購入の経緯
山歩きで水蒸気炊飯や湯煎を多用するようになり、一回当たりの燃焼時間が数十分にもなってくると、登山用のガス缶(いわゆるOD缶)では燃料代がもったいないと感じるようになってきました。
そこで燃料代を抑えて山での食事を楽しめるように、家庭用の安価なカセットガスが使えるレギュレーターストーブ「ST-310」を何年も前に購入。

▲山歩きで愛用しているST-310
頑丈で扱いやすく、運用にかかる費用が安いST-310は私の山歩きで大活躍。
今時の「映え」を無視して実用性だけを考慮したデザイン、価格が高くなりにくく、メンテナンスが楽な(ほとんど何もしなくても良い)素材と設計は、まさに「(アウトドア用具は)こういうのでいいんだよ」といえる傑作ガスストーブです。
もちろん欠点はあり、唯一ともいえるその欠点とは携帯性の低さ(大きさと、本体のみで330gという重さ)。
それでも実用性の高さからST-310を使い続けていましたが、2024年4月19日、ST-310を小型化して重量も大幅に軽くなった新モデル「トライトレイル(ST-350)」が発売され、発作的に購入してしまいました。
概要
トライトレイルは、カセットガスが使用できるアウトドア用のガスストーブです。
旧モデルであるST-310との違いは、軽量化のためにゴトクが3本に減り(ST-310は4本)、ゴトクがチタン製になり(ST-310はステンレス)、カセットガスを輻射熱から守る遮熱板が小さくなり、燃焼部が風に強いウィンドマスターと同型になったことです。
「雰囲気は似ているけど、まったくの別物」といった方が正しいかな。

▲トライトレイル
仕様

▲トライトレイル(ガス缶がセットの初回限定版「ST-350TB」*1のパッケージ

▲トライトレイル単体のパッケージとガス缶(CB TOUGH 125)
製品名: レギュレーターストーブ「トライトレイル(TriTrail)」
型番: ST-350
メーカー: 新富士バーナー株式会社(日本)
サイズ: 138mm×156mm×111mm(使用時・本体のみのカタログ値)、112mm×47mm×113mm(収納時のカタログ値)
重量: 135g(本体のみのカタログ値)
発熱量: 2,200kcal/h
燃料: SOTO製品用専用容器
耐荷重: 2kg
生産国: 日本
定価: ¥9,900(税込)
購入価格: ¥9,900(税抜)
購入先: sproutzero(姫路市)
外観と使い方
トライトレイルのパッケージには、本体とタイベック製収納ポーチ、そして取扱説明書が入っています。

▲パッケージ内容
トライトレイルは、次の要領で展開して使用します。

▲収納状態のトライトレイル

▲点火レバーを展開する

▲器具栓つまみを展開する(ガス缶接続時にガスが漏れないよう、時計回りに回して閉める)

▲2本のゴトクを器具栓つまみ側へ展開する(遮熱板が付いたゴトクは固定式で、残り2本が動く)
トライトレイルはカセットガスを3本目の脚として使用する構造ですが、2本のゴトクだけでも自立できます。それはカセットガス接続部分のすぐ下にある「補助スタビライザー」のおかげ。

▲補助スタビライザー

▲カセットガスをセットしなくても、トライトレイルは自立する
自立するのは準備や片づけをしやすくするのが目的で、負荷に耐える構造にはなっていません。この状態で上にクッカーなどを乗せると、転倒します。
トライトレイルの器具栓つまみのすぐ下には点火レバーがあり、それを押し下げるとテコの原理で圧電素子のボタンが押される構造になっています。

▲トライトレイルの点火レバー
点火レバーを押し下げると、バーナーの中心にある電極から火花が飛び、それによってガスに火が付きます。
高所での使用時や、電極が汚れたり錆びていたり、ガスの勢いが強すぎたり風が強い場合は、点火できない場合があります。
そんな状況に備えるため、予備の着火用具(ライター、マッチ等)を用意することをお勧めします。

▲すり鉢状のバーナー中央に電極がある
参考情報
ガスと空気の混合比が適切でなければ、火花による着火はできません。下のグラフをご覧ください。
左右はブタンと空気の混合気におけるブタンの濃度(右に行くほど高い)で、上下は点火に必要なエネルギーを表しています(低いほど点火しやすい)。
これを見ると、日常生活の環境ではブタンガスの濃度が4.5%ほどの時が最も点火しやすいことが分かります。ガスを多めに出す方をYouTubeではよく見かけますが、ガスが濃い方が良いというわけではありません。
下のグラフの出典元である論文を見ると、混合気の圧力や温度も点火に必要なエネルギーを変化させる要因になることが分かります。
ちなみに圧力と温度は、高いほど点火に必要なエネルギーが小さくなります。
出典:雲岡 義雄, 久保田博信,蒔田董, n-ブタン-空気混合気の最小発火エネルギー, 安全工学, 1987, 26 巻, 2 号, p. 79-84, 公開日 2017/11/30, Online ISSN 2424-0656, Print ISSN 0570-4480
トライトレイルのバーナーは耐風性能に定評があるSOTO「ウインドマスター(SOD-310)」と同じもので、風防が無くても多少の風には耐えられるようになっています。
収納するときは、ゴトクの回転軸を下から押し上げながら遮熱板のある側へ回転させます。

▲収納時は、ゴトクの回転軸を押し上げてロックを解除する
専用ガス缶(CB TOUGH 125)
CB TOUGH 125は、トライトレイルと同日に発売されたトライトレイル専用(2024年7月時点)のガス缶です。
家庭用のカセットガスよりも缶自体が頑丈になっており、イソブタン、ノルマルブタンに加えてプロパンガスも配合されていることから、新品の状態(プロパンガスが多く残っている)では、寒冷地でも安定した性能を発揮できるようです。
従来のCB缶よりも耐圧性のある容器(ボンベ)へ変更し、寒い雪山でも使用できるようOD缶と同等クラスのガス配合を実現しました。
ハイパワーなタフ缶は-5℃の環境下でも火力不足やドロップダウンに悩まされることなく安心してご使用いただけます。(※レギュレーター付のストーブを使用及びボンベが満タンのとき)
(出典:CB TOUGH 125の製品紹介ページ)

▲CB TOUGH 125(350mlサイズの缶ビールはサイズの比較用)
カセットガスは、一般的にノズルを保護するために円筒形のキャップが付いています。
それに対し、CB TOUGHシリーズのカセットガスのキャップは薄い円盤型。
カセットガスの首付近にある「角が尖った切り欠き」を埋める形状になっているため、運搬時に他の荷物を傷つけたり、出し入れの際に手を怪我する心配も皆無。

▲CB TOUGHシリーズに付属するキャップ
薄いため運搬時の邪魔にならないだけでなく、使用時の紛失を防ぐためカセットガスの底部に取り付けることも可能。
飛び出したノズルを押すとガスが噴き出てしまうカセットガスにとって、キャップをなくす恐れが大幅に減少するこの工夫は、非常に大切だと思います。

▲キャップをカセットガスの底部に取り付けた様子(こうすると紛失しない)
ちなみに、このキャップはCB TOUGH以外のカセットガスにも使用できますから、キャップを手に入れるためだけにCB TOUGHシリーズのガスを買っても良いかも。
CB TOUGH 125をトライトレイルにセットすると、下の画像のようになります。
ゴトクに取り付けられた固定式の遮熱板が、クッカー底面の輻射熱からカセットガスを守ります。
遮熱板は小さいため、大きなクッカーを使用するとカセットガスが過熱されるおそれがあり、メーカーは直径が19cm以下のクッカーを推奨しています。
直径19cmまでのクッカーが安心してご使用頂けます。
(出典:メーカーWebサイト「ST-350 Tri Trail|2024NEW PRODUCTS」)

▲CB TOUGH 125をセットしたトライトレイル(遮熱板でガス缶を過熱から守る)
パッキング
トライトレイルには、タイベック素材で作られた専用の収納ポーチが付属します。

▲トライトレイルと収納ポーチ

▲収納ポーチに入れた様子
収納ポーチに使われているタイベックの質感が個人的に好きではないため、私はたまたま家にあったメッシュポーチ(SAVOTTA トリンケットポーチ)を収納ケースとして使っています。

▲ミリタリー感のあるメッシュポーチに入れた様子
トランギアのストレージサック(TR-746007)にも収納可能。

▲トランギアのストレージサックとの大きさ比較
ST-310に比べて小さくなりましたが、トライトレイルは登山用のガスストーブに比べるとやはり大きいです。
とはいえ、MSRのアルパインストアウェイポット 775mlには、問題なく収納が可能。

▲トライトレイルをMSRアルパインストアウェイポット 775ml(直径約14cm)に入れた様子
トランギアのラージメスティンであれば、トライトレイルとCB TOUGH 125を一緒に入れられます。

▲ラージメスティンならガス缶も入る
トライトレイルは、私が水蒸気炊飯に使用する戦闘飯盒2型にも収まります。

▲戦闘飯盒2型に収まる
登山者がよく使う「縦に細長いクッカー」にトライトレイルは収まりませんが、そもそもああいったクッカーはお湯を沸かすだけのものですから、小型の登山用ガスストーブと組み合わせるのが良いでしょう。
トライトレイルの利点は「安価に長時間火を使える」こと。
個人的には、トライトレイルは水蒸気炊飯や湯煎(いずれも長時間火を使う)に使用する大きめのクッカーと組み合わせるのが正しい使い方だと思います。
したがって、それらのクッカーに収まりさえすれば、大きさは問題になりづらいでしょう。
ST-310との比較
トライトレイルの前身、「ST-310」と大きさを比べてみます。
まずは収納状態から。
折りたたんだ大きさは、二つとも大差ありません。
重さはST-310が本体のみで330g、トライトレイルは本体のみで135g。

▲収納状態の比較
展開した大きさを比べると、ST-310が巨大なのでトライトレイルは小さく見えます。
しかし、登山用の一般的なストーブを思い浮かべると、トライトレイルはやっぱり大きいかな。

▲展開した状態での比較
チタン製ゴトクの利点
旧モデルのST-310はゴトクがステンレス製で、火力調節の際うっかり手の甲や指がゴトクに当たると、火傷をすることがありました。
ステンレスは熱伝導率が低いのですが、それでもお湯を沸かしたり煮込んだりしている間にゴトク全体が熱くなってしまいます。
トライトレイルは軽量化のためにゴトクがチタン製になりました。
純チタンであればステンレスと熱伝導率は大差ありません(どちらも20℃で16~17W/m・K)が、一般的な製品に使われるチタンは合金で、チタン合金の熱伝導率は7~8W/m・Kほど。
つまり、トライトレイルのゴトクは熱を伝える能力がST-310の半分程度しかなく、ゴトク全体が熱くなるまでに時間がかかります。
ということで、ゴトクの温度の上がり方をサーモグラフィーで調べてみました*2。
表面に光沢がある金属等の素材は周囲の熱源の温度を反射し、それがサーモグラフィー越しに見えてしまいます。
ST-310のゴトクは光沢があるため、測定する脚だけに黒体テープ(放射率:ε=0.95)を貼りました。
条件をそろえるため、トライトレイルのゴトクにも黒体テープを貼り付けて測定。

▲各ストーブのゴトクの内一本に黒体テープを貼り付けた
各ストーブでアルパインストアウェイポット 775mlに入れた500mlの水を沸かし、沸騰してから5分間、火をつけたままの状態を維持。
その後、黒体テープを貼った部分の温度を測ったところ違いは明白でした。
ST-310はゴトクの中央付近が85℃もあるのに、トライトレイルでは50℃程度。

▲ST-310のゴトクの温度

▲トライトレイルのゴトクの温度
長時間火をつけたままなら、(いくらチタン製とはいえ)トライトレイルのゴトクも温度が上がるとは思いますが、チタンはステンレスより軽いため蓄えられる熱が少なく、冷めやすい性質があります。
つまりトライトレイルは、ST-310よりもゴトクで火傷をする危険性が低くなると考えられます。
最後に
ST-310より小型軽量になりましたが、トライトレイルは小さなクッカーに収まる登山用ガスストーブに比べると、まだ大きくて重いと感じます。
「山ではカップラーメンやフリーズドライ食品用のお湯を沸かすだけ」という登山者にとって、このストーブにメリットは何も感じられないでしょう。
そういった使い方の場合、OD缶を使用する登山用の超小型ガスストーブの方が、携帯性や重量の点で有利です。
しかし、山で水蒸気炊飯や湯煎といったガスストーブを長時間燃焼させる作業をする私の感覚では、OD缶より安いカセットガスが使えるトライトレイルは素晴らしい製品です。
旧モデル(ST-310)より200g近く本体が軽量化されたことに加え、バーナーの耐風性能が上がったことで別途風防を持って行く必要がなくなり、その分も軽量化できます。
軽い上に燃料代も安く、(湯沸かししかできない縦長のクッカーではなく)調理に使える大きめのクッカーであれば中に収納して持ち運べるサイズになっているわけですから、私の使い方であれば何の問題もありません。むしろ、理想的なストーブです。
トライトレイルの炎は一点集中型ですが、水蒸気炊飯や蒸し調理には問題がありません。
ところがチャーハンや焼きそばを炒める時などは、一点だけ加熱されると焦げ付いてしまうため、そういった調理が必要な場合は、重いですが旧モデルのST-310がまだ活躍してくれています。
ゴトクが3本のため四角いクッカーと組み合わせて使うのには不向きですから、その点はご注意を。
一度ホットサンドメーカーをトライトレイルに乗せてみましたが、すぐに転げ落ちて使い物になりませんでした。

▲ホットサンドメーカーのようなバランスの悪い器具は、いとも簡単に転落する
しかし、後日購入した社外品の専用ゴトクにより、このバランスの悪さは解決できました。
長所
- 安価で入手が容易なカセットガスが使える*3。
- カセットガスを使用するストーブとしては小型で軽量。
- バーナー部分はウインドマスターと同じため、耐風性能が高い。
- レギュレーターを備えている(低圧のガスで動作する)ため、ある程度低温に強い。
短所
- 登山用小型ストーブと比べると大きくて重い。
- 直径が小さな登山用クッカーには収納できない。
- ゴトクが3本しかないため、クッカーの形状によっては乗せた時の安定性が低い(社外品のゴトクを購入すれば対策可能)。
- 主に湯沸かしを目的とした登山用ストーブに多い「一点集中」の炎のため、組み合わせるクッカーや使い方によっては焦げ付きやすい。
