有名な固形燃料ストーブといえばエスビットですが、イギリス軍が採用した固形燃料ストーブが売られているのを見つけてしまいました。
燃料を置く部分がエスビットポケットストーブと大きく異なっている他、風防が付属し、開閉がしやすそうな形状になっている点に興味が湧いて、エスビットの純正ポケットストーブよりも安いこともあり、思わず購入してしまいました。
概要
イギリス軍に納入されている折りたたみ式の固形燃料ストーブです。
Youtubeにメーカーの公式動画があるので、それをご覧ください。
仕様
▲FireDragon Multi-Fuel Cookerのパッケージ
製品名: FireDragon Multi-Fuel Cooker
メーカー: BCB International Ltd(イギリス)
サイズ: 115mm×73mm×26mm(リベットなど突起を除く収納時の実測値)
重量: 本体と風防の合計で111g(実測値)
材質: 公式サイトではアルミニウムと記載。しかし、磁石が付くので鉄製だと思われます。
生産国: 不明
NSN*1: 7310-99-587-4226
定価: 2.39ポンド
購入価格: ¥990(税込)
購入先: amazon.co.jp
パッケージ内容
紙箱の中には、シュリンクパックされたストーブ本体と風防、そして5ヶ国語*2で印刷された取扱説明書が入っています。
▲パッケージ内容
▲シュリンクパックされたストーブと風防
説明書に英語の説明文はなく、代わりに紙箱の背面に英文で説明が印刷されています。
▲英語の説明書はパッケージの背面
日本国内ではイギリス軍が採用と宣伝されていますが、ストーブ本体にイギリス軍の制式採用品である表記*3はありません。
よくある眉唾の宣伝かと思いましたが、イギリス軍のニュースを主に扱う「joint-forces.com」というサイトによると、確かにこのストーブはイギリス軍に採用されているようです。
興味のある方は、以下のリンクから当該ニュースの全文をご覧いただけます(英文)。
使い方
エスビットポケットストーブと似ていますが、大きな開口部があるのがエスビットとの違い。
この開口部に指を入れると、簡単にゴトクを開くことができます。
▲シュリンクパックを開封して取り出したストーブ本体と風防
ゴトクが開く際の支点となるリベット部分を見ると、4つの突起があることに気づきます。
これらの突起の位置でゴトクがロックされるわけです。
▲リベットの周囲にある4つの突起
ゴトクが固定される4つの角度を、画像で紹介します。
4つの角度の内1つは閉じた状態なので、ゴトクを開いて固定できる角度は3段階です。
▲閉じた状態
▲1段階開いた状態
▲2段階開いた状態
▲3段階開いた状態
さらにゴトクを広げると、固定はできませんがエスビットのようにゴトクを垂直に立てることもできます。
▲ゴトクを垂直に立てた状態(ゴトクの突起とかみ合っていた本体側の突起が露出している)
風防を取り付ける時は、ゴトクを3段階目まで開き、「OUT」と打刻された面が外を向くように片方の縁に差し込みます。
▲ゴトクを大きく開いてから風防を差し込む(外から見た様子。「OUT」と打刻された面を外に向ける。)
▲風防を差し込んだ状態を内側から見た様子
そうしたら、ゴトクを2段階目まで閉じます。
すると、下の写真のように隙間が無くなり、最大限の防風効果を発揮できるようになります。
▲ゴトクを閉じて隙間を塞いだ状態
ストーブの組立はこれで完了です。
ここで注目していただきたいのは、FireDragon Multi-Fuel Cookerの底面です。
エスビットと違い、底面が地面に接しているのです。
熱が地面に伝わりますし、下からの空気の流れが少なくなるという問題がありそうです。
続いて燃料をセットしましょう。
FireDragon Multi-Fuel Cookerの燃料置き場は他社製品と全く違い、箱形の容器(以下「燃料皿」)になっています。
▲燃料は、中央の細長い箱状の部分に入れる
燃料皿がこんな形をしているので、使える燃料は限られてきます。
この燃料皿のサイズは、長さが約71mm、幅が約35mm、深さが約27mm。
私がよく使うカップ型の固形燃料は、直径が燃料皿の幅より大きいので、そのままでは収まりません。
▲カップ型固形燃料は燃料皿に入らない
私がよく使う燃料として、他には「パック燃料」があります。
▲100円ショップで売られている「パック燃料」のパッケージ
これもサイズが大きすぎて燃料皿には入りませんが、パック燃料の袋の端を切り落とし、中身を絞り出せば燃料皿に入れられます。
▲パック燃料とFireDragon Multi-Fuel Cookerの大きさ比較
燃料皿は深くて燃えかすを取り出しにくいので、FireDragon Multi-Fuel Cookerを使う時は、燃料皿にアルミホイルを敷いておくことをお勧めします。
▲燃料皿にアルミホイルを敷いた様子
燃料皿にパック燃料の中身を入れると、下の画像の様になります。
重要:これは、パック燃料の正しい取り扱い方ではありません。実際に試される場合は、火災や火傷に細心の注意を払い、屋外で燃焼させてください。
▲パック燃料の中身だけを燃料皿に入れた様子
カップ型の固形燃料は、ナイフなどで切断することで燃料皿に収まります。
重要:これは、固形燃料の正しい取り扱い方ではありません。実際に試される場合は、火災や火傷に細心の注意を払い、屋外で燃焼させてください。
▲切断した固形燃料を燃料皿に入れた様子
FireDragon Multi-Fuel Cookerにメスティンを載せると、下の画像の様になります。
(注)私のメスティンは業者さんにコーティングをしてもらっているため、色が通常の製品と異なります。
▲トランギアのメスティン(TR-210)を載せた様子(横から)
▲トランギアのメスティン(TR-210)を載せた様子(前から)
性能
FireDragon Multi-Fuel Cookerで実際にお湯を沸かす実験をしてみました。
実際に山で使うことを想定し、屋外(自宅のバルコニー)で実施。
「このくらいの風なら当たり前に吹いているだろう」という風速1~2m/秒の風が時々、様々な方向から吹いていました。
山の中での環境に近いので、実験にはぴったり。
▲測定の様子(右側の白い四角いものは、温度計。)
まずはパック燃料の中身を燃料皿に絞り出したものを使い、250mlの水を沸かすのにかかる時間を測定*4。
18℃だった水は14分後に70℃ほどまで温まりましたが、燃料が15分後に燃え尽きました。
続いて、エスビット固形燃料(ミリタリー)を1つ燃料皿に置いて測定。
▲エスビット固形燃料(ミリタリー)を燃料皿に置いた様子
燃料は18分間燃え続けましたが、水温のピークは約60℃。
最大で風速2m/秒ほどの風が時々吹き付け、炎がゴオゴオと音を立てて揺れていたので、FireDragon Multi-Fuel Cookerの風防だけでは風を防げていないようです。
そこで、周囲を別の風防で囲ってみました。
▲周囲三方を風防で囲った
この状態で、再度エスビット固形燃料(ミリタリー)を1つ燃料皿にセットして再測定。
今度も燃料は18分間燃え続け、水温は17分後に83℃に達しました。
周囲を風防でしっかり囲み、固形燃料を複数個利用すれば、500mlのお湯を沸かすこともできそうです。
以上の結果をまとめたのが下のグラフです。
※線が途切れているのは、燃料が燃え尽きたことを示しています。
※「風防設置」と「風防なし」の「風防」は、周囲三方を囲んだ風防のことです。
参考のため、類似のストーブであるエスビットの「ポケットストーブ ミディアムWS」にエスビット固形燃料(ミリタリー)をセットして250mlのお湯を沸かした際の結果も記載しました。
▲比較のために使用したポケットストーブ ミディアムWS(燃料を載せる場所の形状がFireDragonと全く異なる)
※いずれも同じ日の同じ時間帯、同じ場所で測定を行っています。
▲水温変化の比較グラフ(水の量は250ml)
このグラフを見ると、FireDragon Multi-Fuel Cookerの湯沸かし性能が低いことが分かります。
これは燃料皿の存在と構造が原因でしょう。
燃料皿の中は空気が流入しづらいですし、底面が地面に接していて、下方から空気が入ってこないことも、燃料が勢いよく燃焼できない理由だと思われます。
実際、燃料皿がないエスビットポケットストーブでは10分で燃え尽きたエスビット固形燃料(ミリタリー)が、FireDragon Multi-Fuel Cookerの燃料皿の中に置いた場合は18分も燃えています。
パッケージの紙箱に書かれている文章に注目してください。
The central fuel reciever helps to improve the burn efficiency so improving your cooking time and reducing the amount of fuel you need.
(出典:FireDragon Multi-Fuel Cookerの紙箱)
大まかに訳すと、「中央の燃料皿により燃焼効率が改善され、調理時間を“改善”でき、燃料消費も抑えられます。」という意味。
この“改善”は「燃料を長時間燃やせるようになる」という意味の可能性もあります。
▲紙箱に印刷されている燃料皿についての記載
和食レストラン等で出てくる一人鍋を温める固形燃料は、金属製の火皿に入っていることがありますが、あれには火力を抑えて燃焼時間を延ばす役割があります。
火皿が無ければ、高火力で短時間の内に燃え尽きてしまうのです。
FireDragon Multi-Fuel Cookerの燃料皿は、固形燃料用の火皿と同じ役割を果たしていると考えられます。
底部からの空気の流入を増やすとどうなる?
底面からの空気の流入量を増やすとどうなるか、後日また実験を実施。
底面に隙間を作るため、直径12mmほどの高ナットをFireDragon Multi-Fuel Cookerの下、四隅に置きました。
▲下に高ナットを置き、12mmほどの隙間を底部に作った
▲底部に隙間を作った状態で水温の変化を計測している様子
まずは250mlの水を沸かす実験。
耐熱レンガに直置きしたときと違い、10分もかからず250mlの水を沸騰させられました。
これなら500mlも沸かせそうに感じられたので、500mlの水を沸かす実験にも挑戦。
その結果は、以下の通りです。
250mlの水は9分後に沸騰し、500mlの水は点火から18分後に95℃になりましたが、燃料が燃え尽きて沸騰にはいたらず。
▲FireDragon Multi-Fuel Cooker底部と地面の間に隙間を作った状態での水温変化
燃料は15分~18分間燃焼したので、空気の流入量を増やしたところで、燃料の燃え方に変化は無かったようです。
しかし、水温の上がり方は直置きと全く異なっています。
理由は分かりませんが、FireDragon Multi-Fuel Cookerは、底部に隙間がある状態で使った方が高性能になるようです。
最後に
メーカーであるBCBのパンフレット(「The Ultimate Military Cooking Fuel」July 2015)がインターネット上で閲覧できますが、そこには500mlの水を沸かす実験の結果が掲載されています。
▲出典:BCB社のパンフレット「The Ultimate Military Cooking Fuel」(July 2015)の27ページ。
赤枠内に注目してください。
旧型のFireDragonストーブ(資料内では「BCB Folding Cooker Mk1」)では、純正固形燃料を1つだけ使った場合の燃料の燃焼時間は7分22秒で、水温は68℃までしか上がらず、沸騰に至らなかった(Fail)と書かれています。
エスビットに似た旧型のストーブ(Military Folding Cooker)だと、10分42秒で95℃に達したとのこと。
ただし、これらは実験室での測定結果なので、風のある屋外環境ではさらに悪い結果になるでしょう。
ちなみに、表内にある「Crusader 1」は、イギリス軍のキャンティーンカップ用ストーブです。
BCB社の資料にある沸騰時間の測定に使用したクッカーは、キャンティーンカップとフタ。
これらは過去にこのブログで紹介したことがありますので、興味のある方はどうぞ。
特殊な燃料皿を備えているため使用できる燃料が限られていることや、火力が低く、お湯を沸かす性能が低いので、山歩きでは使いづらそう。
お湯を沸かすのが主な使い方となる私の場合、山でこれを使うことはないと思います。
長所
- 風防が標準で付属している。
- 弱い火力で長時間燃料を燃やせるので、そういった目的(炊飯等)で使いたい方には便利。
- 価格が安い(税込¥396で販売しているお店もある)。
短所
- 使用できる燃料が限られている。
- 燃料皿があるため、火力が弱くなる。
- 底面が地面に接しているため、使用後は地面が高温になる(テーブルの上など、熱で変質、損傷する場所では絶対に使用しないでください)。