播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。原則として更新は週に1回です。広告は表示しません!

イギリス軍の寒冷地用被服:PCSサーマルジャケット

概要

このブログでは、以前アメリカ軍の第3世代寒冷地被服システム(Gen3 ECWCS)のフリースジャケットを紹介しました。

今回の記事では、イギリス軍の現用(当記事掲載時点)サーマルジャケット(保温性が高い上着)を紹介します。

サーマルジャケットの特徴は、イギリス軍のカタログで次のように簡潔に書かれています。

▲イギリス軍の戦闘服カタログに掲載されているサーマルジャケット(画像出典:Ministry of Defence. Defence Clothing Catalogue SECTION 1-6: DMC CG COMBAT CLOTHING. 2020, p.27)

Description: Jacket Thermal, Light Olive. Lightweight outer with fleece lining. Front slide fastener opening. Rank strap. Chest pocket with slide fastener forming stuff sack. Two slanted welt pockets with slide fasteners. Elasticated cuffs. Stand collar with stowable hood. Draw cord in hem, collar and hood

(出典:Ministry of Defence. Defence Clothing Catalogue SECTION 1-6: DMC CG COMBAT CLOTHING. 2020, p.27)

<当ブログ管理人による意訳>

説明:サーマルジャケット(ライトオリーブ色)。フリース生地の内張りを備える軽量なアウター。正面にファスナーを備える。階級章取付用ストラップを持ち、胸ポケットにはファスナーがあって、ポケット自体がスタッフサックになる。両側にファスナーで開閉できるスラントポケット(斜めのポケット)を備える。袖口はゴムで伸縮する。立ち襟にはフードが収納されている。裾、襟およびフードに絞りヒモを備える。

(出典:イギリス国防省. 防衛被服カタログ 第1章第6節:国内管理コード:CG*1 戦闘服. 2020年発行. 27ページ)

仕様

▲サーマルジャケットの前面

▲サーマルジャケットの背面(フード収納状態)

製品名: Jacket, Thermal, Light Olive, with integrated stuff sack.
NSN*2 8415-99-837-6198(SmallサイズのNSN)
メーカー: Cooneen Defence Ltd.(イギリス)
重量: 約565g(Smallサイズの実測値)
材質: 100%ナイロン(中綿はポリエステル)
色: ライトオリーブ(Light Olive)
生産国: 中国
備考: この記事で紹介しているものは、Smallのサーマルジャケットです。

▲サーマルジャケットのパッケージに貼られていたラベル*3

いくら調べてもイギリス軍のサーマルジャケットに関する仕様書や説明書は見つかりませんでした。そのため、この記事では「見て分かる範囲」での説明になることをご了承ください。

生産国について

イギリス軍は、国防費削減のために戦闘服や防護服などを中国で製造させています。
(参照:George Allison. "Some British uniforms and protective gear sourced from China". UK Defence Journal. 2024-11. https://ukdefencejournal.org.uk/some-british-uniforms-and-protective-gear-sourced-from-china/

▲サーマルジャケットのラベルに記載された生産国表示(「PO」は「Purchase Order(発注書)」の文書番号を表す数字かな?)

China Dailyの2004年8月1日の記事で「The British Army's next generation of combat uniforms are to be made in China in an attempt to save money, Britain's Ministry of Defence (MoD) said.」(当ブログ管理人による意訳:イギリス陸軍の次世代戦闘服は、経費削減の試みとして中国製になるとイギリス国防省が述べた。)と書かれていることから、20年以上前から中国製の戦闘服を使う計画があったことが分かります。

したがって、ラベルに「Made in China」と書かれているからといって偽物というわけではありません。むしろ、本物は中国製なのです。

▲ラベルに印刷されたブロードアロー(Broad Arrow=幅の広い鏃(やじり)が付いた矢)は、イギリス軍の官給品であることを示す記号(「Contract No(契約番号)」欄が空欄になっているため、このジャケットはイギリス軍との契約に関係なく作られた民間向け販売品であると考えられる。)

サーマルジャケットの特徴

生地

離れて見ると滑らかなナイロン生地に見えますが、よく見ると細かい格子があることがわかります。

これは、引き裂きに強くするためのリップストップ(「rip(引き裂き)」を「stop」する)生地が使われているということ。

▲サーマルジャケットの生地は細かい格子が入ったリップストップ生地

サーマルジャケットは外側も内側もリップストップのナイロン生地ですが、襟の内側だけはマイクロフリースが付いており、着用時に首周りに冷えを感じることがありません。

このちょっとした工夫により、着用時の快適性が大幅に上がっています。

▲襟の内側にはマイクロフリースが使われている

ファスナー

サーマルジャケットの正面には、ダブルファスナー(ダブルジッパー)が備わっています。

そのため、ファスナー(ジッパー)を閉じた状態でも温度調整や動きやすさを確保するために下の方を開くことが可能

▲ダブルファスナーなので引手が2つあり、上下を開いて温度調整ができる

襟の正面上部(顎の当たる部分)には、ファスナーの引手が当たって冷たさや不快感を感じないようにするためか、三角形のフラップが付いています。


▲引手が直接顎に触れないようにするためのフラップ

▲正しく閉じれば引手がフラップ内に入るため、顎に不快感を感じない

しかし、このフラップは薄くてコシがなく形状をしっかり保持できない(というより、引手に巻き込まれるような形状をしている)ため、必ず引手に巻き込まれることになり、上の画像のようにきちんと引手をフラップ内に収めるのは至難の業です。

▲引手がフラップを巻き込んだ状態(襟の内側から見た様子)

ダブルファスナーは、上側の引手を下げ切ってから外す時と、最初にエレメント(ギザギザの部分)をかみ合わせてから引手を上げる時にうまく動かないことがあるので、個人的にはあまり好きではありません。

私のサーマルジャケットも、購入直後はファスナーが外れなくて脱ぐのに苦労したり、ファスナーを閉めたいのに引手が全然上がらないということが度々ありました。

今は私がコツを掴めたのか、あるいはエレメントが若干摩耗して表面が滑らかになったのか分かりませんが、簡単に開閉できるようになりました。

よく分からないメーカーのファスナーです(イギリス軍はコスト削減のために中国製にしています)から、YKK製ファスナーのような滑らかな動作を期待するのが間違っているのかも知れません。

階級章取り付け部

イギリス軍の階級章にはRank Slide(ランク・スライド)と呼ばれる筒状のものがあり、サーマルジャケットではそれを通すための帯が左胸に取り付けられています。

▲階級章を取り付ける部分が左胸にある

この帯は上端がベルクロ留めになっており、ベルクロを外して階級章を通してから再びベルクロを止めることで、左胸に階級章を取り付けられる仕組み。

▲上端はベルクロ留め

私の手元にはイギリス軍の階級章がなく、実際に装着した状態をお見せできませんが、通常の戦闘服に階級章を着けている将校の画像がありましたので、転載します。

▲ベリーズ(中央アメリカの国)のジャングルで訓練するイギリス海兵隊員。胸元にはOD色で縦に長い長方形の階級章(rank slide)が取り付けられている。王冠は少佐(Major)を表す。(画像出典:イギリス国防省Webサイト Photo by Will Haigh 2017年1月25日)当ブログ管理人が「階級章」の文字と赤い直線を書き加えた。オープン・ガバメント・ライセンス。Open Government Licence(OGL)について:https://www.nationalarchives.gov.uk/doc/open-government-licence/version/1/open-government-licence.htm

袖口

サーマルジャケットの袖口は、ゴム袖になっています。

ゴムの交換用の穴が無いため、袖のゴムがヘタって来た場合は交換が大変だと思います。

素肌が直接接する部分ですから、長期間の使用で汚れてきそう。

▲ゴムで絞られた袖口

ポケット

ポケットは、開口部が縦になった大きなポケットが右胸に一つと、手を入れやすいように口が斜めになったハンドウォーマーポケットが左右に一つずつ付いています。

▲サーマルジャケットに備わっているポケットは3つ(赤枠内にポケット口がある)

いずれもポケット口はファスナー(ジッパー)により開閉可能で、引手を下げるとポケットが開くようになっています。

▲いずれのポケットも口はファスナーで開閉できる

これらの中で特筆すべきは、右胸のポケット。

サーマルジャケットは、全体を右胸ポケット内に収納できる「パッカブル(packable)」な構造になっているのです。

つまり、右胸ポケットが品名に付いている「integrated stuff sack(一体型スタッフサック)」になっているというわけ。

▲右胸ポケットの袋布を引き出した様子

面倒くさいうえにジャケットが傷みそうなので、私は収納を試したことがありません。

興味のある方は、下のYouTube動画をご覧ください。
サーマルジャケットの特徴の他、7分13秒あたりから収納方法が説明されています。


www.youtube.com

私も購入前はこの動画を参考にさせて頂きました。

というか、この動画をご覧いただければ私のブログ記事を読む必要はないと思うほど詳しく紹介されています。

フード

サーマルジャケットの襟の後部には、ロールアップ式に収納できるフードが内蔵されています。

▲一見すると何の変哲もない(少し分厚い)襟だが…

▲…左右と中央の計3か所のベルクロを外して上に開き…

▲…くるくると広げればフードが出てくる

▲フードを広げた状態

フードのツバ(庇)にあたる部分には針金のようなものが入っており、雨や雪を避けやすいような形状に整えることが可能。

▲フードのツバには針金が入っていて、ある程度形を保持できる

絞りヒモ(ドローストリング)

サーマルジャケットには、次の箇所にコードロック付きの絞りヒモが備わっています。

  • 襟の後ろ
  • 襟の前
  • フードの後ろ

裾を絞れば、下から冷気が入ってこなくなります。

▲裾の絞りヒモ

襟の後ろ(フード収納状態)の絞りヒモを締めると、襟元が閉まります。
なお、フードを出していてもこの絞りヒモは操作可能です

▲襟元を絞るための絞りヒモ

フードを広げた状態では、襟の前の左右両側に絞りヒモが出てきます。
これは、フード正面の開口部を絞るためのもの。

▲フード正面の開口部を絞るための絞りヒモ

フードの後部に付いている絞りヒモは、フードを後頭部に向けて引っ張るためのもの。

▲フード後部の絞りヒモを引くとフードが後ろ(矢印の方向)へ引っ張られる

サイズ

サーマルジャケットには、次の6種類のサイズが用意されており、スラッシュの左側の数字が着用者の身長、右側の数字が胸囲の目安になると思います。

<サイズ(身長/胸囲):NSN>

Small (160/80) :8415-99-837-6198 
Medium (170/90) :8415-99-837-6199 
Large (180/100) :8415-99-837-6200 
X Large (190/110) :8415-99-837-6201 
XX Large (200/120) :8415-99-837-6202
Outsize:8415-99-837-6203

(出典:Ministry of Defence. Defence Clothing Catalogue SECTION 1-6: DMC CG COMBAT CLOTHING. 2020, p.27)

お手入れの方法

サーマルジャケットのラベルには、次の洗濯表示があります。

▲サーマルジャケットの洗濯表示

  • 40℃以下のぬるま湯で、(洗濯機の)「化繊コース」で洗うこと
  • 漂白剤は使用しないこと
  • 乾燥機にかける時は、低温モードにすること
  • アイロンはかけないこと
  • ドライクリーニング可能(石油系)

最後に

イギリス軍のサーマルジャケットは、軽くて暖かいダウンジャケットのようなものです。

撥水性が高くフードもあるため、多少の雨や雪が降っている街中で屋根のない場所を少し歩く程度(建物を出てから地下街やアーケードへ入る等、数百メートル程度の移動)であれば傘が無くても問題ありません(日常的にアウトドア用の服を着ている私の個人的な感覚です)。

ダウンジャケットほど取り扱いに気を使う必要がなく、デザインがシンプルで軍用品らしさがほとんどないため、普段使いしやすい服だと思います。

買って非常に満足していますが、襟の後ろのコードロックが後頭部に当たることだけは気に入りません。これが唯一の欠点かな。

既に書いた通り、この記事に写っているサーマルジャケットは民間向け販売品です。したがって「本物の軍用品」とは言えないかも知れませんが、モノ自体はイギリス軍に納められているものと同等でしょう(軍用と民間向けで作り分けると無駄にコストがかかる)。

イギリス軍との契約で作られた生産数は、下記「参考資料」内「サーマルジャケットの調達数」の通り少ないです。つまり、イギリス軍に納められた本物は、容易に手に入るものではありません。

本物にこだわる方は、ラベルに注意を払って探してみてください。

イギリス軍に納入された「本物」であれば、ラベルやタグに「DC」から始まる契約番号が印刷されています。

参考資料

イギリス軍の戦闘服関連装備のうち、2018年から2023年にかけて中国で製造された装備品の一覧が見つかりましたので、紹介します。

出典は、2024年8月9日付でイギリス国防省が情報公開請求に基づいて発表した資料(Reference: FOl2024/12795)です。

サイズ別にNSNとともにリスト化されていましたが、品名ごとにまとめた上でアルファベット順に並べ替えました。入力ミスや漏れがあるかも知れないため、参考程度にご覧ください。

2018~2023年に中国で生産されたイギリス軍の装備品(衣料品)

BALACLAVA ASSAULT SUIT
BALACLAVA COMBAT VEHICLE
BELT WAIST AIRCREW
CAP
CAP COMBAT
CAP MTP
COMBAT HELMET
COVER COMBAT HELMET
COVER RUCKSACK
COVER COMBAT HELMET
COVER HELMETCAMOUFLAGE
COVER RUCKSACK
COVERALL ASSAULT SUIT
COVERALLS AIR CREW TUTOR
COVERALLS AIRCREW
COVERALLS COMBAT VEHICLE
COVERALLS FLYING DISPLAY
DRAWERS MENS PELVIC PROTECTION ANTI MICROBIAL
DRAWERS MENS PELVIC PROTECTION ANTI MICROBIAL OUTSIZE
DRAWERS WOMANS PELVIC PROTECTION ANTI-MICROBIAL
DRAWERS WOMANS PELVIC PROTECTION ANTI-MICROBIAL OUTSIZE
DRAWERS THERMAL
DRAWERS WOMAN;PELVIC PROTECT
DRAWERS MEN'S
EXTENDER MATERNITY
FACE MASK ECW
HAT SUN
HEADNET CAMOUFLAGE OLIVE
HEADNET INSECT PROTECTIVE LIGHT OLIVE
HEADNET CAMOUFLAGE
HEADOVER
HEADOVER WARM WEATHER LIGHT OLIVE
INSECT NET HEAD
JACKET COMBAT AIR CREW
JACKET THERMAL AIR CREW
KNEE PADS AIR CREW
KNEEPAD FITTINGS AIRCREW
PARKA
PARKA WHITE
POCKET CUTTER
POCKET CUTTER AIR CREW
RAG SWEAT TROPICAL
SCARF SHEMAGH
SHIRT UBACS AIR CREW
SHIRT MAN'S
SMOCK LIGHTWEIGHT THERMAL
SMOCK PARACHUTIST
SMOCK SNIPER
SMOCK WINDPROOF AIR CREW
SNOOD AIR CREW
TROUSER AND SKIRT EXTENDER
TROUSERS COMBAT AIR CREW
TROUSERS THERMAL AIR CREW
TROUSERS WHITE
TROUSERSC OMBAT AIR CREW
UBACS AIRCREW
UNDERSHIRT AIR CREW
UNDERSHIRT THERMAL AIR CREW
UNDERSHIRT THERMAL
UNDERSHIRT THERMAL VEST
UNDERSHORTS ANTI-MICROBIAL PCS

サーマルジャケットの調達数

続いて、2023年5月12日付でイギリス国防省が情報公開請求に対して発表した資料(FOl2023/03297)に記載されていた、「サーマルジャケットの調達数」を紹介します。

NSN サイズ 数量
8415998376198 S 1700
8415998376199 M 5000
8415998376200 L 10300
8415998376201 XL 3600
8415998376202 XXL 600
8415998376203 Outsize 0

こちらは2023年の数値です(それ以外の年の資料は見つけられませんでした)。

調達数が少ないように思いますが、イギリス軍の兵力は2023年時点で陸軍は約11万2千人、空軍が約3万6千人、海軍が約3万8千人(数千人の海兵隊を含む)の合計約18万6千人です。
(参照:Accredited official statistics Quarterly service personnel statistics 1 July 2023 Updated 14 December 2023)

2023年の調達数の合計は21,200着で、サーマルジャケットを使用するのは主に陸軍だと考えられますから、およそ2割の陸軍兵士に行き渡ることになります。

サイズ別の調達数を見ると、イギリス軍にはLサイズが適合する兵士が多いことが分かります。

*1:当ブログ管理人は、出典元の「DMC」がDomestic Management Codesの略称だと考えました。イギリス軍では、「CG」は戦闘用の被服を指すコードとして使用されるようです。

*2:National Stock Numberの略で、アメリカ軍をはじめとするNATO加盟国の軍隊が、装備品を管理するために使用する番号。民生品ではJANコード、出版物ではISBNに相当する数字で、防衛省が使用する訳語は「ナショナル物品番号」。

*3:Quantityは数量、D of QはDenomination of Quantityの略で「数量単位」という意味。「Each」は「1つ」を表します。Quantityが2、D of Qが5の場合は5個セットが2個入りという意味になり、1つのパッケージに10個が入っていることになると思われます。本来は最上段にイギリス国防省との契約番号、下から2行目にメーカー名が印刷されますが、このサーマルジャケットにはそれらの記載がないことから、当初から民間向けに販売する目的で作られたものだと分かります。