播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。原則として更新は週に1回です。広告は表示しません!

アルミとチタンのクッカーで熱の伝わり方を比べてみました

山歩き用のクッカー(鍋)には、アルミ製のものとチタン製のものがあります。
 
オートキャンプ用の製品なら、さらに鋳鉄製のダッチオーブンなんかもありますが、山歩きであんなもの持って行けませんし、山用のステンレスクッカーもありますが少数派なので、ここでは除外します。
 
アルミとチタンのクッカーについては、一般的に次のように言われています。
 
(1)アルミのクッカーは熱伝導率が高く、熱が均等に広がりやすいため焦げ付きにくく、調理に使いやすい。
 
(2)チタンのクッカーは熱伝導率が低いため、炎が当たっている部分だけが熱くなり、水気の少ない料理だとその部分が焦げ付きやすい。従って、ラーメンなど汁気の多い物の調理にしか使えない。
 
本当にそうなのか、アルミとチタンのクッカーの性能差を可視化するために、サーモグラフィーで熱の伝わり方を調べてみました。
 
今回実験に使用したのは、FLIR(フリアー)社製のサーモグラフィー「FLIR C2」。

クッカーはアルミ、チタンともにモンベル製のもの。
このチタン製クッカーは、使いやすくするために外部をセラミックコーティング、内部をテフロンコーティングした特注品ですが、コーティングは極めて薄いため熱の伝わり方にほとんど影響はないと思います。
 
まずはアルミ製クッカーとチタン製クッカーそれぞれに薄く水を張り(※)、熱が一点に集中するタイプのガスストーブ(MSRのPocketRocket)を使用して加熱。
※空炊きするわけにはいかないので、水を入れました。
 
▲実験に使用したMSR PocketRocket
 
真上からサーモグラフィーで撮影し、クッカー底面を熱が伝わる様子を観察した結果は、以下の通りです。
 
火力を統一するため、最初にアルミ製クッカーを載せて撮影し、火を消さず引き続きチタン製クッカーを載せて撮影しました。
 
中に入っている水の量が異なる(適当に水を張った)ため、温度が上がる早さは単純に比較できません。
あくまでも、熱の広がり方を見るのが今回の目的です。
 
▲一点集中型のストーブを使用した場合のアルミ製クッカーとチタン製クッカーの熱の広がり方
 
動画を見ておわかり頂けるとおり、アルミ製クッカーでも炎が当たる中心部と周辺部で温度差がありますが、チタン製のクッカーではその差がかなり大きく、なかなか温度差は縮まりません。
 
これなら、一般的に言われていることがそのまま当てはまりそうです。
 
今度は、炎が広がるタイプのストーブ(MSRのWhisperlite Universal)を使用し、同様の実験をしてみました。
結果は以下の動画の通りです。
 
 
▲実験に使用したMSR Whisperlite Universal
 

登山用クッカーの素材別性能比較(MSRのWhisperlite Universalで加熱)
▲炎が拡散するストーブを使用した場合のアルミ製クッカーとチタン製クッカーの熱の広がり方
 
意外なことに、アルミとチタンの差はほとんどありません。
 
実は、今回の実験をするにあたり、Webでアルミクッカーとチタンクッカーの差についてのレビューを色々と読んでみたのですが、「チタンは焦げる」という方(圧倒的多数派)と「アルミでもチタンでもあまり差はない」という方(少数派)の両方がいらっしゃいました。
 
今回の実験を見る限り、一点集中型のストーブを使えばチタンのクッカーは確かに焦げ付きやすいでしょう(アルミでも焦げそうですが)。

しかし、炎が広がるタイプのストーブを使えば、アルミとチタンの差はあまりないように見えます。
つまり、素材の違いの他に、使用するストーブの違いの影響も大きいと言えそうです。
 
ところで、金属の熱伝導率は以下のようになっています(単位はW/(m・K))。
(注)熱伝導率は、温度によって変わります。ここでは、温度が300Kの時の熱伝導率を掲載しています。
 
   銅  : 398
 ア ル ミ: 237
 チ タ ン: 21.9
 ステンレス: 16
  (SUS304)
 
 
数字が大きいほど熱を伝えやすいことを表しています。
 
この中では、銅がもっとも熱伝導率が高くなっています。
パソコン用の冷却パーツに銅がよく使われているのも納得。
 
ステンレスは、アウトドアで「焦げ付きやすい」と評されるチタンよりも熱伝導率が悪いですが、そんな材質でも家庭用の鍋としては一般的に使われています。
 
確かにステンレス鍋を使ってカレーを作ると底に焦げ付いたりしますが、それを防ぐためにゆっくりかき混ぜ続けたり、火力を弱めたりといった工夫をします。
 
同様に、「チタンのクッカーは焦げ付きやすい」で済まさず、焦げ付かないようにする方法(ストーブを変えたり、熱を拡散するためのプレートをクッカーの下に敷いたり、ストーブの火力を抑える)を考えるべきかも知れません。
 
「そこまでしてチタンを使わなくても...」と言われそうですが、趣味ですから、合理性や経済性は度外視して楽しんだほうが良いでしょうね。
 
要するに「男のロマン」です。
というわけで、実用性と経済性を重視するならアルミ、不便を楽しみたい方はチタンということで。