以前、MSR社で液体燃料もガス缶も使えるガソリンストーブ「Whisperlite Universal(ウィスパーライト・ユニバーサル:以下カタカナ表記)」を紹介しました。
その際はガソリンストーブとしてではなく、ガスストーブの機能を主に紹介しましたが、今回はガソリンストーブとしての使い方を紹介することにします。
この記事で焦点を当てるのは、消火の方法です。
MSR社製の液体燃料ストーブの場合、通常はポンプのバルブを閉じて燃料の供給をストップするという消火方法が使われます。
しかしウィスパーライト・ユニバーサルでは、この記事で紹介する「反転消火(Flip Stop)」という、ホース内に燃料を残さずに消火できる方法が利用できます(MSRの他の機種でも可能という記事をネットで見かけますが、元々回転させるようになっていない部品を回すことになるため、お勧めは出来ないようです)。
では、この反転消火も含めて、私がウィスパーライト・ユニバーサルを使うときの手順を紹介します。
(ガソリンストーブを使ったことがない方にも分かって頂けるよう、反転消火以外の手順も詳しく書いてみました)
(ガソリンストーブを使ったことがない方にも分かって頂けるよう、反転消火以外の手順も詳しく書いてみました)
ただし、説明書に書かれている本来の使い方とは異なるため、この使用方法を推奨するものではありません。
運搬方法
ウィスパーライト・ユニバーサルにはナイロン生地の巾着袋が付属しているのですが、この手の袋は破れやすく、中に入れるストーブがいびつな形状なので袋自体もいびつな形になり、バックパックから引っ張り出すときに周囲の荷物に引っかかって出し入れしづらいです。
そこで、以前からウィスパーライト等を収納するのにぴったりとあちこちのブログで紹介されていた、APSA-3ストーブ用のハードケースを使っています。
APSA-3というストーブ用に本来は作られているのですが、このケースだけ単品で売られており、値段も定価で¥750(税抜。ブログ記事執筆時点)。入手は簡単です。
シンプルな四角柱なので、バックパックからの出し入れが容易。
私の場合、このケースの中身はウィスパーライト・ユニバーサル本体と折りたたみ風防、そして予熱(プレヒート)用のアルコールです。
収納時のケース内はこんな感じ。
APSA-3用ケースに入れた一式の他に、ポンプをセットした燃料ボトルも必要です。
使用方法
ガソリンストーブを使用するには、大きく分けて「準備・組立」「予熱」「本燃焼」「消火」「分解・片付け」の5つの工程が必要です。ガソリンストーブは液体のままガソリンを燃やすわけではありません。
液体のガソリンが加熱されて気化し、気化したガソリンが燃焼部から噴き出して燃えるという構造です。
液体のガソリンが加熱されて気化し、気化したガソリンが燃焼部から噴き出して燃えるという構造です。
ガソリンを加熱するために、点火前にストーブ本体を温めてやる(予熱する)必要があるわけです。
一度点火して本燃焼が始まれば、ストーブ本体は自身が出す炎でどんどん加熱されるので、予熱はストーブが冷えている状態でのみ必要な作業です。
準備・組立
まずはガソリンを燃料ボトルからストーブ本体へ送るためのエネルギーを蓄えます。それは圧縮空気。
まずはガソリンを燃料ボトルからストーブ本体へ送るためのエネルギーを蓄えます。それは圧縮空気。
燃料ボトルに取り付けたポンプのピストンを何度も動かし、ボトル内の気圧を高めます。
ピストンを動かす回数は、燃料ボトルのサイズや内部の燃料の残量によって異なるため、特に決まってはいません。
何度も動かす内に「最初に比べたら抵抗が大きくなったな」と感じたところで止めておけば良いでしょう(20回程度はピストンを動かすことになると思います)。
そうしたら、ストーブ本体から延びているホースをポンプに連結し、ストーブの周囲を風防で囲みます。
予熱の時の炎は風に弱いので、風防は必須。
予熱の時の炎は風に弱いので、風防は必須。
ウィスパーライト・ユニバーサルを設置する場所も重要です。
単に平坦でしっかりした地面というだけでなく、周囲に燃えやすいものが無い場所でないといけませんし、雪の上で使うときには木の板を敷くなど、輻射熱による被害(雪の上だと熱で雪が溶けてストーブが沈み込んでいく)を抑える工夫も必要です。
予熱
いよいよ重要な予熱作業に入ります。
燃料ポンプのバルブを開き、ストーブ本体下部のノズル先端をのぞき込んで観察します。
しばらく経つと、ノズルの先からガソリンが噴き出すので、ガソリンが噴き出すのが見えたらすぐにバルブを閉じます。
しばらく経つと、ノズルの先からガソリンが噴き出すので、ガソリンが噴き出すのが見えたらすぐにバルブを閉じます。
続いて、ストーブ本体下部にある予熱皿の中にアルコールを入れます。
ここに入れるアルコールの量が重要で、少なすぎると予熱が上手くいきません。
アルコールはそれほど高価なものでも無いですし、予熱皿を満タンにしても数ミリリットル程度の量しか使いませんから、たっぷり入れれば良いと思います。
アルコールはそれほど高価なものでも無いですし、予熱皿を満タンにしても数ミリリットル程度の量しか使いませんから、たっぷり入れれば良いと思います。
ただし、溢れると危険です(点火すると溢れたアルコールにも火が付き、周囲の枯れ草などを燃やす恐れがある)ので、アルコールを予熱皿へ注ぐための容器にも充分に気を遣ってください。
アルコールを入れたら、すぐに予熱皿のアルコールに点火します。
ガソリンを噴き出させてからアルコールを入れて点火するまでの作業は、迅速に行う必要があります。
アルコールやガソリンが気化しやすい暑い時期だと、この作業に時間をかけた場合、点火時にアルコールやガソリンの蒸気が燃えて手を火傷する危険があるからです。
火傷までいかなくても、手や指の体毛が燃えてチリヂリになります。
私の場合は、点火にロックライターを使っています。
本来はアセチレンバーナーの点火用の道具ですが、頑丈ですし、ピストル型になっていて先端から火花が出る構造のため、手を火傷しにくいというメリットがあります。
どうでもいい話ですが、ロックライターは2006年に私のブログで紹介したことがあります。
それ以前はロックライターをアウトドアで使っているという情報を見たことがなかったので、ロックライターをアウトドアの世界に広めた(広まっているのだろうか?)のは私だと自分で勝手に信じ込んでいます。
それ以前はロックライターをアウトドアで使っているという情報を見たことがなかったので、ロックライターをアウトドアの世界に広めた(広まっているのだろうか?)のは私だと自分で勝手に信じ込んでいます。
さて、本題に戻りましょう。
説明書では、燃料ポンプのバルブを開いてガソリンを出し、予熱皿の中にガソリンを溜めてそのガソリンに火を付けるよう書かれていますが、そうするとストーブが煤だらけになってしまいます。
煤でストーブが汚れると、片付ける時に手や服を汚すことにつながるので、私はアルコールを使っているというわけ。
予熱が始まったら、耳をすましてください。
やがて「シューッ、シュシュシュ」というかすかな音が聞こえてきます。
やがて「シューッ、シュシュシュ」というかすかな音が聞こえてきます。
最初にガソリンを少し噴き出させましたが、その時ストーブ本体内に残っていたガソリンが加熱され、気化したガソリンがノズルから噴き出す音です。
ガソリンが気化しているということは、充分に予熱されたということになります。
予熱皿のアルコールが燃え尽きてもこの音が聞こえないという場合は、予熱が不十分だった(アルコールが少なすぎた)のが原因。
この場合は、すぐにアルコールを継ぎ足しても意味がありません。
予熱皿は高温になっているので、アルコールを入れてもあっという間に蒸発してしまいます。
予熱皿は高温になっているので、アルコールを入れてもあっという間に蒸発してしまいます。
こうなると、予熱皿が冷めるのを待ってやり直すしかありません。
本燃焼
予熱皿でアルコールが燃えている間に、気化したガソリンが噴き出すかすかな音が聞こえたら、アルコールが燃え尽きないうちに燃料ポンプのバルブを開き、ガソリンをストーブ本体へ送り込みます。
すると、最初だけオレンジ色の炎が上がりますが、すぐにシューっという小気味の良い音を出しながら、青い綺麗な炎がストーブから噴き出します。
つまり予熱のための炎は、気化したガソリンに点火するためにも使われるわけです。
いつまで経っても炎がオレンジ色のままという場合は、ピストンを押す回数が少なすぎたのかも知れません。
火が付いた状態でもピストンは操作できるので、炎の様子を見ながら加圧を続ければよいでしょう。
火が付いた状態でもピストンは操作できるので、炎の様子を見ながら加圧を続ければよいでしょう。
ウィスパーライト・ユニバーサルもそうですが、液体燃料を使用するストーブは、火力調節が得意ではありません。
バルブを多少動かしても、あまり火力は変わらないのです。
バルブを多少動かしても、あまり火力は変わらないのです。
弱火にする必要がある場合は、クッカー(鍋)を持ち上げて火から遠ざけてください。
あるいは、プリムスのトースターのような箱形の金網など(ストーブとクッカー底面の距離を離せるようなもの)を使うのも便利。
あるいは、プリムスのトースターのような箱形の金網など(ストーブとクッカー底面の距離を離せるようなもの)を使うのも便利。
消火(反転消火)
調理が終わったら消火しますが、ウィスパーライト・ユニバーサルでは変わった方法が使えます。
それが「反転消火(Flip Stop)」と呼ばれるテクニック。
YouTubeに動画があるので、転載します。
開始30秒後あたりでバルブを触っていますが、これは燃料を止めているわけではなく「通常はこのバルブを閉めて消火しますが・・・」と説明しているだけです。
実際の反転(Flip)は40秒過ぎあたりで行っています。
動画全体は長いですが、それは言葉で反転消火の仕組みを説明しているからです。
燃料ホースを支点にして燃料ボトルを180度回す(この動作を表す動詞がFlip)というもの。
ウィスパーライト・ユニバーサルは、ストーブから延びているホース先端の金属ブロックの付け根がクルクルと簡単に回転するので、この方法が使えます。
ウィスパーライト・ユニバーサルは、ストーブから延びているホース先端の金属ブロックの付け根がクルクルと簡単に回転するので、この方法が使えます。
ボトルを180度回すと、上のイラストで示した燃料ボトル内の様子が下図のように変わります。
図の通り、燃料をストーブへ送るためのホース先端が燃料の液面より上に出ます。
こうなると、燃料ではなく圧縮空気がストーブへ送られていくのですが、このとき、ホース内に残っている燃料が全てストーブへ押し出され、ホース内には何も残りません。
火が消える時は、不完全燃焼で嫌な匂いが周囲に立ちこめますが、屋外で使っていればすぐにその匂いも消し飛びます。
分解・片付け
火が消えてしばらく経ったら、ボトルを反転消火(Flip Stop)の向きにしたまま燃料ポンプのバルブを閉め、ストーブが冷めたことを確認して片付けて下さい。
火が消えてしばらく経ったら、ボトルを反転消火(Flip Stop)の向きにしたまま燃料ポンプのバルブを閉め、ストーブが冷めたことを確認して片付けて下さい。
消火時はバルブが下側にあるので回しづらいですが、だからといってボトルを本来の向きに戻すと、ホース内に燃料がまた入り込んでしまいます。
このやり方なら、ボトル内の圧縮空気も抜けてくれるはずですが、それにはかなりの時間がかかるため、燃料ボトルの中には圧縮された空気が多少は残ったままになります。
ホースをポンプから外した後は、燃料ポンプをボトルから外す動作で緩め、ボトル内に残る圧縮空気を逃がします(ブシューっと音がしてボトルの口の周囲から多少の燃料と空気が噴き出す)。
ボトル内に圧が残ったままでも問題は無いと思うのですが、習慣的にこうしてます。
反転消火の利点
何故バルブを閉めて消火しないかというと、バルブを閉めただけではホース内に燃料が残るため、分解時にホース内の燃料がしたたり落ちて周囲のものにかかったり、バックパック内でホース内に残っていた燃料が気化してガソリン臭が充満するからです(いずれも大した被害ではありませんが、気持ちよく使い終わるにはホース内を空にしておく方が良い。
何故バルブを閉めて消火しないかというと、バルブを閉めただけではホース内に燃料が残るため、分解時にホース内の燃料がしたたり落ちて周囲のものにかかったり、バックパック内でホース内に残っていた燃料が気化してガソリン臭が充満するからです(いずれも大した被害ではありませんが、気持ちよく使い終わるにはホース内を空にしておく方が良い。
灯油は匂いがなかなか取れないので、灯油で運用している方には反転消火のメリットは大きいかも。
以前はストーブをブンブン振り、ホースに残った燃料を遠心力で飛ばすなんてこともやっていましたが、少し前に反転消火を知り、それ以来この方法を使っています。
最後に
ウィスパーライト・ユニバーサルを持っている方で反転消火をご存じなかった方は、仕組みを理解した上で、自己責任でお試しください。注意
ガソリンストーブは、取り扱いを誤ったり、適切に整備をしないと非常に危険です。
実際、私も燃料ポンプとホースの接続部分のO(オー)リングが劣化していたせいでガソリン漏れを起こし、ひやっとしたことがあります。
(アルコールストーブを枯れ草の多い場所で倒して必死に消火したこともあるので、ガソリンストーブだから危険というのではなく、液体燃料系ストーブは全般的に危険と言えるかも知れません。)
ガソリンストーブは、取り扱いを誤ったり、適切に整備をしないと非常に危険です。
実際、私も燃料ポンプとホースの接続部分のO(オー)リングが劣化していたせいでガソリン漏れを起こし、ひやっとしたことがあります。
(アルコールストーブを枯れ草の多い場所で倒して必死に消火したこともあるので、ガソリンストーブだから危険というのではなく、液体燃料系ストーブは全般的に危険と言えるかも知れません。)
火傷を負ったり、テントを燃やしてしまったという逸話もネット上では見かけます。
大げさかも知れませんが、わずかな異変に気づく注意力があり、ストーブ本体やポンプの点検整備が苦にならないという方以外は、ガソリンストーブに手を出さない方が良いかも知れません。