播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

片手で使えるマルチツール:Leatherman OHT

一般的には十徳ナイフなどと呼ばれる多機能ナイフ(マルチツール)は、山歩きでは「重い」と嫌われることが多いように思います。
 
しかし、熱湯の中に沈んだレトルトパックを引き揚げたり、固形燃料で温めた缶詰を持ち上げたり、火花が出なくなった電子着火装置の先端を曲げて調整するときにはペンチが、レトルトパックやお菓子の袋を綺麗に開封したり、脚にくっついてきた山ヒルを脚からはぎ取って突き殺したりするときにはナイフが、山での食事の一品にと思ってコンビニで何も考えずに買った缶詰がプルトップ式では無かったと判明した衝撃の瞬間には缶切りが役立ってくれます。
 
一度だけですが、大きな倒木が道を塞いでいるとき「この枝がなかったら下をくぐれるのに、くぐれないから大きく迂回しないといけない」という状態で、邪魔な枝を切り落とすのにマルチツールのノコギリを使ったこともありました。
 
一度でもその恩恵にあずかってしまうと、マルチツールは手放せなくなります。
 
というわけで、昔から山にはマルチツールを持って行っているのですが、同じものを使い続けていると飽きが来るので、時々買い換えています。
 
マルチツールは一般向けの製品を今まで使っていましたが、今回は珍しくと言うか、私らしいと言うか、軍用モデルを購入してみました。
 
 
▲Leatherman OHT Coyote Tan(収納状態)
 
 
▲Leatherman OHT一式(日本国内正規販売品なので保証書が入っている)
 
製品名: OHT Coyote Tan (OHTはOne Hand Toolの意味。Coyote Tanは色の名前)
メーカー: Leatherman Tool Group, Inc.(アメリカ)
サイズ: 全長11.5cm(収納時のカタログ値) 刃渡り6cm(カタログ値)
カラーバリエーション: Black、Tan(Coyote Tan)、Silverの3色展開
重量: 280.6g(カタログ値)
材質: ステンレススチール
定価: ¥20,000(税別)
アメリカでの定価: $79.85 USD(Black)、$89.85 USD(Tan)、$79.85 USD(Silver)
購入先: Amazon.co.jp

外観

購入後の第一印象は「でかっ!なんじゃこりゃ!安っぽい!おもちゃか!」でした。
手に取ってみると「重っ!」。
 
至る所にさび止めか動作をスムーズにするためのものか分かりませんが、油がついていて、OHTを何気なく触っていると、油が指に付き、それが明るい色のグリップに黒い指紋となって付着します。
 
購入後は、まず余計な油とグリップの指紋を拭き取るところからスタートしないといけません。
 
付属するナイロンケースも、見るからに中華メイドの安物。定価で買っていたら腹が立って仕方なさそうなシロモノです。
 
軍用品の品質を知っているので、本来はこの見た目でガッカリすることはないはずの私ですが、それでも衝撃を受けます
 
軍用モデルなので、ケースには一応MOLLE(※)互換ストラップが付いていて、軍用や警察用の衣類や装備品に取り付けられるようになっています。
 
※「モーリー」と読みます。米軍の装備連結用規格の一種。ネットでは「モール」という表記をよく見ますが、米軍のMOLLEに関する説明動画を見ても「モーリー」と発音されていますし、英語版Wikipediaでも発音について「女性の名前のモーリーと同じ」と紹介されているので、「モール」は明らかな誤読です。
 
 
▲付属の専用ケース(表)
 
 
▲付属の専用ケース(裏)MOLLE互換
 
 
▲付属の専用ケース(側面)ナイフを入れる部分の縁取りがチープ
 
文句はこれくらいにして、OHTの外観を細かく見ていきましょう。
 
ペンチやナイフ、その他のツール類は黒く塗装(Black Oxide)されていますが、これは光を反射することが危険を招く状況で使用される軍用モデルならではの特徴。
民間向けでは不必要な仕上げで、暗い場所ではツールが見づらいという欠点になってしまいます。
 
グリップの塗装は、Cerakote(セラコート)と呼ばれるセラミックコーティングで、ステンレス製のグリップがまるでプラスティックに見えるような塗装ですが、耐久性はとてつもなく高そうです(使い込まれたOHTの画像をネットで見ましたが、ツール類は傷だらけなのにグリップの塗装は無傷でした)。
 
このグリップの表面には滑り止めのような模様が打刻されています。
しかし、模様は滑り止めではありません。実は、収納されているツールを表すためのアイコンになっているのです。
これについては、後述します。

機能

OHTには、16のツールが備わっています。
一部、軍用ならではの機能がありますが、大半は一般用途でも役に立ちそうなものです。
 
装備されているツールは、カタログに書かれている数でいうと16種類で、以下の通りです。
 
(1)バネ開閉式ラジオペンチ(Spring-action Needlenose Pliers)
(2)バネ開閉式ペンチ(Spring-action Regular Pliers)
(3)バネ開閉式ハードワイヤーカッター(Spring-action 154CM Replaceable Hard-wire Cutters)
(4)バネ開閉式ワイヤーカッター(Spring-action 154CM Replaceable Wire Cutters)
 
▲ペンチ関連ツール類(上の番号と写真中の番号は対応しています)
 
(5)ナイフ(420HC Knife)
 
▲ナイフ
 
(6)波刃ナイフ(420HC Serrated Knife)
 
▲波刃ナイフ
 
(7)ノコギリ(Saw)
 
▲ノコギリ
 
(8)ストラップカッター(Strap Cutter)
 
▲ストラップカッター(写真中の「8」の部分)
 
(9)クリーニングロッド・ブラシアダプタ(銃身の清掃用ロッド取り付け穴)(#8-32 Cleaning Rod/Brush Adapter)
 
▲クリーニングロッド・ブラシアダプタ(矢印の部分)
 
(10)缶切り(Can Opener)
(11)栓抜き(Bottle Opener)
 
▲缶切り(10)と栓抜き(11)
 
(12)酸素ボンベ用レンチ(Oxygen Tank Wrench)((8)の写真内の(12)参照)
(13)プラスドライバー(Phillips Screwdriver)
 
▲プラスドライバー
 
(14)大型マイナスドライバー(Large Screwdriver)
 
▲大型マイナスドライバー
 
(15)中型マイナスドライバー(Medium Screwdriver)((8)の写真内の(15)参照)
(16)小型マイナスドライバー(Small Screwdriver)
 
▲小型マイナスドライバー
 
9番や12番のツールは、日常生活でも山でも使うことは一生なさそうです。
 
「外観」の項でグリップの刻印について書きましたが、具体的にどのような刻印なのかを以下に掲載します。
それぞれのツールが収納される場所に、そのツールの形を表す形が刻印されているのがおわかり頂けるでしょうか。
 
 
▲グリップの刻印
 
普通のナイフを使おうと思って引っ張り出したら波刃ナイフだったというようなことは、マルチツールを使っているとよくあります。
 
OHTのグリップにある刻印は、必要なツールを一目で確実に見つけられる優れた機能だと思います。
 
一般的なマルチツールは、グリップを両側へ大きく開き、反対側へ回すことでペンチが出てくるようになっています。
つまり、ペンチを使うには、両手で操作する必要があるわけです。
 
しかし、OHTはOne Hand Tool、つまり片手で使えるマルチツールなので、ペンチを片手で展開するために変わった構造をしています。
 
ペンチはグリップ内を前後に移動するように取り付けられていて、下の画像で「ボタン」と書かれてている部分を指先で挟み持ち、OHTを軽く振ると、ペンチがシュルッと飛び出すのです(下に掲載している動画参照。バネで出てくるのではなく、グリップが自重で落下し、手で保持されているペンチがその場に残るようになっています)。
 
不意にペンチが飛び出さないよう、ペンチの動きを止めるためのロックレバーも装備されています。
 
 
▲ペンチのボタンとロックレバー(ロック状態とロック解除状態の比較)
 
このボタンは、ペンチが開いた状態でロックするための部品で、ペンチを出すときには押す必要がなさそうですが、これを押した方がペンチの滑りがよくなります。
収納する際は、両側のボタンを押さえながらペンチを押し込みます。
 
ペンチ以外のツール類も、OHTの名前の通り、全て片手で展開できます。
 
片手でツールを展開しないといけない状況になったことはありませんが、便利なのは確かです。
 
言葉で書いても分かりにくいので、メーカーの紹介動画をぜひご覧下さい。
 
私のOHTは、動画のように瞬時にペンチを展開することはできませんでした。
「慣らし」をした結果、ある程度スムーズに展開できるようになりましたが、個体差があるかも知れません。
 
https://www.youtube.com/watch?v=REzTbtqX5bQ
▲Leatherman OHT Product Video(メーカーの公式動画)
 
実は、ペンチが前後に移動するタイプのマルチツールは、ずいぶん前にGerber社のものを持っていました。

しかし、当時のGerberのマルチツールはLeathermanと比べて作りが悪くてがたつきが大きく、安心して使えないシロモノだったので、すぐに人に譲ってしまいました。
 
OHTは、Leatherman社製だけあってがたつきは少なく、多少力をかけてもびくともしません。
やはりマルチツールは精度良く作られたものがベストです。
 
全てのツールは展開したときに自動的にロックがかかり、力がかかっても勝手に閉じないようになっているのも優れた特徴です(Leatherman製品では一般的な機能)。
 
 
▲ツールのロック機構(ツールを展開すると、板バネが跳ね上がってツールを固定する)
 
OHTにはワイヤーカッターがありますが、これは刃が交換可能になっています(替刃は$10.00 USD)。
これも珍しい特徴だと思います。
 
 
▲交換可能なワイヤーカッターの刃(六角ネジで固定)

最後に

OHTは、(一部の軍用の機能を除き)一般用途で比較的使用頻度の高いツールを搭載し、それらを全て片手で操作できるように作られたマルチツールですが、ペンチを片手で操作できるようにするため、一般的な製品と構造が異なり、他と比べると大型になっています。
 
しかし、その大きさの割には、ツール類のサイズは小さめ。
 
 
▲LeathermanのSkeletoolとのサイズ比較
 
マルチツールはポケットに入れて使うという人にとっては、この大きさ、厚みはかなり邪魔になりそうです。
しかし、ポーチに入れてベルトに取り付けるという場合は、大きさが問題になることは無いでしょう。
 
しっかりしたナイフが欲しい人はそもそもマルチツールに手を出さないと思いますが、ナイフを食材のカットやパッケージの開封、ロープの切断やその他細々した作業にしか使わないという人で、片手で操作できる点、軍用向け製品であることに魅力を感じるのであれば、あまりお勧めはしませんが、買っても良いかも知れません。

おまけ

付属のケースがあまりにもチープだったので、自衛隊の記念式典で駐屯地に行ったときに売店で購入した「戦人(せんじん)」というブランドの「ミニポーチ OD」(定価¥800。税別)に入れて使っています。
 
ちなみに戦人ブランドの製品は、駐屯地に行かなくても楽天で購入できます。
 
下の写真の通り、サイズはぴったり。
 
 
▲ミニポーチ ODに入れた様子(表)
 
 
▲ミニポーチ ODに入れた様子(裏)MOLLE互換の取り付けストラップがある
 
 
▲ミニポーチ ODに入れた様子(側面)