播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

書写山に第2の刀出坂(?)で登り、谷間に残る山岳寺院跡を見る

重要!
  • 今回紹介するルートの内、往路は道がありません。滑りやすい急斜面もあります。
    山歩きの経験が長くても整備されたルートしか歩かない方や、航法装備(GPS、地形図、コンパス)が不十分な方には全くお勧めしません。
  • 円教寺境内は火気厳禁です。調理が必要な食べ物は持って行かないでください。

姫路市が誇る山岳寺院、書写山円教寺(しょしゃざんえんぎょうじ)。

姫路市内の小学生は林間学校でこの書写山上の円教寺会館に泊まるのですが、私が小学生だった頃は、夜に山中で肝試しが行われて皆でキャーキャーと怖がった記憶があります。

その円教寺のWebサイトで円教寺の縁起を読んでいたら、ふと思い当たることがありました。

縁起には「菴ヲ結ヒテ西ノ澗 行住涼キ樹ノ下ニ 讀踊声々老ンタリ(いおりをむすびてにしのたに ぎょうじゅうすずしききのしたに どくじゅしょうじょうおえんたり)とありますが、私が引っかかったのは「西ノ澗(にしのたに)」の部分。

書写山円教寺の地形を「カシミール3D」*1の「スーパー地形」*2を使って見ると、超巨大山城のような地形が浮かび上がってきます。

その西側の谷間に小規模な山岳寺院のような地形があることが、以前から気になっていました。

円教寺の一部だろうと思われるかも知れませんが、円教寺からは少し離れていて、独立した山岳寺院跡に見えます。

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▲スーパー地形データを当ブログ管理人が加工したもの

円教寺の縁起を読んだときに、その山岳寺院跡地のような地形を思い出し、縁起に書かれている「西ノ澗(にしのたに)」が勝手に頭の中で結びついてしまいました(実際には全然関係ないと思います)。

そして、是非その山岳寺院跡を見たくなったのです。

その山岳寺院跡のような地形を見に行くには、六角坂参道の途中から谷を北へ上がれば良いのですが、歩いたことのある参道を歩くよりは一度も歩いたことのないルートを歩きたいと思い、地形図で刀出坂と六角坂の間に描かれている破線道を歩くことにしました。

この破線道からは件の山岳寺院跡地が近いので、私にとって未知の参道(?)を歩けて、さらに未知の山岳寺院跡(?)を見られるという一石二鳥のルートです。

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▲対応する地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図「姫路北部」

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▲カシミール3Dで作成したルートの断面図

09:15
姫路市街の自宅を車で出発。

菅生川(すごうがわ)の右岸*3を走る県道411号線を北上し、ファミリーマートのある「打越(うちこし)」交差点から北へ550mの三叉路を右に入ります。

樫谷橋で菅生川を渡ってから65mほど進んだ所にある三叉路(「固寧倉(こねいそう)」がある)を右折。道なりに160mほど進んだところで道は右へ直角に折れ曲がります(ここに刀出坂の登山口がある)。その曲がった先にある駐車場(市有地)に車を置きました。

https://goo.gl/maps/hutgqdDeqQfqhxpK8
▲駐車場の位置

09:40
駐車場に到着(地図中「P」)。

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▲姫路市が書写山に登るハイカー向けに提供している駐車場

09:47
準備が整ったので出発。

固寧倉から東へ160mの地点にある刀出坂登山口へ向かいます(地図中「刀出坂登山口」)。

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▲刀出坂登山口

向かって左側の扉を開閉してゲートを通過し、東へ進みます。
道は110mほど進んだところで南へ折れ曲がるので、道なりに南へ。

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▲太陽光発電所の周囲を時計回りに進む

南へ向きを変えてからさらに100m進んだ所が本当の登山口。
ここから山へ入ります。

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▲ここが本当の登山口

刀出坂参道(一般的な登山道)は、山に入ってすぐの小橋を渡って左へ向きを変えますが、今回歩こうと思っている地形図の破線ルートは直進です。

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▲刀出坂は橋を渡ってから左折。今回のルートは直進。

道はありませんが、古いマーキングテープが適度な間隔で付けられています。

沢を右に見つつ、コンパスで東を意識しながら適当に歩きやすい所を登って行きました。

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▲谷には赤いマーキングテープがある

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▲人工的な石積に見えるものもあった

標高200m付近で、谷が二手に分かれました。
左の谷は北寄りに見えたので、東を意識して右の谷へ入りましたが、これが失敗。

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▲谷が左右に分かれる地点の様子(赤い線が谷の方向を示している。中央は谷に挟まれた小さな尾根。)

滑りやすい土の急斜面で、木にしがみつきながら登って行ったのですが、先ほどまでチラチラ見えていたマーキングテープが一切見えません。

しかも、進路が南寄りになっていることに気づきました(地図中「ルートミス」)。
斜面をよじ登ることに必死になり、方角への意識がおろそかになっていたようです。

地形図で破線道が描かれている谷に向けて、急斜面をトラバース(等高線沿いに横移動)することにしました。

これもなかなか大変。
とにかく動くとずり落ちてしまうので、立木や露出している木の根に頼らないとトラバースすらできないのです。

なんとか正しい谷に復帰することができたときは、もうヘロヘロ。
「正しい谷」といっても、道はありませんが。

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▲進むべき正しい谷の様子

307m標高点のある稜線に出る手前は、ルートミスで誤って入り込んだ谷と同じくらいの急斜面で、とんでもない角度の斜面と落ち葉、乾いた土のせいで登るのが大変です。

休もうと思っても、上を向いて立ち止まるとふくらはぎが強制的に伸ばされて疲れるし、下を向いて立ち止まると怖いし、横を向くと下側になった脚が疲れるため、立木にしがみついたりもたれかかったりして、体の向きを変えながら休憩をとり、少しずつ登って行きました。

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▲稜線に出る直前の様子

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▲横から見るとこんな角度

10:56
右脚の向こうずねに傷みを感じるという、今までに無い疲れ方をしましたが、何とか307m標高点まで登って来ました。

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▲307m標高点の様子

ここから北東へ稜線をたどって進みます。
この先も、マーキングのテープが破線道を案内してくれました。

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▲307m標高点の北にある鞍部の様子

307m標高点の次の小ピークは猪が掘り返した跡がたくさんある場所で、いつ猪に遭遇するか分からないので、右腰に付けている熊撃退スプレーのホルスターをさわり、フタを開閉するためのツマミの位置を確認。

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▲猪に掘り返された小ピーク

猪に荒らされた小ピークから東へ下った鞍部の下に、今回の目的の一つである山岳寺院跡があります。

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▲山岳寺院跡の上にある鞍部の様子

広い鞍部には、小さな一石五輪塔が置かれていました。

今まで歩いて来たルート上には参道らしい痕跡は何もありませんでしたから、破線道はかつての参道跡ではなく、何かの間違いで描かれた道なのでしょう。

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▲鞍部の一石五輪塔

11:17
鞍部から右へ下ると、すぐに削平地群が視界に入りました(地図中「山岳寺院跡」)。

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▲上から見た削平地(このような削平地が何段かある)

削平地と削平地の間には、往時にそれらをつないでいた坂道の跡と思われる道が残っており、簡単に削平地間を移動できます。

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▲複数ある削平地の内の一つの様子

削平地には石がゴロゴロしていますし、五輪塔の一部や瓦の破片のようなものも見られました。

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▲五輪塔の火輪(?)

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▲甕(かめ)か瓦の破片(?)

11:30
「ここにあったお寺が円教寺になったのかな」などと妄想を楽しみ、山岳寺院跡でのひとときを満喫したので、出発。

道の無い広い尾根を登ります。

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▲山岳寺院跡から円教寺へ向かう尾根の様子

道が無いと思っていたら尾根の左に赤テープが見えて、そちらへ近づくと小さな一石五輪塔が置かれていました。

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▲尾根上の道の跡に置かれた一石五輪塔

赤テープに従うと、道の跡のような所を歩くことになります。

円教寺の境内が近づくといくつもの削平地に出会います。
コンパスで方向を確認し、周囲をキョロキョロ見ながら削平地を歩いていると、5mほど先で寝そべった大きなイノシシに遭遇。

私から見てイノシシは左を向いて寝そべった状態です。
イノシシが私に気づいて立ち上がった瞬間、右手は自然に熊撃退スプレーのホルスターに伸びました。イノシシに荒らされた小ピークでのリハーサルが功を奏したかな。

しかし、もしイノシシがこちらに向かってきたら、ホルスターからスプレーを取り出すだけの時間はどう考えてもありません。距離はわずか5mです。

幸いなことに、イノシシは立ち上がってそのまま正面(私から見て左)へドドドッと足音を立てて走り去りました。良かった。

それにしても、熊よけ鈴を鳴らし、iPhoneでポッドキャストの音声(人の話し声)を流しながら歩いていたのに、5mの距離までイノシシが私に気づかないのは驚きです。寝てたのかな。

私も「広い削平地だなぁ」「何が建っていたんだろう」と妄想しながら歩いており、前方不注意でした。

以前、逃げたと思ったイノシシに後を付けられたことがあったので、赤テープのマーキングは無視し、周囲を警戒しながら、イノシシがいた場所から離れるように移動して円教寺境内へ向かうことに。

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▲円教寺境内近くの削平地(階段状にいくつか並んでいる)

道もマーキングも無い斜面を登っていくと、石垣と看板に出会いました。
金剛堂と奥の院をつなぐ道に出てきたようです。

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▲石垣と看板に出会った

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▲この場所に出てきた(ここを右へ進むと「奥の院」)

金剛堂やあずまや、展望所がある場所に出てきました。

ここでふとズボンを見ると、ダニが何匹も付いているのを発見。一匹残らず指ではじき飛ばしました。どこで付いたんだろう。

時間がちょうど良いので、展望公園のあずまやで昼食を食べることにしましょう。

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▲金剛堂

11:44~12:15
あずまやで昼食休憩(地図中「あずまや」)。

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▲展望公園(あずまやと展望所)の様子

本日のメニューは、アルファ米の山菜おこわとフリーズドライの味噌汁です。
書写山は火気の使用ができないため、魔法瓶に入れてきたお湯で頂きます。

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▲本日の昼食(火気が使えないため魔法瓶を使った)

12:19~12:35
昼食後は、円教寺の三つの堂の下にあるオープンカフェ「円教寺カフェ」*4でコーヒーとブラウニーを頂きました(地図中「円教寺カフェ」)。

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▲三つの堂

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▲円教寺カフェ

冒頭の地図で三つの堂の左に書かれている「円教寺」の「寺」の字の下にトイレがあるので、そこで用を足してから下山開始。

刀出坂で下ることにします。

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▲鐘楼とトイレ

金剛堂から奥の院へ向かって歩き、奥の院の手前から刀出坂へ。

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▲奥の院(奥に写っている建物)の手前から刀出坂に入る

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▲「刀出 2.0km」の道標が指すのが刀出坂

刀出坂参道は一般向けの広く知られたルートですので、ここでは詳細を省略します。

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▲刀出坂の様子

13:00
青いテープが目立つ、弁天池への分岐を通過(地図中「池への分岐」)。

この分岐から冒頭の地図で青い点線で描いたルート(踏み跡程度の道がある)を進めば、静かな池(地図中「弁天池」)に行けます。

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▲池への分岐(矢印が指しているのが青いテープ)

本日は行きませんでしたが、2021年11月に弁天池をドローンで空撮したときの画像があるので、紹介します。

この池は谷に堰堤を築いて作られた人工の池で、下の画像で私が立っているのがその堰堤の上です。

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▲弁天池(矢印の位置に私が立っています。2021年11月にドローンで撮影)

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▲弁天池の全景(2021年11月にドローンで撮影)

13:20
刀出坂を下り、駐車場に戻ってきました。

13:55
自宅に到着。


交通アクセス

自家用車の利用が一般的です。

公共交通機関を利用される場合は、姫路駅前の神姫バス18番乗り場を発車する41系統または42系統のバスが利用できます。41系統または42系統のバスは、固寧倉の北140mにある「刀出」バス停を通るので、往路は刀出バス停で下車。下山後は刀出バス停から姫路駅へ戻ることができます。

書写山上を東へ縦走し、ロープウェイの山麓駅前のバス停(「書写山ロープウェイ」バス停)から路線バスで姫路駅へ帰ることもできます。

バスの本数は少ないので、あらかじめ神姫バスのWebサイトでバスの時刻を調べてください。

*1:ハイカー、登山者向けの地図ソフト。大半の機能は無料で使用できます。

*2:レーザー測量で得られた地形の立体モデルを閲覧する機能。年額¥1,680(税込)。「スーパー地形」はスマホアプリもあります。iOS版、Android版ともに有償(iOS版は買い切り、Android版は年額。)です。

*3:川下を向いて川の中に立ったとき、右側に当たる岸。今回の場合は、菅生川の西側が右岸。

*4:2022年6月初旬に閉業。