播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。原則として更新は週に1回です。広告は表示しません!

Primusの高効率ストーブ:ETA LITE+

山でカップ麺を食べたりスパゲティをゆでる時には、Jetboil Sol Ti(https://dfm92431.hatenablog.jp/entry/2011/08/16/165503)を使っています(以下「ジェットボイル」。当記事内で「ジェットボイル」と表記しているものは、全てこの「Jetboil Sol Ti」を指します)。
 
ジェットボイルはクッカーの直径が小さく、火力の調節がしづらいため、調理器具ではなく単なる湯沸かし装置としてしか使えませんが、コンパクトにまとまるオールインワンのシステムなので、インスタント食品を作るだけなら十分に実用的。
 
しかし、風に弱いという弱点があります。

強風下では、風防を使わないといつまで経ってもお湯が沸きません(風が弱いところへ移動すべきですが、展望好きなので、木々に囲まれた場所や岩陰など、展望の無い場所へは行きたくないのです)。
 
ジェットボイルと似たシステムで風に強いMSRのReactor(リアクター)も持っていますが、あれは大きいので、パノラマ撮影機材や双眼鏡など、普通のハイカーが持たないような荷物に容積を占領された私のバックパックでは、持って行けない場合が多々あります。
 
最近になって、Primusがジェットボイルのような新たなシステムを発売したというのを知って海外のレビューを読むと、風に強いとか質感が良い、簡単に弱火にできる等、高評価を得ている様子。
 
それが、今回紹介するETA LITE+です。
 
▲Primus ETA Lite+(使用時の状態)
 
製品名: ETA LITE+(イータ(エタ)・ライト・プラス(※1))
メーカー: Primus(スウェーデン)
サイズ: 直径約10cm × 高さ約15cm(カタログ値)
カラーバリエーション: 本記事内の製品はダークオリーブですが、様々な色があります
出力: 約1500W(カタログ値)
性能: 0.5リットルの水が2分45秒で沸騰
重量: 390g(カタログ値)
定価: $109.95 USD
購入価格: $92.95 USD
購入先: Amazon.com(アメリカ)
 
※1:日本では「ETA」は「イータ」と発音/表記されることが多いですが、本国スウェーデンでは「イータ」、英語圏では「エタ」と発音されています。
ちなみに、「Primus」は本国スウェーデンでは「プリムス」、英語読みでは「プライマス」。日本では現地読みを優先するのか「ETA」は「イータ」、「Primus」は「プリムス」と読みます。
 
Primusのサイトでは「LITE」と「LITE+」の2種類の製品が存在し、私はAmazon.comで「LITE」を注文した(「LITE+」はなかった)のですが、到着したパッケージは「LITE+」でした。
 
初期の「LITE」には断熱カバーの素材が濡れると極端に乾きにくかったり、ストラップが柔らかすぎたりといった問題があり、それらを改善した「LITE+」が発売されたようです。
 
メーカーによるLITE+の紹介動画を掲載します(全編英語)。
 

外観・機能

LITE+は、大きな箱に入って届きました。
 
 
▲LITE+のパッケージ
 
箱の中は下の写真のような状態。
アウトドア用具としては珍しい、しっかりした梱包です。
 
 
▲LITE+のパッケージ内部
 
箱に入っていたのは、以下の品々。
写真には写っていませんが、説明書と予備のネジ(後述)も入っていました。
 
 
▲パッケージ内容(左からクッカーとフタ、ガス缶用スタビライザー、ストーブ(バーナー)、つり下げヒモ)
 
そもそもパッケージが豪華な感じですが、製品の質感もかなりのもの。
 
クッカーには断熱用カバーが巻かれていますが、それがジェットボイルのようなペラペラのネオプレン生地(これはこれで利点があるのですが)では無く、内側にフェルトが貼られた布製(※2)で、製品名が焼き印で押された(?)革製のパッチが縫い付けられています
 
※2:ポリエステル65%、コットン35%。断熱カバーは、防汚や耐久性向上のため、表面がワックスで処理されています。ワックスが塗られていると言っても撥水程度で、水は簡単に染みこみます。
 
 
▲クッカーの外観
 
断熱カバーは、クッカーに巻いてベルクロで留めるようになっています。
 
 
▲断熱カバーのつなぎ目
 
クッカーのフタは半透明の樹脂製で、カップとして使えるように深さがあり、クッカー内の食材を残したままお湯だけを捨てるための穴もあいています。
 
そして、断熱用にゴム製のバンドが巻かれていて、そのバンドにはPrimusのロゴが入っています。
 
 
▲クッカーのフタ
 
 
▲クッカーのフタ(裏返した状態。カップとして使えるほか、湯切り用の穴があるのが分かる)
 
ストーブ本体も丁寧でしっかりした作りで、ジェットボイルと同様、圧電点火装置が付いています。
 
火力調整つまみは、昔のジェットボイルのようなプラスチックの部品。素手なら扱いやすいですが、個人的には手がかじかんでいても扱いやすい、ワイヤーハンドルの方が好みです。
 
 
▲ストーブ上面
 
 
▲ストーブ底面
 
上(あるいは下)から見るとストーブ全体がおむすびのような形をしていて、上面には三角形になるよう設置されたワイヤーが付いています。

このワイヤーが、クッカーとストーブを連結するために重要な役割を果たします。
 
クッカーの底面には、ジェットボイルと同様に集熱フィンがあるのですが、それを覆うカバーの底面に三角形の穴が開いていて、ストーブ上面のワイヤーをその三角形の穴に通し、クッカーを時計回りに60度回転させるとロックされる(ロック機構はありません。それ以上回らなくなるだけです)ようになっているのです。
 
 
▲クッカー底面の三角形の穴
 
ワイヤーが穴にはまった後、クッカーを回転させる時に出る金属同士の摩擦音が、私にはちょっと苦痛。
 
この固定方法の利点は、取り外しやすいと言うこと。

ジェットボイルの場合、しっかりロックしてしまうと、沸騰後にクッカーをストーブから外そうと思っても何故か外れないことがあるのです。
 
ワイヤーを穴にはめる際は、クッカーをストーブ上面に乗せて、穴とワイヤーをそろえるためにガチャガチャと回す必要があります。

クッカー側に穴の頂点を示す目印を付けておけば、その手間が省けるかな。集熱フィン周辺は高温になるので、その熱に耐えられる方法でマークを付けないといけないため、私は何もしていません。
 
断熱カバーのパッチや取っ手の位置と、穴の頂点の位置をそろえるといった工夫をするだけでも良いかも知れませんし、そもそもクッカーが空の状態で、クッカー底面とストーブを見ながらはめ込むのが最も簡単な方法でしょう。
 
カップで集熱フィン部分が保護されるジェットボイルと異なり、LITE+は集熱フィン部分がむき出しのまま運搬しないといけません。
 
しかし、LITE+一式をスタッフサック(付属しません)に入れておけば、フィン等が他の装備品を傷つけることはありません。
 
ジェットボイルには、専用クッカー以外のクッカーを使えるようにするため、ゴトクが用意されています。
実は、LITE+にも専用クッカー以外を使用するための工夫があるのですが、これがなかなか面白い。
 
ゴトクというほど大げさなものではなく、単なるネジです。
 
上のストーブ上面の写真で、三角形のワイヤーの各頂点付近に穴が開いているのがおわかり頂けると思います。
これらの穴にネジをセットし、その上に専用クッカー以外のクッカーやフライパン等を載せて使うようになっているのです。
 
単純ですが、しっかりゴトクとして機能してくれます。
 
 
▲専用クッカー以外を使うときの様子
 
 
▲750ccサイズのチタンマグを載せた様子
 
このネジの収納方法がまた変わっています。
クッカーの取っ手(ストラップ)に台座があり、そこにねじ込まれた状態で収納されるというもの。
 
 
▲ストラップに付けられた台座に3本のネジを収納している様子
 
しかし、衝撃や振動でネジは簡単に緩むため(実際、航空便として運ばれて我が家に来た時点で、ネジが1本台座から外れて箱の中で転がっていました)、紛失に備えて予備のネジが1本、パッケージには同梱されていました。
 
クッカーの断熱カバーにはストラップが付いていますが、これには2種類の取り付け位置があります。

一つは、クッカー側面でわっかにするという付け方。もう一つは、収納時やつり下げて使用する際、クッカーの上に取っ手を作る付け方。
 
 
▲ストラップでクッカー上部に取っ手を作った様子
 
ストラップの付け方を変えるためには、ストラップの一方の端が自由に脱着できるようにする必要があります。
その仕組みがこれ(下の写真)。
 
 
▲ストラップの脱着を容易にする専用金具(フック)
 
断熱カバーの上端にストラップの一端が縫い付けられていて、その真下と、カバーをクッカーに巻いたときにちょうど反対側にくる場所の上端にループが縫い付けられています。
 
クッカー側面で取っ手として使いたい場合は、上の画像の金具を断熱カバー下端のループに通し、収納時や吊るして使いたい場合(パッケージにつり下げ用のヒモがあるので、それを使う)には、クッカー上端のループに金具を通すというわけです。
 
 
▲クッカー上端のループに金具が通っている様子
 
クッカー内は、500ccまで100cc単位で目盛りが刻印されているので、なにかと便利。
 
 
▲クッカー内側の目盛り

注意点

使用時には、ストラップの位置に注意が必要です。
というのも、断熱カバーに縫い付けられているストラップは、長さがありすぎるからです。
 
クッカー側面でわっかにするとき、ストラップが自重で下へ垂れ下がることがあります。
そうすると、ストラップやネジを固定する台座が集熱フィンにかなり近づくことになり、その状態でストーブに点火すると、ストラップが溶けたり、金具が加熱され、ストラップのわっかに手を通してクッカー本体を掴んだ時に、手を火傷することになるのです(経験済み)。
 
 
▲ストラップの正しい位置
 
 
▲ストラップが垂れ下がった位置
 
上の写真の通り微妙な違いですが、ストラップが垂れ下がった状態だと、集熱フィン外側の排気穴の真横にストラップや金具が来ることがおわかり頂けると思います。
 
この辺りは説明書に注意書きがないので、くれぐれもご注意を。
 
ジェットボイルの断熱カバーに付いているストラップがペラペラなので、私の場合、この手の製品を使うときはクッカー本体を掴む(親指以外の四指をストラップの下に通して掴む)習慣が身についてしまっているのですが、LITE+はハンドルの素材がしっかりしているため、ストラップを取っ手として使うことは可能。
 
ただし、クッカーに断熱材が巻かれているジェットボイルやETA+は、そもそもクッカー自体を掴んで使うために断熱材が巻かれているはずで、実際、MSRのReactorはしっかりした金属製の取っ手が付いているため、クッカーに断熱材は巻かれていません。
 
ジェットボイルやETA+のストラップをマグカップの取っ手のように使い、「持ちにくい」等と不満を言うのは間違いだと思います。
 
ただ、そういった不満が多かったのか、2015年現在最新のJetboil Minimoでは、クッカーが断熱材に覆われているのに、金属ワイヤーの取っ手が付けられています。

収納方法

LITE+は、ジェットボイルと異なり、ストーブとガス缶を接続したままクッカー内に収納出来ます。
 
ちょっとしたことですが、これは案外便利。
準備や片付けの一手間が減るだけですが、ずいぶん楽になったように感じます。
 
 
▲ストーブとガス缶をつないだままクッカー内に入れられる
 
上の写真で見て想像ができますが、クッカーに入れても上部がはみ出します。
 
 
▲クッカー上部からストーブが少しはみ出す
 
しかし、問題ありません。
フタとなるカップには高さがあるので、多少中身がはみ出していても問題なくフタを閉められるのです。
 
むしろ、まだ余分な空間が余っている位なので、クッションになるようなものを詰めないと、中でストーブとガス缶が動いて耳障りな音がなりますし、クッカー内部が傷だらけになってしまいそうです。
 
 
▲上の写真の状態でフタを被せた様子
 
 
▲ストラップでフタを押さえた様子
 
説明書では、先ず上下を逆にしたガス缶をクッカーに入れ、その上に同じく上下逆さにしたストーブを入れるよう書かれています。

この収納方法だと、上の方法以上にフタの上面とストーブの間にすき間が空くので、より多くのクッションが必要です。
 
長期の保管時はストーブとガス缶を分離しておく方が安全でしょうが、山行の際は、接続したままクッカーに入れておく方が準備や片付けが楽です。
 
ストラップをクッカー上にセットするとフタを押さえられるように見えますが、実は結構フタが動いてしまいます。
ここでもストラップの長さが悪さをするのです。残念ながら、ストラップの長さを調節する機構はありません。
 
もう一つ収納時の問題があります。

それは、ガス缶用のスタビライザーがクッカー内に収納出来ないということ。
ジェットボイルはゴトクもスタビライザーもクッカーに収納出来るので、この点はLITE+の負け。
 
LITE+を納めるための袋は製品に付属していませんし、オプションでも存在しません。

蓋がロックできないのと、クッカー底面の集熱フィン部分がむき出しになっているため、適当なケースに入れてからバックパックに収納しないと、周囲の道具類を傷めたり、歩いているときにガチャガチャと耳障りな音が発生すると思います。
 
我が家にあるスタッフサックで合うものを探したところ、OR(Outdoor Reserarch)のHelium Ditty Bag(S)がぴったり合いました。

性能

カタログでは、500ccの水を2分45秒で沸騰させるとされています。
 
実際、無風の室内で実験したところ、2分半で500ccの水が沸騰しました。
夏場で室温や水温が高かったため、カタログより良い数値が出たのでしょう。
 
使用中に横から息を吹きかけても、ジェットボイルほど炎が揺らぎません。

耐風性能は、明らかにジェットボイルより高そうです。

使用感

LITE+の初めての使用は、袋麺の調理でした。
 
クッカーの外径が10cmなので、ジェットボイルと同様、袋麺は割らないと入りません。
 
袋麺の調理に必要なお湯は一般的には500ccで、クッカーの最上段の目盛り(これ以上水を入れてはいけないというライン)と一緒。つまり、お湯に麺を入れると、制限を超えることになります。
 
その状態でお湯が沸騰すると、すぐに泡立ってきて吹きこぼれそうになります。これもジェットボイルと同じ。
 
ジェットボイルの場合は、ここで弱火にするときに炎が消えてしまうことがありましたが、LITE+は火力の細かい調節が簡単。

火力の微調整は、LITE+の方がジェットボイルよりずっと優秀です(※3)。
※3:2015年9月現在の最新型Jetboil「Minimo(ミニモ)」では、弱火・とろ火性能が大幅に向上しているようです。
 
さあ、ラーメンを食べようと思ってクッカーを口元に持ってきて気づきました。
「スープを飲むためにクッカーに口を付けると、断熱カバーが汚れてしまう」ということに。
 
単なる湯沸かし装置として使った場合でも、お湯を他の容器に注ぐ際に断熱カバーの上端付近が濡れます。
この場合はただのお湯なので、乾けば問題ありません。
 
 
▲クッカーの上端ギリギリまで断熱カバーが来ている
 
ジェットボイルの場合は、カバーが薄いネオプレン生地1枚なので、指でカバーを引き下げ、クッカーの金属部分を露出させてクッカーに口を付けることが出来ます。
 
ところが、LITE+の断熱カバーはかなりしっかりした素材なので、簡単にずらすことはできません。
布なので、汚れが付くと汚くなりそう。
 
そこで考えたのが、シリコンシートで断熱カバーをカバーするという方法。

断熱カバーをクッカーから取り外し、シリコンシートでカバー上部を挟み込み、そのまま断熱カバーをクッカーに巻き付けました。
これで気兼ねなくラーメンを食べられます。

せっかくのLITE+の質感が台無しになってしまいますが、断熱カバーの縁が汚れてガビガビになるよりはマシかな。
 
パスタをゆでてソースと和えたものを食べたり(フォークで食べるだけなので、クッカーに口を付けることはない)、LITE+で調理した物を他の容器に移し替えて食べるといった使い方をするなら、断熱カバーの汚れはさほど気にしなくても良いと思います。
 
 
▲口を付ける場所とその周辺を保護するためにシリコンシートを付けた様子
 
収納時はシリコンシートを起こしてやれば、口と接する面が内側になるため、ある程度衛生的に扱えます。
 
 
▲収納時のシリコンシート

最後に

ジェットボイルよりも後発の製品ですが、残念な点がいくつかあります。
特に、収納に関してはジェットボイルの方が断然優れています。
 
また、ジェットボイルにはレギュレータが搭載されていて、気温が低い状況でも火力が不安定になりにくくなっていますが、LITE+は冬期以外の3シーズン用となっています。
 
収納性が高く、レギュレータを搭載していて低山では一年中使用でき、2015年の最新型では弱火も可能になったジェットボイルは、日本国内に正規の流通ルートがあります。
 
これらの点を考えると、2015年9月現在日本国内での正規の流通がないLITE+を買う必要性は特にないと思いますが、山道具好きの方なら「新しいおもちゃ」として楽しめるかも知れません。

おまけ

私の手元には、Jetboil Sol TiとMSR Reactorがあるので、それらとLITE+の大きさを比較してみました。
 
 
▲収納状態のサイズ(左からJetboil Sol Ti、ETA LITE+、Reactor)
 
 
▲使用時のサイズ(左からJetboil Sol Ti、ETA LITE+、Reactor)
 
 
▲Jetboil Sol Ti(左)とETA LITE+のバーナー部分の比較
 
 
▲Jetboil Sol Ti(左)とETA LITE+のゴトクの比較