播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。原則として更新は週に1回です。広告は表示しません!

米軍の携帯糧食:MREレーション

注意
この記事に書かれているMREレーションは、その後若干変更が加えられています。そのため、2018年にMREについて新たな記事を書いていますので、そちらをご覧下さい。
注:戦闘糧食の意味で日本語では「レーション」という言葉が使われていますが、「ration」は本来「ラション」と発音されるものです。しかし、「レーション」という誤った読み方が広まりすぎており、「ラション」と表記しても誰にも「レーション」のことだと分かってもらえない可能性があるため、あえて誤読である「レーション」という言葉をこの記事では使用しています。
ミリタリー好きの私が山で時々食べているアメリカ軍のレーション(戦闘糧食。演習や実戦で米兵が食べる携帯食料)。

私の山行記録を読まれている方の中には、一体どんな物なんだ?と思っている方もおられるようです。
今回は、そのアメリカ軍のレーション(MREレーション)を紹介することにします。
 
注)今回紹介するのは、24種類あるMREレーションのうちの1種類です。パッケージの内容は、メニューによって異なります。
 
 
▲MREレーションが12食入った段ボール箱(約10kg)
 
 
▲箱の中には、ぎっしりとレーションが詰まっている
 
製品名:Meal, Ready-to-Eat, Indivisual
重量:1箱12食入りで約10kg
カロリー:1食あたり約1,200kcal
メーカー:(この記事で紹介する物は)Ameriqual Packaging(アメリカ)
米軍への納入価格:$86.74/箱(出典:Defense Supply Center Philadelphia)記事執筆時点
NSN:8970-00-149-1094
(NSNは、国防予算で調達される物品に割り当てられている番号。民間向けの製品で例えると、バーコードの番号のようなもの)
 
MREとは、Meal, Ready-to-Eat、つまり開封してすぐに食べられる食料という意味です。
製品名の末尾にあるIndivisualは、個人用の意味。
 
MREレーションのメニューは24種類あり、12種類ずつメニューA(No.1~12)とメニューB(No.13~24)に分かれて段ボールに入れられています。
 
箱には製造年月日とメニュー(AかBか)、品質検査をする時期(製造から3年後)が印字されています。
 
レーションの品質は、いつ製造されてどのような環境で保存されていたかに依存するので、一目でそれが分かるように、TTI(Time and Temparature Indicator:時間・温度指標)というシールが箱に貼られています。
 
 
▲箱に貼られているTTI
 
二重の円が描かれていますが、その内側の色が外側の円の色よりも明るければ製造後時間が経っていない、あるいは時間が経っていても保管温度が低かった(保存状態が良い)ことを示しています。
 
時間の経過や高温にさらされることで、円の中心部の色は黒っぽく変色していき、外側の円よりも内側の円が暗くなると、米軍では廃棄対象と見なされます。
 
上の写真のレーションは2009年に製造された比較的新しいものですが、TTIの中心部が外側の円よりも黒くなっているので、保管状況が悪かった(高温下で保管されていた)ことが伺えます。
 
米軍では「食べるべきではない」と判定されても、実際は問題なく食べられる品質なので、私は気にせず食べています。
 
側面にある黒い三日月は、第1次世界大戦の頃から使われ始めた「食料を表すマーク」です。
 
 
▲箱の側面にある三日月マーク

では、実際に1食分のMREレーションの中身を見てみましょう。

今回紹介するのは、MRE XXIX(29の意味)のMenu No.20、Spaghetti with Meat Sauceです。
 
箱に隙間無く詰め込まれているレーションを取り出してみると、このような外見になっています。
 
 
▲MRE1食分の外見(大きさの比較のため、携帯電話を並べています)
 
厚みのあるプラスチック素材の外装は、開封するのが困難に見えますが、実際は道具を使わず手で開けられるように、上端の接着部分の中央が山型になっていて、この部分を手で引っ張ると接着部が剥がれて開封できるようになっています。
 
 
▲Peelable Seal(「手で剥がせる」の意)部分
 
頑丈な外装パッケージを開けると、中から薄いナイロン袋に密封されたレーション一式が出てきます。
 
 
▲中身はさらにナイロン袋で密封されている
 
 
▲ナイロン袋の中身
 
MRE XXIXのMenu No.20、Spaghetti with Meat Sauceの中身は、以下の通りです。
(番号は、上の写真の数字と対応しています。カロリーは、Defense Supply Center Philadelphia (DSCP)のWebサイトで示されている数値です。)
 
1.Chipotle Snack Bread(スナックパン:185kcal)
2.Spaghetti with Meat Sauce(スパゲティ・ミートソース:241kcal)
3.Cherry Blueberry Cobbler(サクランボとブルーベリーのコブラー:250kcal)
4.Spoon(スプーン)
5.Accessory Packet(アクセサリーパケット(調味料、紙マッチ、トイレットペーパ等))
6.Cheese Spread(チーズスプレッド:160~180kcal)
7.Beverage Base Lemonade(レモネード粉末:1~2kcal)
8.Baked Snack Crackers(チーズ風味のスナック菓子:235kcal)
9.Hot Beverage Bag(粉末ジュースやコーヒーを飲むためのコップ代わりの袋)
10.Flameless Ration Heater(水と反応して発熱するヒーター)
 
番号順ではなく、実際に私がこのレーションを食べたときの順番で、詳細を説明します。
 
まずは10.のヒーター。
 
 
▲Flameless Ration Heater
 
袋の上端を破り、中に入っている白いヒーター(水と反応して発熱する)を取り出します。
 
そして、メインの食材のレトルトパックとヒーターを重ねて袋に戻します。ヒーターの袋はレトルトパックがキチキチに入る大きさしかないので、袋を破ってしまわないように慎重に入れる必要があります。

レトルトパックとヒーターは袋の奥まで入れず、袋の口近くに保持しておきます。
 
 
▲メインの食材とヒーターを重ねて袋に戻す(写真では分かりやすくするためにヒーターを上に置いているが、本来はヒーターを下に入れる)
 
レトルトパックとヒーターを袋の口近くに保持したまま、ヒーターに水を吸わせないように注意しながら、袋の中に水を注ぎます。

袋の下端近くに2本の線が描かれていますが、この下側の線より多く、なおかつ上の線を越えない程度に水を入れないといけません。水が多すぎても少なすぎても、うまく発熱しません。
 
 
▲水を入れた状態(寝かせて撮影しているので、実際とは若干見た目が異なります)
 
ヒーターがない方の面に向かって袋の口を折り返し、メインの食材が入っていた紙箱にヒーター一式を入れます。
 
 
▲ヒーター一式を紙箱に入れる
 
この状態でヒーターがレトルトパックの下になるように紙箱を寝かせて揉むと、水がヒーターに染みこんで発熱が始まります。箱を通して熱を感じてきたら、箱の口がやや高くなるように、石などを枕にして寝かせます。
 
このまま10~15分待てば、適度に暖まったスパゲティができあがりますが、ボーッと待っていても仕方がないので、その間にスナックパンでも食べておきましょう。
 
 
▲1.のスナックパン(四角いくぼみは、脱酸素剤の跡)
 
スナックパンはそのまま食べても良いですが、6.のチーズスプレッドを塗った方が美味しく食べられます。
パンといってもしっかり真空パックされていたものなので、ちょっと固くてモソモソした食感です。
 
チーズスプレッドではなく、3.のサクランボとブルーベリーのコブラーを付けても良さそう。
コブラーというのは、本来フルーツを載せたパイのようですが、このレーションに入っているのは、柔らかくなったフルーツが入ったどろっとした物体(パイに載せる具材?)です。
 
 
▲サクランボとブルーベリーのコブラー(見た目は悪いが味は良かった)
 
そろそろ10分経ったので、メインディッシュに行きましょう。
 
ヒーターの袋は細長いので、奥からレトルトパックを引っ張り出すのは難しい。そこで、ヒーターの袋は中央付近にも切り口があり、そこから破って簡単に中身を取り出せるようになっています。
 
 
▲2.スパゲティ・ミートソース
 
スパゲティは短く切られているので、スプーンで容易に食べられます。

ずっとミートソースに浸かっていたスパゲティなので、アルデンテからはほど遠いヘニョヘニョした食感。
しかも味が濃くて単調。半分ほどで飽きてきました。

ということで、5.のアクセサリーパケットに入っているタバスコを振りかけて味を変え、最後まで食べきりました。
スナックパンとスパゲティを食べたのに、まだいけそう。

せっかくなので、8.のチーズ風味のスナック菓子も開けてしまいましょう。
 
 
▲チーズ風味のスナック菓子
 
頑丈なアルミパッケージに密封されていただけあって、サクサクで美味しい。
が、このスナックを食べていたら喉が渇いてきました。
 
というわけで、最後に7.のレモネードを飲むことにします。
 
レモネードは細長いアルミパッケージに粉末の状態で入っています。
パッケージの作り方を読むと、20オンス(600ml)の水に一袋を混ぜろと書かれています。
 
レーションに付属するHot Beverage Bag(粉末ジュースやコーヒーを飲むためのコップ代わりの袋)の容量は12オンス(目盛りが12オンスなだけで、実際はもっと入りますが、それでも20オンスは無理)。
 
仕方がないので、Hot Beverage Bagの目盛りを頼りに10オンスの水を計量し、その中に粉末を半分入れることにしました。
 
 
▲Hot Beverage Bagに10オンス(300ml)の水を入れた状態
 
 
▲レモネード粉末を入れてシェイクした結果
 
ストローを使わずにナイロン袋のまま飲むのは至難の業です。
Hot Beverage Bagの正しい使い方は、レトルトパックが入っていた紙箱に入れ、紙箱で袋の形状を維持して飲むというもの(熱い飲み物の場合は、紙箱が断熱材になる)。
 
 
▲紙箱にHot Beverage Bagをセット
 
袋の口を少し外へ折り返し、そこへ口を付ければ、紙箱の味を気にせずレモネードが飲めます。
 
このHot Beverage Bagは、名前の通り温かい飲み物を作るのにも使います。
袋に水を入れて封をし(ジップロックのような構造になっている)、レーションヒーターに入れればお湯(というか「ぬるま湯」)が作れるというわけです。
 
これでMenu No.20、Spaghetti with Meat Sauceは完食(レモネード半分とアクセサリーパケットの中身を除く)。
 
最後に、アクセサリーパケットの中身を紹介しておきます。
 
 
▲アクセサリーパケットの中身
 
1.インスタントコーヒー(民生品を流用)
2.コーヒー用の粉末ミルク
3.ガムx2粒
4.タバスコ(米軍専用超小型ボトル)
5.ウェットティッシュ
6.塩
7.砂糖
8.紙マッチ
9.トイレットペーパー
 
何から何まで揃った便利な携帯食料ですが、1食分のレーションでもかなりの体積と重さがあり、食べ終わると大量のゴミや不要品が出てしまいます。
戦地では、あらかじめ外装パッケージやレトルトパックの紙箱、アクセサリーパケット等を除去して必要なものだけをまとめ、バックパックや戦闘服のポケットに入れて携帯するそうです。