MSRの液体燃料ストーブXGK EXといえば、過酷な環境で使用できる頑強で汎用性の高い製品ですが、その優秀さから、米軍にも納入されています。
米軍向けのXGK EXは、燃料ボトルが薄い茶色で、SealLineブランドの濃緑色の防水スタッフバッグが付属します。
一部、民間向けには付属しないアクセサリがありますが、その他はほぼ民間向けと同一。
その防水スタッフバッグ単品を入手したので、今回はそれを紹介します。
▲軍用のXGK EX Comboに含まれる防水バッグ
▲軍用のXGK EX Comboに含まれる防水バッグ(裏面)
製品名: なし(米軍のXGK EX Comboの一部で、単体では品名が設定されていません)
メーカー: Cascade Designs, Inc.(アメリカ)
NSN*1:なし(米軍のXGK EXキットの一部で、単体では設定されていません)
メーカー: Cascade Designs, Inc.(アメリカ)
NSN*1:なし(米軍のXGK EXキットの一部で、単体では設定されていません)
軍用品ではあまりメーカー名やブランドが強調されることはありませんが、この防水バッグにはMSRとSealLineのロゴが入っています。
表は普通のナイロン生地ですが、内側は防水コーティングのためかテカテカ。
生地の接合部には縫い目がなく、シームテープもついていません。
生地を溶着して袋の形を作っているようです。
生地を溶着して袋の形を作っているようです。
袋の口は、一般的な防水バッグと同様、何度か折り返してからサイドリリースバックルで留める構造。
サイドリリースバックルは、初期の米陸軍のACU迷彩で使われていた灰色。
▲口を閉じるためのサイドリリースバックル
容量は、市販品に付属するスタッフバッグとあまり変わりません。
私はXGKを持っていないため、WhisperLite Universalに付属していたスタッフバッグとサイズを比較しています。
今回の軍用スタッフバッグと比べると、市販品のスタッフバッグの方が直径が大きく、中身の出し入れがしやすいです。
▲MSRの民間向けスタッフバッグとのサイズ比較(口を何度か折り返して閉じるため、軍用の方が高さがある)
▲WhisperLite Universal本体、ガス缶、ガス缶用スタンド、風防の一式をスタッフバッグに入れた状態の比較
▲スタッフバッグに詰め込んだ中身(オレンジ色の袋は、純正ではない折りたたみ式の風防)
さて、防水バッグの機能についてはこのくらいにして、バッグ表面のマーキングを見てみましょう。
軍用の防水バッグ表面には、以下の文字列がプリントされています。
「Stove, Military XGK EX, JP-8」
最後に書かれているJP-8というのは、軍用のジェット燃料を表しています(JPはジェット燃料を意味する英語「Jet Propellent」の略)。
つまり軍用のXGK EXは、ジェット燃料を主に使用することが前提になっているのです。
民間向けのXGK EXにはホワイトガソリンや灯油などに対応するGKジェット(Gasoline、Keroseneの頭文字)とジェット燃料や軽油に対応するXジェットが付属しています。
しかし、軍用のXGK EXに付属するのは、JP-8用のXJジェット(XはXGKの頭文字、JはJP-8の頭文字)と軽油用のXDジェット(DはDiesel(ディーゼル)の頭文字)。
※ネタ元:http://www.spiritburner.com/fusion/showtopic.php?tid/33688/ (英文)
※ネタ元:http://www.spiritburner.com/fusion/showtopic.php?tid/33688/ (英文)
付属品が格好良いからといって軍用のXGK EXを買うと、ノズルを別に入手しないとホワイトガソリンや自動車用ガソリンが使えない*2ため、要注意です。
ところで、ミリタリーマニアでない普通の読者の方は、「なぜ液体燃料ストーブにジェット燃料を使うんだろう?空港に行かないと手に入らないのでは?」と思われるかも知れません。
実は、米軍では使用する燃料を統一するために、ジェット戦闘機から戦車までJP-8で動かしているのです。
例えば、米軍の主力戦車、M1 Abrams(エイブラムス)はディーゼルエンジンではなくガスタービンエンジン、つまりジェットエンジンで動いていますし*3、そもそもJP-8は、ディーゼルエンジンでも普通に使えます。そのため、米軍では一般的な軍用車両もJP-8で走っています。
要するに、米軍の車両や航空機の大半がJP-8で動いているため、米軍でXGK EXを使用する際は、最も入手しやすい燃料であるJP-8に最適化する必要があるわけです。
使用する燃料の統一に関しては、古い記事ですが以下のURLで詳細を知ることが出来ます。
The Reality of the Single-Fuel Concept
http://www.almc.army.mil/alog/issues/marapr05/reality.html (英文)
http://www.almc.army.mil/alog/issues/marapr05/reality.html (英文)
「ジェット燃料なんて、ガソリンや軽油より高価なのでは?」と思われるかも知れませんが、調べてみると案外差はありませんでした。
米軍で使われる燃料1ガロンあたりの価格は、次の通りです(1ガロンは約3.8リットル)。
JP-8(ジェット燃料)・・・$3.62 USD/ガロン
レギュラー無鉛ガソリン・・・$3.53 USD/ガロン
軽油(Generic (High Sulfur) DF2)・・・$3.25 USD/ガロン
(出典:DLA(Defense Logistics Agency)のWebサイト。2014年7月時点の情報)
レギュラー無鉛ガソリン・・・$3.53 USD/ガロン
軽油(Generic (High Sulfur) DF2)・・・$3.25 USD/ガロン
(出典:DLA(Defense Logistics Agency)のWebサイト。2014年7月時点の情報)
ジェット燃料の方がガソリンや軽油より若干高いですが、扱う燃料の種類を増やすことでかかるコストの方が無駄ということなんでしょう。
オークションなどで放出品の軍用XGK EXを見かけることが多くなったので、「買うときには要注意ですよ」という記事でした。
*1:NSNはNational Stock Numberの略。軍用品に割り当てられている番号。
ちなみに、このスタッフバッグが含まれている「MSR Marine XGK Stove Combo(MSRのカタログでの名称)」のNSNは7310-01-578-6413で、正式名称は「STOVE, MULTI-FUEL BURNER」。
「JP-8またはディーゼル燃料が使用できる調理用または雪を溶かして飲料水を作るための装備で、弱火用のプレート、専用メンテナンスキット、燃料ボトル2本、専用スタッフバッグの一式で構成される」と当該NSNの説明にあります。
*2:XJジェットで問題なくホワイトガソリンを燃やせるようですが、ノズルの噴射口の直径がGKジェットと異なるため、燃焼効率が最適かどうかは分かりません。上のネタ元で紹介したスレッドでは、GKジェットに交換した後の方が、ホワイトガソリンの燃焼効率が良かったように書かれています。
*3:余談ですが、Wikipedia日本語版によるとM1 Abramsの燃料タンク容量は500ガロンで、Wikipedia英語版によるとエンジンの始動だけで10ガロン(38リットル)、1マイル(1.6km)走るのに1.67ガロン(6.3リットル)、アイドリングしているだけで1時間当たり10ガロン(38リットル)のJP-8を消費するそうです。