概要
国道312号線で市川町付近を走っていると、木が数本生えた平らな山頂を持つ山が西に見えます。
山頂が平らなのは、山城があったから。
「日本の中世城館調査報告書集成」の第15巻では、「稲荷山城」として紹介されています。
▲鶴居城山(稲荷山)(ふれあい市川大橋の西にある前田踏切付近から撮影)
稲荷山城
【城史】『播磨鑑』には「城主は永良則縄、広瀬遠江守師範の子也」とあるに対し『日本城郭全集』には「城主は永良近江守雅親で広瀬孫四郎親茂の子、宍粟郡長水城主の末で、永禄3年(1560)10月13日卒した」とある。『神埼郡史』にはこの両方の記載を合せて「城主は赤松氏幕下永良則縄、広瀬遠江守師範の子遠江守雅親で甘地村谷城を兼有していた。広瀬氏はまた宍粟郡長水城主であったが移封されてこの地に来た。本城は又一名鶴居城とも呼び、永禄3年10月雅親卒して後絶えた」とある。出典:都道府県別 日本の中世城館調査報告書集成 第15巻 P223
兵庫県教育委員会・和歌山県教育委員会編 2003年4月30日発行 ISBN4-88721-446-4
本日は、稲荷山城があった鶴居城山(標高433m)を歩いてきました。
この山は2014年1月と2017年12月に登ったことがあり、今回が3回目です。
鶴居城山の登山口は南口と北口があり、今回は南口から登って北口へ下山するという2014年に歩いたのと同じ行程です。
▲対応する地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図「寺前」
▲カシミール3Dで作成したルートの断面図
姫路市街から登山口へ
10:05
姫路市街の自宅を車で出発。
国道312号線を北上し、「屋形南」交差点を左折します。
「ふれあい市川大橋」で市川を渡ったら、「前田踏切」で播但線の線路を越え、踏切から西へおよそ200mのプレハブ小屋が建つ角(「飛び出し坊や」がある)を右折します。
そこからおよそ660m道なりに北へ進んだ所にある交差点を左折。ここには「←城山」の道標があります。
250mほど西へ進んだところで丁字路に突き当たるので、それを左折(ここにも「←城山」がある)。
140mほど南へ進んで道なりに大きく右にカーブし、西へ向きを変えてから200mほど進むと墓地に出会いますが、そこが鶴居城山登山道南口です。
道に迷うハイカーさんが多かったのか、要所に「城山」の道標が立てられています。これなら初めての人でも迷わず登山口へたどり着けそう。
▲鶴居の集落内に立っている道標
登山口周辺の道路は1車線幅しかないため、運転には注意が必要です。
https://maps.app.goo.gl/HfKroZ16xs2Mgovm7
▲駐車場の位置
11:00
駐車場に到着(地図中「P」)。
私の車に続いて何台もの車がやってきたので、「鶴居城山は人気があるんだなぁ」と思っていたら、墓地で法要を行う方たちでした。
▲登山道南口(墓地に車を置く)
登山口から山頂へ
11:07
準備が整ったので出発。
法要の邪魔にならないようクマよけ鈴の音を止め、静かに登山口へ向かいます。
▲倉庫の間の道に入る
11:11
防獣ゲートのある登山口に到着(地図中「登山口」)。
ゲートは右側に掛け金が一つだけあって、そのすぐ上には網目がない開口部があります。そこから手を突っ込んで掛け金を操作し、開閉する仕組み。
▲登山口の防獣ゲート
まずは尾根の中心に乗るために、登山口から道は南へ延びていました。
▲尾根の中心に向かって南へ登る
尾根に乗れば、後は100mおきに付けられた道標を励みに、山頂までの一本道を進むことになります。
道標によると、登山口から山頂までは1000m。
▲登山口から100m(頂上まで900m)地点の様子
登り始めて間もなく体が温まって暑くなってきたので、アウターもミドルレイヤーも脱ぎ、上半身は半袖Tシャツ1枚になりましたが、暑がりの私にとってはそれでちょうどいい気温(気温は6℃ほどでした)。
登山口から200m(頂上まで800m)地点(標高230m付近)からは、等高線の間隔が狭くなることから分かる通り急斜面になります。
11:30
半袖Tシャツ1枚なのに「暑い~」とヘロヘロになりながら登山口から400m(頂上まで600m)地点に到着(地図中「四等三角点」)。
ここには四等三角点標石(点名:鶴居)が埋まっています。
三角点は山頂の目印だと誤った認識を持たれることもありますが、本来はGPSが無かったころに目視で方位角を測って正確な位置を測定するための基準点(観測目標)ですから、麓から見やすい中腹にあることも多いです(山頂だと三角点に測量用ポールを立てても、麓からまったく見えなくて不便です。*1)。
▲登山口から400m(頂上まで600m)地点の様子(道端に三角点標石が埋まっている)
登山道はあまり展望も変化もない単調な道ですが、樹間からは時々東麓の田園地帯、西にはとがった七種槍(なぐさやり)の美しい姿が見えました。
▲何本もの尾根を周囲に広げている七種槍
登山口から600m(頂上まで400m)地点(標高約340m)からは、斜度がきつくなります。
山城があった山では、城域に入る手前で一気に険しくなるのはよくあることです。
▲見ての通り、ここから一気に斜面の角度がきつくなる
距離にして25mほど急斜面を登ったところで道は右へ向きを変え、直登ではなくつづら折れの道ように、急斜面を斜めに横切るように登ります。
すぐに道は左に急角度で曲がり、尾根を横切って西側斜面に出ました。
右上の稜線上に削平地があるようなないような…
▲尾根の西側に出てしばらく進んだところは登山口から700m(頂上まで300m)地点
尾根の西側斜面から尾根の中心へ登ったところは、登山口から800m(頂上まで200m)地点でした。
11:46
登山道の分岐に出会いました(地図中「北口分岐」)。
二股の分岐になっていて、左に進むと頂上。右に進むと登山道北口へ下山してしまいます。
ここはもちろん左へ。
北口へ歩く人は少ないようで、ぼーっと歩いていたら見過ごしてしまいそうな分岐です。
▲分岐の様子
この分岐のすぐ先には、山城好きの方なら土塁跡だと分かる盛り上がりがあり、視線を上げるとその上段にある郭(くるわ。斜面を平らに削って作られた平地。)の縁を補強するためと思われる石積みが見えます。
▲分岐のすぐ先で頭上の郭跡の縁に残る石積み
当時はこの場所まで攻め込むと、土塁の上からだけでなく、さらにその上の郭からも火縄銃や弓矢による攻撃を受けたんだろうな。
狭い尾根上に郭が並んでいるだけの簡単な縄張りだと思っていましたが、高低差を利用して強力な火力を発揮するようになっている実際の構造を見ると、平面図ではわからない城造りのうまさが感じられて何だか楽しい。
また、こうやって城の防御設備を目の当たりにすると、城攻めを行っていた当時の武者がどれだけ勇猛果敢だったのかもよく分かります。
攻め手からは矢や鉄砲を撃ち上げることになって有効射程は短くなるし、そもそも土塁や郭の縁に隠れている守備兵の姿はほとんど見えません(守備側からは攻撃側が丸見えです)から、攻める側はどれほど恐ろしかったことか。
登山口から900m(頂上まで100m)地点から先にも、小さな郭跡がいくつも尾根上に並んでいます。
登山道はそれらの郭跡の右側に付けられているので、山城好きの方は左側の郭群を見落とさないようにしてください。
写真では地形の立体感が分からないため、ここには写真を載せていません。
簡易トイレ(?)と思われるブルーシートが登山道の右側に張られているのが見えたら、もうすぐ頂上です。
山頂(昼食)
11:53
鶴居城山(稲荷山)の頂上に到着しました(地図中「山頂」)。
▲山頂の看板
▲山頂の南端には旗竿とベンチ付の机がある
過去に2回来ていますから山頂に木製の机と椅子があることは知っており、「木製なので朽ちているかも」と心配になったので小型の机と椅子を持ってきましたが、幸いなことに山頂の机とベンチは健在。
山頂は稲荷山城の主郭(本丸)があった場所ですから、広くて平らになっています。
▲ドローンで撮影した山頂の様子
https://shimiken1206.sakura.ne.jp/panorama/tsurui20140105/virtualtour.html
▲鶴居城山山頂で撮影した全天球パノラマ(撮影日:2014年1月5日)
https://shimiken1206.sakura.ne.jp/panorama/tsuruijo_aerial20231224/index.html
▲鶴居城山山頂で撮影した空撮全天球パノラマ(撮影日:2023年12月24日)
▲山頂から見た飯盛山城跡(都道府県別 日本の中世城館調査報告書集成 第15巻 P221によると、赤松氏の城で1578年に落城。)
▲山頂から見た谷城跡(稲荷山城の支城で、永禄年間に落城)
飯盛山城跡と谷城跡は、2019年に歩いたことがあります。詳細は下のリンクからご覧ください。
この開放的で展望の良い山頂で食べるために、マルちゃん正麺の焼そばと卵×2個、ソース、削り節を持ってきました。
▲本日持ってきた食材
これらの食材を使って作るのは、モダン焼きもどき。
焼きそばを普通に作り、生卵と和えてフライパンで両面を焼くだけですが、美味しいです。
▲出来上がったモダン焼きもどき
過去に明星が販売していた「一平ちゃん夜店のモダン焼き風セット」をまねたものです。
下山(山頂から北口へ)
13:04
素晴らしい景色とドローン操縦、美味しい昼食を満喫できたので、下山開始。
13:08
往路で11:46に通過した「北口分岐」に到着(地図中「北口分岐」)。
歩く人が少なそうな登山道北口への道へ入りました。
▲登山道北口への道に入った
道は歩きやすそうに見えるのですが、実際は落ち葉と大量の石ころのせいで非常に歩きづらく、転倒こそしなかったものの、何度も足を滑らせました。
登山道北口への道は、大部分がつづら折れで斜度は緩めです。
▲立派な道に見えて歩きづらい(路面は石ころだらけ)
▲場所によっては松の幼木が多く生えている
植林帯の中に入ってしばらく下ると、林道に出ました。
▲植林の中の道の様子
13:31
林道に出ました(地図中「林道出会い」)。
そのまま林道を下ります。
▲林道の様子
13:32
防獣ゲートに出会いました(地図中「防獣ゲート」)。
このゲートは観音開きで、扉の合わせ目部分に2つの掛け金が付いています。
▲防獣ゲート
▲掛け金は扉の外側に付いているが、内側からでも操作しやすい(上下2箇所にある)
防獣ゲートを抜けて左前方へ進むと、集落へ出る道があります。
13:36
登山道北口に出てきました(地図中「登山道北口」)。
▲ここに出てきた
後は、車道を南へ450m歩けば駐車場です。
13:43
駐車場に戻ってきました。
登山道北口への道は、歩く人が少ないためか道の真ん中に松の幼木が生えていたり、路面を覆うようにシダの葉っぱが広がっている場所もあります。
登山道南口からの道に比べれば斜度が緩いため、歩く人が増えて遊歩道らしさが出てくれば、手軽に433m標高点(山頂)へ行けるルートとして人気が出るかも。
ただ、往時の登城道の可能性がある南口からのルートと違って、北口のルートは歴史的な雰囲気が味わえません。
各自のお好みでルートを選んでみてください。
交通アクセス
今回紹介した登山口へ公共交通機関を利用して出かける際に便利なのは、JR播但線の鶴居駅です。
駅から登山口までの距離は、南口も北口もおよそ1.2km。
*1:余談ですが、何とか周囲から見えやすくするため、山頂に三角点がある山で、山頂の木の上に旗竿と測量旗を取り付けてあるのを昔に見たことがあります。この場合は三角点と観測目標(木の上の竿)の位置がずれるので、偏心補正という計算が必要。