアイが付いていました。
比較的新しい護衛艦であればスライディングパッドアイが付いていますから、こういった細かい装備からも「あぶくま」型護衛艦の古さが感じられます。

▲煙突の側面に設置された固定パッドアイ(補給艦との間にロープを張り、ロープウェイのように貨物を輸送艦から移送する際に使用する。スライディングパッドアイは上下に動くが、こちらは動かないので固定パッドアイ。)
アスロックランチャーから少し後部へ行くと、さりげなく通路に設置された3連装短魚雷発射管に出会います。

▲3連装短魚雷発射管
魚雷を発射する際は、下の動画のようになるみたいです。
艦尾の見学
左舷側の通路をさらに後ろへ進んでいくと、後部甲板に出ました。
後部甲板のど真ん中には高性能20ミリ機関砲が鎮座し、振り返ると艦対艦ミサイル「ハープーン」のランチャーが見える場所。

▲後部甲板の兵装等
面白いのは、ヘリコプターの操縦士の水平感覚を維持するために使用する水平灯が固定式になっていること。
ヘリコプターが着艦できる護衛艦の場合は、船がどれだけ揺れても水平灯は常に水平を保ち、パイロットはそれを目安に安全に着艦できるわけですが、「あぶくま」型護衛艦の水平灯は固定式。
これは、「あぶくま」型護衛艦がヘリの着艦に対応しておらず、空中でホバリングした状態のヘリから荷物を受け取ったり、ヘリに船から給油を行うからです。
船がどれくらい揺れているのかをヘリのパイロットに正確に伝えるため、あえて水平灯を固定式にしているようです。
それにしても、こんなに低い位置に設置されている高性能20ミリ機関砲は珍しいので、艦首の主砲と並んでこちらも大人気。

▲なかなか見られない高性能20ミリ機関砲の後ろ姿

▲給弾機構は歯車がむき出し
ペンギンのような可愛い物体ですが、どれほど恐ろしい兵器なのか下の動画でご覧ください。
毎分3,000発(1秒間に50発)という恐ろしい速度で直径20mmの機関砲弾をばらまいて弾幕を張る兵器です。
護衛艦に向かって飛んでくる対艦ミサイルなどを撃墜するための、いわば最後の切り札。至近距離まで迫った不審船に対しても使えます。
退艦
10:10頃
艦尾の兵装を満喫したら、右舷の通路を前方に向かって進み、アスロックランチャーの右舷側から退艦です。

▲右下に写る踏み台のような階段から退艦用の舷梯に上がり、岸壁に下りた
下りた後は、岸壁から護衛艦の姿をまじまじと眺めてから家路につきました。

▲岸壁から見たハープーン(発射時に出る熱や爆風は海面に当てる仕組み)

▲護衛艦とねの艦番号は低視認性塗装(ロービジ塗装)になっていた(錨の重さは2,200kg)

▲岸壁から見た艦尾の様子
いつも思いますが、大変な訓練の合間を縫ってこのようなイベントを実施していただき、自衛隊の皆様には頭が上がりません。
*1:「あぶくま」型には「あぶくま(DE-229)」、「じんつう(DE-230)」「おおよど(DE-231)」「せんだい(DE-232)」「ちくま(DE-233)」「とね(DE-234)」の6隻があります。
*2:「防衛力整備計画について」(防衛省、2022年12月)によると、「旧式護衛艦の早期除籍等により、省人化に配慮した新たな護衛艦(FFM)を導入」とされています。削減対象は「あさぎり」型、「はたかぜ」型3隻、「あぶくま」型6隻です。
*3:艦艇記号のDEはDestroyer Escortの頭文字で、主に近海警備用の護衛駆逐艦を表すものです。現在一般的な護衛艦は「DD(Destroyer)=本来は駆逐艦の意味だが自衛隊では汎用護衛艦」や「DDG」(GはGuided Missile(誘導ミサイル)=ミサイル護衛艦)、「DDH(HはHelicopter)=ヘリコプター搭載護衛艦」といった艦艇記号をもっています。