播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

米軍用の水筒

2020/8/1追記
民生品のキャンティーンカップとストーブを以下のリンク先で紹介しています。米軍官給品のカップやストーブに不満のある方は、こちらをご覧ください。
追記ここまで
 
昔は米軍の水筒やそのアクセサリー類が簡単に、しかも安価で手に入っていました。
そのため私も米軍用の水筒一式を持っているのですが、山で使うには「厳しいかな」という性能だったため、2006年にこのブログで紹介したっきり、長い間棚の中で眠らせていました。
 
しかし、国内外の水筒好きの方々のブログを見て便利な小道具を見つけたり、ちょっとした工夫で使い勝手が向上することが分かったりしたため、再度ブログで取り上げることにしました。
 
まずは、2006年にも紹介した私の水筒一式(1980年代製)を紹介します。
※米軍放出品は常時手に入る物では無く、価格もまちまちなので、この記事内では入手方法や価格には触れません。買いたい方は、放出品店やオークションで探してみて下さい。
 
 
▲米軍の水筒一式(1980年代)正面(右下のポケットは浄水剤を入れるためのもの)
 
 
▲米軍の水筒一式(1980年代)側面
 
 
▲米軍の水筒一式(1980年代)背面(水筒をベルトやバックパックに付けるためのクリップが2つある)
 
 
▲米軍の水筒一式(1980年代)底面(排水用のハトメがある)
 
ナイロン生地のカバーに入っている中身を見てみましょう。
 
 
▲スナップ留めのフラップを開くと、中身を取り出せる(水筒本体の刻印は、「水専用。直火にかけるな」という内容。)
 
 
▲米軍の水筒一式の収納状態(正面)
 
 
▲米軍の水筒一式の収納状態(背面)
 
茶色い水筒に金属製のものが被さっていますが、それらを外して並べると、下の写真のようになります。
 
 
▲収納されていた米軍の水筒とアクセサリーをバラした状態
 
カバーに入っていた物は、水筒本体とカップ、固形燃料用ゴトクの3種類。
水筒の水をカップに入れて専用ゴトクの上に載せ、固形燃料で沸かすというのが本来の使い方です。
 
ちなみに、この3つの組み合わせを重ねてケースに入れるというアイディアは、アメリカで特許が取得されています(公告番号:2,386,501。1945年公開)。
 
米軍ではもう固形燃料は使用されていないため、米軍用では無い固形燃料(一人用の鍋や釜飯を飲食店で頼んだときに使われているアルミ箔のカップに入った青や赤の固形燃料やパック燃料)を使うか、アルコールストーブを使うことになります。
 
水筒はプラスチック、カップはステンレス、ゴトクはアルミ製です。
 
米軍が採用したカップは当初アルミ製でしたが、熱伝導性が良すぎて縁まで簡単に熱くなるので、ステンレス製に変更されたという歴史があります(出所がネットの情報なので信憑性は不明)。
 
この水筒は元来腰に着ける物なので、飯盒と同様、片側がへこんだ形になっていて、腰にフィットするようにできています。
 
水筒の容量は約1リットル。

カップとゴトクが水筒にすっぽりと重なるため、水筒の体積とほとんど変わらない体積で、これら一式が収納出来るという優れた設計になっています。
 
ところが、お湯を沸かす性能に関しては優れているとは言えません。
例えば、説明書通りにカップをゴトクに載せるとゴトクにカップがはまり込みます。
こうなると、カップを持ち上げた時にゴトクも一緒に持ち上がってしまい、扱いづらいですし、固形燃料とカップ底面の距離が近すぎて、効率的に熱を受けられません。
 
 
▲ゴトクにカップをはめた状態
 
このゴトクにはアルコールストーブを置くことが出来るのですが、上の写真のようにカップをセットすると、ストーブ上面とカップ底面が接触してしまい、とても使い物になりません。
もともとアルコールストーブではなく固形燃料用に設計されているわけですから、当然といえば当然ですが。。。
 
 
▲ゴトクの中にアルコールストーブを置いた状態
 
この米軍用水筒を使っている国内外の方々のブログを見ると、ゴトクの上に金属製の棒を2本渡してその上にカップを載せたり、目の粗い網(※)を置いた上にカップを載せたり、カップをゴトクにはめ込まず、カップとゴトクがX字型になるように載せたりして、アルコールストーブとカップの底面の距離を離し、空気の流入量を増やす工夫をしている方が大多数でした。
 
※一度、このゴトクの上にバーナーパッドを載せ、その上にカップを置いてアルコールストーブでお湯を沸かしたことがありますが、バーナーパッドの金網は目が細かすぎて炎が外へ出られずゴトク内にこもり、ゴトク内が文字通り火の海になったことがあります。
 
ゴトクの上に角度を変えてカップを載せるというのは、2006年のこのブログでも書いた方法ですが、あるとき、ゴトクの向きとカップの向きを180度逆にして試しに置いてみると、意外に高い安定性を保ったままカップがゴトクに乗ることが分かりました。
 
 
▲ゴトクの上に、180度向きを変えたカップを置いた状態
 
前述したとおり、水筒は飯盒と同様片面が凸、反対側の面が凹になっており、それに被さるカップとゴトクも同様の形状をしています。
 
ゴトクとカップの向きを逆にすると、ゴトクの凹側にカップの凸側、ゴトクの凸側の上にカップの凹側が乗ることになります。
 
そのため、下の写真のようにゴトクとカップの間にすき間ができ、そこから立ち上るアルコールストーブの炎が、カップの側面を舐めるように水を加熱してくれます(カップの側面を温めているエネルギーはごく一部で、大半は無駄に消費されていることになるわけですが。。。)。
 
 
▲向きを逆にしてカップをゴトクに置いた様子(ゴトクの凹面)
 
 
▲向きを逆にしてカップをゴトクに置いた様子(ゴトクの凸面)
 
炎が上に逃げると、ゴトクの中の温度が上がりすぎず、アルコールストーブの燃費が悪くなりにくい(アルコールストーブが熱くなりすぎると、アルコールの気化が早まる)という利点もあります。
 
ワイヤーハンドルの付け根の真下はすき間がなく炎が出てこないため、ハンドルが炙られて高温になり、カップを持ち上げるときに火傷をする事もありません(ただし、風がある環境だと、ハンドル両側のすき間から出た炎が風に煽られ、ハンドルの付け根に当たって多少は熱くなることがあります)。
 
カップの置き方を説明書の内容と逆にするだけで、網や棒を使わずにアルコールストーブとカップの間の距離を離してセットできたわけです。
 
では、湯沸かしにかかる時間を比較してみましょう。
条件は、以下の通りです。
 
カップに入れた水の量: 500cc
熱源: アルコールストーブ(Trangia TR-B25(※))
燃料: 燃料用アルコール 60cc
水温: セ氏24度
気温: セ氏25度前後
環境: 室内(無風)
 
※余談ですが、「Trangia」は本国スウェーデン語では「トランギア」、英語読みでは「トランジア」と発音されます。日本国内では現地読み優先で「トランギア」です。
 
本来なら複数回測定して平均値を出すべきでしょうが、燃料がもったいないので、1回しか測定していません。測定結果はおおざっぱな目安程度に見て下さい。
 
ゴトクの上にカップをクロスさせる形(X字型)に載せた場合。
(2006年にほぼ同じ条件で測定した際の記録)
 
 沸騰までにかかった時間: 約13分50秒
 
ゴトクの上に180度逆向きにカップを載せた場合。
 
 
▲炎がカップの側面に沿って立ち上っている様子
 
▲上の写真の様子をサーモグラフィーで撮影した画像(カップの凹面側)
 
▲上の写真の様子をサーモグラフィーで撮影した画像(カップの凸面側)
 
 沸騰までにかかった時間: 約11分55秒
 
カップの置き方を変えるだけで、沸騰までにかかる時間が2分近く短縮できました。
 
上の写真を見て気になっている方もおられるかも知れません。
それは「フタはしないの?」という点です。
 
実は、米軍のカップ用のフタというのは、軍に制式採用されている物が存在しません。
しかし、フタがあればゴミや虫がカップ内に入るのを防げますし、沸騰までの時間も短縮できます。
 
アメリカでは、いくつかの会社が米軍のカップ用のフタを製造・販売しています。
軽量で安価な物がよかったので、アメリカのRothco(ロスコ)という会社の製品を買いましたが、これがくせ者でした。
 
 
▲Rothco社のフタ(左)と米軍のカップ
 
この写真ですでに何となく分かると思いますが、Rothcoのフタは米軍制式のカップの縁と形が合わないのです。
 
 
▲カップの縁とフタの縁の形状比較(青線が米軍のカップの縁、赤線がRothcoのフタの縁)
 
Rothco社が作っているカップ専用のフタとのこと。
Rothco社もカップは米軍のカップの形に合わせて作っているだろうと勝手に思い込んでいましたが、下調べが不十分でした。
 
 
▲カップの凹面にフタをそろえると凸面側にすき間が開く
 
 
▲カップの凸面にフタをそろえると凹面側にすき間が開く
 
何方かのブログで、フタの縁を平らに伸ばせば米軍用カップにうまく被さると書かれていたので、ペンチと金槌でフタの縁にある「壁」状の部分を少し広げてみると、米軍のカップの開口部を綺麗に覆えるようになりました。
 
 
▲フタの縁を広げた様子(元々周囲は垂直だったのが外側へ広がっている)
 
 
▲縁を広げたフタをカップにかぶせた様子
 
このフタを使うと、500ccの水が沸騰するまでの時間がどれだけ短縮できるのか、またまた測ってみました。
条件は、前述の実験と同じです。
 
Rothcoのフタをかぶせた場合
 沸騰までにかかった時間: 約10分20秒
 
蓋がない場合に比べて、1分半ほど時間が短縮できました。
(測定中は水温を確認するため、時々フタを開けています。それが無ければもう少し早く沸いたかも)
 
フタがあると実用性が高まるのは事実ですが、このフタは冒頭の画像にある水筒用カバーの中に収まらないという致命的な欠点があります。
 
では、この水筒を何に使うのかということですが、カップ麺やフリーズドライ食品用のお湯を沸かすのがメインになると思います。
 
ひょっとすると、袋麺を調理するのに使いたいという人もおられるかも知れません。
この一式で袋麺を作るとどんな感じになるのか、実際に試して見ました。
 
袋麺の場合、500ccの湯で麺を煮込むことになるので、上の実験で測定した時間がそのまま当てはまります。
水筒からカップに水を注ぎ、アルコールストーブの上にゴトクを被せて点火。

水を入れたカップにフタをかぶせてゴトクの上に載せ、待つこと10分強。
500ccの湯が沸騰したら、麺を投入。
 
 
▲麺を500ccの熱湯に投入した様子
 
麺全体が湯につからないので、箸で押さえつけたりほぐしたりしながら、徐々に全体をお湯に沈めていきます。
麺を入れると、カップの縁にかなり近いところまで液面が上がってきます。
 
 
▲麺を煮込んでいる様子
 
沸騰していたお湯は、麺を投入すると温度が下がって沸騰が収まるのですが、しばらく経つとまた沸騰し、放っておくと盛大に吹きこぼれます。
吹きこぼれそうになったらカップを持ち上げ、炎から遠ざけて弱火状態にする必要があります。
 
後は袋麺のパッケージの説明にしたがってスープを入れたり、乾燥わけぎや卵など、好みに応じて適当な具材を入れたら出来上がり。
 
片手でワイヤーハンドルを持ち、もう一方の手に箸を持ってラーメンを食べるわけですが、ワイヤーハンドルは細い棒なので、カップの重さにラーメンの重さが加わると(合計で800g以上)、手に食い込みます。
 
ラーメンを食べている最中、度々カップを地面に置き、ハンドルの持ち方を変えながら食事をしないといけません。
 
まだ使いにくい点はありますが、「ゴトクへのカップの置き方」と「カップのフタ」のおかげで、軍用の水筒が「山でラーメンを作るのに何とか使える道具」になりました。
 
私の場合、休日に近所の通い慣れた低山(ブログの記事にはしていません)で昼食としてインスタントラーメンを食べる時に使っています。
 
Rothcoのフタを含めたシステム全体で総重量が700g近いので、荷物の軽量化にこだわる方には全く不向きです。
 
まぁ、「そこまでして使う必要があるのか?」「これを使うメリットは?」と言われると返答に困りますが。。。
「趣味の世界ですから」としか答えようがありません。
 
おまけ
上で紹介した水筒は米軍の1980年代の装備品で、水筒本体は現在も当時と変わっていませんが、カバーは大きく変わっています。
 
品名: MOLLE 2 1 QT CANTEEN/GENERAL PURPOSE POUCH
     訳すと「MOLLE 2(規格の名称で、モーリー・トゥーと読む) 1クオート(約1リットル)水筒用/汎用ポーチ」
NSN: 8465-01-532-2303
     NSNはNational Stock Numberの略で、軍の制式装備の種類を識別するための番号
納入価格: $11.11 USD (メーカーが軍に納めるときの価格)
 
外側に大きめのポケットが2つ付いていますが、1つのポケットにニチネンのパック燃料(https://dfm92431.hatenablog.jp/entry/2016/01/17/123414)が2つ入ります(米軍のキャンティーンカップとゴトクで500mlのお湯を沸騰させるには、パック燃料1つでは不可)。
 
もう一方のポケットにライターやマッチを入れておけば、オールインワン調理システムの出来上がり。
 
こちらのカバーは旧式の水筒用カバーと違い、底面にRothcoのフタを入れておくことが出来ます。
つまり、湯沸かしに必要な機材を全て収納できるわけです。
 
 
▲米軍の現用装備(MOLLE2)の水筒カバーに入った水筒(左は正面、右は背面)
 
 
▲MOLLE2の水筒カバー
 
このカバーは、水筒用のケースとして使うほかに、小物入れとして使うことも出来ます。
その場合は、水筒を入れておく場合に内側に押し込んでいたフラップを引き出します。
 
 
▲小物入れとして使う場合のフラップ
 
 
▲フラップを閉じた様子
 
米軍の制式水筒は樹脂の独特の臭いがあるため、私はナルゲンの「OASIS(オアシス)」という水筒(本体は米軍の水筒の形状と互換性がある)を使っています。
 
透明なので水の残量が分かりやすいですし、何より樹脂の妙な臭いがないのがありがたい。
 
 
▲米軍制式の水筒(左)とナルゲンの水筒(キャップ部分に互換性はない)
 
 
▲本体の形状は米軍制式水筒と同じなので、キャンティーンカップや従来のカバーと組み合わせることが可能
 
ちなみに、新型のカバー、ナルゲン OASIS、キャンティーンカップ、ゴトク、Rothcoのフタの合計重量は、約650gです。