今回の記事は、かなりマニア向けのネタ。
米軍放出品に付いている「タグ」に書かれている内容についてです。
注意
この記事の内容は、当ブログ管理人が海外のWebサイト等から得た情報を元に作成しています。そもそもの情報が誤っている、あるいは翻訳の誤りもあるかも知れません。内容の正確性は保証しませんので、あらかじめご了承ください。
軍用品のタグとは?
ミリタリー好きの方ならご存じだと思いますが、軍用品には衣類やナイロン生地で出来た装備品の場合はタグが、タグを縫い付けられない小物類やその他の装備品には、表面や内部にマーキングがあります。
このタグやマーキングを模して、軍用品ではないものに軍用品らしさを醸し出そうとしているファッション系アイテムもありますが、ああいったものは、(普通の人には気にならなくても、マニアから見ると)ひどい物は本当にひどい。
あるとき、ミリタリー系デザインの鞄を持っている若い男性を電車内で見かけたのですが、見るからにミリタリーもどきのデザインで、タグが鞄の表面に縫い付けられており(本物なら内側に縫い付ける)、そのタグの内容を見ると「Trousers, Desertなんちゃら」(要は砂漠用ズボン)と書かれていました。
「ズボン」を名乗る鞄なんて珍しいですが、その鞄の「なんちゃって感」とは裏腹に、タグの内容は本物を元にしたのか、リアルな内容だったのを覚えています。
ファッションアイテムにも利用されている、一発で軍用品らしさを出せる「タグ」や「マーキング」。
この記事では、それら(もちろん、ファッションアイテムのそれらではなく、本物の軍用品のタグやマーキング)に何が書かれているのか、内容を見ていくことにします。
今回はサンプルとして、我が家にある米軍放出品の手榴弾ポーチのラベルを使います。
そもそも「なんで手榴弾ポーチを持ってるんだ?」という疑問は、この際忘れてください。
▲米軍の手榴弾ポーチ
「手榴弾ポーチなんて何に使うんだ?」と思われるかも知れませんが、山歩きを趣味にしている私にとっては、山の上で少量のお湯を沸かすのに使っている「エスビットポケットストーブ」の収納ケースになるので、使い道はあるんです。
▲手榴弾ポーチにパック燃料とエスビットポケットストーブを収納した様子
本題に戻りましょう。
手榴弾ポーチの場合は、フタとなるフラップの内側にタグが縫い付けられています。
▲手榴弾ポーチのタグ
▲フラップの外側には、タグを縫い付けた糸が見えている
タグの記載内容
米軍の官給品についているタグやマーキングに書かれている内容は、大まかに以下のようなものです。
・品名
・NSN(National Stock Number:ナショナル物品番号)
・契約番号(Contract Number)
・メーカー名
・取り扱い上の注意(基本的に衣類のみ)
今回のサンプル(手榴弾ポーチ)のタグの内容は、次の通りです。
MOLLE II ←装備品のシリーズ名
POUCH, GRENADE, HAND ←品名
NSN 8465-01-465-2093 ←NSN
DAAK60-97-D-9302 ←契約番号
SPECIALTY DEFENSE SYSTEMS A DIVISION OF
SPECIALTY PLASTIC PRODUCTS OF PA INC ←メーカー名
では、それぞれの内容を細かく見ていきます。
品名
軍用品のタグに書かれている品名には、ある特徴があります。
それは、(最近はそうでないこともありますが)単語の順序が逆ということ。
「手榴弾ポーチ」を英語で普通に書くと「Hand Grenade Pouch」となりますが、タグの表記では「Pouch, Grenade, Hand」となります*1。
コンマは、単語の順序が逆になっていることを示すものです。
このように書くと、一つ目の単語を見ただけでとりあえずそれが何なのかが分かり、単語を読み進めていくと詳細な使い道が分かります。
▲単語の語順が逆転していない最近の装備品のタグの例(放出品は、NSNや契約番号が塗りつぶされている場合がある)
NSN
NSNはNational Stock Number、あるいはNATO Stock Numberの略で、NSNで装備品を管理している国の軍用品には必ず設定されている、13桁の番号です。
防衛省では「ナショナル物品番号」という日本語訳をあてています。
一般の小売店で売られている商品にはバーコードがついています。
あれはそれぞれの商品が持つ識別コードを機械で簡単に読み取れるようにするためのもので、重要なのは「JANコード」*2と呼ばれる、バーコードが表している番号です。
バーコードの下に書かれている数字がそれで、前半を見ることで製造国とメーカーが、末尾を除く後半で商品が分かるようになっていて、末尾の数字は、機械でバーコードを読み取った場合に正しくJANコードを読み取れたかどうかを確認するためのチェックデジットです(末尾以外の数字を特定のルールで計算し、その答えがチェックデジットと同じであれば、正しく読み取れたと判定する)。
市販の製品は、JANコードを見ればどのメーカーのどの商品なのかが分かるようになっているわけですが、それの軍用品版がNSNです。
ただ、NSNの体系はJANコードと全く異なっています。
上で例に挙げた手榴弾ポーチのNSNは「8465-01-465-2093」。
最初の4桁、この例では「8465」は、Federal Supply ClassあるいはNATO Supply Classificationと呼ばれる番号で、それぞれ直訳すると「連邦補給区分」、「NATO補給区分」となりますが、防衛省では「分類番号」と呼ばれています。
4桁目は、たいていの場合「0」か「5」です。
分類番号の例(参考:ISO Group, Inc.のWebサイト)
1005~1035 銃器(口径別に分類されている)
1040 化学兵器
1045~1055 発射装置(魚雷、爆雷、ロケット弾等)
(中略)
1105~1195 核兵器関連
(中略)
1305~1320 弾薬(口径別に分類されている)
1325 爆弾
1330 手榴弾*3
(中略)
1410~1450 ミサイルおよびその関連装備*4
1510 固定翼機*5
1520 回転翼機*6
1540 グライダー
1550 無人機
(中略)
1905~1990 艦艇(種類によって分類されている)
(中略)
2350 戦闘車両(装軌式)*7
2355 戦闘車両(装輪式)*8
以下「9999」までありますが、省略します。
手榴弾ポーチの分類番号である「8465」は、「個人装備」に付けられるもの。
残りの9桁(2桁-3桁-4桁と区切って表示される)はNIIN(National/NATO Item Identification Numberの略)で、直訳すると「国家/NATO品目識別番号」です。
防衛省での呼称は「ナショナル品目識別番号」。
最初の2桁はNCBコード*9で、簡単に言うと国を表す番号。
「00」と「01」はアメリカ合衆国を表しています。
NCBコードの例(2~10は未割り当て、11はNATO標準装備の番号)(参考:英語版Wikipediaの「National Codification Bureau」の項目)
00/01 アメリカ
12 ドイツ
13 ベルギー
14 フランス
15 イタリア
16 チェコ
17 オランダ
18 南アフリカ
19 ブラジル
20/21 カナダ
22 デンマーク
23 ギリシャ
24 アイスランド
25 ノルウェー
26 ポルトガル
27 トルコ
28 ルクセンブルグ
29 アルゼンチン
30 日本
(中略)
99 イギリス
日本にもコードが割り当てられていて、「30」が日本を表します。
ただし、自衛隊の装備品の場合、国産品にはNSNが使われていません。
残り7桁がアイテム毎に設定されている番号で、一般的な商品に付けられているバーコード(JANコード)の後半にある商品アイテムコードと同様のもの。
特に規則性はありません。
契約番号
アルファベットから始まる文字列で、ここでサンプルとして登場している手榴弾ポーチの契約番号は「DAAK60-97-D-9302」です。
最初の6桁は契約を結んだ組織や部局を表していて、例えば「SP0100」は Defense Personnel Support Center(防衛従事者サポートセンターとでも訳すのかな?)といった具合に決められています。
今回の手榴弾ポーチのタグに書かれている「DAAK60」はSoldier Systems Command Acquisition Center(直訳すると「兵士システムコマンド調達センター」とでもなるのかな?)のコード。
次の2桁は契約が結ばれた会計年度の末尾2桁で、今回の例では「97」ですから1997年度に調達契約を結んだという意味です。
その次の1桁は契約種別を表すアルファベットで、上の例の「D」は「Indefinite delivery contract」、つまり「数量未確定調達契約」を表しています。
他に「A」はBlanket purchase agreements(包括購買契約)、「B」はInvitations for bids(入札公告)を表すといった具合に、アルファベットに意味が決められています。
契約種別コードの例
(参考:合衆国政府印刷局のWebサイト「Defense Acquisition Regulations System, DOD. 204.7003」)A Blanket purchase agreements(包括購買契約)
B Invitations for bids(入札公告)
C その他の種別コードに当てはまらない契約
D Indefinite delivery contract(未確定調達契約)
E Facilities contracts(施設契約)
F Cと同様(ただし、NIB*10、NISH*11、UNICOR*12が関わる契約)
G Basic ordering agreements(業務委託基本契約)
H 基本契約、ローン契約
I 使用しない
J 予約済み
K Short form research contract(研究契約)
L Lease agreement(リース契約)
以下略
残りの4桁は通し番号ですが、連邦調達規則(Federal Acquisition Regulation)によって採番のルールは決められています。
以上をまとめると、契約番号からは「契約を結んだのはどの組織か」「いつ結んだ契約か」「契約の種類」「(おおよそ)何番目の契約か」が分かるわけです。
注意事項
衣類のタグの場合は、上に書いた番号の他に「材質」や「洗濯上の注意点」が事細かに書かれます。
例えば、私が山歩きで時々使っている砂漠用の迷彩ズボン(米軍放出品)だと、「中性洗剤を使って洗濯機で洗う、あるいは手洗いをする。蛍光剤入りの洗剤は使用不可。塩素系漂白剤は使用禁止。」等々事細かに注意事項が書かれています。
▲私が持っている放出品の迷彩ズボンのタグ(黒い線の下は全て注意事項。NSNは別のタグに記載されている。)
▲迷彩ズボンのサイズタグにNSN(タグでは「STOCK NO.」と表記)が記載されている
米軍の衣類では洗濯表示の記号が使われておらず、何もかもが文章で表記されます。
記号を書かれても意味が分からないと役に立ちませんから、文章で書く方が確実という考え方なのでしょう。
メーカー名
最後にメーカー名ですが、これは言うまでもありませんね。
米軍の装備品の特徴としては、生産国の表示がないというのも挙げられます。
米軍の装備品は基本的にアメリカ製なので、いちいち「Made in U.S.A.」と表示する必要がないのです。
CAGEコード
軍用品のパッケージには、上記の他にCAGEコードと呼ばれる5桁の英数字が記載されている場合があります。
CAGEはCommercial And Government Entity(商業・政府団体)の頭文字を取ったもので、連邦政府が調達する物品を取り扱う業者や組織を識別するためのコードです。
軍用品のパッケージを見て「どこにも納入業者の名前が載ってないな」と思ったことはありませんか?その場合は、必ずCAGEコードが記載されているはず。
CAGEコードが納入業者を示すため、軍用品のパッケージにはメーカー名が記載されていないことがあるのです。
最後に
全ての軍用品にNSNや契約番号が表示されているわけではありません。
表示するスペースがない小物類は、パッケージに表示されているだけということもありますし、小物の表面にNSNだけが打刻されているという場合もあります。
▲装備品にNSNだけが打刻された例(米軍のキャンティーン・カップ・スタンド)
▲装備品にNSNや契約番号等がスタンプで押されている例(米軍のLC-1コンパスポーチ)
放出品を持っている方は、一度NSNや契約番号を見て、それがどういった素性をもっているのかを調べてみると面白いかも知れません。
以前はNSNを調べると調達価格が分かるようになっていたのですが、最近は価格が非公開になっているのが残念です。
*1:1行目の「MOLLE 2(タグの表記ではローマ数字)」は装備品のシリーズ名を表していますが、ここでは無視しています。
*2:「JAN」はJapanese Article Numberの略。
*3:例えば、米軍のM67破片手榴弾のNSNは「1330-00-133-8244」です。
*4:例えば、米軍のAIM-120AミサイルのNSNは「1410-01-320-7531」です。
*5:例えば、米軍のF35A戦闘機のNSNは「1510-01-660-1118」です。
*6:例えば、米軍の対戦車ヘリコプターAH-64Eアパッチ・ガーディアンのNSNは「1520-01-617-0928」です。
*7:例えば、米軍の主力戦車M1A1のNSNは「2350-01-087-1095」です。
*8:例えば、米軍のM1126ストライカー歩兵戦闘車のNSNは「2355-01-481-8575」です。
*9:NCBはNational Codification Bureau=国家類別局の略。
*10:National Industries for the Blind。
*11:National Industries for the Severely Handicapped。
*12:刑務作業を監督する企業。