ポリウレタン(PU)コーティングの劣化とは?
ナイロン生地で出来たアウトドア用のバックパックやポーチ類は、防水性を高める(水の浸透を防ぐ)ために内部にポリウレタン(PU)がコーティングされています。
しかし、このポリウレタンは時間が経つと劣化(加水分解)が進み、やがてネチャネチャになって茶色く変色し、独特の酸っぱい匂いを放つ上に、中に入れた荷物の表面に汚い粉が大量に付着するようになります。
備考
経年劣化はポリウレタンが合成された時点から始まり、止めることはできません。湿度が高い環境下では、劣化が進みやすくなります。
製品の生地自体は何ともないのに、内部のコーティングだけがそうなってしまうので、捨てるのも惜しい。
私の持っている山道具の中にも、ポリウレタンコーティングが施されているものはたくさんあります。
それらの大半が製造から10年以上経過しており、ひどい物は内部に茶色い粉末がたまり、程度の良い物でも内側がネチャネチャ。
劣化したポリウレタンだけを除去できれば、まだまだその製品を使い続けられます。
ポリウレタンは防水性を高めるためにコーティングされているそうですが、あんな加工をしていても、雨の中をしばらく歩けばバックパック内はビチャビチャです。
大した効果も無いのに、製造時にはコストがかかり、しばらく使うと利用者に不便をかけるだけ(「買い換え需要を喚起するための処理か?」とひねくれた見方をしてしまう)なので、私にとってはポリウレタンコーティングなんて取り除いてしまっても問題ありません。
というわけで、ネチャネチャになったポリウレタンコーティングの除去方法をインターネットで検索してみました。
見つかった方法は、「重曹の溶液に浸す」というもの。
簡単そうだったので、「重曹の溶液に浸す」方法に初挑戦してみることにしました。
重要!
- 重曹やセスキ炭酸ソーダの溶液に漬けると、ポリウレタンを除去する対象物に印字されているメーカーロゴやラベルの文字、模様などが消えたりかすれたりする場合があります。
- アルミや皮革でできた部品は、溶液に漬けることで変質することがあります。ジッパータブに皮が使われている場合などは、事前に取り外しておいてください。
- 樹脂製の部品は、溶液に漬けることで表面が変色・変質する場合があります。
- 高価な、あるいは大切なものに対しては、ここで紹介する作業を行わないことをお勧めします。
ポリウレタンコーティングを除去するのに必要な物
ネットでよく見られる方法は重曹をつかうものですが、アルカリ性の薬品がポリウレタンを除去してくれるということなので、重曹よりもアルカリ性の強いセスキ炭酸ソーダを使うことにしました。
▲セスキ炭酸ソーダと重曹(どちらも100円ショップのダイソーで購入した物。重曹を使うのが一般的なようです)
- ポリウレタンコーティングを剥がしたい製品を浸せる大きさの容器で、アルカリ性の水溶液の影響を受けない材質の物(アルミは不可)。
- 重曹(私はセスキ炭酸ソーダを使いました。どちらも100円ショップやホームセンターで購入可能。)
- 台所用のゴム手袋
- 固めのブラシ
ポリウレタンコーティングを除去する作業手順(概要)
- ある程度温度の高い(40~50度)重曹の水溶液に対象を浸して長時間放置する。
- 劣化したポリウレタンは(1)の段階である程度溶けてしまいますが、残ったものはブラシで擦って除去する。
- 対象を真水ですすぐ。
- 対象を陰干しする。
- コーティングが取れていない部分があれば、ガムテープで剥がしたり、面積が広ければ、重曹の水溶液を作り直して(1)~(4)を繰り返す。
実際の作業手順
私はデイパックのポリウレタンコーティングを剥がすために、プラ製の衣装ケースを使用しました。
作業場所は浴室。
衣装ケースの中にセスキ炭酸ソーダ*1をドバッといれ(100円なので一袋全部入れても惜しくありません)、シャワーからお湯(40~50度)を出して衣装ケース内のセスキ炭酸ソーダを溶かしました。
先にセスキ炭酸ソーダを入れたのは、シャワーから出るお湯をかけることで、撹拌する手間なくセスキ炭酸ソーダを溶かせると思ったからです。
お湯の温度が高すぎる(65度以上)と、重曹やセスキ炭酸ソーダの洗浄能力が低下するそうなので、温度は上げすぎないようにしてください。
▲衣装ケースにセスキ炭酸ソーダを投入した様子
デイパックが浸かる程度の最小限のお湯が衣装ケースに貯まったところで、デイパックを投入。
デイパックが浮いてくるので、水を張った洗面器をおもりとして上に載せました。
注意
アルミ製のフレームや革製のジッパータブなど、この作業で傷みそうな部品があれば、あらかじめ取り外しておいてください。
▲デイパックを浸した様子
上の写真ではデイパックをそのまま浸していますが、ポリウレタンコーティングされている面が外側になるように、裏返しておくことをお勧めします。(今回は初挑戦だったこともあり、そこまで頭が回りませんでした。)
その方が、後の作業がやりやすいです。
そのまま12時間ほど放置して様子を見ると、下の写真のようにセスキ炭酸ソーダ溶液が茶色く濁っていました。
▲劣化したポリウレタンが溶け出した後の様子
ゴム手袋をはめてバックパック内部のポリウレタンコーティング面をブラシで擦った後(残っているポリウレタンがボロボロと剥がれる。この作業を行いやすくするため、予め裏返しておくと良い)、シャワーでデイパックをしっかりとすすぎます。
充分にすすげたら、水気を切ってデイパックを陰干し。
使用した衣装ケース内のセスキ炭酸ソーダ溶液はそのまま浴室に流せば良いのですが、溶液を捨てるために衣装ケースの片側を持ち上げたところ、「バキッ」と派手な音を立てて衣装ケースの取っ手が割れてしまいました。
水は重いです。はい。
衣装ケースを使うつもりの方は、ご注意を。
翌日、デイパックの内側を見るとガッカリ。
濡れている時には見えなかったのですが、まだまだポリウレタンが残っていました。
今回作業を行った私のデイパックは軍用モデルで、(ミリタリー好きでない方には何のことか分からないと思いますが)PALSウェビング*2やベルクロテープが縫い付けられています。
それらの裏にあたる部分は、ポリウレタンコーティングが取れていませんでした。
▲PALSウェビング等がある場所の内側は、ポリウレタンが残っていた
というわけで、再度セスキ炭酸ソーダ溶液(ぬるま湯)にデイパックを浸し、作業を繰り返しました。
私のデイパックの場合、2度目で9割方のポリウレタンコーティングが除去できました。
主気室内の下部は白いコーティングが残りましたが、あまり劣化していなかったのか、なかなか剥がれないためそのままにしています。
特に粘ついていないし、匂いもないので問題はなさそうです。
重要
重曹などのアルカリ性水溶液に溶けるのは、劣化したポリウレタンのみです。
▲主気室内に一部残った劣化していないコーティング
ポーチ類などの小物は、洗面台にお湯を張ってセスキ炭酸ソーダ(本来は重曹)を溶かし、その中につけ込みました。
▲洗面台での浸け置きの様子
▲左はポリウレタンコーティングがある製品。右のポーチは、ポリウレタンコーティングを除去したもの。光沢が全く違うのが分かる。
ポリウレタンコーティングを除去した製品は、防水性がなくなります。
いとも簡単に水が染みこんできますが、それは諦めて下さい。
最後に
何度も行う作業ではないので、自分なりのノウハウを蓄積するのが難しく、なかなか上手くいかない可能性もあります。
私は最適なセスキ炭酸ソーダ(本来は重曹)の量や漬け込んでおく時間が分からず、一度の作業でポリウレタンコーティングを取り切れませんでした。
ポリウレタンコーティングが傷んだ道具を複数お持ちの方は、どうなっても良いものをとりあえず一つ選び、それで予行演習を行ってから本番の作業を行うと良いでしょう。
私と同じようにセスキ炭酸ソーダを使った方の事例をインターネットで見ていると、印刷されていたメーカーロゴが消えたという報告がありましたので、重曹より強力なセスキ炭酸ソーダを使うと、アルカリ性の薬品の影響を受けやすい部品や印刷などがある場合は、それらが変質する可能性が高くなると考えられます。
本文中にも書いたので繰り返しになりますが、劣化していないポリウレタンは溶けませんので、ご注意を。
*1:個人的な好みにより、重曹ではなくセスキ炭酸ソーダを使いました。ネットに載っている情報が重曹ばかりなのは、セスキ炭酸ソーダだと何か問題があるからかも知れません。
*2:当ブログでは、過去にPALSウェビング等についての記事を載せています。ミリタリー好きの方は、こちらのURLからどうぞ。https://dfm92431.hatenablog.jp/entry/2016/11/27/120029