播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

世界初のチタン製魔法びんとして話題になった:Therma 400

Therma 400とは?

Therma(サーマ)400は、本体やフタなど大部分がチタンで出来た魔法瓶で、容量は名前が示すとおり400ml。

2018年にクラウドファンディングで支援を受けて販売されましたが、その際は世界初のチタン製魔法びんということで大いに注目を集めました。

Therma400のうたい文句は、おおよそ以下のようなものです。

  •  高い保温・保冷性能
  •  チタンでできているが故の高い抗菌性能
  •  軽さ

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▲Therma 400(本体側面にプリントされている文字列は、チタンの元素記号、チタンの比重、チタンの融点です)

製品名: Therma 400
サイズ: 高さ19.5cm×直径6.5cm(カタログ値)
重量: 260g(カタログ値)
容量: 400ml
価格: 1万円台前半
販売元: Thingyfy(カナダ)
備考: これは私が購入したのではなく、買われた方(クラウドファンディングで出資された方)から譲り受けたものです。

Therma 400の外観

Therma 400は、本体、フィルター、フタの3つで構成されています。

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▲Therma 400の構成部品(左から本体、フィルター、フタ)

フィルターは、Therma 400にお湯と茶葉を入れた時、茶葉を気にせずお茶などを飲めるようにするためのもので、本体上部にはめ込んで使います。

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▲フィルターを取り付けた様子

底面にはシリコン製の輪っかが付いており、机などに置いたときの安定性は高くなっています。

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▲底面のシリコン

Therma 400の保温性能

Therma 400の保温性能を調べてみました。

方法は単純で、沸騰したお湯400mlをTherma 400に入れてフタをしっかり締め、6時間後に中のお湯の温度を測るというもの。

参考のために、Therma 400に近い大きさの魔法びんと比較してみることにしましょう。

比較対象にしたのは、私が山歩きで使用しているサーモス(Thermos)ブランドの「山専用ボトル(容量:500ml)」。(適当な魔法びんが我が家にこれしかありませんでした。)

こちらは容量がTherma 400より多いですが、中に入れる熱湯の量は400mlにしました。

山専用ボトルはコップで中栓を覆う設計になっていますが、このコップは被せずに実験しています。

いずれも、お湯を入れる前に予熱(熱湯を入れて振り、中を温めること)はしていません。

結果はこちら。

夏の暑い室内(33~35度C)に6時間放置した後の湯温

  • Therma 400: 約62度C
  • 山専用ボトル: 約83度C

保温性能は、やはりサーモスの山専用ボトルが優れています。

この保温性能の違いがどこから来るのかは、簡単に分かりました。熱湯を入れた後のTherma 400は、フタがかなり熱くなるのです。

フタから盛大に熱エネルギーを放出するせいで、中の湯温が低下してしまうというわけです。

フタの温度がどの程度上がるのか、サーモグラフィー(サーモカメラ)で撮影してみた結果はこちら。

下の画像は、Therma 400と山専用ボトルを並べて真上から撮影した熱画像で、左がTherma 400、右が山専用ボトル(コップなし)。

画像左上の「Sp1」がTherma 400の天面の温度、「Sp2」は山専用ボトルの中栓上部の温度です。

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▲熱湯を入れてから1時間後の温度(これは不正確な熱画像)

この熱画像だと両方とも同じくらいの温度に見えてしまいますが、触るとTherma 400の方が明らかに熱い。とても山専用ボトルと同じ温度とは思えません。

実は、赤外線サーモグラフィーで温度を測るときには、「放射率」という大事な要素があるのです。

簡単に説明すると、放射率は物質が熱エネルギーを赤外線としてどの程度放射するのかを表す値で、0~1の値を取ります。

接触式の温度計で測った温度が100度C、赤外線サーモグラフィーで測っても100度Cと表示されるような物質は、放射率が「1」。接触式温度計で100度Cでも、サーモグラフィーで60度Cとなる物質は、放射率が「0.6」という具合。

Therma 400に使われているチタン(表面はざらざら)と、山専用ボトルの中栓(表面がざらざらした樹脂製)では放射率が異なるので、それぞれに合わせた設定で温度を測らないといけなかったのです。

黒体テープをそれぞれに貼って適切な放射率の設定を調べたところ、Therma 400は「0.65」、山専用ボトルの中栓(樹脂製)は「0.95」が良いということが分かりました。

というわけで、放射率を0.65に設定した熱画像と、0.95に設定した熱画像をPhotoshopで1枚に合成したのが、以下の熱画像です。

Sp1はTherma 400、Sp2は山専用ボトルの温度。

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▲熱湯を入れてから1時間後の温度(異なる放射率設定の画像を合成)

山専用ボトルの中栓は、触るとほんのり暖かい程度。対してTherma 400のフタは、何も知らずに触ると「熱っ!」となって急いで手を引っ込めるような温度です。

保冷性能に関しては実験をしていませんが、実体験を書きます。

Therma 400を入手した後、「暑い時期、夜中に喉が渇いて目が覚めたときのために、氷水を入れて枕元に置いておこう」と考えたことがあります。

寝る直前に氷水を入れたTherma 400を枕元に用意。寝てから数時間後に喉が渇いて目が覚めた時は、冷たい水を飲むことができました。しかし、翌朝(氷水を入れてから約7時間後)には氷が全て溶けていました。

フタの部分の断熱性能が低い魔法瓶としては、コストコで購入したStanleyの「Classic Vacuum Water Bottle(750ml)」(保冷専用)も持っていますが、こちらは暑い時期に氷水を入れておくとフタ部分が結露するほどの断熱性の低さ。しかし、氷水を入れてから12時間以上経っても、中に氷が残っています(夏場の仕事用水筒として愛用しています)。

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▲コストコで買ったStanley Classic Vacuum Water Bottle(氷水を入れておくと、フタの黒い樹脂部分が結露する)

最後に

今回紹介したTherma 400は、保温性能の低さに落胆した購入者さんから譲っていただきましたが、確かにフタの断熱性の低さは、魔法びんとしてどうかと思います。
保温性能の比較に使った山専用ボトルと、仕様を比較してみましょう。

  山専用ボトル Therma 400
重量 約280g 約250g
容量 500ml 400ml
保温性能 上記実験の通り
価格 5,500円(税抜) 1万円以上

 これを見ると、サーモスの山専用ボトルが優れた製品であることがよく分かります。チタンでできていることによる軽さは、登山用に軽くつくられた山専用ボトルと比較すると、それほどメリットにはなりません。

Therma 400は、チタンでできているため科学的に安定しており、塩分を含むスポーツドリンクなど、ステンレスボトルでは入れられないような液体も入れられますし、抗菌性能が高いというメリットもあるようですが、山専用ボトルとの保温性能と価格の差が、それらの利点に見合っているかどうかが問題です。

2019年には、保温・保冷性能を改善し、容量を450mlに増やしたTherma 2.0が販売されるようです(クラウドファンディングでの支援受付はすでに終了しています)。