播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

日本山岳救助機構が扱っている軍用の止血用包帯:OLAES MODULAR BANDAGE-4"

今回は(今回も?)軍用品のネタです。

昔から一人で山歩きをしているので、出血が多いケガをしたときに自力で最低限の止血ができるよう、軍用の包帯をいくつか所有していました。

軍用の包帯は血液などを吸収するためのガーゼと、それを傷口に押しつけるための包帯が一体化したもので、脚をケガした場合なら両手で簡単に、腕をケガした場合でも、がんばれば片手で傷口の「直接圧迫止血」ができるという製品です。

ただ、軍用の包帯を山歩きに持っていくなんてあまりにも特殊な行動だと思うので、今までブログで紹介したことはありませんでした。

ところが、最近は「日本山岳救助機構合同会社(Japan Rescue Ogranization LLC:jRO)でも軍用包帯を取り扱っているので、ブログのネタだけでなく実用も兼ねて、jROが取り扱っている最新型の軍用包帯を購入することにしました。

概要

今回購入した包帯は、OLAES MODULAR BANDAGE-4"(オラエス・モジュラー・バンデージ 4インチ)という製品で、軍用品を管理する物品番号である「NSN」が割り当てられた本物の軍用包帯です。


www.youtube.com
▲メーカー公式の紹介動画

仕様


▲OLAES MODULAR BANDAGE-4"のパッケージ

製品名(日本語): 圧迫止血包帯「モジュラーバンデージ4(10cm幅)」
製品名(英語): OLAES MODULAR BANDAGE-4"
メーカー: Tactical Medical Solutions, LLC(アメリカ)
重量: 約89g(実測値)
生産国: 中国(?)滅菌はアメリカ
NSN*1 6510-01-558-3342*2
アメリカでの定価: $6.98USD
購入価格: ¥2,860(税込)
購入先: 日本山岳救助機構合同会社(jRO)(東京都)

外観

厚手のプラスチックバッグの中に、ガーゼと包帯が一体化したモジュラーバンデージが真空パックされています。

表面には製品名等が、裏面には使い方が図解入りで印刷されていますが、真空パックによって歪んでいるため、未開封の状態でこれらの内容を読み取るのは困難です。

ちなみに、表面にはヘビのロゴが印刷されていますが、これは「カドゥケウス」と呼ばれる「商業や交通のシンボル」マークです。

医療のシンボルである「アスクレピオスの杖」もヘビが書かれていますが、ヘビの数や翼の有無でデザインが異なっています。

実際、世界保健機関(WHO)のロゴに描かれているのはアスクレピオスの杖です。

Wikipediaによると、アスクレピオスの杖とカドゥケウスを混同した一人の米軍将校*3の影響で、商業や交通のシンボルであるカドゥケウスを医療品や陸軍医療隊のロゴとして使用してしまったようです。


▲パッケージの表面(左)と裏面(右)


▲パッケージ表面には“米軍では”医療のシンボルになっているカドゥケウスが印刷されている

米軍のMOLLE Medic Pocket(救急用品入れ)と大きさを比べると、下の画像のようになります。

Medic Pocketには、モジュラーバンデージを辛うじて2つ収納できます。


▲モジュラーバンデージとMedic Pocketのサイズ比較

使い方

使用時は、まず厚手のプラスチックバッグに入ったモジュラーバンデージを開封しないといけません。

道具を使わなくても開封できるように、切り口が3箇所用意されています。

一つは袋の一端の中央付近。
大きな矢印が書かれているのですぐに分かります。

この矢印は、切り口の位置を示すもの。


▲もっとも目立つ切り口

反対側の端は両側に切り口がついていて、それぞれ小さな矢印で指し示されています。
これらの小さな矢印は、切り口の位置ではなく「開封するために袋の端を持った手を動かす方向」を表しています。


▲残り2つの切り口は反対側の端にある

袋を開封すると、保護用の紙に包まれたモジュラーバンデージが姿を現します。


▲モジュラーバンデージは紙に包まれている(大きさが分かるように手で持っています)

紙を破り取ると、ようやくモジュラーバンデージ本体の登場です。


▲モジュラーバンデージ

目立つのは、透明な樹脂でできたカップ状の部品
これは両端が包帯に縫い付けられているため、取り外せません。

樹脂製のカップが付いているのが表面で、反対側の白いガーゼ部分が傷口に当てる部分です。

包帯の幅はパッケージに記載されているとおり約10cm(4インチ)で、長さは約90cm(伸縮性があるため、使用時はもっと長くなります)。


▲傷口に当てるパッド

カップ状の部品は、凸面がパッドの方を向くように取り付けられており、傷口にパッドを当てて上から包帯を巻くと、カップ状部品の凸面が傷口を押さえつけて止血するという仕組み。

パッドを傷口に押さえつけるための包帯は伸縮性のある素材で、所々に帯状のオスのベルクロが縫い付けられています。

このベルクロがあるため、包帯を巻くときはベルクロが包帯の仮留めをしてくれます。
一人で自分の腕に包帯を巻かないといけない(片手しか使えない)ような状況だと、役に立つのでしょう。


▲包帯に縫い付けられているオスのベルクロ(白い帯状の部分)

実際に自分の右腕にモジュラーバンデージを一人で巻いてみました。

前腕を負傷したと仮定して、傷口にパッドを当てます。


▲前腕の傷口(仮想)にパッドを当てる

ベルクロで包帯が自動的に留まることを利用し、なんとか片手で包帯をパッドの周囲に巻き付けられました。

この段階では、まだ緩いです。


▲パッドに包帯を巻き付けた

一回包帯を巻いてしまえば、後は片手でもある程度力を入れて包帯を巻くことができました。しかし、両手でしっかり引っ張りながら巻くより、パッドにかかる圧力はずっと小さいです。

包帯の先端には樹脂製のクリップがあるので、既に巻いた包帯にそのクリップを差し込んで包帯を固定します。


▲2周目以降は力を入れて包帯を巻き、最後は包帯の先端にあるクリップで包帯を留める

一般的な使い方は上に書いたとおりですが、モジュラーバンデージは軍用包帯ですから貫通銃創*4や胸に開放創ができた場合にも対応できるようになっています。

民間ではそんな怪我をしないと思いますが、せっかくなのでモジュラーバンデージの機能として紹介します。

まずは胸部の開放創へ対応するための機能から。

傷口に当てるパッド部分は、片側がフラップになっていて中のガーゼを取り出せるようになっており、そのガーゼと一緒に樹脂製の透明シート(チェストシール)が入っています。


▲ガーゼの下に折りたたまれた透明シート(チェストシール)が入っている


▲折りたたまれた透明シート


▲広げるとこの大きさ

この透明シートを胸部の傷口に被せ、それをモジュラーバンデージでしっかり押さえつけるという使い方です。

貫通銃創は、銃弾の入口と出口に傷口が存在するため、両方を塞がないといけません。
そのような場合は、まずパッドからガーゼを引っ張り出します。


▲パッドからガーゼを取り出した様子

取り出したガーゼを両方の傷口に当て、包帯で押さえつけながら負傷部位に巻くという方法で貫通銃創には対応するようです。

参考までに、パッケージに印刷されている使い方を紹介します。


▲パッケージ裏面に印刷されている使い方(上段の3つの図が下の「DIRECTIONS」に、下段の3つの図が「ACCESSING CONTENTS」に対応している)

DIRECTIONS(使い方)
Place wound pad on injury with pressure bar directly over the site
加圧用部品が傷口の真上に来るようにパッドを当てる。
Tightly wrap elastic bandage
伸縮性の包帯をきつく巻き付ける。
Secure with plastic clip
クリップで留める。

ACCESSING CONTENTS(パッドの中身を使うには)
To access gauze and occlusive layer, open wound pad flap and pull
ガーゼやチェストシールを取り出すときは、パッドのフラップを開く。
Place on wound and cover with wound pad
ガーゼを傷口に当ててパッドで覆う。
Secure with plastic clip
クリップで留める。
(出典:製品のパッケージ裏面)

最後に

昔、アルバイトで指先を何針か縫うケガをしたことがありますが、その時は指先の動脈を損傷したため、傷口の小ささの割に大量の血が流れ出て地面に血だまりができるほど。包丁やカッターで指にケガをしてもこんなに血は出ませんから、かなり深い傷を負ってしまったのです。
その時は傷口を押さえて止血しながら、バイト先の人の車で大急ぎで病院へ連れて行ってもらいました。

病院で治療のため傷口を開くと指の断面が見える状態で、私とお医者さんとの間で
「この黄色い粒粒はなんですか?」
「これは脂肪。」
「黄色いんですね!知らなかった。指の中ってこうなってるのかぁ。」
「気分悪くならないの?」
「自分の体の構造を間近に見る機会なんてそうそうないから、むしろ楽しいです。」
「ここ痛い?」(傷口の奥をつつく)
「めちゃめちゃ痛いです。」
「神経は無事やね。神経がやられてたらそんな悠長なことを言ってられないよ。」
 顔面蒼白
というやり取りがありました。

私の指にそんな大ダメージを与えたのは、なんと1本の小さな割ピン。
動いている機械から飛び出していた割ピンが私の指先に当たっただけだったのです。

その経験から、たとえ小さな突起でも恐ろしい凶器になることや、傷口の大きさと出血量に関係が無い(関係があるのは深さ)ことを実感しましたし、地面に血だまりができるほど傷口から出血すると、(自分も周囲の人も)恐怖を感じて冷静さを失いかねないことも分かりました。

私が山歩きを始めたのは、そのケガをした後です。

実際に山を歩くと危険がたくさんあることに気づき、「万一山の中で“あの時”のような血が多く出るケガをしたらどうしよう」と不安になって、軍用包帯を放出品店で購入しました。(←この発想になる私の思考回路がどうかしてます)


▲私の軍用包帯コレクション(右下は今回のモジュラーバンデージ)

普通のガーゼと包帯を買えば良いのかも知れませんが、ガーゼを適当な大きさに切ったり折ったり、包帯を巻いてから余りを切って、別の袋に入っている包帯留めで留めて…なんて面倒なことを山の中での緊急時にやってられません。

誰かと一緒に山歩きをするならいいんですが、私は基本的に単独ですから、一人で、場合によっては片手で扱える必要があります

山の中では、尖った石が路面に散乱していたり*5丸太階段が朽ちて鉄筋だけが残っていたり、灌木の枝打ち跡や伐採跡が槍のように尖っていたり、笹藪が刈り払われて時間が経っていない山道は、路面に無数のミニチュア竹槍が並んだ状態になっていることもあります。

そんな場所で転ぶと、私がバイト先で負傷したとき以上のケガをすることになり、ケガをする場所によっては出血のしかたも酷いかも知れません。

これを使うような状況は本当にヤバイでしょうから、実際に使うことがないように祈りながら、非常用装備に加えることにします。大きくて邪魔なんですが…

こうやって私の山行用の荷物は増えていくのです。


▲バックパックのサイドポケットに入れたモジュラーバンデージ

*1:米軍を含むNATO加盟国の軍隊で物品を管理する目的で使われる番号。日本の防衛省では「ナショナル物品番号」と呼ばれています。

*2:このNSNは2007年にFederal Logistics Information System(連邦兵站情報システム)に新規登録されました。つまり、この製品が登場したのはその頃ということになります。WBParts, Inc.のWebサイトによると、2019~2020年が調達のピークです。

*3:この誤りを犯した将校が誰なのかは2名まで絞られているものの、どちらの人物なのかは確定していないようです。

*4:銃弾が貫通した傷口のこと。

*5:子供のころはそんな山の中で走り回って転倒し、手のひらが“えぐれる”ケガをしたこともあります。