今回は、山歩きで使用するガスストーブなどを点火する際に役立つ、小型で軽量な点火装置を紹介します。
山歩きで一般的によく使われているライターを完全に置き換えるものではありませんが、ライターを「予備」の座に追いやれる性能は持っていると思います。
MSRピエゾイグナイターとは?
MSRピエゾイグナイター(以下「ピエゾイグナイター」)は、圧電素子(ピエゾ素子)を利用して火花を飛ばし、それによってアウトドア用ガスストーブなどに点火するための道具です*1。
イグナイターは英語の「igniter」のことで、点火装置を意味します。
つまり、ピエゾイグナイターを直訳すると、「圧電素子式点火装置」とでもなるのかな。
▲ピエゾイグナイターのパッケージ
製品名: MSR PIEZO IGNITER(ピエゾイグナイター)
メーカー: Cascade Designs, Inc.(アメリカ)
生産国: 韓国
重量: 14g(カタログ値)
米国での価格: $9.95 USD
国内定価: ¥1,400(税別)
購入価格: ¥1,400(税別)
購入先: 好日山荘 姫路駅前店
備考: MSRピエゾイグナイターは、韓国Kovea社のイグナイターとデザインが同一です(樹脂部品が色違いなだけ)。原産国が韓国になっていることから、MSRピエゾイグナイターは、MSRがKovea社からOEM供給を受けたものかも知れません。
ピエゾイグナイターの外観
金属製のパイプの一端に赤い樹脂製の円筒形部品がはまっており、その円筒形部品の端に黒い樹脂製の点火ボタンが付いています。
▲ピエゾイグナイター
点火ボタンの反対側にある金属パイプの先を覗くと、中は先端から7mmほどの場所まで白い絶縁体で埋まっていて、その絶縁体の中央から針金(電極)が飛び出しています。
黒いボタンを押すと、この針金の先端と金属パイプの内側との間に火花が飛ぶ構造。
この種の点火装置の火花がうまく飛ぶかどうかは、電極と金属パイプとの距離が適切かどうか、電極が汚れたり酸化していないかどうかにかかっています。
ピエゾイグナイターは電極がパイプの中にあるため、電極が剥き出しになっているガスストーブ内蔵型の点火装置と違って、電極が曲がったり汚れが付着して火花が飛ばなくなる可能性が低いですし、電極が炎にさらされないため、電極の表面が酸化して火花が飛ばなくなることもありません。
▲ピエゾイグナイターの先端
▲ピエゾイグナイターの点火ボタン
ピエゾイグナイターは小さくて軽いので、紛失の可能性が高いです。そのためかストラップホールが付いていますが、穴が非常に小さい。
ストラップを付けるには、まず小型のダブルリングを付けてからその中にヒモを通すなど、工夫が必要です。
▲ピエゾイグナイターのストラップホール
ピエゾイグナイターの使い方
ピエゾイグナイターは下の写真のように持ち、親指で黒い点火ボタンを押します。
▲ピエゾイグナイターの持ち方
点火用の火花はそれほど大きくなく、当然ですが一瞬しか出ないため、ガスストーブに点火するためには“コツ”が必要です。
それは、「金属パイプの中にガスを溜める」のを意識すること。
下の写真のように、燃焼部から出たガスをパイプで受け止めるようにピエゾイグナイターを保持し、黒い点火ボタンを押してください。
▲ガスストーブの燃焼部から出るガスをパイプの中に溜めるつもりで保持する
買って初めて使ったときは、パッケージの写真を真似て真横からピエゾイグナイターをガスストーブの燃焼部に近づけましたが、なかなか火が着きませんでした。
インターネット検索で調べ、ガスをパイプの中に溜めるようにすれば良いという情報を入手。
それ以来、一発とはいきませんが、数発程度で点火できるようになりました。
注意事項
- パッケージの画像のように、ガスストーブの燃焼部に真横から近づけてもうまく点火できないので、ご注意ください。
- 電子式の点火装置は、寒冷な環境や高地ではうまく点火出来ない可能性がある(文末の「関連情報」参照)ので、必ず予備の点火具(マッチやライターなど)も用意しておいてください。
- ピエゾイグナイターは、MSR Reactorやウィンドバーナーのような放射形ストーブの点火には使えません。パッケージの英文表記にはその旨が書かれていますが、この製品が発売された当初はMSRの放射型ストーブが日本国内で正規販売されていなかった*2ためか、日本語の注意書きからは省略されています。
最後に
小型・軽量で、山に持っていくのに邪魔になりません。
同様の製品は他社からも出ていますが、私はMSR製品の性能を盲信している“MSR信者”ですし、MSR製のストーブ類を愛用しているため、「ストーブのブランドと点火装置のブランドを合わせよう」という、まったく論理的ではない理由でこれを購入しました。
消耗品がないため壊れるまで何度でも使えて、手とガスストーブの燃焼部の距離をある程度離すことができ、マッチや100円ライターが使えない強風下でも使えるというメリットが魅力的です。
ピエゾイグナイターは(見かけ上)可動部が少なく、電極がしっかり保護されていて耐久性が高そうですが、それでも何が起こるか分かりません。
点火具に関しては、必ず予備を携行して下さい。
関連情報
山歩きの世界では、「電子式の点火装置は、高い山では使い物にならない」という話が“常識”のように語られることがあります。
そういった話が広まった原因が何なのか調べていたときに、海外のWebサイトで見つけたグラフを紹介します。
グラフの縦軸は火花のエネルギー(SPARK ENERGY)を表しており、単位は「mJ」。
横軸はブタンガスと空気の混合比(重量比)(FUEL-AIR WEIGHT RATIO)で、「ブタンガスの重さ÷空気の重さ」という式で算出される値です。
▲点火に必要なエネルギーと燃料/空気の混合比の関係(注:混合気の温度はセ氏25度、1気圧とする。)
グラフの出典:アメリカ合衆国内務省 鉱山局の報告書「Investigation of Fire and Explosion Accidents in the Chemical, Mining, and Fuel-Related Industries-A Manual」Joseph M. Kuchta著(1985)
このグラフを見ると、混合比(横軸)が0.10の時がもっとも点火しやすく(縦軸の火花のエネルギーが最小)、混合比が0.10より高くなっても低くなっても、点火に必要な火花のエネルギーが急激に大きくなることが分かります。
海外のサイトを見ていると、「高所では空気が薄くなることから最適な混合比になりづらい」「高所は気温が低く、ガスが気化しにくくなって最適な混合比になりづらい」ため点火に必要なエネルギーが大きくなり、火が着かなくなるのではないかという考察がありました。
そうかと思えば、MSRピエゾイグナイターが高い場所でも使えるかどうか、標高約3,800mの山の上で実験している動画もYoutubeにはあります。
この動画の中では、問題なくガスストーブに着火できています。
MSR (Kovea) Handheld Igniter at Altitude (12,466')
この動画の説明欄を見ると「空気が薄いので、適切な混合比にするためガスを出す勢いは控えめにすること」が勧められています。
動画の中で、MSRピエゾイグナイターは標高3,800mの山頂でもきちんと役割を果たしましたが、ガスストーブに内蔵されている点火装置は、その山頂で全く使えなかった(点火できなかった)そうです。