前編から続く
▲前編はこちら
前編ではウィンドバーナーの仕様や構成部品の詳細を紹介しましたが、後編では使い方と、見た目では分からないウィンドバーナーの特殊な機能について紹介します。
使い方
組み立て
まずはワイヤーハンドルを展開し、右へ回しきってガスが流れないようにします。
ワイヤーハンドルは水平にしないと収納できませんが、その状態ではガスのバルブが閉じきっていないのです。
▲私が持っているウィンドバーナーは、ハンドルをこの向きまで回さないとバルブが閉じない
次に、ストーブ本体を専用イソプロ缶にねじ込みます。
ストーブ本体についている黒い樹脂部品のおかげで、ストーブ本体は持ちやすいです。
ただ、専用イソプロ缶の脱着時には盛大にガスが漏れるので、初めて使うときは驚かないようにしてください。
画像のようにガス缶を傾けると、特にガスが漏れやすいようなので、ガス缶は垂直に保持することをお勧めします。
▲黒い樹脂部品のおかげで、ストーブは持ちやすい
イソプロ缶にスタンドを取り付け、周囲に可燃物がなく、平らで安定した場所にストーブを設置します。
▲スタンドの折りたたみ機構が優秀で、脚を広げると自動的にガス缶をくわえ込む形になる
ワイヤーハンドルを左へ360度ほど回転させると、シューッと音を立ててガスが出てくるので、金網状の燃焼部に点火具*1で着火してください。
▲ライターなどで点火する
炎が見えなくても、インジケーターワイヤーが赤く光れば点火できています。
▲炎が見えづらい明るい日中でも、インジケーターワイヤーのおかげで点火出来たかどうか分かりやすい
調理
水や食材などを入れたポットをストーブの上に置き(必要に応じて右に回してロックする)、火力を調節します。
▲使用時の様子
燃焼部がポット下部にしっかりと覆われていることがおわかりいただけると思います。
そのため、風が吹いても火力にはほとんど影響を受けません。
燃焼用の空気は燃焼部下部から取り込まれ、排気はポット底部の周辺や排気口から出て行きます。
お湯が沸いたらポットを取り外し(ロックしている場合は左に回してロックを解除する)、食事を楽しみます。
片付け
収納時は、まずポット内の水分や汚れをきれいに拭き取ってください。
ポットの底にパックタオルの小片(商品に同梱されています)を敷き、その上に上下を逆にしたイソプロ缶を入れます。
このとき、ガス缶の口にキャップをはめておいた方が、収納後のガタつきは少なくなります。
▲付属しているパックタオルの小片
▲ポット底部にパックタオルの小片を敷く
▲パックタオルの小片の上にイソプロ缶を上下逆にして入れる
その上に、上下を逆にしたストーブ本体を入れ(ガス缶底部のへこみに、燃焼部の曲面がぴったり合います)、ガスカートリッジスタンドをストーブ本体の上に置くと、ポット内に全ての部品が収まります(多少のガタツキはあります)。
▲イソプロ缶の凹みに燃焼部を合わせてストーブを入れる
▲ストーブの樹脂部品の切り欠き部分に合わせてスタンドを置く
▲ストーブ底部の切り欠き
▲スタンドが切り欠きにはまった様子
蓋を閉じ、ベースカップをポットの底にはめ込めば、片付けは完了です。
▲蓋を閉じた状態
▲収納時は、ウィンドバーナーの構成部品がこのようにポット内に収まる(ベースカップは、この撮影のためにイソプロ缶を支える目的で使用しています。)
一連の作業は、メーカー公式動画が分かりやすいです。
MSR Stoves: How to Use Your WindBurner Stove
同種の製品との比較
ウィンドバーナーの類似商品として、ジェットボイルがあります。
これらの大きさを比較してみましょう。
(ここに写っているジェットボイルは「JETBOIL SOL」で、ポットは0.8リットルサイズです。)
収納状態のサイズは下の画像の通りで、ジェットボイルと大差ありません。
▲収納状態での比較
組み立てると、ウィンドバーナーの方が大きく(背が高く)なります。
▲組み立てた状態での比較
どちらも見た目や設計思想は同じように見えますが、使いやすさと性能は、後発だけあってウィンドバーナーの方が優れています。
何より素晴らしいのは、ウィンドバーナーの耐風性能。
ウィンドバーナーの燃焼部は使用時に完全に覆われているため、風の影響をほとんど受けません。
MSRはウィンドバーナーより前にREACTOR(リアクター)という製品を発売しました。
リアクターもウィンドバーナーと同じ放射型ストーブで、燃焼部が完全に覆われる構造のため、ジェットボイルではなかなかお湯が沸かないような強風下でも、いとも簡単にお湯を沸かすことができます。
「風のない物陰に移動すればいいじゃないか」と言われそうですが、山の上で展望を楽しみながら過ごすのが私の山歩きの目的なので、物陰でゴソゴソするのはイヤ。
そのため、私は荷物をコンパクトにまとめたい場合で風が弱そうな時はジェットボイル、強風が予想される場合は、体積と重さを我慢してリアクターを山に持って行っていました。
ウィンドバーナーと同種の製品であるジェットボイルは小型軽量ですが風に弱く、風に強いリアクターは大きくて重いわけです。
ウィンドバーナーは、これら同種の製品の「良いとこ取り」をした製品と言えます。
ただ、見ての通り重心の位置が高いので、イソプロ缶にスタンドを付けていたとしても、入っている水/お湯の量が少ない場合、強風下では風に煽られてシステム全体が倒れる場合があるため要注意です。
ウィンドバーナーの特殊な機能
ウィンドバーナーには、「プレッシャーレギュレーター」と「サーマルトリップ」という2つの特殊な機能が搭載されています。
プレッシャーレギュレーター
プレッシャーレギュレーター(pressure regulator)は他社の一部の製品にも搭載されている部品*2で、ガス缶から燃焼部へ送られるガス圧を一定に保つためのもの。ウィンドバーナーの場合は、火力調節用のバルブ内に組み込まれています。
ウィンドバーナーは16.5psiという低いガス圧*3で動作するように最適化されており、レギュレーターはガス缶から出てくるガスをその圧力まで下げてから燃焼部に送る役割を果たしています。
つまり、ガス缶内の圧力が16.5psiを切らない限り、常に一定の出力を維持できるわけで、ガス缶内の圧力が低くなる寒い環境であっても、ウィンドバーナーはしっかりお湯を沸かせるそうです。
この仕組みについては、英文ですがMSRの公式サイトに詳しく説明されています。
サーマルトリップ
サーマルトリップ(thermal trip)は、ウィンドバーナーの温度が高くなりすぎた時にガスを止める安全機構です。
万一サーマルトリップが作動した場合は、ガスカートリッジスタンドを使ってリセットすることができるそうです。怖いので実験したことはありませんが…
ただ、これを知らなければ「ウィンドバーナーのバルブが故障した」と誤解し、必要も無いのにウィンドバーナーを修理に出してしまうかも。
突然ウィンドバーナーが使えなくなったら、サーマルトリップが動作した可能性を考え、説明書に従ってリセットの操作をしてみてください。
最後に
今まではジェットボイルとリアクターという2種類のストーブを使い分けていましたが、軽くてコンパクトなのに風に強いという、最強のストーブ「ウィンドバーナー」が登場したおかげで、私の場合はジェットボイルとリアクターを使い分ける必要がなくなりました。
これからは、(お湯さえ沸かせれば良いという時は)何も考えずにウィンドバーナーを山に持っていけば良いわけです。
▲私がウィンドバーナーの収納用として使っているポーチは、モンベルの「バーナーケース S」(税抜¥1,700)
ただ、お湯が沸くまでの時間は、私の個人的な感覚ではジェットボイルの方が早いという印象。風さえなければ、ジェットボイルも素晴らしい性能を見せてくれるのです。
それにしても、MSR製ガスストーブの日本国内向け定価はおそろしく高い。アメリカで149.95ドル(1ドル=107円換算で16,045円)のものが26,000円ですからね。
輸入代理店を通じて購入した正規品は、万一故障したときの修理などを受けやすいというメリットはあります。並行輸入品については、一般的に国内の販売代理店ではサポートしてくれないため、自分で本国のメーカーとやりとりする必要があり、手間と時間とお金がかかることになります*4。
内外価格差は、万一の事態に備えた「保険料」だと思えばいいかも知れません。
*1:MSRピエゾイグナイターなどの電子着火装置は使用できません。
*2:ジェットボイルの一部製品の場合は「サーモレギュレーター」、SOTOブランドの一部製品であれば「マイクロレギュレーター」という名称で搭載されています。
*3:MSRのWebサイトによると、セ氏20度の環境でガスの圧力(canister pressure)は45psi、セ氏4度の環境で22psiだそうです。
*4:過去に海外から腕時計を購入したとき、明らかな初期不良だったのにメーカーはそれを認めず、状態を撮影した画像と動画をメールで送ってようやく交換を認めてくれましたが、返送の送料はこちら負担でした。時間がかかりましたし、ほぼ新品状態の化粧箱に入れて返送したのに、送り返されてきた化粧箱はボロボロ。こちらからの発送方法にも文句を付けてくるし、ほとんどケンカみたいな状態でした。