播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

米軍のクッカーとストーブをモデルにした「キャンティーンクッカーキット」(後編)

前編から続く

dfm92431.hatenablog.jp

▲前編はこちら

前編では外観を紹介しましたが、後編ではキャンティーンクッカーキットの湯沸かし性能をみてみます。

湯沸かし性能

キャンティーンクッカーキットを使うと、500mlのお湯をアルコールストーブで沸かすのにどのくらい時間がかかるのでしょうか。

このキャンティーンクッカーキットは、メーカーが想定している通常の使い方に加えて、イギリス軍のクッカーと似たような方式でも使えるため、両方の使い方で測定することにしました。

メーカーが想定している使い方は米軍のキャンティーンカップやストーブと同じ使い方なので、この記事では便宜上「アメリカ軍方式」、英軍ではストーブの向きが米軍と上下逆なので、その使い方を「イギリス軍方式」と呼ぶことにします。

<測定環境>
 室  温: 約30℃
 相対湿度: 約62%
 風  速: 無風(室内)

<測定条件>

  • 使用する水は室温のもので、1回あたり500mlを沸かす。
  • 各環境でのアルコールストーブの燃焼継続時間を調べるため、燃料の量は毎回50mlに統一する。
  • 測定後は、15分以上かけて機材を冷ます。アルコールストーブの燃焼により室温や湿度が上昇した際は、換気をして前回の測定時と同じくらいの室温、湿度になってから次の測定を行う。
  • クッカー内の水に温度センサーを入れ、温度計の機能で1分毎の水温を記録する*1

警告!

測定結果が風の影響を受けないように、この記事の測定は室内で行っています。
同様のことをされる場合は、充分に換気を行い、火災や火傷、熱による床や壁、机などへの損傷にはくれぐれもご注意ください。
この記事では、アルコールストーブを耐火煉瓦の上に置いて測定しています。

標準の使い方(アメリカ軍方式)

まずは、メーカーが想定している普通の使い方(アメリカ軍方式)での測定から。

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▲メーカーが想定している使い方での測定の様子(カップの右上から伸びているのは、温度センサーのケーブル)

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▲アルコールストーブの炎の様子

炎はまっすぐ上がらず、上の画像の通り横に広がっているのが気になります。

500mlの水が沸騰したのは、およそ12分後。
点火から15分を過ぎると、燃料が燃え尽きて火が消えました。

イギリス軍方式(1)(デュアルヒート用のゴトクを利用)

続いてイギリス軍方式ですが、キャンティーンクッカーキットを使ってイギリス軍方式でカップを置くには、アルコールストーブに小型のゴトクを載せる必要があります

ずいぶん前ですが、「デュアルヒート」という缶入り固形燃料用のゴトクが(少しだけ加工すれば)トランギアのアルコールストーブにぴったりだというのが話題になり、私もそれに釣られて買ったことがあります。

ということで、我が家の棚に眠っていたそのデュアルヒートのゴトクをアルコールストーブにセットして測定。

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▲デュアルヒート用のゴトク

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▲キャンティーンクッカーキットのストーブの上下を逆にし、中にアルコールストーブを置く

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▲アルコールストーブに載せたゴトクにカップを置く(カップの右上から伸びているのは、温度センサーのケーブル)

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▲開口部側からは盛大に炎が漏れていた

沸騰までにかかった時間は、およそ10分。
アルコールストーブの燃料が燃え尽きたのは、点火から約19分後でした。

イギリス軍方式(2)(チタンゴトク TriveTiを利用)

先日、ゴトクの高さによってアルコールストーブでの湯沸かしにかかる時間に大きな差が出ることと、トランギアのアルコールストーブについては、ストーブ上端からクッカー底面までの距離が3~4cmがベストであることが分かりました。

ゴトクの高さによる沸騰までの時間の差を調べた記事は、以下のリンクからご覧いただけます。

dfm92431.hatenablog.jp

デュアルヒートのゴトクは、どう考えてもアルコールストーブに適した高さではありません。

ということで、もっと高さを出せるゴトクはないかと山道具屋さんをさまよい、EVERNEWの「チタンゴトク TriveTi」(品番:EBY258)を見つけました。

このEVERNEWのゴトクでの沸騰時間も測定することに。

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▲EVERNEWのチタンゴトク TriveTi

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▲上下を逆さまにしたキャンティーンクッカーキットのストーブにセット

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▲カップを乗せた様子(カップの右上から伸びているのは、温度センサーのケーブル)

点火すると、今までと明らかに火力が違いました。
カップの前後に炎が大きく噴き出し、沸騰後の吹きこぼれ方も激しい。

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▲カップの前後に大きく炎が噴き出していた(画像内の矢印が炎を指している)

沸騰に要した時間は約7分。
点火からおよそ13分後に燃料切れで火が消えました。

アルコールストーブ単体の性能

キャンティーンクッカーキットのストーブは関係なく、チタンゴトク「TriveTi」の高さが絶妙なだけかもしれないと思い、トランギアとTriveTiだけを使用してお湯を沸かし、時間を計測してみました。

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▲アルコールストーブが剥き出しの状態で測定してみた

その結果、沸騰までの時間は約9分。
燃料が切れたのは、点火からおよそ15分後でした。

キャンティーンクッカーキットのストーブがある方が、沸騰までの時間も燃料が燃え尽きるまでの時間も短いので、やはりストーブは燃焼効率を上げるのに貢献しているようです。

湯沸かし性能のまとめ

これら4つのパターンで測定した結果(沸騰までの水温の変化)を温度計からCSVファイルで出力し、Excelでグラフにまとめると、以下のようになりました。

※凡例の「ストーブ無し」の「ストーブ」は、「キャンティーンクッカーキットのストーブ」、「DHゴトク」は「デュアルヒート用のゴトク」のことです。

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▲カップの置き方による沸騰時間の差を比較するグラフ

意外なことに、メーカーが想定している使い方(標準状態)の場合にもっとも時間がかかることが分かりました。

逆に、適切な高さのゴトクを使用し、イギリス軍方式でカップを置くのが最も効率が良いことになります。

ちなみに、イギリス軍のクッカーは以前当ブログで紹介したことがあります。興味のある方はどうぞ。

dfm92431.hatenablog.jp

今回の結果は無風の環境での実験であることに注意が必要です。

キャンティーンクッカーキットのストーブは、通気用の穴がたくさん開いているので、風防としての役割は期待できません。

屋外で実際にこれを使う場合は、別途風防を用意してください

これだけ色々書いておきながら言うのもなんですが、私はキャンティーンクッカーキットのストーブを持っていかず、普通の一体型ガスストーブ(別売)を使うこともあります。それは、状況に応じた使い分け。

歩き慣れた近所の低山に行くときは、キャンティーンクッカーキットとアルコールストーブでのんびり昼食。

初めての山を歩くときは、所要時間の予想が外れたとき(昼食に時間をかけられない状況)に備えてガスストーブを持って行き、お湯を沸かすのにかかる時間を短くできる(昼食にかかる時間を短縮できる)ようにしているのです。

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▲ガスストーブ(別売)と組み合わせて使っている様子

長所

  • 収納サイズがコンパクト(一式が米軍の最新型水筒用ポーチ*2に収まる)。
  • カップの内部がフッ素樹脂コーティングされているので、食材がこびりつかない。
  • 米軍のキャンティーンカップと比べるとこちらのカップの容量は大きく、袋麺の調理がしやすい。
  • 米軍の水筒の形状に合わせて作られているので、水筒やポーチは米軍の装備品を流用できる。

短所

  • 全体的に工作精度が低い
  • 標準的な使い方では、お湯が沸くまでに時間がかかりすぎるので、工夫が必要。
  • ストーブに風を防ぐ機能はないので、別途風防が必要。
  • 米軍の水筒が好きな方以外に、お勧めするポイントが見当たらない。

最後に

これを言うとおしまいという感じですが、「米軍の水筒の形が大好き」とか「米軍の装備品を活用したい」という、特殊な要望を持った方にしかお勧めできません(私はそういう“特殊”な思考の持ち主です)。

普通のアウトドア好きの方は、普通のクッカー等を購入してください

考え方や感覚は人それぞれですが、この価格でフッ素樹脂コーティングされた米軍の水筒互換のカップ、ストーブ、フタが手に入るのは、私の感覚では高いとは思いません。

フッ素樹脂コーティングのおかげで、ラーメンを煮込んでも内側にこびりつかないのは気持ちいい

コーティングのないクッカーだといとも簡単に麺がこびりつき、ガビガビに固まって取りづらくなってしまいます。

コーティングの他に個人的に気に入っているのは、携帯性の高さ。
私は山歩きの際、軍用のバックパックを時々使っていますが、それには米軍の水筒用ポーチを外付けできます。

そうすると、水1リットルとクッカー、フタなどの一式をバックパックの中に入れずに済むので、その空いた空間に別の道具類を入れられ、(パノラマ撮影機材やドローンを山に持っていくために)荷物が多くて困っている私にとっては非常に便利です(大きいバックパックを背負うと動きづらいし、背中が暑くなるのでなるべく使いたくない)。

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▲アークテリクスの米軍向けバックパックに米軍の水筒用ポーチを外付けしている様子。外に付ければバックパック内の容量を節約でき、空いた空間に別の道具を入れられる。水筒の右に外付けしているのは、Helinoxのイス「タクティカル チェア ミニ」。

軍用装備の連結の仕組みに興味がある方は、こちらの記事をどうぞ。

dfm92431.hatenablog.jp

*1:使用している温度計の最低記録間隔が1分のため。

*2:製品名は「MOLLEⅡ 1 QT CANTEEN/GENERAL PURPOSE POUCH」。