播磨の山々

兵庫県姫路市周辺の山歩きと山道具の紹介をしています。2019年5月、Yahoo!ブログから引っ越してきました。

GPS搭載の腕時計:SUUNTO X9Mi

アウトドア用腕時計を販売しているCASIOと並んで有名なSUUNTOから、GPS内蔵の腕時計が売られています。

 

このデザインにしびれて買ってしまいました。

 


製品名:X9Mi
サイズ(カタログスペック):52mm(ケース外径)x18.6mm(厚み)
重量(実測値):78g
メーカー:SUUNTO(フィンランド)
US定価:$549.00(実勢価格$499.99)

 

以前は「X9」という製品が売られていましたが、GPSの受信感度やバッテリーの持ちの悪さで不評を買ったらしく、バージョンアップをして「X9i」として現在売られています。

 

ただ、私が購入したのは「X9i」ではなく「X9Mi」です。この「M」はMilitary、つまり軍用という意味です。
X9iとの相違点は、次の通りです。
・バックライトの色(iはただの白色LEDですが、Miは赤色LED)
・電子コンパスの表示単位(iは度のみの表示ですが、Miは度とミルに対応)
・ベゼルと液晶の色
販売価格はどちらも同じです。

 

見ての通り、非常に大きな腕時計ですが、見た目ほど重くはなく付け心地も良好。

 

手首に巻くストラップは本体と一体化したデザインのため他のストラップへの交換は不可ですが、中央に細長い穴が通っていて通気性が良く、快適です。

 


▲ストラップの中央は大きく開いています

 

X9Miは専用の充電池を内蔵しています。これは500回程度の充放電が可能ですが、劣化した場合の交換はユーザで対応できません。充電池の容量は不明です。

 

腕時計の背面はこんな感じです。

 


▲X9Miの裏面

 

4つの銀色の端子が目を引きますが、これはPCとのデータ交換や充電を行うための端子です。
PCとの接続はUSB。

 

専用のPCインターフェースケーブルの先端はワニ口クリップになっていて、下のパーツの内側に4本の端子が出ています。
このワニ口クリップでX9Miを挟むことで、PCと接続してデータのやり取りや充電が出来ます。

 


▲インターフェースケーブルの先端にあるワニ口クリップ

 


▲X9Miにはさんだところ

 


▲横から見るとこんな感じです

 

X9Miは非常に多機能な腕時計ですが、表示はいたってシンプル。

 


▲時刻表示モード

 

左側のゲージのようなものは、現在の表示モードを表しています。上から時刻、高度・気圧、コンパス、ナビゲーション、アクティビティの順で、これはユーザが暗記しておかなくてはいけません。
しかし、SUUNTOの他のモデルと基本的にモードの順序が同じなので、SUUNTO製品をすでに使っている人にとってはたいした苦労もなく覚えられます。

 

右側のゲージは、充電池の残量表示です。

 

液晶の1行目には曜日と日付(月/日か日/月の選択が可能)、2行目には時刻(12時間/24時間表示の選択が可能)、3行目には秒が表示されています。
3行目に表示する内容は、秒の他にワールドタイム(海外旅行に行ったときなど、現在時刻は現地に合わせ、ワールドタイムに日本の時刻を設定するといった風に使います)とストップウォッチを選択できます。

 

他のモードの表示画面も一覧で載せておきます。

 


▲各動作モードの画面表示

 

気圧モード:
過去6時間の気圧の変化を15分おきに記録
1行目に海面気圧が表示されます。
3時間以内に4hPa以上の変動があった場合にアラームを作動させることも出来ます。
高度表示では、1m単位で高度を表示。1行目が(航空機の計器で言うところの)昇降計で、単位時間あたりにどれだけ登った(下った)かを表示。2行目が標高、3行目には温度や気圧を表示できます。

 

コンパスモードでは、文字盤の12時位置が向いている方位が度で表示されます(X9Miの場合は軍用の単位「ミル」でも表示可能)VectorやAdvizorと違い、本体を水平にしなくても方位を正しく表示してくれます。30度以内の傾きに対応できる構造になっているため、VectorやAdvizorにあるような水準器はついていません。

 

ナビゲーションモードでは、1行目に行き先のウェイポイント名、2行目にそこまでの距離、3行目にはウェイポイントへの到着予定時間などを表示可能。ナビゲーションの方法ですが、12時位置に2本の線が表示され、液晶画面外周に表示される黒丸がその2本線の間に入るようにX9Miを回転させたとき、12時位置が向いているのが進むべき方位になるというシステムです。

 

アクティビティモードでは、1行目に移動速度、2行目に移動した距離、そして3行目には現在時刻や出発してからの経過時間、標高を表示可能。

 

ナビゲーション用のルートは、カシミール3Dで作成、閲覧が可能です。(要SUUNTOプラグイン)
X9i付属のSUUNTO TREK MANAGERなら、ルートの作成やログの閲覧だけでなく、X9iの設定の確認や変更も出来て便利。このソフトでは、カシミール3Dからマップカッタープラグインで切り出した地図が表示できます。

 

全体的に見て非常に良くできた腕時計だと思います。
電池交換をユーザが行えないようになった代わりに防水性がアップしたり(他機種は30m防水ですがX9Miは100m防水)、メニューが分かりやすくなったり、ストラップの通気性が良くなったり、GPSを受信して時刻合わせが出来たりとなかなか優秀ですが、使っているうちに欠点も目に付いてきます。

 

一番大きな問題は、GPSの初期測位の遅さと感度の低さ。空が開けた好条件の場所でも、初期測位には最低でも2分~3分はかかると思っておかないといけません。SiRF社製高感度チップのスピードを知っている人にとっては遅く感じます。
いったん測位を完了して現在地がつかめても、樹林帯に入るとしょっちゅう衛星をロストします。ログ取りには向いていません。(海外のサイトを見ていると、針金を外付けアンテナとしてX9iに取り付け、感度アップに成功している人がいました)
腕がどのような状態であってもGPS衛星からの電波を受信できるよう無指向性のループアンテナを使用しているため、どうしても高い感度は得られないのです。

 

歩いたルートの記録を正確に取りたい場合や、常に位置を確認したい場合は、アウトドア用ハンディGPSを使って下さい。

 

GPSの問題はもう一つあります。それは緯度経度の表示形式。
日本では度・分・秒で表示するのが一般的ですが、X9Miでは度のみか度・分の表示しか出来ません。秒が表示できないので、30秒は0.5分と表示されます。

 


▲X9Miが売りにしているGPSですが、いくつか欠点があります(我が家の座標が表示されているので、モザイクをかけています)

 

X9Miの電子コンパスはミル表示に対応していますが、センサーの解像度が1度なので、実際は17~18ミル単位でしか数字が変わりません。(この文章の意味が分かるのは相当なミリタリーマニアの方だけだと思います。普通のユーザの方は気にしないで下さい。)ちなみに、度とミルの切り替えは、パソコンに接続しないと行えません。

 

VectorやAdvizorでは、海面気圧を入力することで、現在地の気圧との差から標高を正しく表示する機能がありました。しかし、X9iでは海面気圧を入力することは出来ません。高度計の補正をするときは、標高の分かっている地点で標高の値を修正する必要があるのです。

 

本体の耐久性にも不安があります。
X9Miは軍用ですから、海外のサイトを見ると実際にX9Miを使用している米兵のレビューを見つけることがあります。それによると、ベゼルが本体から脱落することが多いそうです。
彼らは使い方が乱暴ですし環境が過酷過ぎるので参考にならないかも知れませんが、X9Miのベゼルは小さな爪と両面テープで固定されているだけので、私たち一般ユーザでも岩に時計をぶつけたりしてベゼルが外れる心配はあります。

 

付属の説明書も問題で、かなりわかりにくいです。これはSUUNTOの全製品に共通して言えますが・・・。
ただし、X9Miの取説では、実際の登山を例に挙げて各機能をどういった時に使うのかを紹介しています。
なかなか面白い試みだと思います。(SUUNTOのサイトを見ましたが、日本語版の取説はなさそうです。)

 

ボタンが固いという欠点もあります。
押せたかどうかが分からないような感触のボタンなので、Vectorのような柔らかいボタンに慣れていると操作しづらいです。
ただ、この固さのおかげで、行動中に勝手にモードが切り替わることはありません。VectorやAdvizorでは手の甲にボタンが当たってしょっちゅうモードが勝手に変わっていました。

 

バッテリーの持ち時間も問題です。
GPSで1秒1回のペースで測位していると、満充電のバッテリーがカタログスペックで4~5時間しか持ちません。
1分に1回の測位だと12時間程度もつらしいので、初回測位だけ毎秒測位にし、衛星を補足したら1分に切り替えて使います。
GPSを全く使わなかったとしても、2ヶ月でバッテリーが切れます。

 

充電は基本的にAC100VかPCのUSB端子(5V)からしか行えません。

 


▲付属のACアダプタは世界各国のコンセントに対応できるよう、端子部分が取り外し可能になっており、一般的な国々のコンセントに対応出来るよう端子が何種類か同梱されています。

 

多少の欠点はありますが、格好良いデザインの中にGPSを組み込んだSUUNTOの技術には感心します。

 

今まで活躍していたSUUNTOのAdvizorには退役してもらい、今後はX9Miを山行のお供にします。

 

実験:X9MiのGPS感度

 

兵庫県姫路市の明神山でログ取りを行ってみました。
GPSの更新間隔は1分。結果は下の画像の通りです。

 

赤線はGARMIN社のGPS MAP60 Cxで受信した結果。完璧です。

 

青線がX9Miの結果。Cコースは基本的に尾根上のルートですが、登山道両脇に生えている雑木の枝葉に道が覆われており、空が見えません。
前半はなだらかな地形で時々空がよく見える場所があるため、比較的まともに受信できています。
ただ、後半は斜度がきつく(斜面が壁となり空を見えなくしている)、枝葉の密度が高くなっているため全く受信できていません。

 

Bコースは谷間のコースで全く受信できず。そのため、山頂で測位できたポイントと、池の東に通っている林道を歩いている時に測位できたポイントを直線でつないだトラックになっています。

 

X9iのGPSが利用できるのは、森林限界よりも上か、高い木の生えていない高原状の登山ルートだけだと思われます。

 


▲高感度ハンディGPSとX9Miの受信結果比較