播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

位置を示す座標の使い方(UTMグリッド/MGRS)

地図上で位置を表す場合、登山者だと緯度経度を使うでしょう。
 
しかし、登山中に何かしらの非常事態が発生して警察や消防に位置を伝える場合は、緯度経度を伝えても警察や消防はすぐには対応出来ません。
彼らは人が住んでいるエリアで活動することが前提なので、住所にしか対応出来ないのです。
 
自衛隊は活動範囲が幅広いため、住所のない場所でも正確に位置を表現できるMGRSと呼ばれる方式を使っています。
 
警察や消防、自衛隊などが協力して対応する必要がある大規模災害発生時などは、位置を表現する方法が各機関で異なっていると非常に不便なので(東日本大震災でも問題になったようです)、全ての組織でMGRS(※)を使おうという動きがあります。
 
※世界的にはMGRSという表記が一般的ですが、日本国内ではUTMグリッドと呼ばれているので、この記事でも以下UTMグリッドと書くことにします。
 
今回は、そのUTMグリッドについての記事です。
 
日本でUTMグリッドと呼ばれているMGRSは「Military Grid Reference System」の略で、名前に「Military=ミリタリー」とあることから想像出来るとおり、もともとは米軍が1947年に使い始めたシステムで、その後、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍隊も使い始めました。
 
戦争映画などで、無線を通して位置を連絡するのに「座標123-456」といった6桁や8桁の数字が使われていることがありますが、あれがUTMグリッドを使った場合の位置の表現方法です(本当はもっと桁数が多くて11桁や13桁あるのですが、事前にどの場所のことかお互いに分かっていれば、前半の5桁を省略して6桁や8桁だけで位置を特定できます)。
 
例えば兵庫県高砂市にある高御位山(たかみくらやま)山頂の三角点付近の位置は、緯度経度で表記すると「北緯34度48分47秒 東経134度47分34秒」ですが、UTMグリッド(10m四方の範囲を特定する13桁)で表記すると「53SMU81055233」となります。
 
では、この「53SMU81055233」を分解してそれぞれの意味をみていきましょう。
分解すると「53S」「MU」「81055233」に分けられ、それぞれ「UTMゾーン番号」「UTM100km平方地域コード」「UTM座標値」と呼ばれます。
 
UTMゾーン番号(Grid Zone Designation)53SMU81055233
 
最初の3桁「53S」は「UTMゾーン番号」と呼ばれるもので、6度ごとに経線を引いて出来るゾーンと呼ばれる60個の南北に細長いエリア(1~60)と、緯度8度ごとに分割されたバンドと呼ばれる東西に細長いエリア(C~X)の交差する四角形によって表される範囲を特定するものです。
 
1のゾーンは太平洋上にあり、そこから東へ進むにつれて数字が大きくなります。
前述の高御位山山頂のある東経134度47分34秒は、東経132度~東経138度までの範囲が含まれる53番目のゾーンに入っています。
 
緯度は8度ずつ区切られていて、それぞれアルファベット1文字が名前として割り当てられています(北極周辺と南極周辺を除く北緯84度から南緯80度の間のみ)。
使われているアルファベットはC~X(IとOは数字の1と0と区別しづらいので使わない)で、南極から北極に向かって進んでいき、高御位山山頂のある北緯34度48分47秒は、「S」のバンドに含まれています。
 
つまり、高御位山はゾーン53とバンドSの交わる「53S」のUTMゾーンに入っているわけです。
 
▲MGRSは、世界地図をゾーンとバンドで区切っている(赤線は赤道。今回の例の「53S」のUTMゾーンには黄色く色を付けています。この図は拡大表示出来ます。)。
 
UTM100km平方地域コード(100,000-meter Square Identification)-53SMU81055233
 
4桁目と5桁目の「MU」は「UTM100km平方地域コード」と呼ばれるもので、最初の3桁で表されるUTMゾーンを100km四方に区切り、それぞれのマス目に付けた名前のことです。
 
1桁目(UTMグリッド全体では4桁目)は西から東へ進むにつれて進んでいくアルファベットの文字で、A~Z(IとOは除く)が使われます。Zまで進むとまたAに戻って繰り返します。
 
2桁目(UTMグリッド全体では5桁目)は南から北へ進むにつれて進んでいくアルファベットで、A~V(IとOは除く)が使われており、Vまで行くとAに戻って繰り返します。
 
▲UTMゾーンを100km四方に区切った時のそれぞれのマス目の名前の一例。このUTMゾーンの左下は「AA」ですが、この北隣のUTMゾーンの左下は「AK」になります。
 
この命名規則だと地球上に同じ名前の100km四方のマス目が存在してしまいますが、同じUTMゾーン内には存在しないため問題はありません。
 
球形の地球を平面に投影する関係上、厳密には、UTMゾーンがこの図のように綺麗に100km四方のマス目に区切れるわけではありませんが、UTMグリッドについて簡単に説明するのがこの記事の目的なので、ややこしいところはすっ飛ばします(そもそも私も理解していません)。
 
UTM座標値(Numerical Location)-53SMU81055233
 
6桁目以降はUTM座標値で、100km四方の範囲の中での位置を表現する役割を持ちます。
 
今回の高御位山の例では「81055233」の8桁になっていますが、これは4桁ずつ「8105」と「5233」に分けて考えます。
 
100km四方のマス目の中に、1キロ間隔で縦線と横線が引かれている様子(100行×100列)を想像してください。
 
前半4桁(8105)のさらに前2桁(81)は、53SMUという名前の100km四方のマス目の中に1km間隔で縦線を引いて、53SMUの西端の縦線が0番、その1km東の縦線が1番という具合に番号を付けた場合、81番目の縦線より東で、82番目の縦線より西の範囲(東西の幅が1kmで縦に細長い範囲)を意味します。
 
同様に、後半4桁(5233)の前2桁(52)は、53SMUという名前の100km四方のマス目に引いた1km間隔の横線の内、南から52番目(53SMUの南端を0番とする)の横線の北側で53番目の横線より南側の範囲(南北1kmで横に細長い範囲)を意味します
 
これらの2つの細長い範囲が交差して出来るマス目の座標は、線の番号を縦線・横線の順に並べて「8152」と表現でき、1km四方の範囲を特定するのに使えます。
 
続いて前半4桁(8105)の内後半2桁(05)は、前述の1km四方の枠を東西10mの幅で分割する縦線の内、西から5番目と6番目の縦線の間の幅10mの範囲を意味します。
 
同様に後半4桁(5233)の後半2桁(33)は、1km四方のマス目を南北10mの高さで分割する横線の内、南から33番目と34番目の横線の間の高さ10mの範囲を意味します。
 
これら2つの幅10mの帯状の範囲が交差するマス目は、1km四方の縦線の番号とその中の10m間隔の縦線の番号をつないだ4桁と、1km四方の横線の番号とその中の10m間隔の横線の番号をつないだ4桁を並べた8桁、つまり「8105 5233」になり、10m四方まで範囲を絞り込むことが出来ます。
 
下図は、100行100列に分割した図を作るのが面倒だったので、10行10列に分割した図です。
マス目の横の数字を10倍し、見えているマス目がさらに10行10列に分割されている様子を思い浮かべて、100行100列だと思って見て下さい。
 
外周の線の中央に書かれている数字は、1km四方のマス目を特定するために使用する線の番号(81と52)です。
 
 
▲1km四方のマス目内で「8105 5233」の位置(赤丸)を簡略化して示した図(UTMグリッドではマス目の南西の角が原点になっていることがわかる)
 
要するに、今回の例で使用した81055233というUTM座標値の意味は、100km四方のマス目の原点(南西隅)から東へ81,050m、北へ52,330m行った場所を原点にした10m四方のマス目という意味になります。
 
山歩きでのUTMグリッドの使い方
 
実際に山歩き等で位置を特定する際は、UTM座標値の部分だけを利用します。
 
山歩きで使う場合、UTM座標値は6桁(100m四方の精度)で充分。
「100m!?精度低っ!」と驚かれるかも知れませんが、読み進めていくと納得していただけるはず。
 
しかし、Garmin社製ハンディGPSで表示形式をMGRSにすると、UTM座標値が10桁(1m四方の精度)で表示されてしまいます。
 
そんなに高精度で表示されても、山歩きの最中に正確に地図上に位置をプロットするのは困難です(米軍では、座標を求めるために専用の定規が使われています)から、桁数を減らしてもっと簡単に位置を把握できるようにしないといけません。
 
例えばUTM座標値が「81053 52331」といった具合に10桁で表示される(ハンディGPSの画面では5桁ずつ区切られる)わけですが、これを3桁ずつの6桁にするのは簡単。
 
5桁の数字の内、十の位の数字(右から2桁目)を四捨五入して十の位と一の位の数字(右端の2桁)を取り除くだけです。
 
例:「81053」の十の位は5なので、四捨五入すると百の位の数字が「1」になります。その後、「53」を取り去ります。
  「52331」の十の位は3なので、四捨五入しても百の位の数字は変化しません。そのまま「31」を取り去ります。
  以上の操作で、「811 523」という6桁の座標が得られました。
この6桁の座標値「811 523」を使って、実際に位置を特定する作業を試して見ましょう。
 
下の図は、高御位山の山頂周辺の地形図で、UTMグリッドを表示しています(地理院地図をキャプチャしたものを加工した画像です)。
 
▲高御位山山頂周辺の地形図(縦横の線についている2桁の数字は、私が付け加えたものです。縦横の線の番号は、実際にはマス目内に書かれているUTMグリッドの値を見て各自で判断する必要があります。)
 
まずは「811」。
81の縦線から右へ、1km四方のマス目の幅の1/10の距離(目分量)だけ進んだ場所に、頭の中で縦線を引いてください。
 
次は「523」。
52の横線から上へ、1km四方のマス目の高さの3/10の距離(目分量)だけ進んだ場所に、頭の中で横線を引いてください。
 
これら2本の線が交わる場所は、高御位山の山頂にある三角点付近になったのではないでしょうか。
山歩きの場合は、こんな具合でおおよその位置が分かれば充分です。
 
 
▲座標「811 523」の位置を分かりやすくするために、1km四方のマス目を10行10列に分割した図
 
マス目の原点は南西の角なので、縦線から東()へ、横線から北()へ見ていく必要があることを覚えておいてください。
米軍のマニュアルでは「RIGHT and UP」と記載されています。
 
このように6桁の数字でおおよその位置を特定できるので、山歩きで複数のグループが山頂で合流しようと予定している場合や、同じグループでも隊列が伸びてしまった場合等に、他のグループやメンバーに自分の位置を伝えるのが簡単です。
 
聞く方がUTMグリッドに対応した地形図を持っていれば、すぐに地図上で位置を把握できます。
 
さて、地図表示が可能なGPSを使っている方なら、100mの精度が低すぎると思われるかも知れません。
 
しかし地図が表示出来るGPSでも、自分の位置を示しているのは大きな三角形の現在地アイコンですよね。
あの大きなアイコンのどの部分が自分の位置なのか、いちいち気にして使っていますか?
 
「三角形のアイコンの先端が自分の位置だから、今まさにここにいる」と高精度で位置を特定しても、「三角形の真ん中が自分の位置かな?ということは、自分はこの辺にいるのかな」という感じで使っていても、はっきり言って実用上は大した違いになりません。
 
UTMグリッドを使うための地図のつくりかた
 
最後に、UTMグリッドの入った地図のつくりかたを紹介しましょう。
 
まずはパソコンで地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/)にアクセスします。
 
右上の「機能」ボタンをクリックし、「設定」→「グリッド表示」とたどったら、「UTMグリッド」を「ON」にします。
 
▲UTMグリッドを表示する操作
 
すると、下図のように地図に赤線でマス目が表示されます。
 
▲UTMグリッドを有効にした状態
 
上の画像のような表示倍率であれば、UTM100km平方地域コードまでしか表示されません。
つまり、上の画像内のマス目は、100km四方です。
 
表示倍率は印刷画面で調整すれば良いので、まだこの段階では気にしないで下さい。
印刷したい範囲が見えている状態にしておくだけで充分です。
 
続いて、地図を印刷するためのプレビュー画面へ進みます。
 
右上の「機能」ボタンから「ツール」を選び、その中の「印刷」をクリックしてください。
 
▲地図を印刷するための操作
 
すると、下のような画面が表示されるので、画面上部の「用紙サイズ」のリストから「A4縦」や「A4横」を選択し、マウスで地図をドラッグして範囲を変更したり、マウスホイールを回してズームイン/ズームアウトして、印刷される範囲を決めます。
 
▲印刷範囲の確認画面(マス目は1km四方)
 
ズームイン/ズームアウトするときは、1km間隔でマス目が表示されるように表示倍率を調節することをお勧めします。
 
ズームインしすぎると、1km四方のマス目を2行2列や4行4列に分割するマス目が表示されてしまい、ややこしくなるので要注意です。
 
▲ズームインしすぎて1km四方のマス目が縦横それぞれ4分割、つまり250m間隔のマス目が出現した例
 
範囲を決めたら、画面上部の「印刷」ボタンを押して地図をプリントアウトすれば、UTMグリッドを使える地形図が出力されます。
 
A4用紙1枚に印刷できる範囲は予想以上に狭いため、場合によっては何枚かに分けて印刷する必要があります。
 
では、最後の仕上げ。
 
印刷された地図を見ると、縦線にも横線にも番号は振られていません。
ぱっと見て素早く使えるようにするためには、自分で線に番号を手書きで付けてやると良いでしょう。
 
線の番号は、マス目の左下に書かれている座標を見て判断します。
 
UTMグリッドの説明を読んでいただいたのでもうおわかりだと思いますが、念のため以下のマス目を例にしてみてみましょう。
 
▲高御位山周辺のマス目
 
注目するのはUTM座標値の数字の先頭2桁(上図青枠内)と、その後ろの2桁を飛ばした次の2桁の数字(上図緑枠内)です。
 
青枠内の数字が、その左側の縦線の番号を、緑枠内の数字は、その下の横線の番号を表しています。
つまり、線に番号を振ってみると、以下のようになります。
 
▲線に番号を振った様子
 
最後に
 
まだまだUTMグリッド(MGRS)は日本国内で普及していないようですが、例えばUTMグリッド表示をONにした地理院地図を印刷してメンバーみんなで持ち、ハンディGPSで表示する座標の形式を「MGRS」に設定すれば、お互いに位置を伝え合う際に便利ですよ。6桁の数字なら、メモを取らなくても覚えられます。
 
例えば、高御位山山頂で待ち合わせをしているというような場合、あなたが上の地図で高御位山山頂の南東にある鞍部付近から北へ登っていて、標高200m付近を歩いているとします。
 
すでに山頂に着いているメンバーから「現在地は?」と無線や携帯電話で尋ねられたら、「現在地は814522」と言うだけで、相手にあなたの位置がある程度正確に伝わるわけです。
 
自分の位置は、GPSの地図画面とUTMグリッド対応地形図を見比べ、座標を目測で割り出しても良いでしょうし、GPSでMGRS形式の座標を表示する設定にしておき、UTM座標値の桁数を減らして伝えても良いでしょう。
 
メンバーがUTMグリッドについて正しく理解しておく必要はありますが、1km四方のマス目と線の番号が書かれた地図があれば、それほど難しくはありません。
 
描かれているマス目が1km四方なので、距離を把握しやすいというメリットもあります。
 
UTMグリッド(MGRS)は、今後は日本でも普及していく可能性がありますから、知っておいて損はないと思いますよ。