播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

イギリス軍の水筒セット

購入の経緯

あるとき、イギリス軍の水筒とストーブ、カップのセットを見かけ、米軍のよりも使い勝手が良さそうに見えたので、イギリスのオンラインショップから購入しました。
 
 
▲Crusader Cooking System with the Issue 58 pattern Osprey Bottle(収納状態)大きさの比較のため500mlサイズのペットボトルを並べています。
 
 
▲ポーチの背面(MOLLE互換)

仕様

製品名: Crusader Cooking System with the Issue 58 pattern Osprey Bottle
メーカー: BCB International Ltd.(イギリス)
重量: 約1,108g(付属品一式の実測値)
販売価格: 59.95ポンド (当記事掲載時点のレートで約8,500円)
購入先: The Bushcraft Store(イギリス)

概要

イギリス軍の兵士に支給されている水筒、カップ、クッカー等と民間向けの製品を組み合わせた、アウトドア用調理器具です。
構成部品に英軍の官給品も含まれていますが、このシステム一式が英軍装備品というわけではありません。
 
Crusader Cooking System with the Issue 58 pattern Osprey Bottleという名前は長すぎるので、Crusader Cooking System(クルーセイダー・クッキング・システム)の頭文字を取って以下「CCS」と呼ぶことにします。

外観

上の収納状態の画像ではポーチのデザインしか分からないので、ポーチの中身を紹介します。
 
▲ポーチの中身(正面)
 
▲ポーチの中身(側面)
 
▲ポーチの中身(背面)
 
これらを全て分解すると、下の写真のようになります。
 
 
▲CCSの構成部品(上は水筒、右はクッカー(鍋)、下はストーブ、左はカップ)
 
カップは樹脂製で、容量はおよそ500cc。耐熱温度は不明。

水筒の上に被さる形状をしていて(水筒の下には嵌まらない)、背面には金属棒を曲げた簡単な取っ手が付いています。
 
 
▲カップ(正面)
 
 
▲カップ(背面)
 
水筒本体も樹脂製で、容量はおよそ1リットル。
特にこれといった特徴はありませんが、このデザインは1958年から変わっていないそうです。
 
 
▲水筒(正面)
 
 
▲水筒(背面)
 
クッカー(鍋)はステンレス製で、米軍のキャンティーンカップと比べてスタイリッシュな印象。

取っ手は米軍のキャンティーンカップのワイヤーハンドルとほとんど同じですが、米軍のは凸面側に取っ手が付いているのに対し、CCSのは凹面に付いているという大きな違いがあります。
 
収納時は、水筒の下半分に被せます。
 
 
▲クッカー(正面)
 
 
▲クッカー(背面)
 
250ccと500ccの位置に目盛りが打刻されているので便利。
 
 
▲クッカー内側の目盛り
 
 
▲クッカーの目盛りを外側から見たところ
 
上の一式の写真には写っていませんが、このクッカー専用のフタもCCSには含まれています。
透明な樹脂製で、湯を捨てやすいように端に切り欠きがあります。

このフタは、水筒等を全て重ねてポーチに入れた後、開いたすき間に収納出来るようになっていますが、ポーチ内の大きなポケットに入れておくことも可能。
 
カップとは形状が合いません。
 
 
▲クッカー専用のフタ
 
この蓋は、実際にクッカーにセットしてお湯を沸かすと、なぜか外れにくくなります。
湯沸かし後にフタを外すには、切り欠き部分に箸などを差し込み、テコの原理で持ち上げないといけません。
 
続いてストーブ。
 
このストーブは、基本的には固形燃料用のもので、ワイヤーハンドルをゴトク代わりに使う構造になっています。
収納時はワイヤーハンドルを起こし、クッカーの外側に重ねます。
 
 
▲ストーブ(正面)
 
 
▲ストーブ(背面)
 
使うときは下の写真のようになります。
 
ストーブにセットされた固形燃料は、ストーブ周囲の壁とクッカーでうまく囲われるようになっていて、多少の風なら何とかなりそう。
 
また、このストーブで固形燃料を燃やすと盛大に燃え上がることがなく、同じ固形燃料を使用しても、米軍のキャンティーンカップスタンドよりも長く燃焼します。
 
 
▲お湯を沸かすときのセットアップ
 
ゴトク上面と燃料皿底面との間隔は、約45mm。
これは特に低いというわけではなく、エスビットポケットストーブも同じです。
 
 
▲燃料皿の底とゴトクの間隔
 
 
▲CCSのクッカーとエスビットポケットストーブの比較(CCSの方が低く見えますが、エスビットの燃料皿が高いためそう見えるだけで、どちらも45mm)
 
一人鍋用の固形燃料を入れると、下の写真のようになります。
 
 
▲固形燃料を入れた様子
 
 
▲固形燃料を入れた様子(横から)
 
底部の燃料皿にはトランギアのアルコールストーブが収まるのですが、トランギアの高さが約45mmなのでクッカーがトランギアに乗っかるような形になり、クッカーを載せた瞬間にトランギアの火は消えてしまいます。
 
 
▲トランギア・アルコールストーブは、上端がゴトクと接してしまう
 
ただ、アルコールストーブが使えないわけではなく、下の画像のようにクッカーの位置が高くなるように工夫をすれば大丈夫。
 
 
▲焼き網を使ってアルコールストーブとクッカー底面の距離を離した様子
 
CCSに含まれる水筒とカップ、クッカーはイギリス軍の官給品なので、イギリス政府の所有物であることを示す記号が打刻されています。
 
それはブロードアロー(Broad Arrow)と呼ばれる上向きの矢印。
 
 
▲水筒に打刻されたブロードアロー(「OR」の下)とストックナンバー
 
クッカーの目盛りを外側から撮った写真をよく見ると、クッカーにもブロードアローがあります。
 
ブロードアローは、一説には16世紀からイギリス軍の装備品に付けられるようになった記号で、軍用品の場合は上向きの矢印の形ですが、昔は軍以外に向けて販売される際、もう一つブロードアローを向かい合わせで打刻し、アスタリスク(*)の形にしていたようです。

機能

大きくて重いですが、耐久性は抜群。
軽量で華奢な登山用具と違い、変形を怖れて慎重に扱う必要がありません。
 
疲れてヘロヘロになっているときは、いちいち道具のことを心配してそーっと扱うなのが面倒なので、頑丈なのは助かります。
(このブログで繊細な道具をいくつか紹介しておきながら言いづらいですが、貧弱な山道具は苦手です。)
 
でも、やっぱり重いのは不便。なにせフルセットで1kg以上ありますから。水筒を水で満たすと2kgを超えます。
 
耐久性と重量は相反する要素なので、適当な妥協点を見つける必要があるのでしょうが、最近の登山用品は極端に軽量化に走っていますし、軍用品は耐久性に偏りすぎているように感じます。
 
しかし、軽くもなく頑丈でもない中途半端なシロモノよりはずっと良い。
 
それはともかく、実際にCCSでお湯を沸かす実験をしてみました。
 
測定条件は以下の通りです。
 気温: セ氏35度(真夏)
 風: 微風
 沸かした水の量: 500ml
 測定開始時の水の温度: セ氏33度
 使用した燃料: ニチネンのパック燃料
 
ストーブの底にある丸い皿状部品にパック燃料を押し込んで点火。
すぐに水を入れたクッカー(CCS付属のフタを被せた状態)を載せて水温を測りました。
 
 
▲燃料皿にパック燃料を入れた様子
水温(セ氏)・・・点火からの経過時間
 33度・・・点火時
 50度・・・2分後
 60度・・・3分30秒後
 70度・・・4分30秒後
 80度・・・5分30秒後
 90度・・・7分後
 100度・・・8分45秒後
沸騰した状態は点火から14分後まで続き、14分30秒後にパック燃料は燃え尽きました。
 
上で紹介したように焼き網を使ってクッカーの高さを上げ、トランギア・アルコールストーブを利用した湯沸かし実験もやってみました。
 
水の量は500ml。点火時の水温はセ氏26.5度。微風の屋外環境での実験です。
 
水温がセ氏100度に達したのは、アルコールストーブに点火してから9分20秒後でした。
 
CCSを使って袋入り即席ラーメンの調理をすると、以下のようになります。
 
 
▲麺は湯に浸かりきらないので、下半分が柔らかくなってから押さえつける必要がある
 
 
▲出来上がり(米軍のカップは容量約700mlなのに対しCCSのクッカーは約800mlあるので、ラーメンを作っても容量に少し余裕がある。右端の奇妙な物体はチャーシュー代わりに入れたウインナー。)

CCSに付属する小物類

基本的にCCSでは専用ストーブに固形燃料を置き、その上にクッカーを載せて湯を沸かすのですが、たき火でクッカーが使えるようにするための付属品もあります。
 
それはカップ・ホルダー。
 
 
▲カップホルダー
 
下の写真のようにクッカーの縁を挟むようにセットすると、たき火の上にクッカーを吊して湯を沸かせるというわけです。

安定しているとはとても思えない形状なので、これを使うことはなさそう。
 
 
▲カップホルダーをクッカーにセットした様子
 
CCSにはファイアースターターも付属しています。
持ち手に小型コンパスが付いたサバイバル仕様のもの。
 
FIREBALL FLINT AND STRIKER (Midi) という製品です。
 
 
▲CCSに付属するファイアースターター
 
私が買ったCCSにはエスビットの固形燃料(ミリタリーサイズ)も付属していましたが、あれはファイアースターターだけで点火するのは至難の業というか、ほぼ不可能です(色々と工夫をすれば可能)。

米軍の水筒との比較

私の手元には米軍の水筒一式(実用性を高めるため水筒本体はナルゲンの民間向け製品に変更している。ポーチ(MOLLE2)、カップ、スタンドは米軍官給品。一式の重量は約585g。)もあるので、それをCCSと比べてみました。
 
まずは携帯時のサイズ比較から。
 
 
▲CCSと米軍の水筒一式のサイズ比較(左がCCS)
 
CCSはポーチが全体を覆う形になっているのでサイズが大きく見えますが、両方とも横幅や高さに大差はありません。
 
今度は中身の形状とサイズの比較です。
CCSは水筒にカップが被さっているため、やはり大きく見えます。
 
 
▲ポーチの中身の比較(左がCCS)
 
 
▲水筒単体の比較(左がCSS。右は米軍の水筒と同型のナルゲンボトル)
 
湯を沸かすときの状態を比較してみました。
 
 
▲湯沸かし時の比較(左がCCS)
 
こうやって見ると、CCSと米軍の水筒は大差無いように見えますが、実際には次のような差があります。
 
・CCSにはプラ製のカップが付属する
・CCSにはクッカー(鍋)用のフタが付属する
・CCSのストーブには底がある(米軍のは単なる筒状のゴトク)
・CCSのクッカーの容量は、米軍のキャンティーンカップより100ml多い

最後に

CCSは、期待していたとおり米軍の水筒一式とくらべて使いやすい。
ただ、軍用品を元に構成されているため、とにかく重い(一式で1kg以上)のが難点。
 
「こんなもん、山で使うやつはおらんやろ」と思われるでしょうが、世の中にはこの手の製品が好きな人が一定数存在し、さらにその中の一部(私も含まれてます)は、多少重かろうが、山でも使うんです。

そんなマニアの方々に少しでも役に立てば幸いです。
 
繰り返しますが、CCSは英軍の官給品と民間向けの製品を組み合わせた調理(湯沸かし)システムです。
純粋な英軍装備ではないので、軍用品にこだわる方はご注意ください。